まさかの…
はぁ…一時はどうなることかと思ったが。
「無事に言えたー!勝ったー!」
何にだ?
「これからだろ?」
「そうだけど、一つ一つのクリアの喜びを噛みしめるべきよ!」
「楽しそうで何よりだな。」
「暗いわね?」
そりゃ、あんだけイジられればな。入江さんにバレるのではと思ってヒヤヒヤするほどのものだぞ?…バレたらと思うと正直芹川の反応が一番怖い。
「で、次の計画ね!」
そうして、俺の不安とは裏腹に着実に進められていくのであった。
□■□■
「で、今日がその日か。」
入れ替わるフリをする日がやってきた。実に言い出して3ヶ月の日々が過ぎる。
「今日はみんなで遊ぶよー!」
そこで入れ替わるんだそうだ。
「にしても待ち合わせが川の土手って。」
「ランチの場所が一番近くて、みんなが知ってる場所だったからちょうどいいじゃない。」
さんさんと照りつける太陽…。
このクソ暑い時期に。馬鹿じゃねぇの?
「それにここ来ると懐かしいしねー」
確かにここへ来たのは去年の夏祭り以来だ。という事になっているが実は俺らは今日行く場所の下見でここに来ている。
夏祭り…いろいろとハプニングは起こったが最後はみんなで揃って無事に花火を見ることができた。あれは楽しかったな。
「で、下見に来てここで突き落とせと言ったときはビビったな。」
土手に続く階段を見て引きつった笑いを作る。
死ぬ気か?とガチで突っ込んだ。
「主人公はこんなところで死なないわ!」
と疑いもせずに言った芹川が怖い。何言ってんだこいつ?
「簡単じゃない?試しに…」
そう言って階段を一段降り背中を触れろと言う。おずおずと触れると「ん!」と合図した。
ん!じゃねぇーよ!それに、俺も何触れてんだよ!
「よっ!」
突然、後ろから三和の声がした。
ビクッと体を震わし思わず腕に力が入った。
「やばっ!」
とっさに芹川の手をつかもうとする。手はかろうじて届いた、けど、
「エッ?」
重っ!
予想外の重さに俺の体は耐えられずそのまま一緒に土手に落ちた。
ゴロゴロと転がる。節々が痛い。
上で三和が自転車を突き飛ばしたような音がした。実際に突き飛ばしたのかもしれない。
俺は土手に寝転がったままでいた。一瞬、衝撃で息が吸えず本当に死ぬかと思った。まだ体が痛む。
階段を急いで降りる音。三和だ。「大丈夫か!?」と緊迫した声がおぼろげに聞こえる。
そうだ。芹川は…?
心配になり首だけ動かし横にいる芹川を見た。
あれ?いない。右手で掴んだはずなんだけどな。
そう思って今度は反対側を向く。
「…。」
…うーん?夢…か?
今…確かに…いたよな?!あんなこと考えてたから変なことを思ったんだ。
「大丈夫かよ?俺。」
思わずつぶやいた声はあの感に触るようなあいつの声だった。
「…?芹川ー?大丈夫か?」
いや、俺は大丈夫じゃないな。頭が痛い。
「んー痛いな…。……へ?」
俺の腰をさすって芹川が起き上がった。頭から出た血はかすり傷たろうが出血がひどい。そして、俺も同じであろうアホづらて芹川も呆然と俺の…芹川自身の体を見ている。
っておい!今、喜びを抑えきれずに出た笑みを俺は見逃さなかったぞ?この状況で素直に喜べる神経の図太さが信じられねぇー!!
「俺は大丈夫。それより芹川は?」
その対応の速さ…マジで殴りてー。もう、どうなってんだよ?こんな事あるか?俺ら本当に入れ替わってるじゃん?
とりあえず頷いて上半身を起こした。
「まだ、ボーとしてるなぁ?大丈夫かよ?でも、よかったー。命に別状なくて…。」
どこも良くわねーよ?確かに入れ替わりたいと思ったよ、神様?でもさぁ、これはないだろ?!
「お前、本当に大丈夫かよ?」「これくらい擦り傷だって、それより三和、脅かすなよ?本気でビビったぞ?」「それはホントにすまねぇー」と言う、目の前で繰り広げられる会話をただ呆然と見つめる。
すると、「おとなしいけど大丈夫か?とりあえず立てよ?」と言って芹川は俺の体で手を伸ばしてきた。
差し出された手へと伸ばすと俺の腕をグッと掴み芹川が今の俺の体を引き上げた。自分の力だけど驚くほど強く感じる。
そして、俺は勢い余って今は芹川の体にぶつかった。正確にはわざと芹川にぶつけられた。
「私のふり、しっかりして。」
耳元でそう呟くと、ぱっと突き放し「ごめんな?大丈夫か?」と再度声をかけられる。こんな時でも三和の冷ややかな視線が気になるが今の言葉で頭は冷めた。
ボーとしてても仕方が無い。だけど、心の準備もさせてくれないのはおかしいだろ!?
「はぁ…。もう、ちゃんとしてよね!私、頭が痛いわ。」
まだ不慣れな女言葉を使う。こんな状況になったんだ。練習していて良かったんだろう。
ふと、自分はいつ戻れるのかと考えた時、戻る必要なんてないでしょと平然と言い切る芹川の姿が目に浮かんでなんか詰んだ気がした。