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佐江川と芹川

 この物語の主役は佐江川くんと芹川ちゃんのふたりです。

「なぁ、佐江川?お前、最近芹川と何してんの?」

「え!?…あぁ…。勉強?」

 びっくりしたぁ。

 三和が突然してきた質問は隠し事が苦手な俺にとってはかなり危ない質問だった。

「芹川賢いもんなあ。今度教えてもらおっかな。」

「い、いいんじゃね?今度お前も誘うよ!」

 こういうところが芹川に駄目だと言われるんだろう。

「にしても幼馴染っていいよなぁ。羨ましい。」

「どこが…。あいつといて良かったことなんてねぇよ?」

 全く…本当にあいつのどこに惚れたんだか。


 俺らは廊下を歩きながら他愛のない話をしていた。次の授業は何だったとか、部活のアイツが面白かったとか…そんな話だ。

 そんな途中で三和がふと思い出したように聞いてきた。

「そういやさ。お前も賢いよな?」

「えっ?あ、いや…得意教科が違うからさぁ!ちょうどいいんだよ!」

 あっぶなー。なんで掘り返してきた?

 確かに、得意教科が違うのは事実だ。芹川は理数が得意で、俺は国英が得意だ。でも…残念なことにどちらの点も今回は良かった。言い訳にしか聞こえない。

 嫌な汗が流れる。

 別に、お前の好きな芹川を奪おうって訳じゃないんだ!お前は俺に嫉妬してるのかもしれないけど、俺だって芹川に嫉妬してるんだぜ?

 …という気持ちをすべて押し込んで、弁解しようとしたその時…

「よっ!お二人さん!」

「おっ!芹川!」

 素早く三和が反応する。

 ナイスタイミングだ!いいところで来た!でも少しおせーよ!

(助けてくれ)

 俺は目で訴えた。

(はいはい。) 

 …こういう目だけで会話できるのもよっぽどだな。芹川以外で目で会話が続いたためしがねぇが…。これも腐れ縁による長年のつきあいによって生まれたものだ。必要のないモノだとばかり思っていたが今は少し助かっている。

「なになにぃ?お取り込み中?」

「いいや?勉強会に俺も誘えよって言う話!」

「あぁ。なるほど。で、佐江川はなんて言ったの?」

「んー?今度誘うって!だから勉強、よろしくな!」

 そっかそっかと笑いながら芹川が(だめじゃん!)と俺だけに言ってくるのが地味に心に響く。

(俺だってわかってる!) 

(それを分かってなっていうの!私だったらそんなこと絶対に言わない!)

 はぁ…と、俺にしか見えないように呆れ顔をして、

「じゃあ、今度勉強会しよ!テスト前だしさ!美里も誘っていい?」

 と三和に対して笑顔を向けた。

「おう!楽しみにしてるー」

「じゃあねー!」

 嵐のように過ぎ去っていった。そして、今の俺の怪しい言動のフォローを完璧に済ませてくれた。

 で、結局、勉強会はみんなでするのかよ。でも、まぁ…気を遣ってくれたんだろうな。みんなが別々の人が好きっていうわけのわからない空間で勉強が集中できる気がしねぇー。


「やったな。芹川と勉強会だぜ?」

 嬉しそうだな、おい。三和、見てろよ?そのニヤけづら、今から俺しか見えないようにしてやる。…なんて、堂々と芹川のように言えたらいいのになぁ。その行動力を別けてほしいよ。


ーーーー

「ねぇ。千佳ちゃん、何話してたの?」

 あー!いつ見ても美里は可愛いなぁ!

 長いまつげ、ふわふわの黒髪、ぱっちりクリクリのおめめ、可愛らしい口調、雪のようにひんやりとした白い頬、イチゴのような唇!挙げたらきりがないくらいサイコー!!

 はぁ…。女神を前に、落ち着くんだ私。

「うーん?私と美里、そんで、佐江川と三和で勉強会しないかって話ー。」

「えっ!?佐江川くんも来るの?!」

 真っ赤な表情も可愛い!…それが私に向けてだったらもっと良かったのになぁー。憎いぞ!佐江川!

「美里ー!私もいるんだよー?」

 そう言って、抱きついた。ベタベタとスキンシップを取れるのは女子の特権!!

「もう、分かってるよ。私も千佳ちゃんと勉強できて嬉しいもん!」

 あぁ、天使だぁ!!

「ねぇ!美里ー!もう一回言ってー!」 

「えっ、あっと…私も千佳ちゃんと勉強ができて嬉しいよ?」

「やっぱ!美里は可愛いなぁー!付き合ってよ~!」

「もう。千佳ちゃんったら!」

 …何度めかの告白。結構ガチなんだけどなぁ私。怖くて、「私、本気で告白してるんだけど」なんて言えないけど。

 

 何度か男に生まれてたら良かったのにと思う瞬間がある。

 冬に制服が長ズボンだったり、体育のあとで教室で堂々と着替えられたりだとか…。でもそれはとっても些細なことで美里と会うまではそこまで真剣に思ったことなんて無かった。

 美里が佐江川のことが好きなんだと私に言ってくるまではこんな気持ちに全く気づかないでいた。

 聞いた瞬間、私は焦った。

 それは決して、佐江川のことが私も好きなのに親友である美里が好きになってどうしようとか言う現実の何処かでもありそうなものではなく。私が美里を好きなのに他の誰かを好きになってしまったと言う焦りだと気づくのには大分時間がかかった。本気で佐江川のことが私は好きなんじゃないかと思った時期があると思うとおかしくて笑えてくる。

 私には男を好きになった経験もなかったけど、女を好きになった経験も無かった。

 意外と戸惑うこともなく、すんなりとその現実を受け止められた。きっと私にとって人を好きになるという行為には性別は関係なかったんだ。

 でも、実際には性別の差と言うものは意識しないといけないことで…。一般的には男と女が結ばれるのが普通である。同性同士の恋なんて変な目で見られる。それが今の現実。それが今、普通のこと。

 

 そんな普通じゃないやつが、まさか身近にいるなんて思わなかった。


 あの時、それが分かって無性に笑えてきた。私等は腐れ縁のみならず運命かなんかで結ばれてるんじゃないのかって…。それからきっと一生コイツとは何らかの縁で付き合っていくのかなーと感じた。


「幼馴染って良いよね!憧れちゃう。」

 美里が昔、そんなことを言ってきた。

「そうかなー?実際幼馴染なんて、いて当たり前みたいなところがあるから良いのかよく分からないや。」

 そうやって苦笑いして返した記憶がある。

 いて当たり前…か。案外、心強くていいかもね。

 だけど、佐江川。私はあんたに負けないよ?絶対に美里を振り向かせてみせるんだから!

 結構…ズルい方法なのかもしれないけど、これが私の最善策だから!それはきっと…佐江川にも同じでしょ?

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