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転生王子の受難譚  作者: 帝都ラン
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バルタザール~西集落救出編

早速、バルタ弟に一刻(一時間)ほど諜報活動に行って貰った所、色々な情報が集められた。

ダイニングテーブルには先ほどと同じメンバーが集まり、バルタ兄が黒板に書いたここら辺の地図に今得た情報を書き足していく。


「まずは南。ここには15,6人くらいか。だが戦闘能力は高そうな奴が多かった。」


フレデリクが地図の南集落の目印の下に『15,6人』戦闘力 高、と書く。


「次に問題の西だが、こっちは人が多かったぜ。30人前後だったか。集落の周りにある林と森に潜んでやがった。けどこっちはヒョロヒョロな奴か、ガキっぽいやつが多かったよーな?」


バルタ弟は頭をガリガリ掻きながら、遠い目をして説明する。

同じくフレデリクが西付近に『30人』戦闘力 低、と書いた。

バルタ兄は髪を(いじり)ながら静かに見守っている。


「…ですがキョーコの話では西の集落の内部には盗賊の仲間らしき者が数名いた、と言っていました。すでに入り込んでいるかは不明ですが、プラス2、3人としておきましょう。」


更に30人+3と書き足した。

カイルは側でバルタ弟の話を聞いていて、ハテ?と首を傾げる。


「あのぅ…?リーダーはどこにいるんですか?」

「りーだー…ですか?」

「ああ。えっと、指導者?盗賊側の襲撃を指揮してる人物はどこかなーっと。」


フレディの質問に答えたカイルは、バルタ弟を見やる。

今聞いた情報では指揮官らしき人物が見当たらないと思ったからだ。

もしそういった目立つ人物ならば、会話に出るだろうと。

しかし、今のバルタ弟の話では下っ端 若しくはただの戦闘員だけしかいない。


「おお?確かに、いつもの首領格は見当たらなかった…か…?」

「…。」


バルタ弟は、あごに手を当てながら答える。

片やフレディは一瞬考え込むと、黒板のある一点を指さす。


「多分…ココですね。」

「ココだわネ。」


それまで沈黙していたバルタ兄は、タイミング良くもフレディと同じ場所を指差した。

ギョッとするフレディ。

あら!失礼しちゃうわネー、と言いながらちょっぴりぷんすかフレディを見下ろす彼女?。


二人が指した先は、西集落と南集落を軸に三角を描いた頂点部分にあたる山がある。


「西と南に居なかったのなら、多分この山を中継点にして指示出してんじゃない?そして、優劣見極めて優勢の方に合流するつもりネ。」

「はい…。恐らく、劣勢はそのまま切り捨てるでしょうね…。合理的で冷酷な性格の首領または、参謀でしょう。」

「合理的で…冷酷…?」


気を取り直したバルタ兄は自分の見解を説明するが、フレデリクの考察に渋い顔をした。

一方フレデリクもバルタ兄の考えに便乗した後、更に小声でボソリと呟く。


「…でもこういう輩って、感情面とか自分の計画崩されるの 凄い嫌がるんですよね…。」

「!?」


ギョッとして思わずフレディを仰ぎ見たカイル。

いつになく、笑いが黒かった…。

いつもとキャラがかなり違うフレディで引き気味なカイルだったが、続きが気になったのでもう少し突っ込んでおずおずと聞いてみた。


「え、えーっと?た、例えば?」

「そうですね…。無難なところで間諜スパイを入れて、偽の情報を流して内部を引っ情報を流して内部を引っかき回す…うーん。時間が掛かりすぎるな…。手早く毒を混入…いや、細菌汚染もアリか…?」

「にょ―――っ!!」

『!?』

「マジカヨ…。」

「…。」


最後の方は独り言になりながら ますます危険思考をかますフレデリク。

カイルは思わず変な叫びを上げ、物理的にもザザザっと引いてしまった。

隣にいたキョーコも同様だ。


(オイオイ!なにサラッと怖い事言ってんの!!??ど、毒とか細菌汚染って…バイオハザードーー!?)


と、心の中でツッコむカイル。

近くにいたバルタ弟も、そこまでやるんかい…と引きつった笑いを張り付けていた。

バルタ兄の方も双子だけに同じリアクションか…と思いきや、彼女?はブツブツと考え込んでいる。

そしてバッと顔を上げたかと思うと、大声をあげた。


「ソレ!!使えるじゃない!!!」



バルタ兄の一声で、作戦内容が決定した。(むしろゴリ押し)

バイオハザード…ゲフンゲフンじゃなく、敵の食事に下剤を入れて戦力と数を削るというもの。

まぁ、コチラ側に風の魔石という反則技があってこその作戦ではある。


圧倒的にカイル達の方が人数も戦力も低い訳ではあるし。

と、言う訳で現在バルタ兄弟は風の魔石を使用して各々西と南に行っている。

更に風魔石の隠形おんぎょうの魔力を使って秘密裡に行動し、敵の食事の下剤を投入してもらっていた。


どれだけ戦力を削れるかは未知数だ。

フレデリクが、え?何で毒じゃないんですか?と不満そうな顔で言っていたが、黙殺したカイル。

あなた、ホントにキャラ違うから!!…因みに、今回使用した下剤はバルタ兄さんの私物らしい。


薬草調合も趣味のようだ。手先が器用なのもそうだが、色々高尚な趣味をお持ちネ…。

それはさておき。


「凄いな…。」

「凄いですね…。」

『スゴーイ…。』

『…?』


四者四用。

先ほど作戦に赴いたバルタ兄さんに、ある宿題を言い渡されたカイル達。

リビングに移動した彼らは、そのテーブルに鎮座している色の違う魔石がはめ込まれた、長さにして30cmほどの4本のつえを凝視していた。


今までも魔石は色々見てきたが、こういった専用の道具に嵌められた姿を見ると一気に『ファンタジー』な感じが強まって「おお!?」(感嘆)となるカイル。



約10分前…。


「あ!そうそう!コレ。」

「はい?」

「コレであんた達の魔法の相性を帰ってくるまでに調べといてネー!」

「は、はいーーーー!?!?」

「あら!いいお返事ーー!じゃあ、行ってくるわネーーーー!!」

「え?えーーーーーーっ!?」


あれからバタバタと作戦の準備を済ませて ちょうど近くにいたカイルに杖をポンっと渡し、そう言い捨てた。

そしてカイルに碌な説明もせず弟と共に魔石で空に飛んで行ったバルタ兄さん。

カイルは、「ちょっと待って!!も少し説明してーーっっ!!」と言うことも叶わず、右手を空しく宙に浮かせたまま固まっていた。


そして、左手に手渡された4本の杖をジットリと見る。

カイルはもう一度空に消えた彼らを見た後


(いや…私、了承の返事した訳じゃないから…)


と、マンガ的表現で言えばヒュルリラ〜と風が空しく辺りを吹き抜けていったのだった。


その後、ため息吐きつつ皆のいる部屋に戻って来たカイル。

彼女はリビングに移動すると、先程手渡された4本のつえをテーブルに置いて改めてマジマジと見る。

他2人もなんだなんだと彼女に近づいた。

(リンゼは元々リビングのソファーにいた)


なんでも、それらは「風、火、水、土」の魔石がそれぞれ杖の先端にはめ込まれていて、各々に応じた魔法が使えるとのことだった。

だが適性というものが存在して、より相性の良い者がその魔法を使用することで効果を最大値にまで引き出せるらしい。

…とは、フレデリクがバルタ兄さんから引き出した情報だ。


あ。

少しは説明あったのね…。

てか、いつもの如く行動早いな!フレディ!と、突っ込まずにはいられないカイルだった。


「って、このまま物珍しくしてても仕方ない。その適性ってヤツをコレで調べられるってことだよな?」

「…まあ、バルタさんがそう言ったのならそうでしょう。」

『とりあえず、さわる?』

「……。」


言い終わらない内にキョーコがトパーズ色の石がはまったつえを手に取った。

よく解らないシルバーな金属素材の先端に色の違う石がそれぞれ嵌っている。

…が特に何も起こらない。


…もうちょっとカワイク凝った感じにすれば、魔女っ娘の魔法のステッキっぽい…と思いながら、目を細めキョーコにならってカイルも薄いグリーン色の石が嵌ったつえを手に取ってみる。

シーン。

次にフレディ、水色の石のつえ。

シーン。


…おーい。

ホントにコレで解るのー?他に何かするんじゃね?と三人が同時に遠い目をする。

しかし最後に解らないながらも目の見えていないリンゼが手探りで残りの赤い石の嵌ったつえを掴んだ時、変化が起こった。


「あ!?」

『ひかってる!?』

「おーっ」

「??」


リンゼがその杖を掴んだ途端、赤い石の部分がチカチカと点滅を始めたのだ。

まず間違いなく、コレが適性の証拠なのだろう。

他の三人は互いの顔を見合わせて頷き合うと、杖を交換しつつ自分達の適性を調べ合う。


結果。

カイル(水)(土)(2つもあった!)

フレディ(風)

リンゼ(火)

キョーコ なし



キョーコだけがどれも反応せずで、1人、ご不満な彼女であった。

おそらくキョーコは特殊な(時)ではないかと思うのだが…。

因みに。


この世界の魔法の種類は9つ。

火、水、木、金、土、風、光、闇、時。

これは、ザカルーンのエドが言っていた話だが、魔石には相性の良い場所と悪い場所があるのだそうだ。


ここ、ダルスク帝国のバルタ兄弟が持つ魔石は「火、水、土、風」の4つ。

「相性の良い場所?」とカイルがエドに尋ねてはみたものの「い、いや〜これ以上は〜」とキョドりながら濁された。

こういった態度もカスパールとよく似ているので


(…や。やっぱ、実孫じゃねーの?)


とカイルはまた思ったワケであり。

しかしながら、まだまだ魔石には謎が隠されているらしい。

さて、そうこうしている内にバルタ達が作戦から帰ってくると、「うーん。時間が無いから、すぐやるワ〜」と言ってカイル達は各々杖を持ち、初級の魔法をバルタ兄弟から教わる事となった。



ログハウス裏庭……




裏庭は雑木林がまばらにあり、ログハウス手前側にはこじんまりとした花壇と、自家栽培の野菜?の苗が植えてある畑が広がっていた。

花と畑を荒らさないよう林の方まで移動してきた彼ら。

カイルとリンゼはバルタ兄さんが、フレディはバルタ弟に魔法を教わることになり、それぞれ杖を持って早速指導が始まったのだが…。



「…い、イメージですか…。」

「ん?いめーじ?ってナニ?」


バルタ兄さん曰く、やはり魔法を発動させるにはイメージ(想像)が大事なのだそうだ。

エドも言っていたが、頭の中で自分が発動させる魔法のカタチを明確にすることでより強力な、より発動成功率の高い魔法が使えるらしい。

人それぞれではあるが、言葉(呪文)を唱えることでイメージが明確になるなら有りでも無しでも良いそう。


「…(想像)って意味です…はぁ。」

「…フーン?」


カイルは水色の石が嵌ったつえを凝視してため息を吐く。

バルタ兄さんは近くにいたキョーコに「あの子って、たまに良く解んない言葉使うわよネー。素なの?」と小声で話しかける。

キョーコは『あ、はは…』と乾いた笑いを漏らしていた。


因みに、フレディは早速風魔法のコツを掴んだらしく バルタ弟と共に「なら実地だ!」とばかりに魔石を持って飛行訓練に行ってしまっていた。

…流石は軍部のエリート様。魔法という未知のモノでも適性能力は高かったようだ。

カイルは恨めし気に彼らが飛び去った空を見上げていたが、バルタ兄さんの「ホラ!ワタシ達もやるわヨ!」との声に渋々覚悟を決める。


1刻(一時間)後…



「キャー!!!リンゼちゃん!凄いワっっーー!!!」

『へぇーー』

「……フゥ。」



リンゼは構えて持っていた杖を下ろすと、詰めていた息を吐いた。

彼は適性のある火の魔法で攻撃の初級であるファイヤーボールをすでに習得し、さらにそれを進化させて複数の火の玉を出現させていた。

ソレを目標の木に当てる所まで完璧。

どうやら彼は視力、聴覚が利けない事でそれ以外の五感が異常に発達したようで、集中力もハンパがなかった。

一方カイルはと言うと…。



「カイル…。アンタ、真面目にやってんノ?」

「!?や、やってます!!!」

『………。』



リンゼびいきのバルタ兄さんは、カイルに対しての温度差が顕著けんちょである。

彼女?は巨体をグネグネさせながら熱いまなざしでリンゼを見ていたが、その隣にいたカイルを見て一転、容赦ようしゃのない冷たい一言。

キョーコの視線もちょっと生温かい。


なぜならカイルの水魔法は、杖を縦に振ろうがグルグル回してみようがうんともすんとも発動する気配が無いからだ。

まぁ初めてではあるし、天才気質のリンゼと秀才だろうフレディと比較して凡人の彼女にはちと酷な話だ。


(だ、だから、私はモブだって言ってるのに〜!!)


と涙を流して内心ガックリ膝を付きたい彼女だったが、練習時間が限られているのでそうも言っていられない。

ココで言う魔法の概念が前世に無かったせいか、一体どうすればいいのかサッパリ解らないカイル。

今一バルタ兄さんの言う魔法のイメージを固められないのだ。


そして他の2人が難なく魔法が使えているだけに、余計に焦って集中力もままならず悪循環に陥っていた。

すると、一端訓練を中断していたリンゼがカイルの側まで近づいて来ていた。

リンゼがカイルの服を掴む。



「おお!?リンゼか…どした?」

『………。』



服を掴まれて初めてリンゼが近くにいたことに気づいたカイルは、驚きながら振り返った。

リンゼは杖を持っていない方のカイルの手を掴むと言葉を綴る。


『カイル、やり方わからない?』

「ぐっ!?」


言葉を綴りつつコテンと首を傾げて見上げるリンゼ。

どうやら彼は魔法が上手く使いこなせない彼女が心配だったようだ。

問われたカイルは言葉に詰まると、ガックリ項垂うなだれた。


ところでバルタ兄さんはと言うとカイル達にその魔法の「イメージ」だけを伝え、その後のリンゼの優秀ぶりに満足したのか


「じゃ、ワタシはちょっと夕ご飯作ってくるわネー。ホラ、アンタも来なさい!!」

『えーーー!?』


と言ってキョーコの手を掴んで、無理やり連れて行こうとする。

キョーコはイヤイヤをしていたが、「働かぬモノ、ご飯食べちゃダメなのヨ〜?」とバルタ兄さんに言われ、後ろ髪を引かれながら渋々その場を離れていた。


『カイル?』

「ん?」

『……。』



リンゼはカイルの手を持ったまま俯いて何かを考えているようだった。カイルはハッと気づくと、「お腹空いたか!?ごめんなー?も少し待って…」と言いかけてリンゼに痛いほどギュッと手を握られる。


「い、痛いよ…?」

『ちがう!!』

「ハイ…ゴメンナサイ…」


至近距離の超美少女の睨みに、流石に怯むカイル。

しかしその後もカイルの手をもてあそびながら何も言わない、いや手に書こうとしないリンゼにカイルは「何だ?なんでも聞くよ?」と優しく問いかけた。

すると、リンゼはおずおずとカイルの手に『まほう…』と書いた。



『……オレのやり方で…いいならおしえ…』

「!!お願いします!!」

『……。』


少し躊躇ちゅうちょしながら指導の提案をしようとしたリンゼだったが、食い気味で即答してきたカイルに要らぬ心配だったかと少し苦笑した。

普段はリンゼを教育する立場なカイルだけに、プライド云々があるかと思ったが全くなかったらしい…。

リンゼは頭を切り替えると、早速カイルに自分がやったやり方を教えることにした。



『えっとね。前にカイルから(どれみのうた)ならったでしょ?』


リンゼ曰く、このドレミの歌でやったイメージの勉強が役に立ったらしい。

アレは歌に合わせてモノの名前をリンゼに教えるために実物の物を触らせながらやった学習方法だ。

リンゼは未だ目が見えない。

故に手で触った物を頭の中で形作って、こんな感じかなー?とイメージして自分なりに物の名前を覚えたのだ。



『…だから、オレの火のまほうは相手になげやすいように丸い形で、それに火をまとわせたモノをいめーじした。』

「な、なるほど…。」

『カイルは水でしょ?』

「うん。」

『だから、オレのみたいに丸い形でなげられるかんじか、うーん。雨みたいにたたきつけてふらすかんじとかもいいんじゃないかな?』



『ちょっとかして。』とリンゼが手に書いたあと、カイルの杖を取る。

そして、彼女から少し離れて杖を両手で握りしめて目を閉じた。

水色の魔石が徐々に光を帯び始める。


すると、間もなく杖の先端辺りから水の塊ができ始めた。

大人の拳大の大きさになると、リンゼは目を開き『行け!!』とばかりに前を見据える。

途端に弾ける様に杖の先端から放れた水のかたまりは前方にあった木をめがけて飛び出した。


バシャンっ!!


「おおーーっ!!」

『……ふゥ。』


見事、木に命中した水の塊が霧散した後、構えを解いたリンゼは息を吐きながら軽く頭を振っている。

そしてカイルにまた近づくと手を取った。


『オレは水のてきせいないから、今はコレがげんかい。』

「いやいやいや!!無くっても即効繰り出せるって凄いよ!?」


カイルはリンゼの頭をワシャワシャ撫でながら、絶賛する。

リンゼは目をパチパチさせると、忌憚きたんないカイルの誉め言葉に、ゆっくりと俯きながらはにかんだ微笑みをみせた。


(ふォォォォーーーー!!!!はにかみ〜〜か!カワユイーーーーっ!!!!!)


リンゼのはにかみ笑顔にカイルは全身で久々に萌え悶えていたが、リンゼの『じかんないよ?』の言葉に「ハイ!!先生!!」と、敬礼をしながら答えたカイル。

いつもと立場が逆転した2人はお互いにクスっと笑い合った。


そして、辺りが暗くなり肌寒くなっても訓練し続けた2人は、しびれを切らしてやってきたバルタ兄さんから「アンタ達!!いい加減切り上げなさい!」

と言われるまで無我夢中で練習したのだった。


…余談ですが。

バルタ兄さんと共に先にログハウスにいたキョーコから『なんか、キエー!!!とかシャーっ!!とか、ヘンな声がスゴイきこえたんだけど何?』と問い詰められ

(スミマセン…全っっ然、記憶にゴザイマセン…)

と、遠い目をしていたカイルなのでした…。




その日の夜。夜明け前。


バルタ兄さんから与えられていた客室で仮眠を取っていたカイルは、扉の外の騒がしい音にフッと目を覚ました。

客室のベッドにはカイルの他にキョーコとリンゼもいたが、彼らはこの一日色々ありすぎたせいなのだろう。

ベッドに入った途端、緊張の糸が切れたように即効眠ってしまった。

小さい身体で酷使こくししたせいか、疲労もピークを過ぎていたようだった。


前世の記憶があり、精神年齢も大人の自分と違って2人は年相応のはずだ。

しかし、今の状況について不平不満や泣きわめくことをしなかったキョーコとリンゼ。

言われたところで、どうも仕様が無いのだが一般の彼らの年齢よりは余程大人に見える。


小さい子達は彼らなりに考えて行動しているのだ、大人と同じように。

しかしながら、理性的な頭をもってしても身体はまだまだ未熟。

体力の限界は致し方が無い。

カイルは両隣で眠っている2人を覗き込んでみたが、グッスリと夢の中のようだ。


ところでカイル達のいる客室のベッドは2つあった。

そのベッド配置を見た彼女はキョーコとリンゼが何か言う前に2つのベッドをくっつけて、カイルが真ん中になり3人で川の字になって眠っている。

カイルが3人の中で一番身長がデカいので何とも様にならない川の字ですけど!


さておき。

カイルはそれぞれ2人をうかがって彼らがまだ眠っているのを確認する。

左手側にある窓の外を見れば漆黒の暗闇が広がっていた。


カイルはソッと体を起こし、彼らが目を覚まさないようコッソリとベッドを抜け出すと、部屋の扉をカチャリと開けた。


表に出た廊下は薄暗かったが、その先のリビングから明かりが漏れている。

そしてそちらから話し声も聞こえたので足を向けたカイル。

しかし一歩踏み出す前に前方からバタバタと廊下を通った先の家の出口へ走り出していたバルタ弟にぶつかりそうになった。


「おおっ!?」

「ぅわッ!!」

「!?大丈夫ですか!」


「悪りぃ、悪りぃ!」と言いながらカイルを軽々受け止めたバルタ弟は、眉をハの字にさせながら彼女の頭をポンポンと軽く叩いた。

そして「すまねェ、急いでるんだ!また後でな!」と言い捨てて慌ただしく外へ出て行ってしまった。

その後ろに続いていたフレディもカイルの安全を安心しつつも「すみません!緊急事態なので、先に出ます!」と言ってカイルに目礼すると、同じく出て行ってしまった。


バルタ弟にぶつかった衝撃で目を白黒させていたカイルだったが、事態が動いた事を察すると足早にリビングへ向かう。

リビングでは、バルタ兄さんがテーブルに置いた地図を髪をイジリながらにらんでいた。

彼女?は人の気配に気づくとフッと目線を上げ、カイルと目が合った。


苦笑したバルタ兄さんはこっちへ来なさいとばかりに視線でカイルをリビングの椅子へと促す。

カイルは近づきながらバルタ兄さんに問うた。


「異常事態ですか?」

「…まあネ。」

「作戦が早まる感じですか?」

「ええ…。おおむねは作戦通りだけど、まだ許容範囲内ヨ。若干の修正は必要かもだけどネ。」

「……。」


カイルも彼女?と同じく眉間に皺を寄せて地図を眺める。

地図には先程書いた情報が更新されていた。

カイルが「南に西の部隊が移動…?」と呟く。


バルタ兄さんは神妙そうにコクリと頷いた。

今回の作戦の陣頭指揮はバルタ兄さんだ。

彼女?が許容範囲だというのなら大丈夫だろうが、懸念は残るという。


「アンタが話してくれた、西が襲撃されて悲劇が起きた過去から来たって話。疑っては無かったんだけど、信じられない所もあったのよネ。」

「…と言うと?」

「アタシ達が今まで撃退して来たアイツ等が、そこまで侵略して残虐非道な行いをするとは考えられなかったからヨ。」


バルタ兄さんの話によると、これまでの盗賊達は物品は奪っても人殺しや奴隷として売ったりしたことなどなかったらしい。

今回(過去の出来事)のような緻密ちみつな作戦など脳の少ない今までの頭領は「ああん?なんだそりゃ?うめェーのか?」のごとき無いにも等しく、行き当たりばったりの肉弾戦ばかり。

しかも…


「夕方にアタシ達がアイツ等のとこ行って下剤仕込みに行ったデショ?はっきり言って殆ど知らない奴らばかりだったワ…。」

「…バルタさん達が渡り合ってきた盗賊とは全くの別物だと…?」

「ん〜〜とも言えないのよネ〜?数名顔見知りいたし?おバカな元頭領もいたようだったし?正しくは外部からの応援…イヤ、吸収かしらねアレは。」


どうやらバルタ兄さんが知る彼らは、頭の切れる盗賊集団に吸収合併されたようだった。

となると、今までの様な筋肉バカの集団ではなく頭脳を伴った残虐集団に様変わりしたことになる。

一筋縄ではいかなくなったらしい。

カイルは顔をしかめているバルタ兄さんを見ながら昨夜の話し合いを思い出していた…。



「まぁ、人数差のある戦闘なら考えるまでもなく奇襲作戦が一番ですけどね。」


魔法訓練後、軽く食事を取ったカイル達は早速 明日の作戦内容の話し合いを設けた。

最初に口火を切ったのはフレデリク。

彼は騎士としての実力もピカ一だが、一時期参謀本部直属に配属されていたこともあり戦略に関してもけている。



「それに今回は前段階として下剤作戦を決行しています。後、風の魔石で通信も隠形も使える。かなり勝率は高くなっているはずです。」

「うん…。」

「アラ。浮かない顔ネ?」

「何か懸念けねんでも?」


バルタ兄さんに指摘されて顔を俯かせるカイル。

隣ではフレディも様子を見ていた。

カイルは言葉にはできないが漠然とした不安が消えなかった。


敵の指揮官はそんなに甘くはないのでは、と。

彼女はしばらく逡巡した後、答えた。


「…下剤作戦はリスクが高かったのかなぁーと。」

「りすく?」

「ん〜。端的に言って危険性?」

「危険性…。」

「そうですね。この作戦によって我々第三者が介入していることは明らかになりますし。」


バルタ兄さんは髪をクルクルいじりながら答える。


「でも、今回のあいつ等は今までの筋肉バカ集団とは何かが違うワ。どれだけ奴らの統制がとれているかは下剤投下した時の様子だけでは判らなかったし。手っ取り早く戦力を削るには有効な手段だと思うけど?」

「…。」


カイルは未だ渋い顔をしている。

そこへバルタ兄さんの隣に座っていた弟のバルタが思いつくままに兄に問うた。


「アレ?今日使ったクスリって、どんくらいで効き始めんだ?」

「今日のは遅行性になるよう配合してみたんだけど…初めてこんなに長い時間のやつ造ったから、チョット誤差が気になるのよネ〜。」

「誤差ですか?」

「ええ。即効性だと効き目は早いけど治るのも早いから。大体10刻後前後くらいに効くよう調合したんだけド…。誤差は、う〜ん1,2刻?」


なるほど。

夕刻頃に混入したから、夜明け前くらいに効き始めるか。


「では、決行時間はそのくらいに?」

「だわネ。まずコイツらに南へ行ってもらって奴らをふんじばってもらうワ。」


バルタ兄さんは弟を指差しながら答える。

懸念は残るが、作戦はすでに始まっている。

カイルは頷くとバルタ兄さんに指示を仰ぐ。


「はい。では、私達はどのように?」

「そうネ…。時間差で西へ行って、倒せそうならヤッちゃうけど無理そうなら応援を待ちまショ。」

「了解しました。」




ところで、カイル達が昨夜取り決めた主な作戦内容はこうだ。

まず、夕方の内にバルタ兄弟が敵側の食事に下剤を仕込んだ。


その後バルタ弟とフレディが風の魔石での飛行訓練のついでに南の集落へ行き村人の一人、取りまとめ役の(チバル)に協力を仰ぎ魔石での通信手段で連絡を取り合う事にしていた。

風の魔石は前世で言うトランシーバー的な役割も果たすようだ。ホント、便利だな!!

南の集落に盗賊達の動きがあれば連絡をくれ、というものだ。


ところで話は少し逸れるが、自身の村が襲撃される事情を知らないはずだったテルト少年の事。


彼はバルタ兄弟の話の中でチバルの積み荷が盗賊に襲われた事がどうにも気になったらしく、一端山から下りたのだったが、再度追及するためにバルタ兄弟のログハウスにやって来た。

そして「俺にも何か手伝わせて欲しい!!」と懇願された。

確かに西集落の様子も異変がすぐ解るに越したことはない。


カイル達は話し合った末、「明日の祭りを警戒してほしい。何か怪しい動きがあったら連絡してくれ。」と告げ、テルトにもトランシーバー代わりの風の魔石を渡していた。テルトはキラキラした目で魔石を受け取り、連絡のやり方を習うと「オラに任せとけっ」と元気よく答えてまた山を下りて行った。


因みに。

魔石による相互翻訳が可能になった途端、テルトのしゃべりが(某有名格闘アニメの孫〇空に似てんな〜?)と思ったのは案の定、カイルだけでした…。


そして。

もし夜中になっても敵の動きが無ければコチラ側が夜明け前に動く。

バルタ弟とフレディがチバルと連絡を取り合いながら南へ飛び、南の集落の敵の様子を確認。

下剤の効果が現れて敵が弱っている所を2人で彼らを捕縛。


一方、西の集落もバルタ兄さんとカイル達が向かい下剤の効果を確認。

敵のアクティブ人数のもよるが倒せるようであれば、4人で応戦(多分攻撃はバルタ兄さんとリンゼの魔法。補助がカイル。キョーコは連絡役。)

もし4人で厳しい様ならば無理せずバルタ弟とフレディの応援を待つ。


そして一網打尽にした後、あわよくば敵の頭の切れる頭領も捕縛。

というものだったが…。


「何事もあらすじ通りにはいかないってことネ…。」

「…ですね。」


テーブルに置いてあるランプがジジッと芯を焦がす音を立てる。

バルタ兄さんは大きくため息を吐くと、気合を入れるためか右手で拳を作り左の掌にパンっ!!と勢いよく当てた。


「さて!!ワタシ達もこうしてはいられないワ。ワタシは急いで準備を整えてくるから、カイルは2人を起こしてもらえる?」


カイルはコクリと頷く。

バルタ兄さんはニコッと笑うと、後ろ手にヒラヒラさせながらリビングを出て行った。

カイルは立ったままもう一度テーブルの地図を見て、指を這わせながら考える。


バルタ兄弟が下剤を投入してから恐らく10刻(10時間)経過している。

思った以上に下剤効果が早かった。

そして、敵の動きも早かった。


敵側もやられっぱなしではなくすぐに態勢を立て直したのだろう。

こちらには風の魔石というチート道具があったが、彼らはあくまで自分たちの手足で動かねばならない。

いくら馬という移動手段を持ってしても迅速なる行動展開、不測の事態にもすぐに対応できる指示能力。


敵の指揮官は余程場慣れしているか、異様に頭が切れるのか…。

いずれにしても簡単には事を運ばせてはもらえない相手のようだった。


(そういや、フレディが「盗賊の参謀じゃなきゃウチに引き抜きたいくらいなんですがね〜。」とか言ってたっけ…)



「えー!?そんな極悪非道なヤツ!てか、ウチの軍司令部そんなに人足りて無いの?」

「いえ?しかしいつどうなるかが解らないので、人員募集は常にやってます。」

「あ…そう。」


てか。いつどうなるかってとこ、コワいんですが!


「まぁ?入った所でウチに耐えられるヤツは稀ですけどね…。」

「……。」


とかなんとか言ってまた黒い笑みをたたえていたフレデリク。

今までも何となく感じてはいたが、多分イヤ絶っっ対にコッチが本性だな!!と思ってしまったカイルだった。


(さぁーて!私も2人を起こさないと!)


と思考を振り切ったカイルが顔を上げると、リビングの入口に人影が見えた。ん?


「キョーコ!?リンゼも!」

『…かいる?』

「あうあ!」


暗闇から顔を覗かせたのはお子様2人。

キョーコは寝起きなのか、欠伸を噛み殺しながらボーっとしている。

リンゼは先行く彼女の服の裾を掴んで歩いてきたようだ。


どうやら彼らも慌ただしい雰囲気に起き出してきたらしい。

するとその背後から準備を終えたバルタ兄さんが声をかけてきた。


「2人とも目が覚めたわネ!じゃあ、ワタシ達も行くわヨ!!」


よし!!我々もいざ出陣だ!





風の魔石の力で、西の集落の南西にある森に降り立ったカイル達一行。

基本 日の光が射さない鬱蒼うっそうとしたこの森は、別名「迷わせの森」とも言われているらしい。

ある一定の場所では磁場が狂っている所があるようで、慣れている者が一緒にいないと永遠に彷徨さまよい続けてしまう…とはバルタ兄さんの話。


この別名の所以ゆえんだそうだ。

因みに、魔石を持っていると迷わないらしい。

なんだかなぁ…。

ともかく、盗賊達が隠れるには持ってこいの場所のようだ。


しかしながら現在、カイルはこの森に降り立った途端 足が生まれたての子鹿のようにプルプルガクガクで立つことができず、その場にしゃがみ込んでいた。

彼女曰く、


(うぅ…ゴメンナサイ…私、思い出した…。実は高所恐怖症だった〜〜〜!!)


だそうだ。

どうやらカイルは自分が高所恐怖症だった事をすっかり忘れていたらしい。

ナンジャソレ。

風の移動魔法は生身のまま上空を飛んで飛行する移動手段だ。


前回のザカルーンの時は魔法陣により一瞬で目的地に移動したので、カイル自身高い所がダメだった事が解らなかったみたいである。


ところで、この風の魔石の移動も若干コツが必要なようで、使い慣れているバルタ兄さんにキョーコが掴まって2人で飛び、天才肌のリンゼが適性はないがすぐに移動手段のやり方は習得できた(天才過ぎデショ!)ので彼に掴まってカイルが一緒に飛んだのだが…。


「んギャーーーーーー!!た、高いーーーーー!!!」

『……』

「イヤーーーー!!!落ちるーーーー!!死ぬーーーーーー!!!」

『うるさい…』

「サキダツフコウヲ、オユルシクダサイ〜〜〜!!」

『いみわからん…』


恐らく地上から50mくらいの高さを飛行中の2人。

リンゼと共に上に飛んだ直後から、カイルのわめき声が異常にうるさい事この上ない。

リンゼの背中にカイルがビッタリとセミの如くへばりついている。


また彼らの体格差もあり、のしかかられて重いのでフラフラと不安定な飛行が余計にカイルの恐怖を増長している。

しかもぎゃんぎゃん耳元で喚くカイルに、流石のリンゼも閉口しているようだった。

先の魔法の練習といい、何かもう兄の威厳いげん木っ端みじんなんですが…。


一方その前を行くバルタ兄さんと彼女?の手に掴まって飛んでいるキョーコ達はと言うと…


「…ネエ、あのうるささ。あの子、ホントに良いとこのボッチャンなの?」

『……はは。』


(どころか、女で一応一国の王子なんだけど…)


と、後ろ2人を振り返りつつ冷たい視線を投げる。

一応、カイルとリンゼは良い所の子女だと説明してある。

フレデリクはそのまんま彼らの護衛だ。


しかしながら、カイルの預かり知らぬところでバルタ兄さんのカイルへの(男としての)評価はダダ下がりになったようだ。

良かったデスネ〜。彼女?が攻略対象じゃなくて〜。


「さて。そろそろ夜明けがくるワ。時間が勿体ないわネ。アタシはココの反対側の北西の林の様子見てくるから、あんた達は出来る範囲でここ等一帯を確認して。」

「……。」

『わかった。』

『あう。』


バルタ兄さんは先の下剤投下作戦の際、この森とその反対に位置する林(カイル達が最初に作戦会議した場所)に盗賊達が待機しているのを確認していた。

どうやら本来は西の集落を挟んだこの2つの拠点から村へ攻め入ろうとしていたらしい。

しかし下剤の効果で、ここ等辺の辛うじて下剤をしのいだ盗賊達が南に向かったという情報が来た。


しかし頭の切れる、盗賊頭領の事。

コチラ側も完全にゼロの人数では無いだろう、という訳で偵察を兼ねてやってきたのだ。


「アンタたちは流石に魔石の隠形おんぎょうまでは使えないからネ。何かあったら魔石の通信でアタシを呼んで頂戴!」


じゃあネ!!と言いながらサッと飛び上がってヒューっと北の方へ行ってしまったバルタ兄さん。

見たくもない短すぎるスカートの中から、見事な大腿二頭筋と外側内側広筋(盛り上がったボディビルダー並の足)がガッツリ見えた。


(あ。良かった〜ミニスカの下は一応スパッツみたいなの履いてたのね〜)


と相変わらずしゃがみ込んだまま、力なくバルタ兄さんが飛んだ方向を見上げていたカイル。

や。確かに気にはなったけど!じゃなく!!


今回の変更した作戦をもう一度おさらいしておこう。

下剤作戦によって大幅に兵隊を削られた盗賊団は一端南の集落へ集合しているようだ、との南集落のチバルから情報があった。

作戦時間は早まったが、その情報の元バルタ弟とフレディは南に飛んで盗賊達を退治する方向である。


一方西側に来たバルタ兄さんとカイル達は、盗賊の残党の確認と西の集落の状況把握。

もし残党が残っていて、カイル達が運悪く遭遇したとしても無理に戦わず やっても魔法による攪乱かくらんのみ。


奴らに出会わなければ、そのまま西の集落にてバルタ弟とフレディが来るまで待機。

リンゼの火の魔法は強力ではあるが、魔力が無くなってしまえばタダの石っころ。

カイルはそこそこの剣術と護身術は身に着けてはいるものの、後の2人は非戦闘員。

戦わないことに越したことはないのだ。


カイルの足の震えも止まり、こうしてはいられないと森の周りに気を配りつつ3人は北上し始めた。

空を飛んできた時に西の集落の位置は確認済みだ。

しかし、移動し始めて10分も経たないうちにカイルと手をつないで歩いていたリンゼがピタッと止まった。


「どうした?」


カイルは不審に思ってリンゼを覗き込む。

彼は眉を顰めたままかわいい鼻をヒクヒク動かしている。

カイルの反対側にいたキョーコも何だ?とリンゼを見ていた。


『…なんか、けもののにおいがする…。』

「け、獣のにおい!?」

『えもの!?』


(獲物て…キョーコよ…君、何気に肉食系…?)


と思わず隣にいる彼女をジットリ見てしまったカイル。

イヤイヤ、そうじゃなく!


「何、血に飢えた狼とか!?いや…待てよ…。ここはファンタジー世界…。初期モンスターと言えば…ハッ…もしや、かの有名な す、スラ〇ム!?」

『ハァ…。なんか モウソウ(妄想)言ってるカイルはおいといて、なんのけもの?』


リンゼに向き直ったカイルは多分、コノ世界がファンタジーなだけにそれらしい事を言ってみたのだが…。

てか、スライムってケモノか?

しかしながらキョーコにアッサリバッサリ妄想と片付けられてしまった。


(キョーコ…。君はクールな突っ込み気質でもアッタノネ…。)


カイルはジットリと彼女を流し見る。

一方、キョーコの質問を受けてリンゼはフルフルと首を振る。


『ちがう…やせいのけものじゃなくて、家ちくだとおもう…』

「家畜!?」

『へぇ〜?』


(す、凄いなリンゼ…てか、野生の獣と家畜の臭いって違うんだ…)


カイルは改めてリンゼの特殊能力に目を見張る。

先も話した通りリンゼは異常に鼻と耳がく。普通の人間では解らないレベルの聴覚と嗅覚が発達しているらしい。


いや、流石乙女ゲームの攻略対象と言うべきか。

それはともかくとして。


「家畜…馬か、牛。それとも羊…?」

『かちくがいるって事は、それをか(飼)ってる人もここらにいるってこと?』


リンゼは一瞬眉間に皺を寄せると、小さく首を横に振る。


『わからない…。人のにおいはしない…とおもう…ただ』

「ただ?」


リンゼは空いている手で森の右手前方を指差した。


『あっちの方から、くさった…木?のにおいと家ちくのにおいがする。』


カイル達の前方に広がる森は徐々に明るくなってきてはいるものの、まだ薄暗い上にもやまでかかっていて大変に視界が悪い。

リンゼの発達した五感を頼りに進んでいるも同然なのだ。


しかもカイル達のここでの使命は「盗賊の残党の確認」。

気になる事があるのなら確認せねばならない。


「解った。じゃあ、その方向に行ってみよう。」


カイルは2人の手を握り直すとリンゼの指し示す方向へと歩を進める。



それから半刻ほど歩き続けると、すっかり靄が晴れた前方にみすぼらしい小屋を見つけた。


「あった…。」

『ほんとだ…。』

『…。』


腐った木の臭い…。

確かにあのオンボロ小屋は長い期間風雨にさらされて元の木も腐ってるだろう。

更に馬が5、6頭、近くの木に繋がれている。

これまたリンゼの言う通りだった。


だが何となく馬の様子がおかしいような…?

それは置いといて、カイルはリンゼ凄ーい!!と彼の頭をナデナデしていたが、喜ぶでもはにかむでもないリンゼの様子が少し変なのに気づいた。

そして彼はカイルの手に強張った顔をしながら『…ち…のにおい』と書いた。なんですと!?


「ち、ち、ち〜〜!?ってあの血〜〜!?」

『ちょっと!どうゆうこと!?』

『…。』


2人に問われてもリンゼは俯いたまま黙っている。(まぁ、まだしゃべれないのですが)


『やっぱり、あいつらがいたのかな?』

「…どうだろう。可能性は高いけど…。きな臭い感じはするかな…」


カイルとキョーコはコソコソ小声で話す。

だが、ここでマゴマゴしたところで何も変わらない。一見にしかずだ!と思ったカイルは

「よし!ちょっと、ココで待ってて?小屋の様子を…」

と彼女が言いかけた所でまたもやリンゼがカイルの手をギュギュっ〜と強く握った。ギャ!!


「い、痛いよ…?」

『ダメ!!!!』

『…どうして?』


リンゼはカイルを見上げながら眉をギュッとしかめて、『…なんかわかんないけど…イヤな…においが…する…。』と書いた。

多分本人も自分が感じている感覚をどう表現していいのかが解らないようだ。


「イヤな、におい…?」

『…なるほどね…』


ん。何が?とカイルはキョーコを見た。

キョーコはリンゼを横目で見ながらカイルに答える。


『リンゼのハナは、バカにできないよ?わたしもなんかいか たすけられたし。それにバルタとわかれてから ジカンたってる。あいつらいないんなら、先にすすんだほうがいいとおもう。』

『(コクコク)』


(…ポ、ツーン…)


リンゼもキョーコに同意するように頷く。

以外だったが、リンゼの感覚の鋭さはキョーコが身を持って知っているらしい。

ツーカーな2人に、何だか取り残されたような感覚にとらわれてしまったカイル。


ここまで言われると、気にはなるが怖くて様子を見に行けなくなってしまった。

それに時間の経過もある。カイルは後ろ髪惹かれながらも、その小屋を後にしたのだった。



南集落北西の林、および「迷わせ」の森…




バルタ兄は北西の林上空を飛行していたが、それらしき盗賊達の姿は見えなかった。

上空にて仁王立ちになりながら考える。


「全く居ない…なんてあり得ないわネ…。」


西集落のテルト少年に連絡を取ったが、あちらはまだ異変は起こっていないようだった。

逆に南に行った弟との連絡が何度やっても全くと言っていいほど取れていない。

イヤな予感がする。


「魔力切れ起こしたみたいにアッチとの連絡が取れない…。こんなことって今までになかったことだワ…」


バルタ兄は眉をしかめると、カイル達のいる南東の森に戻ろうとした。

が、カイル達がいる左右対象側の森から土煙が上がっているのが見えた。まさか!?


「何てこと!!!」


バルタ兄は上空でそのまま踵を返すと、西集落方面へ急行した。



南集落付近…




夜明け前に魔石の通信でチバルに呼び出されたバルタ弟とフレディは、南集落の人々の協力を得てなんとかコチラの盗賊団は一網打尽いちもうだじんにした。

そして現在、2人は村の人たちから一番早い馬を借りて西方面へ疾走中だった。


「後、どれくらいかかりそうだ?」


フレディは馬を操りながら隣を並走するバルタ弟に問いかける。


「…そーだなぁ、ここら辺はまだ平地だから 西まで1刻半(1時間半)ってとこかぁ〜?」

「1刻半…」


バルタ兄弟のいた山から南までは魔石を使っての飛行だったので、所要時間が約20分ほどだった。

それに比べると何とも遅く感じてしまう。

では何故、魔石の飛行手段を使わないのか。フレディは苦虫を噛み潰したような顔で先の出来事を思い出していた…。



バルタ兄弟の住み家である山を飛びたって、さほど時間も経っていない南の集落へと向かう50m上空…


現在、バルタ弟とフレディは風の魔石を使った飛行能力で時速140で飛行していた。

現代における列車と同じくらいの速度である。

馬の速度が平均60k/mなので2倍強。


しかも遮る障害物は無く直線で目的地に行ける。

唯一の欠点と言えば魔石に内包している魔力頼りなところだろうか。

魔力が無くなれば電池が切れたようになってしまうからだ。


ところで風圧による呼吸困難や摩擦まさつによる熱は風の魔力によって防護壁のようなものができていて問題ないようだ。

いや…ホントに魔石って…以下略。

フレディは同じ速度で隣を飛ぶバルタ弟に問いかける。


「…やつらの行動が早かったですね…。」

「だぁ〜なぁ〜。アニキはクスリの誤差が1、2刻(1、2時間)っつってたが、思った以上だったみてーだな。」

「誤差もありますが、それだけ優秀な指揮官を有している…という事でしょう。」

「チッ…全く、メンドクせえ事になりそうだぜ…」


バルタ弟はガリガリと自身の頭をかく。

それを見ながらフレディはボソリとこぼした。


「…カイル様の不安もここにあったのか…」

「んあ?」

「いえ…。急ぎましょう。」


フレデリクは正面に向き直ると、睨みつける様に前方を見据え先を急ぐ。



それは2人が南集落に降り立った途端、起こった。

異変を感じたフレディが叫ぶ!


「バルタ!!」

「おお!?なんだ!?」


彼らが地面に着地した直後、ザカルーンで見た魔法陣の様な文様が光をまとって地上に浮かび上がる。

そして手に持っていた魔石からの光が吸い込まれる様に魔法陣へ溶けていく。

フレデリクは、自分の風の魔石が急速に光が失われるのを成すすべもなく目を見開いて見ているしかなかった。

慌ててバルタ弟も自分の魔石、予備の魔石も確認したが…


「…マジかよ…」

「……。」


魔石は魔力を有していると、自身が淡く光る。

しかし今すべての魔石が色を失い沈黙していた。

試しにバルタ弟が魔石を使用しての飛行をやろうとしたが、うんともスンとも身体が上昇しない。

バルタが魔石を地面に叩きつけながら叫ぶ。


「くそっっ!!何だこりゃ!!」

「…完全に魔力が無くなっています。コレで我々の移動手段と通信手段が断たれた訳だ。」

「何がどうなってんだぁ!?」


フレデリクは喚くバルタを目で制すと、眉間にしわを寄せながら答える。


「少し冷静になりましょう。言うまでもなく私達は罠にめられました。先ほどの情報も、偽の可能性が高い。」

「ゲっ!!西の奴らがコッチ(南)に来てねえって事か!?」

「いえ…まだ推測でしかありませんが…。」


と言いながら、フレデリクは魔石を持つ掌を爪痕が付くほど握りしめる。

…便利だったとはいえ、まだまだ未知数な魔石に頼るのは危険だったようだ。

まさか唯一の弱点、魔力の枯渇こかつを突かれるとは思いもよらなかったのだ。

フレデリクは一瞬だけ顔をゆがませるとバルタ弟を見る。


「因みに。今までこのように急速に魔力が無くなった現象はありましたか?」

「…いや。今日が初めてだ。てか、そんなことが出来るのかすら知らなかったぜ。」

「なるほど…。敵はバルタたちすら知らない魔石に関する知識を要している…と言う訳か。」


フレデリクは眉をしかめながら考える。

恐らくは先ほどの浮かび上がった魔法陣が魔力を吸収する力を持っていたのだろう。

そして、のこのこえさに釣られた自分たちが集落に降り立った時に発動するように。


案の定まんまと引っ掛かり、魔力を奪われた。


(これで五分五分…いやコチラの方が分が悪いな…)


フレディは苦虫をかみ殺した顔になったが、気づいたようにハッと目を見開く。


「バルタ!!こうしてる場合じゃない!ココの状況を確認次第、早く西へ…」

「火事だぁーーーー!!!」

「「!?」」


これからの行動を提案しようとしたフレディの言葉を遮るように、2人の背後から声が上がった。

見れば村の一部に火の手が上がっている。

「くそっ!!これも策略の一部か!!」とフレデリクがいつになく苛立った声をあげ、はじかれたように火の手の方向へ走り出す。

空には彼らの不安を煽るように暗く重い雲がうっそうと立ち込め始めていた。



西集落側、「迷わせの森」…




カイル達は怪しいと思われた小屋を無視した後、出来得る限り先を急いでいた。

それは先ほどのバルタ兄さんからの魔石通信を聞いたからだった。



「アンタ達!!ソッチはもぬけの殻ヨ!!しかもそこから反対の森から馬で西集落に向かってる集団を見つけたワ!ワタシは取りあえず集落に向かうから、アンタ達もできる限り早く来て!!」


突如、キョーコが持っていた風の魔石から大音量でバルタ兄さんの声が響き渡る。

うお!!と思ったが、不測の事態と理解したカイルは魔石に直接話しかける。


「え!?盗賊達は南に向かったんじゃありませんでしたか!?敵がコッチに来ているとの連絡が弟さんからあったんですか!?」

「いいえ!それが、向こうと全く連絡取れないのよ!ココからしてなんかおかしいワ!悪いけど、先を急ぐから一端切るわネっ!!」


と言ったきりプツリと途絶えた。

どうやら、雲行きが怪しくなっているらしい。

カイルは漠然とした嫌な予感が当たってしまったことに唇を噛んだ。


フレディ達と連絡が途絶えたということは、十中八九何か起きている。

しかもバルタ兄さん曰く、残党共が西の集落に向かっているらしい。

これでは前回(前の時空)と同じ悲劇が起きるかもしれない…。


眉をひそめたカイルがフッと隣を見れば、キョーコが青ざめた顔をしていた。

多分カイルと同じ事を想定したのだろう。

コレはヤバいっ!と感じたカイルがキョーコに話しかけるより先に、何かを察したリンゼが手を出した。


バっっっチっーーーン!!


「なっっっ!?」

『イっっっっーダーーーーっ!!!』

『……』


ズザザザザーーっ!!

目が見えないのに、キョーコ目掛けてフルスイングからの見事な平手打ち!てか、ちょっと、吹っ飛びましたよ、キョーコ…。

それよりなにより、リンゼから手を出した事は今まで無かったのだ。2人とも良く掴み合いの喧嘩はしていたが、いつも先に仕掛けるのは決まってキョーコ。

なので吹っ飛んだキョーコは、何が起こったのか解らない感じで地面に片手をついている。


そしてもう片方の手は殴られた頬に充てながら呆然としていた。

しかし、段々と怒りが込み上げてきたのかギンッとリンゼを睨みつける。


(こ、コレはまたいつものパターン!?)


とカイルは間に挟まれワタワタ焦る。

しかし予想に反して、立ち上がり勢いよく彼に掴みかかろうとしていたキョーコが何故かピタっと止まった。


「…ん?」

『……』

『……』


ジーッとして動かないキョーコを不思議に思ったカイルは、何となくリンゼを振り返る。

彼はとても真摯しんしな眼をしてキョーコを見つめていた。

お互い3秒ほど見つめ合っていただろうか。

フッと先に視線を逸らしたのはキョーコだった。


『はぁ…ったく。そんなヒマあるんだったら、はやく行けってことでしょ?あ〜あ〜。アンタになぐさめられる日がくるとはねぇ〜』

「えっ!?」


リンゼは特に言葉を発しはしなかったのだが、キョーコには彼の言いたいことが解ったようだ。

それを裏付ける様にリンゼがフワッと笑う。


(ガーーーーン!!!!)


その笑顔を見て衝撃を受けるカイル。

キョーコはリンゼの強烈なビンタでネガティブ思考がすっかり吹っ切れたのか、服のホコリをパンパン払いつつ、『ほら!ジカンないんだからいくよ!!』と先を歩き始めている。

立ち直り早っっ!!


カイルはまたもやツーカーな2人に疎外感を感じて、ショックを隠せない。

あんぐりと口を開けたまま突っ立っている。

一方リンゼはショックで動けないカイルにどうしたのかと首を傾げつつ(はやくいこ?)と彼女の服をツンツンしている。

すると、先行くキョーコが小さな悲鳴を上げた。


「きゃあ!!!」

『!!』

「どうした!?キョーコ!?」


キョーコの悲鳴にハッと我に返ったカイルは、リンゼと共に慌てて前方を歩いていた彼女に追いつく。

見れば、キョーコの首に掛けていた魔石が強い光を放っていた。


(え!?)


カイルは彼女の顔を覗き込みながら尋ねた。


「…キョーコ?もしかして、今精神不安定なのか?」

『ちがう!!』


ガッっとカイルに振り返るキョーコ。


(…ですよね〜スミマセン…。だったら、どういうことだ…?)


とカイルは眉をひそめながら未だ光っている魔石を眺める。

すると、手を繋いで斜め後ろにいたリンゼがまた鼻をヒクヒクさせながら彼女の服を引っ張った。


『ケモノ。大きいケモノのニオイがする…。』

「け、獣!?」


またですか!?と動揺するカイルを他所にキョーコは『あっ?』っと言うと前方を見据えてスカートをひるがえした。

それを見たカイルは慌てて彼女を呼び止める。


「え!?き、キョーコ!今度はどうしたんだーー!?」

『ごめん!!この石がなんかまっすぐに光がのびてるのーー!気になるから先にいくねー?』


振り返り様そう言い捨てたキョーコはそのままカイル達を置いて走り出してしまった。


(オイ、待てコラーー!さっき、早く行かなきゃって言ってたでしょーに!!)


とカイルは思ったものの、リンゼの言った「大きいケモノ」も場所もキョーコの走っていった先と同じ方向だったのが気になる。

カイルは一つため息を吐き、「キョーコ追いかけるよ?」とリンゼの顔を覗き込みながら言う。

リンゼもコクリと頷く。

それを確認したカイルは、手を握りなおして結局キョーコの後を足早に追いかけたのだった。




西集落付近…





上空から森の中を馬で走り抜けてゆく集団を見つけたバルタ兄さんは、何とか西集落にたどり着く前の盗賊共を足止めし 現在交戦中だった。



(…というか、この分じゃ南のアノ子達は罠に嵌められたようネ…。)


先程から盗賊達の話を盗み聞いていたバルタ兄さんは、その内容を理解するとホゾを噛む。曰く、


「チっ!思った以上に早く魔石を使う奴が来やがったか!流石に俺たちじゃあ、あの魔法陣は使えねえ!」

「…どうします?頭領に知らせますか?」

「イヤ。アジトから間もなく援軍が来るはずだ。ココはこいつ一人だけのようだしな。人数だけは勝ってるし、俺たちだけでいけるだろ。」

「了解です。」


バルタ兄さんは目を細める。


(…コイツ等は全く見覚えのない奴らネ…。「魔石」のみならず「魔法陣」って言葉も知ってるようだし…。何者なのかしラ…?)


…因みに。

盗賊達はバルタ兄さんを一目見るなり眉はひそめたものの、デカくてゴツイ女装彼女?を一瞥いちべつしただけで華麗にスルーしていた。

ここだけ取ってしても今までのおバカ盗賊団とはナニかが違う!


(や。ただ単に「突っ込んだら、突っ込んだらオワタになる〜〜!!!」と思っただけかもしれないけど。)


とは言え、恐らく先程の会話の前者が10人前後居るこの集団のサブリーダーなのだろう。

自分たちが優勢なのを見て、このまま交戦するようだ。

ところで今まで魔石を所有し、且つ使用していたのはこの国でバルタ兄弟だけのはずだった。


今回西の集落のチルトはもちろんのこと、南の集落のリーダー チバルにも初めてその存在を明かしたのだ。

バルタ兄弟は今まで魔石の力を駆使して集落に襲撃に来る盗賊達を叩いてきた。

魔石と魔法の存在を知らないチルト達は、不思議な力で悪者をやっつけてくれる兄弟の事をいつしか自分達を守護してくれる「お守り様」と名づけ、生き神様の如くうやまってきたのだ。


しかしこの盗賊達は普通に魔石の事を知っていた。

それだけでも十分過ぎるほど怪しいし、また油断のならない連中に間違いはないだろう。

バルタ兄さんは自身の適性がある、風と土の魔法を使いつつ彼らと応戦していたが、やはり今までとは勝手が違った。


「…フーン。あの副頭領、普通に頭がまわるようネ…。他の下っ端も統制が取れているようだし…。」


ボソリと独り言をもらしたバルタ兄さんは、自身の前を取り囲む盗賊団を髪を払いながら一瞥する。

手っ取り早くいつものように風の全体魔法攻撃で敵を一掃いっそうしたかったのだが、奴らが一定以上の間合いまで入って来ないのでジリジリとした膠着こうちゃく状態である。

恐らく知識として魔法攻撃の事を知っているらしい。


厄介なことだ。


「早いとこ倒しとかないと、アッチには援軍が来るから…マズイわネ…。」


時間がかかればかかるほど更にコチラが不利になってしまう。

それにしても…とバルタ兄さんは考える。

魔石の存在を知り、巧妙な策をろうする人物を一人だけ知っている。

まさかとは思うが…


「…なーんか、アイツを彷彿ほうふつとさせるんですけド!!!」


言いながら、膠着状態を破るように先制攻撃を仕掛けてきた盗賊2人を、自身の巨体を利用した体術で吹っ飛ばすバルタ兄さん。

「ぐはっっ!!」とか「ぐほっっ!!」とうめき声を上げる盗賊共…。

痛そ…。


「…にしても、おちびさん達とアノ子達が来るまで持つかしらネ〜?」


フウッとため息を吐きながら口にしたものの、バルタ兄さんは今の攻撃で自身の洋服が汚れたのを知る。


「キャーーーー!!!!この服お気になのに、何汚してくれちゃってんノーーーー!!??」


と叫びながらそのまま敵陣に突っ込み、その場の盗賊達に「ドカッ!」「バキッ」と殴打をかますバルタ兄さん。

どうやら一番の逆鱗げきりんに触れたらしい…。


(…あの…あなた一人で十分無双だとオモイマス…)


と、そこにいた盗賊達が遠い目をしながら皆思ったとか思わなかったとか。


南〜「迷わせの森」付近…


何とか火事騒ぎを抑え、その場にいた盗賊の残党を南のチバル達と共に捕らえたあと、フレデリクとバルタは村から一番早い馬を借りて一路西集落へと急いでいた。



先ほどは風の魔石の飛行能力を使用してだったので、バルタ兄弟の山から南の集落まで20分ほどだった。

それを考えると5倍弱の時間がかかってしまう計算だ。

まぁ距離と直通、迂回の違いはある訳だが…。


返す返すも魔石の魔力を奪われた事が悔やまれる。

そして気づいたようにハッとした顔になるフレデリク。


「もしかして、前回(過去の時空)もこのやり方でバルタ達は足止めさせられたのか…?」


先程の残党たちとの戦闘を思い出す。

彼らを掃討そうとうする際のバルタ弟の働きは、見た目に反して(とても失礼)迅速且つ的確で見事だった。

恐らく兄(姉?)のバルタ兄の実力も同等かそれ以上と見て良いだろう。


それが2人揃っても太刀打ち出来ず、尚且つ西集落の襲撃に間に合わなかった、となると物理的に時間の問題だったように思えたのだ。


「うわ!!マジか!雨が降り出しやがったぜ!」

「……。」


天を見上げながら、バルタが悪態を吐く。

暗雲立ち込めていた雲はついにポツポツと雨を降らし、すぐに勢いよくザーザーと降り出した。

フレディは雨粒を散らすように首を左右に振った。


今回は自分たちがイレギュラーにこの時空にいるし、頭が回るバルタ兄ならばこの状況をすでに察しているだろう。

前回と同じにはならない。いや、なってはいけない!!

フレデリクはギュッと手綱を握り込むと、まだいっこうに見えてこない西集落の方向を見据えたのだった。




西集落「迷わせの森」…




カイル達はキョーコの石の光が示す方向に歩を進めていた。

辺りはすっかりもやも晴れて、雑木林ぞうきばやしからは日の光がチラホラ漏れている。

太陽の位置から察するに、バルタ兄さんと別れてから1刻(1時間)は経っているだろうか。


恐らく一人で残党を引き受けているバルタ兄さんの安否も気になる。

カイルは焦る気持ちを隠しながら足早にリンゼの手を引っ張っていると、突然前方から獣のような唸り声が上がった。


「ウガァァーーーヴ!!グルルルルゥーー!!」

「!!」


先にカイル達の前を走っていたキョーコも、立ち止まって木の陰からその様子を伺っていた。

リンゼを連れていたため、やっと追いついたカイルはキョーコに尋ねた。


「なんだ、アレは?」

『わかんない。でもこの石の光はあのけものをさしてるの…。』

「そうなのか!?」


カイルはキョーコの胸に下げている石を見てみた。

なるほど魔石の光は未だ放ち、獣の方まで伸びている。

現在獣は背後からしか見えないが、全身を光りで覆われ、全長は4,5mほどか。


白銀のたてがみを持つ馬のように見えた。

リンゼがカイルの服をつつく。


『ケモノってどんなの?』

「えっ?えっとー」


リンゼに問われ、良く目をらして獣を見てみるカイル。

獣は興奮しているのか、頭部を低くして前足をガッガッと蹴っている。

その時に背中の皮膚が光に反して煌めいた。


どうやらうろこのような皮膚を持つようだ。

馬だか鹿だかのような身体に鱗の皮膚。

頭部には角の様なものも見えている。これらを総合すると…。


「うーん、うーん…麒…キリンっぽいか…?」

『!!(コクコク)』

『……?』


首を傾げながら答えるカイル。

キョーコは納得するように頷いている。

キリンとは中国神話に現れる伝説上の霊獣である。


当然地球上のモノであるのでキョーコは知っているようだが、リンゼは解るはずもなく。

『きりん…?キリ…ン?』と首を捻っている。

その時、キリン(仮)のいる方向から声がした。


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