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転生王子の受難譚  作者: 帝都ラン
6/9

ダルスク~バルタザール編

あの話の後のフレデリクの行動は早かった。

とりあえず場所を移動し、カイル達は林の中まで戻ると今後の事を話し合う。

今回の最終目的は村の人たちには襲撃の事を伏せ、事前に夜盗を捕まえることだ。


キョーコの話によると、祭りが始まる前 あの村では見かけない目付きの鋭い感じの人達が数名いたそうだ。

その時は他の集落から来た祭りの参加者と思い気にも留めなかったらしい。そして、昼前後に事が起きた。



「怪しいな…。」

「怪しいですね…。」



カイル達は林の中の少し開けた、切り株のある場所に腰を落ち着けている。

切り株は3つしかなく、1人あぶれる計算だがリンゼは目が見えないにも関わらず、手探りでカイルを探すとすかさず彼女の膝の上をぶんどる。

一瞬顔をむくれさせたキョーコはでもアンジェの言いつけを守ったのか、手は出さなかった。


しかし、カイルの背後に周ると こなきじじいの如く覆いかぶさっていた。

カイルよりは遥かに軽いであろうキョーコも、全体重をかけられると重い…。

相変わらずカイルにベッタリな2人だった。

フレディはその光景を生温かく見つつも、考えを述べる。



「…恐らく、内部の人間が夜盗の仲間を引き入れたのでしょう。脅された村人がいたのか、取引をしたか…。」

「…という事は突発的ではないな。」

「はい。事前に仲間を村に入れて、内部からも襲撃する。立派な計画的犯行ですよ。多分頭の切れる人物が夜盗の中にいますね。」



なるほど…と、カイルは思案しつつ当時の状況を知る背後のキョーコに、もう少し聞いてみる事にした。



『キョーコ。他に思い出す事はないか?小さな事でもいい。おかしいな、と思った事はないか?』

『え?…う〜ん、う〜ん…』



突如問われたキョーコは、目を瞬く。

そして流石にちょっと1人で考え事をしたいのか、カイルからベリッと離れた彼女。

近くの切り株へ移動しながら必死に思い出してくれているようだが、思い当たることはないようだ。


カイルは首をコキコキさせながらフレディに向かって「ダメだ。」と首を横に振る。

フレデリクは目でカイルに合図して戦略を練ることにした。



「…多分、今こうしている間にも敵は襲撃の為に動いているはずです。時間制限は祭りが始まった前後か最中か…。キョーコ、祭りの間に何か大きな音とか合図になるような事はなかったか?」



カイルが斜め前に座ったキョーコに今言った事を訳すと、



『…んー?あ!!あれは、まつりをはじめる合図だったのかな…?日が高くなってから木をいーっぱいあつめて村のまん中でもやしてた!そのあと村のおじさんがタイコみたいなのドンドンたたいたの!』

「…ふむ…。それが恐らく襲撃の合図になったか…。という事は最悪、明日の昼前までには事を終わらせないといけません…。」



カイルからキョーコの話を聞いたフレディは、遠くを見ながら思案中なのかそれっきり黙ってしまう。

すると、何かを思い出したのかキョーコが声をあげた。フレディはキョーコに視線を戻す。



『あ!!』

『どした?』

『おかしなこと…一つおもいだした!!』



カイルはフレデリクと目を合わせる。そして、キョーコに続きを促した。



『さっきのあの子が言ってた、[お守り様]が村にこなかったの!』



キョーコ曰く、「お守り様」とはここより東北東の山に住む「生き神様」だった。

今までも何かとここの集落が夜盗に襲撃されたりすると、山から降りてきて守っていたそうだ。

要は専属の用心棒といったところか。

祭りの日も日頃の感謝を込めて〔お守り様〕を誘い、彼らが山から降りて来る予定だったのだが、時間になっても結局来なかったらしい。


「気になるな…。」

「気になりますね…。」


カイルとフレデリクは同時に似たような感想を述べる。

カイルはちらりとフレディを見るとそのまま自身の考えを言う。


「…村を守ってた〔お守り様〕が来なくて襲撃が起きた…若しくは来れない事情があった…。明らかに意図的な感じがする。」

「はい。もしかして、そこら辺に糸口があるかも知れません。」


カイルは頷くと、キョーコに向き直りもう一度問うた。



『キョーコ。その[お守り様]の居場所はわかるか?』

『え…う…ごめんなさい…。バショまではわかんない…。あ!でもさっきのあの子なら何かシってるかも!』



キョーコは眉をハの字にしてショボンとなる。

しかし先ほどの少年の事を思い出すと、バッと立ち上がった。

という訳で、フレデリクがキョーコを伴ってもう一度村まで行き あの少年テルトというらしいを探し[お守り様]に会ってみたいと説明しに行くことにした。


キョーコが村に行くと少年は忙しそうに立ち働いていたが、彼女を見つけるとニコニコしながら近づいてきた。

フレデリクに訳してもらいながら〔お守り様〕の居場所を聞くキョーコ。

テルトは始め目を瞬いていたが、ニヤリと笑うと「やっぱ、オメエ達も〔お守り様〕に会ってみたくなったかぁ?」と勘違いしていた。


そして、どうやら定期的に食料などをその〔お守り様〕の住む東北東の山まで村人達が届けているようで、テルトが「良かったら一緒に来るかぁ?」と誘ってくれた。

彼がいつも届けに行っているらしい。

渡りに船だと思いキョーコは了承すると、すぐさまそれを伝えにカイルの元へ戻る。


「え?東の山?」

「…はい。」

『……。』


キョーコとフレディが戻って来るまで暇を持て余していたカイルは、切り株のある場所でリンゼの長い髪を三つ編みにして遊んでいた。

リンゼは余り自分の髪をそのようにはして欲しく無さそうだったが、若干眉間に皺を寄せつつ座ったままジッと我慢の子である。

まるで大型犬が自分のご主人様の赤ちゃんがベタベタ触るのをグッと我慢しているのに似ていた。


…どっちが年上なんだか…。

フレデリクは「またやってる…」と苦笑し、キョーコは明らかにちょっと引いていた。

(キョーコはカイルを女だとまだ知らない)

カイルはヨイショっと立ち上がって、服に付いた草をパンパン払いながら言った。


「そっか、解った。じゃあ、行こう!」



早速テルトの所へ合流すると、彼の案内の元 東北東の山に登ることになったカイル達。

テルトは大したことのない山だ、と言っていたが一般にとってはかなり険しい山道だった。

標高は1200メートルくらいか。


しかし彼は慣れたもので、道なき道を食料を入れた籠をしょってヒョイヒョイ登っている。

がフレデリクはもちろんのこと、彼に背負われているリンゼは別としてカイルとキョーコには厳しい道のりだった。

約2刻(2時間)ほどで山頂付近にたどり着いたものの、2人はかなり息も上がっていて汗もビッショリであった。


登り始めて1刻過ぎ(1時間)ほど経った頃か。

先頭にテルト少年。

2番目にリンゼを背負ったフレデリク。


その後にカイル、キョーコと続いている。

最初はハイキング気分だったカイルも段々傾斜がきつくなり始めると、フウフウ言いながら無言で歩いていた。

そしていつの間にか先頭集団からかなり離されている。

彼女の後ろで同じく息を上がらせていたキョーコがカイルの背中を見ながら、今までずーっと疑問に思っていたことを問いかけた。


『カイル?ちょっといい?』

『ん?どした?』


カイルは振り返りながら立ち止まると、ちょっと休憩とばかりにフレディから手渡されていた水筒を取り出す。

背後を見渡すと眼下には西の集落と、作戦会議をした林が見えた。

後は草原が広がっている。

この山もゴツゴツとした岩山ではあるが、ちらほら野草が群生していた。汗ばんだ肌にひんやりとした風が心地良い。


『……。』

『…?』


少し景色を堪能たんのうしていたカイルだったが、肝心のキョーコが中々続きを言わない。

カイルは首を傾げながら持っていた水筒を開け、中の水をゴクリと流し込む。

すると意を決したようにキョーコが顔を上げて言った。


『ねぇ…カイルってジツはおんな?』

「ブフォーーーーーーっっ!!!!」


(何ですとーーーー!!??)


あらら…。王子の品位台無し…。

口に含んでいた水が無残にも辺りに飛び散っていた。

流石に不意打ちの質問だっただけに、醜態しゅうたいを止められなかったカイル。

ゲホゲホ言って涙目になりながらキョーコを見る。


『なっ!何で!?』

『ん〜?カン?』

『…左様ですか…。』


フレディも言っていたが、元々外面そとづらは良いカイル。

しかし身内だと思った者にはかなり抜けてしまう性格なのだ。

それはキョーコに対しても例外ではなかったらしい。


現在王宮の中でカイルの本当の性別を知るのは実父であるジークフリート、アンジェ、フレディの3人。

それ以外の人々には完璧に隠しおおせているはずだ。多分…?

だが事情を知るアンジェやフレディと接するカイルの会話や、態度の端々で何となくキョーコは違和感を感じていたのだ。


幼くても女の感はスゴイと言うことらしい。

早々に弁明を諦めたカイルははぁ〜とため息を吐くと横目で見ながらぼそぼそキョーコに答えた。


『…リンゼにはまだ言わないでね…?』

『!?うん!!』


『じゃあ、2人のひみつね〜!』と言ってキョーコは目をキラキラ輝かせると、スキップしそうな足取りで先へ歩いて行った。

自分の推測が当たったのと、カイルの秘密を共有出来たのが嬉しかったようだ。

一方カイルは先ほど噴き出した時に水筒の水が空になったのを惜しみつつ、


「まぁ、いずれはバレるか…。結果往来としておこう…うん」


とぼやきながら、キョーコの後を追った。

その後、なんとか山頂付近の最後の坂道を登り切ったカイルとキョーコは、流石に足もガクガクでその場にしゃがみ込んでしまう。

先に着いて水分を補給していたフレデリクは、2人に自分の水筒を差し出しながら話しかける。

リンゼは少し離れた所に座らせていた。


「…どうぞ。…大丈夫ですか?カイル様。これからが正念場ですよ?」



リンゼという負荷がありながらも、山を登る前と全く変わらないフレデリクに殺意を覚えるカイル。

ギッと彼を睨みつけると、サッと水筒を奪った。



「解ってる……ぷはぁ。少し…ハァ…や、休んだら…ハァ…すぐ…行く…」


膝に手をついて水をゴクゴク飲み、口元をぬぐいながら荒く息を吐くカイル。

…全く大丈夫そうじゃねえんですが…。

そして、つい先ほどまでカイルと一緒に荒い息を吐いていたキョーコだったが、水を少し飲んで一息着くとすぐに復活して先に行っているテルトの後を追っていた。

マジか!!


「な、何!?…こ、これが…若さの差…?」

「いやいやいや!貴女、まだ9歳でしょ!!」


カイルはガーンと立ち尽くしてキョーコの後ろ姿を見ながら、思わず言葉を漏らす。

そしてすかさず突っ込みを入れるフレディ。

相変わらずのボケ突っ込みをかましていた2人だった。


そこへ先に目的地に着いていたテルトが「おーーーい!!早く来いよーー!!」と声をかける。

仕方なく「はぁ…」とため息を吐くと、渋々重い腰を上げるカイルであった。



〔お守り様〕の庵……



山の山頂には丸太で出来た、前世でいうログハウスのようなものが建っていた。

ウッドデッキも付いていて、なかなか現代風な佇まいだ。

しかも所々随分とメルヘンチックな装飾が所々施されているが…?

テルトはカイル達が来たのを確認すると、家の扉をドンドンと叩く。


「×××ーーー!×××ー!」


こんちわーー!三河屋でーす!(←違う)とまぁ、こんな感じの事を言ってるんだろーなーと思い、一歩離れた所で見ていたカイル達は、ガチャっと扉を開けて中から出てきた人物にパッカーンとアゴが外れるくらいに驚いた。

キョーコもだが、フレディも驚愕の表情を浮かべている。


リンゼはフレディにおぶわれたまま、周りの異様な空気に眉を寄せた。

生き神様というからには、なんかこう神がかった感じの人かと思いきや…。


「あらー?今日は早かったのネー?」(フレデリク訳)


扉から現れた人物は…しゃべり方は女性だ…間違いなく。

しかし…明らかに声が低い!しかも!!ラインハルトと対を張るくらいの巨体の持ち主で筋肉ムチムチ。

顔も強面、アンド隻眼で眼帯を付けている。


だが!!髪は金髪縦まきロングでポニーテール、服は体に張り付くくらいのピチピチ。

そして!!下が…み、ミニスカーー!?…どー見てもオトコ、何処から見てもオトコ…。後、髭濃いし…。

だが、テルトは臆することなく彼(彼女?)に話しかけている。


「はい。今日はお客様を連れて来ました。」

「お客?」


お守り様(仮)はテルトの背後をジロリと見た。

そして、フレデリク(?)をロックオンすると突然奇声を発した。


「キャー!!イヤー!!カワイイー!!!!」


顔がビシッと硬直するフレディ。

脂汗も垂れている。

お守り様(仮)はテルトを押しのけてのっしのっしとフレディの前まで来る。

デカっ!!フレディの身長も普通に高いが、その頭一つ分はデカい。


彼女?は少しかがみながら負ぶわれたままのリンゼを覗き込む。

何となく不穏な空気を感じて青ざめるリンゼ。

お守り様(仮)は体をグネグネさせながら身もだえる。


「超ーーカワイイーー!!お人形さんみたいーー!!ワタシこういうの欲しかったノーー!!」

「……っ!!」


そっちかーー!!

あからさまに安堵するフレデリク。

リンゼは更に青ざめ、恐ろしすぎて声も出ないようだ。(元々出ないが)

カイルは付いて行けずポカーンとその光景を見ていたが、隣にいたキョーコはリンゼを憐れと思ったらしくカイルの服をツンツンする。


『カイル?話がすすまないよ?』


ハッと我に返るカイル。

だがしかし、現状を打破する術も思いつかない…。


(ごめんよ…!ゴメンよリンゼ…私では、私では!!その大きな彼女(?)を止める術が解らないんだーー!!)


オーバーリアクションでくぅーっと涙を飲んでいたカイルだったが、(キョーコはうそーんと白い目で見上げている)

意外なところから破られた。


「アニキーー!!ヤベェーぞー!!!」


カイル達の背後から突然(?)現われたその男はお守り様(仮)をアニキと呼びながらカイル達の所までドカドカと歩いてくる。

しかもなんと!!お守り様(仮)と瓜二つだった。


「まっ!!お姉さまと呼びなさいといつも言ってるでショー!!」


お守り様(仮)はカイル達の後ろから足早に歩いて来ていた弟?の所までザカザカ向かうと、有無を言わさずバコッとその頭を叩く。

その音を聞いたリンゼはビクッとなり、更に顔が白くなった…。

間違えようもなく、二人は明らかに一卵性の双生児。


しかし弟(?)の方は顔はそっくりでも髪は角刈り、浅黒い肌をした男らしい風貌だ。

しかし筋肉ムチムチの所とピチピチな服は全くもって一緒であった。

兄(姉?)に思いっきりどつかれた弟は「んだよ、ンな事言ってる場合じゃあ…」と言いかけ、カイル達を見て何だ?という顔をする。

だが、優先事項を兄(姉?)に話すべく向き直る。


「じゃなくて!南の集落のチバルんとこの積み荷がまたアノ盗賊ヤロー達に狙われた!何とか退けたがまた来るかもしんねえ!アニキも手伝ってくれ!!」(フレデリク訳)


それを聞いたカイルはフレディと目を合わせる。

コレはもしかして、もしかする…?カイルはフレデリクに通訳をお願いすると、


「…取り込み中、申し訳ございません。少しよろしいでしょうか?」


と、フレディ(訳)にて2人に問いかけた。

兄弟は突然の闖入者ちんにゅうしゃにお互いの顔を見合わせる。


「何だ?こいつら。」

「さあ?お客ってこの子が言ってたケド。」

「……。」


兄(姉?)は知り合いの集落の積み荷が狙われたと聞きつけて、側に来ていた不安げなテルトの頭を撫でながら、さも今カイルを初めて見ましたと言わんばかりに不審げに見る。

(ええ!そうでしょーとも!貴方、リンゼしか見えてませんでしたもんねー!?)


…唇噛みしめながら、ちょっと部屋の隅でイジケたくなったカイルだったが、そうも言ってられないので話を進める。


「…我々もその盗賊について伺いたく、こちらに来たのです。」


カイルは自分達がココより先の未来から来た部分は伏せ、テルト達の住む集落が明日の祭りの時に盗賊に襲撃される可能性がある事を話した。

テルトには聞かせられない話だったのでキョーコとリンゼと共に席を外してもらっている。

お守り様兄は考える時の癖なのか、自分の髪をいじりながら答えた。


「…確かにその可能性は高いわネ…。祭りともなれば色々な物資も揃うし、西の集落(テルトの村の事)はココらでは一番潤ってるものネ…。しかも今までも何回か襲撃に来たことあるし、あいつラ…。」



まぁワタシ達が撃退してるケドー、と不適に笑いつつバキボキ拳を鳴らしている。

お守り様弟は、だよなー?と言いながら相槌をうっている。

マジですか…。兄弟は既に何度も彼らと接触はあったようだ。

とすれば、今回の襲撃は積もり積もった怨恨も考えられるな…とカイルは思った。


「…でもよー?さっきのチバルの積荷が狙われたのは、その何だ?明日の祭りの襲撃と関係あんのかー?」

「はい。恐らく、陽動作戦ではないでしょうか。」

「ようどうさくせん?」

「…要するに、積荷の襲撃にあなた方をおびき寄せておいて 本陣…その西の集落が本命だと思われます。」



起こった最悪の結果を鑑みて、自分なりの考えを言ってみたカイル。

しかし、おおむね間違ってはいない判断だと思った。

フレディも彼らに訳してくれながら、同じ意見だったようで目で頷いている。


それを聞いて、マジかー!どうすりゃいい?と喚くお守り様弟。

それとは逆に冷静にこちらをジーっと見る彼女?。


「ところで。ねぇ…あんたたち。この国のモノじゃないようだけど、その盗賊達とどういう関係なワケ?」


まぁ、一人はここの言葉話せるみたいだケド…?と、チラリとカイルの隣の彼を見る。

ビクーッとなる、フレディ。

流石にいつも女性にスマートな対応をする彼も、この自分よりも大きな彼女?の対応は図りかねているらしい…。


フレディも長身の部類にはいるのだが、彼らは190cmを軽く超えている。

だが彼女(?)の言う通り、違う国の人間がこの国の事情を知るのは何かしら意図があるからだ。

どうやら兄の方は頭の回る人物のようだった。


…ゴツイ女装の見た目…ゲフンゲフン!とは裏切って!

だが、すべてを話しても良いものか…。

時空を超えてココへ来たなんて本来、突拍子も無い話であるし。


(また嘘に少しの真実を混ぜるか…?)


とカイルが考えていると、キョーコと共に手を引かれたリンゼが側に戻ってきていた。

テルトはまだ仕事があるから、とすぐに集落へ帰ったらしい。

リンゼは早々に大きな彼女?から身を隠すようにカイルの後ろへと隠れる。


しかし、予想に反して何故か今度はキョーコをジーーっと凝視する彼女?。

というかキョーコの首元の石…?キョーコも何となくおっかなびっくり彼女?の視線を避け、カイルの影に隠れる。


「ねぇ。この子の石、魔石じゃないの?」

「え!?」

「…!!」


彼女?がキョーコの石を指差しながら言った。

驚くカイルとフレデリク。

うそ!魔石の事を知ってる?カイルは恐る恐る尋ねる。


「…知ってるんですか…?」

「知ってるも何も、ココにもあるし。」


さも当然とばかりに胸を張って答える彼女?

いやいや、普通は無いから!!じゃなく!


『魔石を知ってるって事は…?』

『しかもココにもあるんですよね…。』

『もしかしなくても、賢者関係者か…?』

『…ですね…。』


バルタザール、メルキオール、そして…。

魔石を知っていて、且つ所持しているという事は3人目の賢者なのか。

こそこそと顔を突き合わせて会話をする、カイルとフレディ。

カイルはある確信を持って彼女?に尋ねた。


「…今更なんですが、貴女のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「アラ。言ってなかったっけ…?」


と、彼女?はテヘペロっとやるが、か、カワイクナイ…。


「アタシは〔バルタザール〕よ。二つ名だけドー。」

「!!」

「!?」


やっぱりか!!カイルとフレデリクは同時に顔を見合わせた。

3人目の賢者、バルタザール。

なるほど、普通に魔石を知っていてもおかしくはないはずだ。


ならば、真実を話しても信じて貰えるかも知れない…。

カイルとフレディは頷き合うと、カイルはこれまでの経緯を彼らに話すことにしたのだった。



時空を飛び越えて来たこと、キョーコの知る最悪の未来の事を話したことで、少しは警戒心を解いてくれたバルタ兄弟。


「全てを信じるわけじゃあないけド、ヤツラを捕まえる協力をしてくれるのなら助力は惜しまないワ。」

「ホンっトあいつ等、最近調子に乗ってっからな〜?」


と、同意してくれた。

こちらも強力な助っ人ができて嬉しいかぎりだ。

と言う訳で、時間も限られているし今度こそ本格的な作戦を練ることにしたカイル達。


兄弟は自分達の家にカイル一行を招き入れると、ダイニングのような所の椅子を勧められた…が。


『うわー。すごーい。(棒読み)』

「うふふふー。さすが女の子ねー。いいデショー!!」


思わず部屋の入り口に立ち尽くすカイル達。

キョーコの日本語は解らずとも彼女?は自慢の内装を褒められたかと思いご満悦だ。

…バルタ兄の恰好を見ても解るように彼女?は超―っカワイイもの好き…。


家の中に入った途端、空間すべてがピンク!ピンク!ピンク!&精緻なレースをふんだんに使ったなんとも居たたまれないほどのメルヘンな装飾、置物と家具ばかり…。

バルタ弟曰く、家の外観だけは!外観だけは!普通にしてくれー!!!っと再三拝み倒して内装は兄の思うがままになったらしい…。

(すでに外観の一部手遅れですが…)


さて時間がないので皆が椅子に座ったのを確認すると、バルタ兄はテーブルにここら辺の地図を簡単に大きな板(黒板のようなもの)に書く。

そして、西の集落(テルトの村) 南の集落(チバルの村)東の山(バルタ兄弟の住処)と目印になるものを置いた。


「…取りあえず、二手に別れる必要があるわネ…」

「…確かに。囮とはいえ、まだ南の集落も動きがありそうですからね…。」


と、フレデリク。

彼の言う通りだ。運よく西の集落を救えても、今度は南の集落が襲撃されては意味が無い。

そう思ったカイルはハッと気づく。


「…両方本命なのもあり得るかも…?」


バッと一斉に皆がカイルを見た。

隣のキョーコは『どういうこと?』とカイルの服をひっぱる。

リンゼは一人離れたリビングのソファーにて、可愛らしいクッションとヌイグルミに囲まれ居心地悪そうにしている。


しかしカイル達の話をじっと聞き耳を立てていた。

バルタ兄は「この子何て言ったノ…?」とカイルを指差しながらフレディに通訳を求めた。

カイルはちょっと視線をウロウロさせながら、今思った事を言ってみる。


「えっと…、前回(過去)バルタ兄弟さんは恐らく 南の襲撃に備えてそちらに行ったんだと思います。けれど、思った以上に手間取ってしまった。だから、西の祭りには行けず西の襲撃には間に合わなかった。けれども盗賊達は予めどちらも襲撃可能なように準備していたのではないか、と思ったのですが…。」


なんとなく思いつきだったが、そうしてみると西の集落の内部スパイといい用意周到なのも頷ける気がした。

要はどちらも襲う準備をしておく。

そしてどちらかの村にバルタ兄弟が防衛に入るのを見越して、防衛に入らなかった集落の襲撃成功率を上げたのではないだろうか?

フレデリクから訳を聞いたバルタ弟がボソリと言う。


「マジかよ…コエーな…。」

「…はい。怖いくらいに頭の切れる人物がその集団にいるはずです。」

「ふう〜ん?いつものおバカなあいつ等とは明らかに何か違うわネ…。こちらも迂闊うかつに戦力を偏らせるワケにはいかなくなったワ…。」


とはいえ、こちらの戦力になりそうなのはバルタ兄弟とフレデリクの3人。

カイルは護身術程度は使えるが、残るお子様2人は確実に非戦闘員だ。

バルタ兄はやはり髪の毛を弄りつつ皆をジーっと見廻し、「うーん、そうネー…。」と眉間に皺を寄せつつ逡巡する。


カイル達はゴクリと、固唾を飲んで彼女?を見守る。

そして、カッと目を見開いたバルタ兄は「よし!決めたワ!!」と言うと有無を言わさずメンバーを割り振った。

その結果、南にフレディとバルタ弟。

西にバルタ兄とカイル含むお子様チーム。なぬっ?!


『めっちゃ、偏ってるやーーーんっ!!』


と皆が心の中で突っ込む。

しかしバルタ兄は勝ち誇った顔で、曰く 「いいのよ!!ワタシ達はカワイイモノで!!」と言ってバチンっ!と音がするくらいにウインクをした。

(主にリンゼに向けて)

一方リビングソファーに座るリンゼは見えなくとも不穏な気配は感じたのか、ふいっと顔を背ける。


「アらん。連れない子猫ちゃん!」

「「「「……。」」」」


グネグネと悶えるバルタ兄。

他の皆はただ無言を貫き、そしてまた心の中で突っ込む。


『考えるまでも無く、アンタの趣味が反映されただけやーーー!!。』


声なき声はメルヘン装飾過多な空間に空しく消えたのだった…。


戦闘メンバーを割り振ったところで、(独断と偏見ありまくり)次はより詳しい作戦に入ろうとしたがバルタ兄から待ったを言われた。


「ちょーっと、待って貰えるかしラ…?」

「…どうかしましたか?」

「うーん。通訳もいいんだけど、出来るなら直接の言葉で話し合わない?」

 

出鼻を挫かれたが、一応聞いてみるフレディ。

どういうことだ?とカイル達はハテナになる。

するとバルタ弟が ポチっと手を叩きながら、ああ!!と言う声を上げた。


「魔石か!?」

「ソウソウ。」


頷きあうバルタ兄弟。

…なんだか2人は双子だけにツーカーだ。

カイルの「早く意味を聞け!」と言う視線にフレデリクがバルタ兄に聞いてみた所、なんと!既存の魔石を各自持つだけで言葉が自動的に翻訳されるのだそうだ。


ほんやくコンニャクか!!っと突っ込めたのはカイルだけでした…。

※ちなみに(翻訳コンニャク)は食べて使います…。


皆が魔石を持ったところで改めて作戦会議を再開した。

カイルは手に収まる赤い魔石を弄びながらポツリとつぶやく。


「敵の情報が欲しいな…」

「…ですね。」


敵の情報を知らない事には、成功するものも出来ない。

取り敢えずは、そう。

敵の数だ。


「あら。ならコイツに任せちゃって?」


それを聞いたバルタ兄は弟を指差した。弟は、コイツ言うな!とムスッとしている。

カイルはチロリと彼を流し見た。


「…と、言うと?」

「コッチには魔石という秘密兵器があるのをお忘れ?風の魔石なら持つだけで自由に空を飛ぶことが可能ヨ。後は穏形おんぎょうもお手の物だワ。」


隠形おんぎょうとは主に自分以外に向けて、気配、姿形を消させる術。

と、得意げに語るバルタ兄。

「ちっ!また俺か!」と舌打ちをしているバルタ弟。

カイルは驚きに目を見開きながら思う。


(マジかっ!!風の魔石、優秀過ぎ!!…てゆーかよくよく考えたら、以前カスパール様が「魔石は世界に関わる事に使用中」とかなんとか言ってなかったっけ?いいのか?人命救助とでは言え、個人で使用して…。はッ!?しょ、職権乱用ですか!?)


と思わず椅子から立ち上がりかけたカイルを、両サイドにそれぞれ座っていた2人の腕が引き止める。


「おお?」

『…カイルぅ』

「……。」


キョーコはウルウルとした目をカイルに向け、フレディは首を横に振っている。

どうやらいつもの様に気持ちが表情に出ていたらしい。

その様子を見ていたバルタ兄はカイル達を見ながらうふふ〜と笑う。


「あら。人命救助は何事も最優先事項なのヨー?」

「……。」


バルタ兄さんも口は笑っていたが、目は笑っていなかった。

思わず「は、はい…」と頷いたカイルなのでした。


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