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転生王子の受難譚  作者: 帝都ラン
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セイラ~メルキオール編

アジトというからには、薄暗い地下室の様なところで人が密集しているようなイメージだったのだが普通に一軒家だった。そこに行くまでにカイル達は路面電車を利用。市内にレールが引かれて通っているアレだ。使い方は前世の都市交通機関と同じで、金額は同市内であれば一律同じ。乗ってすぐに初乗り運賃を払う。そして自分の降りたい場所の最寄り駅でそのまま降りる。ここに来るまで、フレデリクがやいやい言ってましたがサクッと無視したカイル。代わりと言ってはなんだが、セイラが生真面目にフレディの質問を一々答えていた。イイ人や…。


さて、そして着いたアジトは首都ザッハから少し離れた閑静な住宅街の中。地上2階、地下1階の建物でBF1、1Fがアジト兼事務所。2Fが住居スペースで、住み込みで働いているメンバーが6名ほどいた。仲間は全部で20名だそうだ。ところで、セイラが所属しているのは『魔獣保護対策部隊』というものらしい。


「魔獣保護対策部隊?」


カイルが質問した事に対して、コクリと頷いたセイラは1Fは10畳くらいの広さがある事務所のソファーセットに、カイルとフレディを案内した。白い壁紙に布張りのソファー。その他に3つほど机がありその上には、大きな鉄の塊のようなモノが鎮座していてその背面にはコードが何本も差し込まれている。正面にはキーボードらしきものも置いてある。

(もしかしなくても、アレってパソコン…!?)

と驚愕しながら部屋を見まわしていたカイル。するとカイルの正面のソファーに座ったセイラが、自分の所属する本部について語り出した。


「魔獣が保護生物だということは知っているか?」

「…はい。」

「だが、保護しているにも関わらず数が激減している。なぜだかわかるか?」


カイルは少し悩む。一方、隣に座ったフレディは物珍しそうに(多分)パソコン?を見ている。ここでも質問をしたそうな顔をしてはいたが、二人の話に水を指さないよう空気を読んでいる。だが一応はカイル達の話に耳を傾けていた。



「…先程あなたが捕獲した狂った魔獣が増えて、やむなく殺処分しているから?」


セイラは苦笑しつつ「殺処分はしてないよ?」と言って続きを答える。


「んー、半分正解かな?」

「というと?」

「あの状態なのは結果だ。先に原因がある。」

「原因ですか…。」

「普通の魔獣より、更に知能の高い魔獣が魔法を使えるのは知っているだろう?」


そうなのだ。1000年前に魔法は消失したが、消失以後でも高知能の魔獣は通常通り魔法が使えた。しかしこれは実際に見た訳ではなく、この世界の歴史の本を紐解けばだれでも知っていることだ。まぁカイルは前世のゲーム知識でも知っていた訳だが。


「この国はかつて魔法国家といわれていたくらい魔力に依存した国だった。しかし魔法が突如消失して嘆いた彼らも立ち止まってはいられない。ソレに替わるものを発明して発展し、今のザカルーンはある。」


突如ライフラインの根幹であった魔法を断たれた混乱はいかばかりだっただろう。しかし魔法が無くなったからと言って関係なくこれからも人々は生活し人の営みは続いていくのだ。ゼロからの発明の苦しみは並大抵ではなかったはずだ。


「しかしかつての栄光を忘れられなかった者達がいた。その者が『ザッハ魔獣遺伝子研究所』を作ったのだ。」


魔法研究機関『ザッハ魔獣遺伝子研究所』…

その名の通り魔獣を研究して、魔法を蘇らせる為に発足したとされる組織。発足当初の頃は魔力を持つ高知能の魔獣だけを研究していたが、次第に行為はエスカレート。魔獣の乱獲に始まり、近年は遺伝子改良による狂った魔獣を生み出し、放つ始末。他にも色々と怪しげな実験をしていると噂されていた。


「これが原因…。」

「そうだ。最近特にこの手の事件が多くなっている。そしてその対抗組織として作られたのが、我々『魔獣保護対策部隊』通称MUSAIムサイだ。」

「ムサイ……。」


カイルは顔を顰める。

(まぁ略だから仕方ないけど、なんかこう男臭くてモッサイ感じ…?)


「ちなみに(ザッハ魔獣遺伝子研究所)は略してZACOザコだ。」

「ザコっ!?」


(いやいやいや。なんか闇の組織っぽいのに、略称ザコってどゆこと!?)

と思わず目をむいたカイル。しかし、セイラとフレディはキョトンとしている。


「ん?長いから頭文字を取るとそうなるが?」

「何か、問題でも?」

「…デスヨネ―。」


「いや、いいんだ…」と首を緩く振るカイル。まぁ『雑魚ざこ』って日本語の意味だから、ココでは関係ないか…。とカイルは目を細めながら、聞いていないことにした。話が一通り落ち着いたところで、カイルの隣に座っていたフレディが口をはさむ。


「そういえば、我々の仲間を預かっている…と言ってましたが?」


確かに。本来の第一目的はそれだった。セイラはポンと手を叩き、「ああ!すまない。実は2Fで待ってもらってたんだ」と言うと、席を立って仲間らしき1人に声をかけて呼びに行かせた。数分もしないうちに部屋の外でバタバタと足音がする。そしてすぐに勢いよくバタンっと入り口の扉が開いた。


「カイル!!」

「!!キョーコ!?」


仲間とはキョーコのことだったらしい。彼女はカイルを見て破顔すると胸に飛び込んできた。


『あいたかった!!カイル!!』


キョーコはまだこの世界の言葉を満足にしゃべれないので、カイルには基本日本語を話す。

しかも変装仕様か、瞳はそのままだったが、髪は茶色いウィッグを被っているようだった。

(え?ちょっと待って、キョーコは離宮で留守番してたはず…。)

と目をパチクリしながら彼女を抱きとめていたら、遅れて入って来た人物にまたも驚いた。


「アンジェ!?リンゼも?」


隣でフレディが眉を顰めている。申し訳なさそうに入ってきたのは、アンジェとその手を引かれたリンゼだった。今回もリンゼは女装をしている。


「申し訳ございません、カイル様…。」

「あー、うー!!」(カイル!!)


どうやらアンジェの顔を見る限り、お子様2人に押し切られたか。リンゼはカイルの名を呼び、アンジェの手を放すとカイルの声のする方へ歩いてくる。途中絨毯やテーブルに引っかかったり、当たりそうになり転びかけた。が素早く近づいたフレディが手助けして、なんとかカイルの元までやって来た。


(くーっ!いじらしーなー。やっぱ、うちの子カワイイわーー!!)


と悶えていたカイル。カイルはリンゼが抱きつき易いようにと、しゃがみ込んで彼に向い、両手を広げる。それを敏感に気づいたキョーコが眉間に皺を寄せると、カイルの正面に到達しようとしたリンゼを阻み、彼の顔面を手でベちっ、と叩いた。


「!?」

「あっ!」

「…。」


思いっきり待ち構えていたカイルは硬直する。見守っていたアンジェとフレディも固まってしまった。リンゼは一瞬ボーゼンとしたが、顔を真っ赤にしてプルプル震えると顔面に張り付いたキョーコの手を剥がしガブっと噛みついた!


『イターーーっっ!!』


キョーコはリンゼをギッと睨み、リンゼの髪を引っ張ってお決まりの取っ組み合いが始まった。皆は唖然呆然。しかし、カイルの側にいたアンジェは体をフルフルさせるともう限界!とばかりに一喝した。


「リンゼ様!!キョーコ!!」


アンジェは2人をベリっと引き剥がすと、各々の頬をつねる。


『イ、イヒャイーー!!』

「あうーー!!」


アンジェはまずクルリとリンゼを見る。


「リンゼ様!!人様の家まで来てこのような失態とは何事ですか!!貴方はココに付いて行く条件として、大人しくすると約束しましたでしょう?しかも貴方様は将来、人の上に立つ身。自覚をお持ち下さい!!」


ズーンとリンゼは項垂れる。そして今度は隣のキョーコに向き直るアンジェ。


「同じく、キョーコ!!貴女も条件で静かにすると約束したはずです!それに貴女は淑女ですよ!?どうしてすぐ手が出るのですか!暴力は最低な行為です。それ以外で解決する術を学びなさい!!」


リンゼ、キョーコ共に思うところがあったアンジェリカはそれぞれに雷を落とすと最後はとばかりにカイルを見据える。


「そして、カイル様!」

「は、はいーーっ!!」


ビシッと直立不動になるカイル。


「あなたは2人の教育を任されたのではないのですか?優しさは必要ですが、甘えと全く違います!ダメなものはダメと教えるのが年長者の役割です。そこを肝に銘じて下さい!」

「も、申し訳ございません…。」


ぐうの音もでない正論で反論のしようもなかったカイルは、ただただ小さく縮まる。しかし、やっぱりというかキョーコとリンゼは泣き出してしまった。


『うあぁぁぁぁぁん!!ゴメンナサイィィィ!カイルをおこらないでーーー!!』

「アゥァァァーアーー!!」


2人はカイルにしがみ付きアンジェに許しを乞う。イヤ、私は大丈夫だからね?としゃがんで交互に2人を慰めるカイル。アンジェは大きくため息を吐いた。その様子を傍観していたフレデリクが気まずげに声をかける。


「……取り込み中申し訳ございませんが、そろそろココを移動した方がよろしいのでは?」


確かに夜も更けてきて、このままお邪魔する訳にはいかない。気づいたカイルは立ち上がる。そこでいままでのやり取りを呆然と見ていたセイラがハッと我に返ると、ちょっと待ってくれ!と引き留めた。


「今日はよければここに泊まってくれないか?幸い部屋は余っている。そのためにお礼を込めて君達を連れてきたし、彼女らも引き留めていた。」

「…しかしこれ以上ご迷惑をお掛けするのは……。」



恐縮するアンジェに、いやいやこちらも世話になった礼がしたいので。と押し問答となったが、結局アンジェが押し切られ1晩泊まらせてもらうことになったのだ。しかしカイルはセイラの放った言葉が気になっていた。

(…さっきも言ってたけど、セイラさんが世話になった?誰に?)

と思いながらフレディを見るが彼もわからない、と言った風で首を傾げている。ところで思ったけど、アンジェって実は押しに弱いタイプ?


明けて翌日。リンゼとキョーコの距離がビミョーに気にならないではなかったが、取りあえず昨日の訪問の続きをする為、目的地まで行くことにしたカイル。アンジェとお子様sはアジトで待ってもらうことにした。大丈夫だとは思うが、昨日のような魔獣騒ぎがまた起こるとも限らないので、とはフレディの弁。何だか昨夜からフレデリクがピリピリしているようなしていないような…?なので今日もフレディと共に昨日の場所近くまでセイラの車で送ってもらった。……がしかし。


「…本当にココで合ってますか?」


車を降り、持っていた地図と照らし合わせながらカイルに質問するフレデリク。


「…(マジか…)」


同じく車を降りた後、目的の場所前にて立ち尽くすカイル。目星を付けていた場所はあきらかに空き家だった。昨日たどり着いた時はすでにうす暗かったのと、すぐに魔獣事件に巻き込まれたので良く周りを確認しなかったせいだ。車に残っていたセイラは立ち尽くしている二人を見かねてか、声をかける。


「どうかしたのか?」


ハッと気づいたカイルはセイラに地図を見せて、ダメ元で×印の場所の質問をした。


「ん?ああ、空き家だった…?だったら多分この場所(×印)はココの地下じゃないかな?」

「地下!?」

「!?」


おお!!ラッキー!!カイルとフレディは頷き合う。どうやらセイラはここ等一帯の事を良く知っていたようだ。それにしても、こんな古い地図よく持ってたなー?とセイラはカイル達を見ながら答える。「…あー。」「いや、まぁ…。」と2人は苦笑いだ。カイルはムカつく地図の事は濁し、改めて質問を重ねる。


「地下に建物が?」

「…何でも、1000年前ほど前に造られた地下迷宮があると云われていて、確かその辺りに入口があったような…?」


地図を見て、首を傾げながらセイラが詳しく教えてくれた。1000年前の建造物、恐らくビンゴだ。カイルはキラリと目を光らせた。


「質問ついでにもう一つ。その地下の入口にはどうやって行けば良いのですか?」

「うむ。多分…その入り口は立ち入り禁止にはなっていなかったはずだ。地下に行くにはその道の至る所にある鉄板(マンホール?)を開ければ下水道に続いてるから行けると思うが…ちょっと待て。」


セイラは話を中断し、後部座席をガサゴソし始めた。その間カイルは道端を見ていたが成程、六角の鉄板があちこちにあった。

(コノ世界では丸じゃなくて六角なんだー)

などと思っていたら、セイラが懐中電灯のようなモノとランプを取り出した。


「地下に行くなら光源は必要だろう。一応2つある。コレは最近開発された、携帯型の電灯だ。だが長時間は持たないので、念のためににランプも持って行ったほうがいい。」


(何と!懐中電灯も開発済か!すごいなザカルーン…。思うに、もう魔法いらなくね?)

…そんな事を思いつつ、ありがたく借り受けることにしたカイルはセイラと別れ、早速コレらを持ちフレデリクと共に下水道に降りることにしたのだった。



ザッハ地下水道…

直径7,8mあるトンネルをレンガで舗装された地下水道だ。多少臭いはするが、吐くほどではない。

(なんか今更だけど、ファンタジーとかRPGのダンジョン攻略みたい…)

カイルは前を歩くフレディの後ろに付いて行きながら、時折ピチョンピチョンと水の滴る地下を歩く。頭上を見上げれば、何十本もの下水管が通っている。治水が整備されている証拠だ。

(シュヴァイツェルも見習わないとな…)

と思っていたら、ランプを持ったフレディが後ろを振り返った。


「カイル様。恐らくココが目的の入口かと思いますが…。」


眉をしかめて、何故か言葉をにごす。


「どうした?」


カイルも足早に入口へ近づく。そこには縦3m、横1,5m。大きく掘りぬいた穴に滑らかな石の壁がはめ込まれている。取っ手もなければ押してもビクともしなそうだ。しかも中央に何かの文字が石に刻まれていたが、暗くてよく解らない。なるほど。1000年前の建造物があるはずなのに特に立ち入り禁止区域にしていないのは、誰も通れないこの壁があったからのようだ。カイルは他に手掛かりはないか、もう一度手元の地図を見る。すると、地上の明るい所では見えなかったが、よくよく見ると右下に小さく『灯りを透かして見ろ』と書いてある。何だ?と思い、持っていた懐中電灯をあて地図を裏から透かして見た。すると何やら表面に文字が浮かび上がる。


『…これらの謎を解き穴を埋めよ。その解が扉の鍵となり得る。』


「…なんですか、コレ。」


カイルはこの形を見てピンときた。前世でよく見たモノだ。


「…多分この5つの質問の答えを書くところに正方形でマス目がついてる。更に5か所○(丸)で囲まれたマス目がある。

恐らくココの○で囲んだ言葉を連ねれば謎を解くカギになって、扉が開く仕掛けなんじゃないか?」


彼女は、側に近づいて地図を覗き込んだフレディに説明する。要はクロスワードパズルだった。


(…カスパー様、遊んでませんか?コレ…。)


てゆーか、なんで知ってるんですかね?クロスワード…。

カイルは少し遠い目をする。一方フレディは彼女の顔をジーッと見た。

この王子は時折この世界の範疇に外れる考え方や、物事を知っている事がある。


何故だかは聞いた事はなかったが…。

フレディは自分ではどのみち解らん、と判断したらしく ふぅとため息を吐きながら言った。


「…ならば、サッサとやってしまいましょう。地下のせいか、肌寒く感じますし。」


確かにフレディの言う通りだ。フルリと身を震わせたカイルは、チャッチャッと終わらそうと地図を石の壁に広げ、5つの質問に挑んだのだった。

四半刻(15分)後…無事謎は解け、扉が開き現在迷宮の中を進行中の2人。石の扉が開いた先は先程の人工的な造りの壁ではなく、石の壁をそのまま掘りぬいたような洞窟だった。…だが、カイルの機嫌がすこぶる良くない。彼女はランプを持って先頭に立ち、肩を怒らせながらザカザカ歩く。


(あんのクソエロジジイ!!絶対何か知ってるな!!)


カイルはかつてないほど怒り上げていた。先ほどの地図に載っていたクロスワードパズル。質問はまぁ勉強していれば誰でも解ける問題だったからいいとして、最後の5つのキーワードが良くなかった。

ヒ・ン・ニ・ユ・ウ(貧乳)


「っっって、何だそれはーーーー!!!」


…と思わず声をにして大叫んだカイル。フレディは訳も分からず、ビクッとしてカイルを見、目を見開いたままだった。そして、それがやはり正解のキーワードだったらしく無常(?)にも石の壁はゴゴゴゴゴと横にスライドして開いたのだった。


(絶っっ対狙ってるし!しかも日本語の意味なんて、ココじゃあ私しか解る訳ないじゃないかーーー!!ったく9歳のお子様体型が、ボンキュッボンな訳ないでしょーにっ!!)


というか、何故にカスパールはカイルの前世「日本」の事をよく知っているのか。ますます謎な人物ではある。今度会った時は、そこんとこ含めて問いただしてやる!!とプリプリおこなカイルだったが、随分歩いてハタと気づいた。


「アレ?この方向であってる?」


やっとクルリと振り向いたカイルに、フレディが安堵のため息を吐く。


(アラー。心配かけちゃいました?ゴメンナサイ…)


内心申し訳なく思ったカイルだったが、案の定フレディもやられっぱなしではなく、いつものようにニヤリと笑った。


「はい。大丈夫だと思います。扉からこの1本道ですし。方向音痴なカイル様も間違えようがありません。」

「フーレーデーリークー!!」


(だ・か・ら!お前はいつも一言多いんだよっ!!)

とこめかみをピクピク引きつらせ、カイルがフレディの両ほほを抓り上げる。


「い、いひゃい!いひゃい!はいうはは!ひんい(品位)、ひんい(品位)!」

「知るか!!」


全く…、アンジェがいないと王族貴族の形無しな2人。フレデリクもカイルの庶民派に染まっているようだ、嘆かわしいことに。

だが本人達は気にすることなくこの関係を楽しんでいるようだった。

しかしそんな言い合いをしていると突然、道は行き止まりになった。ハタと立ち止まる、カイルとフレデリク。


「…。」

「…。」


お互いに顔を見合わせた後、その壁を見る2人。壁は明らかに人工的に造られたもので、石の洞窟内に不自然な鉄の扉がはめ込まれていた。扉の上部に窓のようなものと、左側に呼び鈴らしきものが付いていた。のでカイルはフレディに頷くと、人差し指で呼び鈴を押してみる。

(ピンポーーン)

と何ともここら辺にそぐわない電子音が鳴り響く。数秒後に扉に付いた小窓がカシャンと開き、ギョロリと目がこちらを覗き込んだかと思うと籠った声で言った。


「ヤマ。」


はい?目が点になるカイル達。もう一度声の主がイライラしたように言った。


「ヤマ!!」


カイルはちらりとフレディを見たが、彼はわかりません という様に首を横に振る。

(えーっと、何かさっきみたいな暗号って事…?ヤマ…?山といえば…)

カイルは一瞬考えたが、パッと思いつくまま言った。


「えー。カワ?」


ガチャン!ギィィィー。と重々しく扉が開いた。正解らしい…。フレディはまたも理解できぬ事象をいとも簡単にこなすカイルを目を見張って見やる。


(…なんかもう色々と…以下略)


一方そんなフレディの視線に気づかない彼女はガックリ疲れている。

何故に前世の日本語を知っている輩が多いのか…。

まぁ、一番突っ込みたいのはカスパールに間違いはないのだが…。

などとグルグル考えるてしまうカイル。


「…では、私が先に入ります。」


頭を切り替えて、警戒しながら先に入るフレディに彼女は力なく頷くと、トボトボついて入ったのだった。


扉の中で出迎えたのは少し離れた所で腕を組み、仁王立ちのまま立っている少年。

見た感じ6,7歳くらいの年齢なうちのお子様s並みの男の子だった。

金髪の長髪で後ろに一つで括っている。


目はしばみ色の、つりあがった気の強い感じ。でも身長はカイルの頭1,5等分くらい小さい。


(なんか、某錬金術師の兄の方みたい…)


と、またもや前世情報と照らし合わせてカイルが思っていたら(小さい)彼はカイル達をジローリと上から下まで見ると、上から目線で言い放った。


「何?あんた達。クソジジイの仲間?」


クソジジイとは…大いに賛成だが今は置いといて。先に確認事項を把握しようと質問する。


「えっと、君がカスパール様のお孫さん?」

「はぁ?カスパールは知ってっけど、孫じゃねーよっ!勝手にココ連れて来られて、閉じ込められてるだけだ!!」


少年片眉を跳ね上げ、憤慨したように答えた。声は変声期中なのか、かすれて若干聞き取りづらい。


(なぬ!?犯罪じゃないかジジイ!)


何とか意味を理解したカイルは目を見張る。

すると彼の怒鳴り声を聞きつけたか、部屋の奥からパタパタと女の子が走り出てきた。

女の子は少年の側まで来ると、彼をギッっと睨み上げる。


「ダメでしょ!お兄ちゃん。カスパール様をそんな風に言っちゃ!」


ふいっと横を向く少年をよそに女の子はカイル達に向き直った。


「初めまして。私はシャナリアと言います。こちらは私の兄で『メルキオール』です。」


少女はニッコリと笑うとペコリとお辞儀をして、兄ともども自己紹介をする。

淡い金髪でクルクル巻き毛のカワイイ子だ。質素だが、清潔そうな淡いブルーのワンピースを着ている。

『メルキオール』!?こんなちっちゃい子が!?とカイルは彼をガン見して驚きを隠せない。

『メルキオール』という名もまた、この世界における3賢者の1人とされる人の名だ。


「…てめー、今小さい子的な事思っただろーが!」


うん?どうやら『小さい賢者様』は身長がコンプレックスらしい。隣を見るとメルキオールが鋭い目つきでカイルを睨み上げる。


「あの!兄はケーヤクで『メルキオール』をなのっています。」


(もう!お兄ちゃんは黙ってて!)


とメルキオールを目で制したシャナリアがあわてて補足する。

メルキオールはそっぽを向いたまま口をつぐんだ。何となく兄妹間の力関係が垣間見える。


(…てゆーか、契約って…。)


首をひねりながら、思わず思ったままを突っ込むカイル。


「…今時の賢者って契約制なのか?」


プッ、と噴出したシャナリアは「ちがいますよー。」とケラケラ笑いながら更に説明する。フレディも隣で苦笑していた。


「えっと、『メルキオール』のチスジがタえて、ココを守る人がいなくなったからテイキテキにケイヤクシャをツノッて守らせる、っておじいちゃん言ってました。」


(…メルキオールの血筋が絶えて、ココを守る人がいなくなったから定期的に契約者を募って守らせる、でいいのか?それにしても賢者の血筋ってあったんだ…。)


カイルは首を傾げつつ、シャナリアの言葉を反芻する。

しかも契約してまで守るものとは一体何なのか。

カイルが考え込んでいると、フレディがトントンと肩を叩き封筒を差し出す。


「そういえばコレ。渡さなくていいんですか?」

「あっ!」


忘れていた。

カスパールから、孫に会ったらコレを渡してくれい。と言われて預かっていたのだ。


「…でもメルキオールは孫じゃないって言ってるし、別の誰かがいるんじゃー?」

「あの〜。」


フレディに反論していると、ツンツンとカイルの服を引っ張り、ん?と彼女を見る。

するとおずおずシャナリアが口を挟んだ。


「たぶん、うちの兄で合ってます。タイガイテキには、マゴにしておくっておじいちゃん言ってましたから。」


カイルは、ぱちぱちと目をしばたたく。


(対外的ね…。)


それにしても、シャナリアはよく気が付いて、礼儀正しい子だ。

「兄」と大違いである。

ジトーと思わずシャナリアの隣にいる彼を見降ろすカイル。


「テメー!今俺のこと何かと比較したろーがっ!!」


その視線の意味に気づき、ギャんギャん噛み付くメルキオール。

何故そんなに鋭いのか…。


(…と言うか、貴女の表情がわかり易いんですよ…)


とは言えない、いやあえて言わない隣にいるフレデリクはしょっぱい顔をした。

ところで、忘れていたが本来の目的。

魔石の話は言っても通じるだろうか?まぁいい。


コイツはメンドクサイのでシャナリアに聞こう。

手紙を渡してサッサと帰ろう、と思ったカイルはメルキオールに手紙を差し出した。


「じゃーハイ。、カスパール様から『孫へ』の手紙です。あれ?返事貰え、とか言われたっけ?」

「…いえ、特には。」

「そっか。じゃぁ後はやることやって帰るか。」

「…ですね。」


フレディの回答を受けて、ポンっと手紙をメルキオールに渡す。

そしてカイルはメルキオールの隣にいる、シャナリアに話しかけようとした。が


「待て、待て待てーーい!!お前ら、俺が手紙を読み終わるまで待てねーのかよ!!」


(えーなんでー?)


またも噛み付く彼を面倒くさそうに横目で見るカイル。

しかし慌ててカイルの服をもったシャナリアが


「お茶の準備をするので座って待ってて下さい!」


と強く言われてしまった。そしてカイルの耳元にこっそり囁く。


(兄はさみしがり屋なんです!それに久しぶりのドウネンダイの客が来たからウカれてるんです!!なのでもう少しいてくださいー!!)


早く帰りたかったのだが、ウルウル目のシャナリアが懇願するのに勝てなかったカイルと、フレディ。


(浮かれて…ねえ…?)


出会ったばかりであるし、彼の人となりはまだまだ解らないけれども。

胡乱気にメルキオールを見やるカイル。

仕方なく促され近くの椅子についた2人は、パタパタとまた奥の部屋に入っていったシャナリアを眺めつつ、改めて今いるこの部屋を見回した。


広さにして8畳ほどの石がむき出した壁に、椅子とテーブル。

質素な木の素材のものだ。

それ以外は何もなく、ガランとしている。

見るとも無しに部屋を見ていたカイルは、その間に目の前に座わって、手紙を読み終えたメルキオールの存在をすっかり忘れていた。


「おい!お前。」


ピクリとこめかみが引きつったが、そういえば自己紹介していなかったと思い、何とか抑えたカイル。フレデリクの周りの空気も一気に冷え込む。目がこのクソガキ!と言っていた。自分がカイルを遊びで侮るのは良いが、他人は嫌らしい。うわ〜俺様属性っすか!


「……カイルです。」

「………………………フレディです。」


思わず、ワントーン低い声になってしまったカイル。

しかし、フレディはその比では無かった。


(フレディ…声が底を這ってる上に私より…(点)長いよ?)


と、カイルは彼をチラリと見る。

メルキオールはそんな低気圧な2人のことなど気にならないらしく、普通に返す。


「じゃあ、カイル。お前、(魔石)の空石からいしが欲しいのか?」

「…ええ、まぁ…。」

「…確かに今、空石はあるけどよ。闇の魔力吸い取れねーぜココのは。」

「はい!?」

「え!?」


またもや聞いてない情報が飛び出し、思わず声を上げた2人。


「お前がどこまで魔石の話聞いてんのか知らねーけど、魔石にも相性ってのがあんだよ。だからココにあんのは「木」と「金」と「時空」の魔石だな。」

「で、ジジイんとこが「光」と「闇」だ。だからお前らの言う闇魔法なら、ジジイんとこにある魔石しか意味ねーぜ?明らかに騙されたんじゃね?」


と、手紙をヒラヒラさせながらニヤニヤ笑うメルキオール。

ガタンっと立ち上がったカイルはテーブルに両手をついたままブルブル怒りに震える。


(なぬおぉぉぉーー!?あんのクソエロジジイ!!遥々ザカルーンまで来させて何がしたいんだ!!)


カイルはそのままメルキオールの手に持っている手紙を身を乗り出してバッと奪い取り、グッシャングッシャンに握りつぶして床へ落とすと、足でバンバン踏んだ。

それでも飽き足らず、グリグリねじりながら更に踏んでいる。


フレディはそんなカイルを横目で見て「あーあ」と言う顔だ。…確かにザカルーンくんだりまで来て、100年前の地図で迷い魔獣騒ぎに巻き込まれ、壁のクロスワードに怒り上げ…踏んだり蹴ったりだ。メルキオールは逆に憐れむような目でカイルを見る。


「お前も、あのくそジジイの口車に乗せられた口か…。まあ、俺も似たようなもんだ…。」


うんうんと頷きながら彼は椅子から立ち上がりカイルのところまで周り込むと、トントンと彼女の肩を叩く。何かメルキオールに仲間意識を持たれたカイル。彼女は納得いかん!!とばかりにメルキオールの手をはねのけた。


「そうと解ればココに用は無い。帰らせてもらう!!」

「あ!!お待ちください!」


部屋の出口に向うカイルと同じく、立ち上がって彼女に続くフレデリク。それを見たメルキオールは慌てて大声を出し、引き止める。


「あーー!待てって!その前に1つ試したい事があんだよ!!」

「……試し、たい、事…?」


今まさに扉から出ようとしたカイルは、今更気になる事を言われ ギギギと振り返りジト目に見る。

メルキオールはホッと顔を和らげると彼女に説明した。


「このジジイの手紙にも書いてたが、お前の弟?の障害は闇魔法だけじゃなくって複数の魔法が重なりあっているらしんだと。だから俺のとこの魔石でもやってみろって。」

「!?そ、それを早く言えーーー!!」


…てか、変に突き落として持ち上げるやり方とか…やっぱりお前はカスパールの孫じゃね?と思わずにはいられないカイルなのだった。



と、言うわけで治療の為 結局リンゼ本人を呼ぶことになった訳なのだが ザカルーンに公衆電話はあるものの、一般家庭に電話はまだ普及していないらしい。

なので、すぐには連絡がつかない。


一端、カイルかフレディがリンゼを連れにセイラさんのアジトまで戻らねばならなかった。

じゃあ、俺がいきますよ、フレディが言ってくれたのでまかせる事にしたカイル。

が、メルキオールから待ったが入った。


「オイオイ。そんなことしてたら日が暮れるだろーがよ!」

「…では、どうしろと?」


カイルはチロンとメルキオールを見やる。

スタスタと近づきちょっと、こっち来い!と言った彼はカイルの腕を引っ張った。

仕方なく引かれるままメルキオールに付いて行き、1つの部屋に案内される。普通に木で造られた扉を開けると、そこには!!


(おお!?コレは!!)


「魔法陣!?」

「お?知ってんのか?」


ニヤリと笑うメルキオール。

知ってるも何もそのままだった。

ガラーンとした石がむき出しの部屋の床に白い顔料で円が描かれていて、二重三重の円の中には幾何学模様と文字らしきものが描かれている。


(スゴーイ!やっぱり魔法って存在するんだー!しかも魔法陣とか…。やっぱり、エド○ード・エルリック?)


この世界に生まれてからこれまで、知ってはいたが身近ではなかった魔法という存在。

それが一気にリアルに感じる。

そして、金髪長髪と魔法陣と云うことでカイルの中では某錬金術師の主人公に確定したメルキオール。


彼女が感動を味わっている間、メルキオール→エドは何やら準備を始めていた。

彼は手のひらに納まるくらいの魔石を2つ持って、魔法陣の中央へ向うとカイルを手招きする。


「この魔法陣と、この時空魔法を閉じ込めた魔石があれば1度行った事がある場所に転移できる。」


(え!?マジですか!もしやルー○!?{移動魔法}某RPGの?!)


両手を組んで、俄然目をキラキラさせるカイル。

エドはフフン、と言った感じで更に説明した。


「時空転移はココだからこそ使える特権だからな!オラ!モタモタしてねーで、早く行くぞ!!」

「ちょっと、待ってください!!」


返事をしようとしたカイルを遮って、部屋の外でその様子を見ていたフレデリクが慌てて待ったをかける。


「俺も連れて行ってください!!」


エドはフレデリクに向って、えー 何でーみたいな顔をする。

カイルはフレディの物言いが意外だったので目を見開いたままだ。

いつものフレディなら「あ、いってらっしゃーい」くらい薄情に言いそうなのに。

フレデリクは言い難そうに言い募った。


「…ちょっとアジトに忘れ物したんですよ…。なんでお願いします!!」

「…ちっ、しょーがねーなー。人数増えると魔石2個じゃ足りねーから、ちょっと待ってろ!」


魔法陣を抜け、別部屋に行くエド。

なんだかんだイイ奴だな、とカイルは彼の評価を改めていた。

が、目の前にいるフレデリクの胸をなでおろす姿を見て訝しく思った彼女はさっきの疑問を問うてみる。


「…なあ、フレディ。忘れ物って何?」

「…ちょっと…、大したモノではないんですが…。」


そう言って、口を濁しつつあさってを見るフレディ。

彼は大雑把そうに見えて、かなり慎重派で几帳面だ。そんな彼が忘れ物をするなどちょっと考えられないカイル。

(大したモノでなくて、なんでそんなに必死だったんだか…?)


片眉をあげ、ジットリと彼を見るカイル。

だが、言いたくないのだろうと思い直した。

そうこうしている内に、エドが戻ってきた。



「今度こそ、行くぞ!!」



(イヤーー!!時空転移初体験ーー!!んー?例えれば超高層ビルのエレベーター下層階から、一気に上に上がってまた下がるみたいな感覚?)


…と興奮冷めやらぬカイルと、「スゲーだろー!!」と得意げにしているエドはキャイキャイ騒いでいる。

現在、セイラさんのアジト地下室にいるカイル達。

一度訪れたことのある場所とはいえ、(転移魔法)では転移先の確固たるイメージがかなり重要だとエドは話す。


そもそも、転移先のイメージがあやふやだと移転自体ができない。

また、出来たとしてもいきなり移動先の風呂やトイレに転移しても困ってしまうし、ましてや昨日アジトに最初案内された応接室に転移して もしそこに一般のお客さんとかが来ていたら大変である。

それでなくとも一般人には忘れられた存在の(魔法)。むやみに人目については混乱を招く。


というわけで、フレディが「じゃあ、アジトの地下室にしましょう。あそこならすぐに見とがめ

られる可能性が低いでしょうし。」と言ってアジトへの転移先を決めたわけだが、フレディ、いつの間にそんなとこまで見てたのー?というカイルの視線をスッパリ切り捨てていたフレデリクだった。


「やー、それにしても自分の知ってる場所以外に来るのは久しぶりだぜー!」

「ん…?久しぶり…?ってどれくらい?」


うんうん頷きながら話すエドの言葉を聞きとがめたカイルは、思わず質問をする。

彼は腕を組み、少し首を傾げながら答える。


「んー?一年…いや二年くらい経つか…。」

「二年!?」


(ヤダー!!モノホンのヒッキー{引きこもり}だー!!)


ギョッとしてエドを見下ろすカイル。

しかし彼は心外だ!とばかりに彼女に反論した。


「ちげーよっ!!好きであそこにいたんじゃねー!さっきも話したろーが!ジジイに騙されたって!!」

「…カスパール様に?」

「そうだよっ!!」


プリプリとお怒りモードなエドを、ゴメンゴメン!と謝っていたカイルだったが、ふと、もう一人一緒に転移していたのを思い出した。

随分と静かだったのでちょっと忘れていたが(酷い)周りを見回したところ、カイルは近くの壁に寄りかかり、1人真っ青な顔をして胃のあたりと口を押さえているフレディを見つけた。

どうやら彼はこういったものがダメだったらしい。


(…いるよねー。フリーフォール系ダメな人ー。)


ご愁傷様です、とフレディに向かって手を合わせるカイルを「なにやってんだ?」と不思議そうに見ていたエドワードだった。


「…さあ、時間もないですし早く上へ行きましょう…。」


少し復活したのか、まだ青い顔をしたフレディが先を歩き出す。

大丈夫か?とカイルが話しかけたのに、曖昧に笑ったフレデリクなのだった。


「ムサイ」のアジト地下室は転移したこの部屋を含んで4部屋ほど。

カイル達が転移したここは、何か雑多なものが置かれた倉庫らしき部屋だった。

フレディが内鍵を開けて周りを見回しつつ廊下に出ると、スポットライトの灯りが点々と天井に点いているので暗くはない。


(やー、ホントに元いた世界とほぼ変わらないんだけど…)


カイルは、改めてザカルーンの生活水準の高さを思い知る。

3人は縦に並んで、上に昇る階段に向かい歩き出した。

ウガーウウウウ―っと獣の唸り声が遠くから微かに聞こえた。


「え!?何ココ!どんな場所なんだよ!!」と後ろを振りかえりつつエドはカイルの服を引っ張る。

メンドクサイなーと思った彼女は(かなり失礼)「あー、後で説明するからー。」と軽くいなす

。多分、先日捕らえた魔獣だよな…などとカイルが思っていると、前方から階段を降りてくる足音が聞こえた。いきなりピンチ!


(!!てゆーか、これは普通に考えても不法侵入じゃ!?)


その通り。

所有者の許可無く立ち入る事は法律で罰せられます。

(多分ここも)カイルは前を歩いていたフレディの腕を持った。


フレディは正面を向いたまま自分の反対側の手をカイルの手にポンポンと大丈夫ですよ、と言うように軽く叩く。そしてグッと握り拳を固めた。


(え!?まさか!その拳で相手殴っちゃう感じー!?)


カイルは戦々恐々としていたが、列の一番後ろにいたエドは「え!?何!?何かやんの?」と面白がっている。

だが、予想を裏切って最近聞いた声が上から降って来た。


「アレーー!?君達どっから入って来たんだー?」


それもそのはず、顔を覗かせたのは紅い髪をひっつめた姉御肌の美女「ムサイ」メンバーのセイラ。


(よ、よかったー!何とか誤魔化せそうな人キター!)


ホッと安堵の息を吐くカイル。

そして、腕を掴んでいたフレディの体のこわばりが解けたのを感じる。

やっぱりそれなりには彼も緊張していたようだ。

しかし「ちぇー。つまんねーのー。」と言ったエドはアッサリ無視した。


カイルはよし、次は自分の出番だとフレディを押しのけて一歩前へ出てるとセイラにこれまでの経緯を話したのだった。


先程は誤魔化して伝えようとしたカイルだったが、今回色々と協力してくれたセイラにそれは失礼だと思い直し(転移魔法)や(魔石)のこと、リンゼの事情などを説明した。

もっと魔法関係の事で混乱するかと思いきや、予想に反してすぐに納得してくれたセイラ。


多分、通常より魔法を扱える魔獣と身近に接している事が理由と思われた。

ええ!決してセイラさんが考えるの嫌いで、面倒臭がりとか思ってませんから!

アジトの応接室に皆で移動した後、セイラに一通りの説明をすると。


話が落ち着いたところを見計らってカイルはアジトに来た目的…リンゼの居所を聞いてみることにした。


「すみませんが、リンゼは今どこにいますか?」

「ん?ああ、あの子は一人で二階の部屋で留守番をしているはずだが…。」

「一人で留守番?」


アンジェとキョーコはどうしたのか。カイルの疑問が顔に出ていたらしく、すぐに質問に答えるセイラ。

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