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転生王子の受難譚  作者: 帝都ラン
3/9

カスパール~ザカルーン編

「迷子だ…」



しかも大通りから外れ、なんだかよく解らない石造りの建物ばかりが建っている上に、通る人もガラが悪い者ばかりだ。

迂闊に尋ねられもしない。

恐らくここら辺はあまり治安の良くないとされている、南西の区画なのだろう。


なので長時間こんな所にいたら、更に悪質な輩のカモになりかねない。

コソコソと人に見つからないよう建物の影の隠れながら、どうしたものか…と思っていた矢先、視界の隅にまともな感じの人影が過ぎった…気がした。


「!!」


あわててそちらに向かうカイル。

すると小太りなまぁ仕立ての良い服を着た眉間に黒子のある男が歩いていた。

よっしゃ!まだまとも!と思い小走りで後を追うが、そこは子どもと大人。


カイルが隠れながら後を追っているのもあるが、コンパスの違いで中々追いつけない。

しかし、その小太り男、やたらと周りをキョロキョロしながら進んで行く。


「怪しい…。」


カイルは置いて行かれないよう適度な間隔で探偵の如く付けていたが、思わずボソリと感想を漏らした。

男はいかにも違法な場所に行くんです、と言わんばかりな不審な行動だからだ。

カイルは第一目的だった(道を聞く)をあっさり覆し、(尾行)を開始する


。…こういう好奇心旺盛な所と、何でも自分で行動したがる所が王子の自覚が足りないと云われる所以なのだが…。

なかなか前世の庶民感覚が抜けないカイルなのだった。

しばらくすると男はある地下へ続く建物の前でいっそう周りをキョロキョロすると階段を下りて行った。


「ここか…。」


今しがた小太り男がいた場所に立つ。

看板が無く、ただ地下へと続く階段があるのみだ。

カイルは逡巡しながらも好奇心に負け、同じく周りを見回して人がいないのを確認するとその階段を下りて行った。




現在カイルは先程の怪しげな建物の地下の店にいた。

そこのロビーの様なところに設置されているソファーに深く座って、ある人物を待っている。


(…いや、ホント。よく入れてもらえたよなー)


カイルはしみじみ自分は無謀な事をしているなー、と思っていた。

運よく、今待っている人物に拾われたとは言えあのままあの界隈に居たら、間違いなく人さらいか誘拐に会ってもおかしくはなかった。


(あれ?そもそも私、何しにこの区域に来たんだっけ…?)


などと首を傾げつつ、彼女はつらつらと半刻(30分)前を思い出していた。


…階段を降りると、恐らく店の扉の前に来たカイル。

重厚そうな木材で作られた黒塗りのドアは、ちょっとやそっとではビクともしなそうだ。

かといって他に行くあても無し。少し逡巡はしたが、


(いいや!当たって砕けろ!)


とばかりに扉のノッカーを勢いよく叩く。

カンカンっと金属音が辺りに鳴り響いた。

数秒ほどで中の扉がゆっくりと開く。


「……だれだ。」


のっそりと扉から出てきたのは、某おもちゃ(黒ひげ危機○発)のキャラのような眼帯をしたムキムキマッチョ。

彼はキョロキョロと見回していたが眉間に皺を寄せ、ふと視線を下に向ける。

そしてカイルを認めて片目を見開いた。

するとあからさまに嫌な顔をした。


「何だ?小僧。…ココはお前のようなガキが来るとこじゃあねえ。早くママんとこ帰りな!」


手つきでシッシっと追い払う。

カイルはあきらかに自分を小ばかにした態度でムッとしたが、負けずに答える。


「…ママは居ないけど、パパがココに来た。探してるから入れて欲しい。」

「ああん!?何言ってんだこのガキャ!!」


眼帯マッチョは片眉を跳ね上げると、彼女の服の襟を持ち上げ、無理やり外へ出そうとするがバタバタと抵抗するカイル。


「いーやーだー!!はーなーせー!!」

「黙れ!!ガキ!!」


簡単にマッチョにつまみ出されたカイルは、目の前で無常にもバタンと扉が閉じられる。

カイルはその場に立ち尽くした。

そう世間は厳しいもの。


しかし、明らかに怪しい店(?)なのに

良家の子女風なカイルを捕まえるでもなく帰らせるのはむしろ誠実とも取れるのだが…。

いや、ただ単にすぐに金蔓に直結するわけでは無いと判断しただけか。


(むー。そう簡単には入れさせてもらえないか…)


しかし好奇心に突き動かされているカイルはそんな眼帯マッチョの気遣い(?)など気づくはずもなかった。

暫くそうしていると、後ろからカツンっと階段を降りてくる靴音がした。

カイルは振り返るが逆光で顔が見えない。

眩しさに目を細めていると、その人物がカイルの所まで降りてきた。


「オイ…こんな所で何やってる?」


男はかなり驚いた感じの声音でカイルに問いかけた。

徐々に目が慣れてくるとカイルはその人物をガン見した。

年の頃は40代くらいか。


見た感じ上等な服を着て無精ひげがあり、顔の彫の深いなかなかのイケメン。

しかし歴戦の傭兵のようなガタイを持ち、飄々としていながら底知れない雰囲気のある男だった。

謎の渋イケメンの質問に当初の目的「迷子です」と言えばよかったものを、新たな人物に見つかった動揺か。

一瞬言葉の詰まった彼女は、思わずポロリと本音を零した。


「え?ええっとー…調査?」

「なんで疑問系なんだ…。」


こめかみを揉み解しながらため息を吐く男。

なにをバカ正直に言っているのかこの子どもは。

呆れながらもジロりと睨む。


「あのなぁ…お前みたいな良いとこの坊ちゃんが来るところじゃない。それにここらも物騒だ。迷子になってココに来て、好奇心に誘われたってとこだろうが?」


おおっ!すごい!大正解。

男の的確な洞察力に思わず、パチパチしてしまったカイル。

彼は観察力が鋭いらしい。


まったく…と脱力した男は、なら送ってやるからこっち来い!と言った。

何と!怪しげな見た目を裏切って、いい人らしい。

しかし何だか自分でも解らないが、この人は大丈夫だと妙な感が働いたカイル。

そしてこの建物がとても気になる彼女はダメ元で彼に聞いてみた。


「待って!!ココは何の店なの?」

「…お前なぁ…何も知らずにココを調査しようとしたのか?無謀にもほどがある!!」


彼は更にガックリ肩を落とすと強い口調で言った。

そしてカイルの腕を掴み、いいから行くぞ!!と無理やり連れ出そうとする。


「待って!!お願いします!!さっき、小太りで眉間に黒子のある男がココに入ったんだ!周りをキョロキョロしながら!いかにも怪しいって言わんばかりでしょ!?」

「はぁ!?なんだと!?」


男は目を見張ると…全く何やってるんだあの男は…と顔を明後日の方に向けブツブツ言っている。

カイルは再度手を合わせてお願いしてみた。


「お願いします!ココは何の店か教えて下さい!!」


男はこれでもか!!と言わんばかりにギュンっと眉間に皺を寄せる。

そして再度ため息を吐くと、ちょっとこっちに来い!と彼女をグイっと引っ張る。

い・や・だ・!教えてくれるまで動・か・な・い!とカイルはテコでも動かない姿勢を貫いた。が


「教えてやるから!ココじゃぁ人の出入りがあって危ないだろうが!」


と若干怒り気味で言い、カイルを連れて階段を上がる。

そして周りをサッと一通り見ると建物と建物の間の薄暗い路地裏に素早く入った。

男は振り返りカイルの顔を見る。



「本当に知りたいのか?」


カイルは男の目を見てコクリと頷く。

彼女の意思が変わらないのを見て取ると、もう一度深く溜息を吐き「しょうがねえな…」と顎鬚をさわりながら諦め顔で話出した。


「…いいか?大きな声で言うんじゃねえぞ?」


男は前置きをして小声で話す。

カイルは神妙に頷いた。


「……ココは人身売買の店だ」

「え。えっ!!??」


予想外の言葉に思わず大きな声を出してしまったカイル。

男はシッと手を口に当て、カイルの口を押える。

ゴメンナサイと目でカイルは言った。

そして改めて男は話し出す。


「…かつて、そうだな…お前たちの親がお前らぐらいの頃にはまだ奴隷制度が横行していて、普通に人身売買は行われていた。現在は制度は撤廃されたが…しかしまだこうして隠れてやっている。」

「…国の憲兵隊は何やってるの?」

「まぁそう言うな。国が何もしてない訳じゃない。こういう店を無くそうとはしてるが、すぐに無くせないんだ。わかるか?」


憲兵隊とは、前の世で言う犯罪を取り締まる警察機関のようなものだ。

カイルは少し考えるが、首を横に振る。理由までは解らなかった。


「この国は残念ながら、まだまだ貧富の差が激しい。貧しい家に生まれた子を、生活苦のため親が売るという悲しい現実がある。」

「親が売る…。」


「だから、いきなり無くしてしまうと貧しい者達がただ路頭に迷うだけだ。それなりの環境を整えてやらないと意味が無い。」

「……。」


要するに、昔の日本で言う身売り、食い扶持を減らすための間引きが行われていたということだ。

時代的に江戸時代から明治、大正、昭和初期というところだろうか。

カイルは俯きながら、眉間に皺を寄せる。


それを横目で見ながら だがまぁ、天下の王都で公然とやるのは問題だがなー、と苦笑いしながら顎鬚を触る男。

しかし貧富の差があるのは解っていたが、そんな事実がある事をカイルは知らなかった。

ゲーム世界(?)かもしれないとは言っても、自分たちは地に足を付けてココに立っている。


現実の国の問題はそのまま生活する人々に直結しているのだ。

改めて自分はコノ世界では何も知らない箱入りだった、と実感せざるを得ない。

だが、思うにこんな子供にこんな情報を開示しても良いのだろうか?

顔を上げてジーッと見るカイルに苦笑した男は、彼女の頭を撫でながら説明する。


「なんでお前にこんな事話したか?知ったところで今すぐどうこうできる問題じゃねーからだよ。」


(…うっ、まぁ確かに。)


「それに変に隠すと人は知りたがる生き物だからな。だから教えた上で口止めをする。」


と言ってニヤリと笑う男。

左様ですか…。実に論理的で、口を挟むスキが見当らない

。思った通り鋭く、食えない男だった。


「…で?聞いた所で満足したか?」


カイルは少し考えて首を横に振った。

今の話で心が決まった。ひたと見据える。


「中に入ってみたい。」

「ああん?」


何いってるんだコイツ、と言わんばかりに男は眉を跳ね上げる。

カイルは真摯に男を見つめて言い募った。


「私はこういう事実がある事を知らなかった。でも知ってしまったからには現実を見ておきたいんだ。」

「…。」


曲がりなりにも自分は王族だ。

王位継承権はリンゼに譲る気満々だが、王族の権利まで放棄するつもりはない。

多分将来は政治に関わる事をすると思う。


この世界に生まれて8年だが、それなりの帝王学も学んだし政治経済も把握している。

カイルは個ではなく公で考える、と言うことを身に着けていた。

となると、今この実態を見ておくというのは絶対に必要だと強く思ったのだ。


彼女がそのような事を考えているかは知らないはずだが、男はジーッとカイルを見る。

余りに長く見つめるのでカイルが居心地悪くなったころ、頭をポリポリ掻いて、一つ溜息を吐くとカイルの頭をポンポンと軽く叩いた。


「…はぁ、しょーがねーなー…。ダメだ!と言った所でお前はさっきみたいに抵抗するんだろ?…むしろ俺の後にしつこくくっついて離れ無さそうだしな…」

「……。」

「わかった。それじゃぁ、お前は今から俺の息子として中に入れる。」

「!?」


それでいいか?と尋ねる男。

言葉の後半部分は小声で話したため、カイルは聞き取れなかった。

しかしこの短時間でかなりの確率で彼女の性格を把握したらしい…。


侮れない男だ。

カイルは受け入れられると思わなかったので、ビックリしたが邪気無くニッコリと笑った。


「あの…ありがとう!!」


男も釣られて笑う。

彼が笑うと目じりに皺ができて以外にも柔らかい感じになる。


「?」


(アレ?誰かに似てると思ったけど…?)


パチパチと目を瞬いた彼女はしかし、一瞬だったので解らなくなってしまったのだった。


改めてカイルと共に店の前まで行き、ノッカーを男が叩く。

中にいた眼帯マッチョにジロジロ見られながらも、父さん(?)がマッチョに袖の下を渡した。マッチョは、“…ちっ!しょーがねーなー”と言いながらソレを受け取り、そそくさと奥へ行く。


それを横目で見つつカイルは


(大人って…)


と思いながらも、中に入った。

店の中は少し照明を落とした劇場のロビーのような雰囲気だった。

男はカイルにソファーを指さしながらちょっとココで待ってろ、と言うと自分はフロントがある受付に歩いて行ったのだった。



戻って来た男は、カイルと共にココの使用人らしい人物と入口から入った正面の螺旋状階段を登る。

そして6つほどある扉の1つに案内された。

部屋は7,8畳くらいの楽屋のような感じだ。


しかし部屋の正面の壁に10cm四方の小窓がついている。

興味をそそられ中を覗くと眼下には大きな劇場のような舞台が設置されていた。

どうやらこの部屋で、舞台に出される奴隷達を品定めして買うらしい。


更に個室に客を入れているので客同士の互いの顔はわからない。

部屋の中にはこじんまりとしたテーブルとソファーがあり、たまに秘密裡の商談スペースとしても使われる と父さん(?)が言っていた。


人身売買が始まった。

舞台に上がっている者は性別、年齢、出身、様々だ。

奴隷達は首から番号を下げていて、欲しいと思った小部屋の主は欲しい奴隷の番号を書いて部屋の外に待機している使用人に渡す。


もし他の小部屋の主と欲しい奴隷が被った場合は主同志で競りが行われ、より高く値をつけた主が競り落とす…という仕組みだった。

カイルは小窓から奴隷たちが客に買われていくその様子を、唇を噛みながら無言で眺めていた。


暫くすると、大きな銅鑼のような音が響き渡った。

ビクッと体を揺らすカイル。


「今回の目玉だ。」


父さん(?)がソファーに座ったままポツリと言った。


「目玉?」

「希少価値の高い奴隷の事だ」


カイルが小窓から振り返ると、父さん(?)は目を閉じたまま答えていた。

なるほど、今の音が目玉商品の出る合図らしい。

なんだか更に胸糞悪くなった彼女はそれでもまた、小窓を覗きながらその「目玉」とやらを見て目を見張った。

舞台では店の支配人らしき男が、高らかに「目玉」を説明する。


「では、本日の目玉商品です。見てください!この見事な黒髪、黒瞳!もちろんすべて本物です。大陸広しといえど、ここまで2つも黒色の揃った人間などいないでしょう!今日は5万バルクから始めたいと思います。」


1バルク約50円と考えてー250万!?

人身売買の相場がいくらかは解らないが、恐らく破格なのだろう。

高すぎる!もう少し下からにならんのか!等、他の小部屋の小窓から声を出している客の罵声が聞こえる。


しかしカイルは金額よりもその「奴隷」に驚いた。

この世界では珍しい黒髪、黒瞳。しかしカイルの知っている世界は普通にそこ等辺を歩いていた。

何より「ゆり子」自身が黒髪黒瞳の日本人。


そう。

その奴隷少女はあきらかにアジア的な顔立ちをしていた。

多分、この世界にアジア人種は居ない…と思う、不思議なことに。


だからこれほどまでに黒色が持て囃されるのだ。

しかもその奴隷少女は今まで舞台にいた奴隷と違い、檻の中に囚われ首には拘束具が着けられている。

少女は完全に怯え、檻の中央で小さくなっている。


完全に珍獣扱いだった。

同じアジア人(?)としてワナワナと激しい怒りを感じたカイルは父さん(?)に言った。


「父さん!!」

「おおっ!?」


一応は父親の設定だったので振り向きざまそう呼んでみたのだが、返事ではなく驚いた男はそのままに続けるカイル。


「あの子が欲しいんだけど!!」

「…これはまた、高いおねだりだなー。」


驚いて目を開き、ソファーから身を乗り出してくだんの少女奴隷を見、苦笑しながらカイルを見る父さん(?)。

今カイルの手元には1バルクも持ち合わせが無い。

金になりそうなモノも…持って無い。


男がどういう目的でココを出入りしているかは謎だが、今の所カイルに害をなそうとはしないはずだ。

彼にどんな目的があるかはともかく、この場所にカイルを連れて来てくれた訳だし。(多分)

カイルは自分の人を見る目を信じて、手を合わせながら男に頼んだ。


「お願い!父さん、俺なんでもするから!!」



男は自分の顎を擦りつつ、(何で手を合わせてるんだ?)と首を傾げながら片眉を跳ね上げ、渋い顔をする。

因みに手を合わせて懇願する仕草は日本人特有のものだ。

異世界のしかも外人にソレが解る筈もなく。


しかし彼女は気づかず良く持ち出してしまうのだ。

それはさておき。


「んー、何でもというのは、安易に言うもんじゃ無ぇなぁー?」

「…じゃあ、どうすればいいの?」

「…そうだな。俺に投資させたいなら、お前自身の価値又は利点を言え。」

「え…?」


父さん(?)は少し考えるとニヤリと笑ってカイルに提案した。

バッと顔を上げる彼女。


(マジですか…。そんな、8歳の子どもに手厳しいな!!しかもそれって要はプレゼそしてンって事?いや、個人的だから就活面接かオーディションか…)


男の厳しい条件に思わず顔を顰めるカイル。

前世年齢を含め、精神年齢は現在アラフォーどころかリアルに40代なのはこの際横に置いておく。

カイルは腕を組んでウンウン唸った。


(確か…昔、ネットで検索したことのある「必勝!就活!逆転雑談!」とか「オーディションクエスト3~そして、面接へ~」とか?うーむ。

要約すると…意外性をアピール、企業のメリット、自分のメリット、簡潔に自己アピール辺りか…?)


もっと色んな事があったはずだが、なんせうろ覚えな前世の記憶。

父さん(?)は「早くしろ〜時間ねぇぞ〜?」と追いつめてくる。

カイルはカッと目を見開くと、とにかく当たれ!とばかりに突撃した。


「実は俺、料理できます!!」

「ほう…?面白いが、今は必要無い情報だな。」

「…。」


ニヤニヤしながらバッサリ切って捨てる父さん(?)ガクリと肩を落とすカイル。

しかし嘆いている暇は無い。彼女は即座に次の項目を思い出す。

企業のメリット…では意味無いからその次!


「俺は今、体に障害のある子を教育指導しています。今回、目の見えないその子の為にある教材を考案し職人に依頼しました。」

「……ふむ、…それで?」


興味を惹かれたのか、顎を触りながら思案顔の父さん(?)

よし!!食いついた!このまま行け!カイルは目に力を込め、父さん(?)の目を見て説明する。


「詳しい部分は省きますが、その職人に技術の発想を伝えて教材を造ってもらい、さらにその技術を応用する事で現在の印刷技術の進歩に貢献したと報告を受けています。」

「……。」

「更にこれは最近聞いた話なのですが、以前衛生面についての考えを身内に伝えた事がありました。」


そう。これはつい最近アンジェから聞いてびっくりしたこと。

カイルがまだ2,3歳くらいのやっと言葉が話せるようになった頃。


この世界におけるお風呂事情なのだが、前世の中世ヨーロッパのように 基本体を洗わない。

月一入ればいいほう。

石鹸はあったが本当に初期の頃のモノでドロドロして脂臭い。

当然シャンプーもなければコンディショナーも無し。なんとか固形の石鹸は造れないのか。


コンディショナーにしても、前世のネットで見たが、手軽にお酢のリンスというのがある。

まんまお酢なのだが、驚くほど効果がある。髪の毛は洗った後キューティクルが開いた状態になっているが、酸性のお酢を使うことで閉じた状態に戻してくれる。

しかもお酢は殺菌効果もあり、保湿の効果もありツヤツヤにしてくれるという優れたものだ。


これに香りづけとしてエッセンシャルオイルやドライフラワー、ハーブを漬け込めば体にも大地にも優しいコンディショナーが出来るわけだ。

そんな事を覚えたての言葉でその当時の侍女に言ったことがあった。(まだアンジェではなかった)

その後、それを聞いた他の侍女がその事を街の人に伝え、街の職人がそれを聞いて新たな石鹸、又はお酢のリンスを開発→街で流行→貴族に伝播、となったわけだ。


「以上を踏まえて、私には発想力という特技があります。(前世の記憶頼りだけど!)あっそうだ!衛生といえばこの国における治水ですが…」

「わかった!わかった!」


話し出すと止まらなくなったカイルを父さん(?)は遮ると次の瞬間ブッと吹き出し、ガハハハハっと豪快に笑いだした。

笑いながら彼女の頭をワシャワシャさせる。突然の事に目をパチクリさせるカイル。



「!?」

「なるほどなァ。石鹸の話は噂で聞いてはいた。小さい子供が考えた…とか嘘っぱちだろうと思ってたが、まさかのお前が発想の発端だったのか!しかも2,3歳頃だったとは恐れ入った。後、こんでしょなーってヤツもか…いいだろう。色々穴が開いている部分はあるが、まぁ及第点をやる.。いつもはここまで甘くはねえんだが…。時間も無いしな!うっし!今度は俺の番だ。よく見てろよ!息子。」


というと、かき回されたぼさぼさ頭でボへーっと立っているカイルを他所に男はパンパンと自身の顔を叩きながらソファーから立ち上がる。

そして部屋を出て行ってしまった。


それから、四半刻後(15分)ほどか。舞台上の支配人の 


「ありがとうございました!落札です!!」


という声に慌てて正気に戻る。

父さんが出て行った後、そのままソファーに座りこんでいたカイルはすぐさま立ち上がり小窓を覗くと、少女が檻から出されてどこかへ連れ出される所だった。


(え!?どうしよう…)


と焦るカイル。

その時、小部屋の扉から父さん(?)が顔を覗かせた。


「おい!帰るぞ!」


訳の解らないカイルは部屋を出ても「ねえ!あの子は!?」…と父さんの服を引っ張りながら聞くが、のらりくらりとニヤニヤするだけで答えない父さん(?)

不安を残しつつ通路に出たカイルは、店の使用人に裏の出口を案内された。裏口は幾つもあり、お客同士のトラブルや闇人身売買なので王都の憲兵隊にバレた時の脱出経路も兼ねている、とは父さん(?)の話。


裏口を通り階段を昇ると、馬車が通りで待っていた。そして、中を見ると馬車には先程の『少女』が乗っていたのだ!!

バッと見上げ父さん(?)を見るカイル。


「じゃあな息子。ここでお別れだ。」


それを見て優しく笑い、ポンポンとカイルの頭を軽く叩く。

呆然とするカイルを馬車へ乗せると御者に行き先を告げる。

そして馬車の窓からカイルに向け何かを手渡した。


「え…何?」


開けてみろ、と目で促す父さん(?)

カイルは訝しみながら渡された布をパラりと開く。


「…あ!ブローチ!?」


そう。

先ほどスリ少年に奪われたカイルの母の形見だった。

そもそもの発端はコレが盗まれた事だったのに、すっかりその存在を忘れていた。(酷い)

え…何で?目を見張ったままカイルは彼を見る。

すると男は微笑んだ。


「…母さんの形見、もう失くすんじゃねえぞ?」

「え?」


と言ってカイルの返事も待たずに、じゃあ頼む。

と御者に声をかけると、馬車を発進させたのだった。



それからカイルと奴隷の少女を乗せた馬車はラインハルト邸までやってくると門前で停止した。

アジア人(?)の奴隷少女はここの言葉が解らないものの なんとなくこの少年に自分は売られたのだ、と理解していた。

見た目はいい服を着ているし、顔立ちも美形だ。

しかし前に座る少年がどういう目的で自分を買ったのかは解らないので、恐々とカイルを盗み見ていた。


一方、馬車に揺られている間、カイルは俯いたままずーっとあの男の事を考えていた。

いったい何者なのだろうか?少女を落札したとしても、最低ラインが5万バルク(約250万)ならそれ以上の金がかかったはずだ。

そもそも今思い出すに、彼は初めからカイルに好意的だった。


売買組織につながりのある人脈といい、世情に明るく豊富な資産力。

絶対只者ではないはずだ。

しかも、極め付けはこのブローチ。


カイルは手に握っていたブローチを見る。

コレは高価なものでもなんでもなく、前世で言うならカメオ(貝殻)の工芸品だ。

しかも造り慣れていない職人が彫ったのか少しいびつな出来。

多分、だからこそ母親の思い出の品。


世界に二つと無い物。

だからこその更なる謎だ。

何故ピンポイントに彼はカイルのモノだと解ったのか?

何故母親の形見だと知っているのか…?


何故、どうしてという言葉がグルグルとカイルの頭を巡っていた。

そしてハッと思い出す。


「あ!!」

「!?」


ビクリと少女が肩を揺らしてカイルを見る。

カイルは少女のことには気づかず、今更ながら大事な事に気づいた。


「あの人の名前、聞いてない……。」


まぁ聞いたところで偽名を使われそうな可能性は大だけれど。


(結局なんも解ってないんじゃん…)


カイルはドッと脱力して馬車の座席に沈み込む。

その時、馬車の扉をコンコンと叩く者がいた。

御者が「着きましたよ」と声をかける。



ハッと気づいたカイルは起き上がり馬車を降りようと思ったが、前に座っていた少女の存在を今更ながら思い出した。(本当に酷い)

少女はカイルに見つめられ、オドオドと体を縮こませている。

そして彼女を改めて見れば一般の奴隷のように1枚きりのワンピースを着て、足には何も履いていない。


首にはあの拘束具を長期間着けられていたせいか、すでに外されていたものの赤い痕が残っていた。

その痛々しさにカイルは目を眇める。

少女はショートボブではなく おかっぱ髪の黒瞳の奥二重で、目は小さいものの、可愛らしい顔立ちをしていた。


(ちび○るこちゃんをもっと可愛くした感じ?)


先程は舞台の遠くからしか見てなかったので、アジア人だろうなぐらいしか思わなかったが、近くで見ると容貌は日本人みたいに見える。

年齢はリンゼと同じくらいか。

カイルは自分の上着を脱ぐと、優しく彼女の肩に掛ける。


少女は突然のことに驚いたらしく目をパチパチしていた。

そして先に馬車から降りたカイルは少女に向かって微笑むとおいで?と言って、手を差し出したのだった。





季節が移り替わり、高原では朝晩の寒さが厳しくなってきた頃。

カイル達の住まう白亜の離宮では、今日も朝から騒がしい。

早いもので、あの「少女奴隷」がこの離宮にやってきて2か月。


なんと彼女は「木許キョーコ」という6歳の日本人だった。

キョーコ曰く、気づけばこの世界に来ていたとのこと。

そして話を聞くに、「ゆり子」が元いた時代より少し昔の日本からココに来たようだった。

いるんですねー!異世界トリッパー!


キョーコは早々にカイルに懐いた。

それもそのはず、カイルはキョーコの顔だちを見てどー見ても日本人だよなー、と断定し「コンニチワ?」と日本語で声を掛けた。

するとキョーコは零れんばかりに目を見張ると、次の瞬間顔をクシャクシャにしてカイルにしがみ付きながら、号泣した。


そして訳も分からずこの世界に飛ばされ、この世界の人間に捕らえられ、あの店に連れていかれた事を嗚咽混じりに語ったキョーコ。

それもそうだろう。

6歳といえばあちらの世界でまだ小学1年生。


そんな子がいきなり親と別れ、異世界の言葉も通じない国に放り出されれば、肉体的にも精神的にも限界になるのは想像に難くない。

ともあれ、偶然にしても彼女を救う事ができて良かったと心底思ったカイルだった。


そして、現在。

リンゼ、フレデリク、アンジェと共にキョーコを連れて王都からこの離宮に戻って来ていた。

今は耳が聞こえるようになったリンゼは、本の読み聞かせの勉強をしている。


その合間を縫って、キョーコにもこの世界の言葉を教えているカイル。

唯一日本語が解る事もあり、必然と彼女の教育係をかって出ていた。

しかしこの2人。


初対面の時さほど相性は悪くないと思ったのに、日が経つにつれてドンドン険悪になっているようなのだ。

まぁ1番の原因はうぬぼれでもなんでもなくカイル自身なのだが。


片や、異世界で初めて出会った日本語のしゃべれる人。

片や唯一の兄弟で、優しく時には厳しく育ててくれた兄。

彼らがまだ幼い事もあり、カイルに強く依存しているのだ。


しかしカイルは1人だけ。

当然、奪い合いの掴み合いになってしまう。

今日も今日とて、カイルのベッドの中で一緒に寝ていたリンゼ(最近朝方寒いせいか、よく潜り込む)を発見したキョーコが、「ズルイ!!」と言いリンゼに掴みかかったのだ。

しかしリンゼも負けてはおらず、2人して取っ組み合いの喧嘩に発展したのである。


『カイルを!ひとりじめしないで!!』

「ううううー!ああああ!!」

「…はぁ…。」


ベッドの下の絨毯でドタンバタン!ゴロゴロと暴れまくっている。

最近、この2人の喧嘩は見慣れた光景になりつつあった。

最初は慌てて仲裁に入っていたカイルも、最後はとばっちりで「カイルはどっちが好きなの!?」と言われる始末。


なので面倒臭くなり、彼らが落ち着くまで静観するようになった。

そんないつもの光景をため息混じりで見つつ、カイルの開いた部屋の扉から顔を覗かせたのはフレデリク。

彼はいつもの2人の喧嘩を見て苦笑した。


「相変わらず、おモテになりますね?カイル様」

「……嬉しいけど、ウレシクない…。」


揶揄う様子のフレデリクに、渋面をするカイル。

カワイイ2人に好かれるのは嬉しいが、一方は同性の小さな女の子。

一方は異性だが超美少女で、しかし血の繋がった弟。


だが心情的には2人を自分の子供のように感じているカイル。

「ゆり子」はアラフォーの未婚で亡くなったはずが、まさかの異世界にて9歳で2人の子持ちとは…どういう因果なのか…。

思わず遠い目をするカイル。


「…キョーコが年頃の女の子で私も男で。リンゼも正真正銘兄弟じゃない女の子だったら、超ウハウハだったろーになー。」


そう。

アニメとかで男が主人公の、三角関係が織りなす鉄板ラブコメのようだ。

思わずボソッと言ってしまってから、ハッと気づく。

しまった!!フレデリクには自分が女だってこと言ってなかった…?カイルはギギギと振り返り彼を見る。


「ああ!やっぱり。そうだったんですねー。」


フレディはニッコリ笑うが目が笑っていない。

サーッと青ざめるカイル。


(やっぱりって何?!バレバレだったって事!?…てゆーか、何うっかりポロッと言っちゃてるんだ自分ーー!!)


と頭を抱え込みながらしゃがみこんだカイル。

すると、目元を和らげたフレデリクが彼女に近づき目線を合わせて同じくしゃがみ込む。

そして彼女の顔を覗き込みながら今度は柔らかく笑った。


「カイル様はいつも表では完璧な王子を演じていらっしゃいますが、心を許した者には結構うっかりで抜け作ですよ?でもそれが短所というわけでは無くて、周りの者が助けてあげないとって思うし、俺も守ってあげたいとも思います。」


それを聞いたカイルは恐々顔を上げる。

フレデリクは微笑みながらつづけた。


「だから、俺的にはやっと話してくれたかって感じですけどね…?」


フレデリクは、どうやらカイルがいつ秘密を打ち明けてくれるのか待っていたらしい。

…何か褒めていない事も言われた気がするが、ホントに…?と目で問うカイル。

ええ、何年貴女の側にいると思ってるんですか?と言おうとしたフレデリクがカイルの肩越しを見て硬直する。


いつの間にか喧嘩が終わり、絶対零度の視線をこちらに向けていたリンゼとキョーコ。

髪や服を取り乱したままの2人はとても殺気立っていた。


『…おもわぬ、ふくへいがいた…。』

「あう。」


と日本語で言ったキョーコにコクっと頷くリンゼ。

キョーコはこの世界の言葉を勉強しているが、まだまだ満足にしゃべれない。

…てか、キョーコは幼いのに何故にこんな難しい言い回しを知っているのか…。


一方リンゼは日本語を全く解らないくせになぜか会話が成立している2人

。実は仲いいんじゃね?

そして2人は次のターゲットをフレデリクに決め、殺気立ったままジリジリと間合いを詰める。

フレディもキョーコの日本語の意味を解した訳ではないが、何となく雰囲気でわかったらしい。


「いや、あの、俺はそういう意味では!!」


と後退しつつ2人に良い訳をするが聞く耳もたない。

思わず彼は目でカイルに助けを求める。

がしかし、カイルは見た!


肉食獣と猛禽類が捕食対象を完全にロックオンしているところを!


(あっ!コレは無理ゲ―だ!)


と一瞬で悟るカイル。

そして自分は関係ないとばかりに


「あー、じゃ!そういう事で!」


と立ち上がってそそくさ去ろうとしたが、

「「「ガシッ」」」

と3方向から掴まれた。

フレデリクも自分を置いて行こうとしたカイルにプチ切れている。

そして三者三様責められた。ひっっ!!


『にがさない!!』

「あうーあ!!」

「逃がしませんよ!!」


カイルは両手を頬に当てて、思わずムンクのように叫んだ!!


「イーヤー!誰かたーすーけーてー!!」






ザカルーン公国…ヒロインの住む国。

かつては魔法とそれに付随する産業によって栄えた魔法国家だったが、1000年前に突如魔法が消失。

その原因は未だ解明されていない。

消失以後魔法に代わる発明品を次々と開発。現在は大陸における他の追随を許さない近代国家へと成長した。




…という白昼夢を久々に見た、カイルヴァイン・フォン・ミューラー=シュヴァイツェル。

只今彼女は、ザカルーン公国首都であるザッハに降り立ったばかりだった。


(今更ながら、「ヒロイン」か…。やっぱり乙女ゲーなのかなー?この世界…。)


…と思わず自分の世界に入ってしまった。


そんな事を考えながら、カイルはぼんやりと7日前を思い出す……

シュヴァイツェルの離宮にてリンゼとキョーコの教育に日々追われていたカイルは、すっかりカスパールの依頼を忘れ去っていた。


『シドイわ、カイル!!アタシの事忘れて若い子ばっかりかまって!!』

「ギャーーーーっっ!!!?」


今現在 浴室にて体を洗っていたカイルは、突然現れた光の玉に慌てて近くにあった風呂桶を投げたが、残念!やはりすり抜けられた。

浴室は王家専用の豪華な造りで、総大理石の大浴場といった感じ。

随所に純金と凝った細工を施してある。

扉の外側で待機していたアンジェとフレディが、カイルの声に反応して扉を叩く。


「カイル様!いかがされましたの!?」

「カイル様!!大丈夫ですか!?」


桶を投げた後もスルーされて悔しかったのか、カイルは近くにあるものを次々に投げるが全然あたらず…。

その間にも光の玉のカスパールは、ヒョイヒョイ避けながらフヨフヨと飛び続ける。


『ほほう?お主―、おなごじゃったんかい?』

「ギエーーーーーっっ!?」


ガガーンっ!!

ババッと自分の身体を見下ろす。

すっかりマッパのままなのを忘れて物を投げていたカイルは、すぐさまマーライオンの如く 石像の口からザーザーお湯の流れる浴槽へザバーっと入るが時すでに遅し…。

カスパール(玉)は嬉し気にピカピカ光る。


『ほーか、ほーか。コリャいい事を知ったのう?』


今この間も尋常じゃないカイルの叫び声に心配したフレディが浴室に突入しようといていたが、カイルは扉に向かって「大丈夫だ、大事ない。」と言って止めさせる。

そして振る返り様カスパールを湯の中からギッと睨み、低い声で言った。


「…わ、ざ、わ、ざココへ、一体何の御用でしょうかね。カスパール様?」


そこでハッと本来の目的を思い出したカスパールはそれでもニヤニヤ(想像)しながら話し出す。


『おおっ!そーじゃったわい。お主!ワシの頼み事、忘れとるじゃろが!!』

「……んん?あーーーっ!!」

『あーーっ!、じゃないわい、全く…。なかなか用事を済ませて塔に来んからおかしいのう?と思っとったら案の定じゃ!』

「いや…面目次第もございません…。」


ちょっぴりプンすかおこなカスパール。

玉の方もちょっぴり赤く点滅している。

流石に今回は自分が全面的に悪かったので、すぐ謝まったカイル。

しかし悪かったとはいえ乙女の裸を見られたのは痛恨の一撃だ…。


『まァ、そんなまっ平らじゃ全然物足りんがのー。仕方ない、今日はお主のソレでチャラにしてやるかのう?』


ヒョっヒョっヒョっと笑うカスパール。

くーっ!!セクハラだ!!セクハラジジイだ!!やっぱりエロ設定有りのエロ仙人だった!!

…とあいかわらずの湯の中でブクブクと唸るカイルなのだった。



そして…後日。

目的を果たす為ザカルーンの首都、ザッハへ旅立ったカイルとフレディ。

しかし石の城壁にグルリと囲まれた基本、石造りのシュヴァイツェル王都ウォルゲインに比べて余りにその様相が違いすぎた。


確かに先程の白昼夢と、王宮での諸外国情勢に関する勉強でザカルーンが近代的に発達しているとは知っていたがここまでとは…。

街中は路面電車が走り、整備された道路で車が走り。

前世のビルのように高層な建物や、公衆電話らしきものも設置されている。


例えれば、高度成長期の日本のような生活レベルだった。


(いやーすごいわー。やっぱり魔法が無いと、ファンタジー色より現実寄りになるのねー)


とカイルは感心しきりだった。

が、フレディは見た物見た物初めてなものばかりのようで一々アレ何ですか!?

コレどうやって使うんですか!?と興奮して煩い。


そうなのだ。

今回の旅は2人だけ。

流石にコブ付き×2では身動き取れなさそうなので。


しかし、お子様2人を説得するには大変苦労をした。

なんとかアンジェと離宮の皆さんに彼らを抑えてもらっている。

なのでサクサク依頼を終わらせないと、後が大変…。


という訳で依頼の内容、『カスパールのお孫さん探し』。

だがカスパールから孫の住所が書いてある地図を借りてきた。

因みにこの地図、ザッハに着くまで開くな!と言われたが…。でもまぁ楽勝?と思っていた。

思っていた…が!!


「なんじゃコリャーーー!!!」


カイルは開いた地図を破かんばかりに怒りあげる。

慌ててフレディがカイルからサッと地図を奪い去った。

「…どうしたんですか?いったい…?」とフレディも地図を見る。


「……あーー。」


彼も目が遠くなった。

カスパールの地図はなんと!今から100年前のものだったのだ。


(何!?100年前って!!それでなくともこれだけ近代化が進んだ街、100年も経ってたら全く違う街じゃん!!)


憤懣やるかたないカイル。

フレディは地図を見ながら冷静に問いかけた。


「どうします?」

「…どうしますも何も、一応この×(バツ)ついてるとこに行ってみるしかないんじゃないのか?他にあてがある訳でなし。」

「ですよね…。」


カイルは地図にある×印をトントンする。

恐らくそこがカスパールの孫がいる所だと思うのだが…。

そして顔を見合わせると、2人してはぁ…、と大きなため息を吐いた。


着いた早々前途多難になってしまったようだ。

だが、いつまでもこんな街中に突っ立っていても仕方がないので、取りあえず移動するカイル達。

それでなくとも初めての土地、かろうじて言葉は通じるが今持っている地図は役に立たない。


2人はザッハの中心地をグルグル動き周り、行く先々で人に聞く。

やっと案内所?だか交番?だかで少し前の古い地図を引っ張り出してもらい、照らし合わせながら何とか目的地らしい所に辺りを付けここまで来た。


しかしながらどっぷりすでに日が暮れてしまい、さすがにこんな時間の訪問は失礼だろう、ということで本日は諦めた2人。

街中はポツポツ街灯が灯り始めている。

普通に前世とあまり変わらない形状の西洋風な街灯だ。


多分白熱灯辺りか…。

カイルは目的地近くの道路にしゃがみこんだ。

今回カイルの変装は一般庶民仕様だ。


フレディと合わせ傍目から見れば、少し歳の離れた兄弟というところか。

しかしカイルは滲み出る気品が隠しきれておらず、なんとか、ウィッグとハンチング帽を深めに被って顔を隠している。


「だぁーっっ!!疲れたーー。お腹空いたーー!」

「…先程見つけた宿泊施設で宿を取りましょうか?」

「うん、頼むーー。」


歩き回って汗をかいた上に、ウィッグと帽子で頭が蒸れて仕方のないカイルはせめて帽子だけは取り、その帽子でパタパタとあおぎながら答える。

その様子をちらりと横目で見ながら、フレディは「わかりました、少しお待ちください。」と言うと、スタスタ目的の宿へ向かう。


(…あー言うところ、演技してる訳でなく 素で王子っぽくないんだよな−。)


…と彼はカイルに感想を抱きつつ、 案内所で貰った最新の地図で目ぼしい宿をチェックしていたようだ。

カイルはカイルで彼の後ろ姿を見送りながら思う。

忘れがちだが彼はなかなかのイケメン。


道行く女性がちらほら熱い視線を送っているが、本人は慣れているのか普通にスルーだ。

リア充め!!でも、まあうん。

フレディもやっとウチに馴染んできたなぁ〜と感慨深く思っていたカイルだった。

が、絹を裂くような女性の悲鳴が思考を遮った。


「キャーーーーー!!」

「え……何?」

「カイル様!!」


素早くカイルの元に戻って来たフレディは、彼女を後ろに庇いつつ前方を鋭く見据えている。

混乱している人々がこちらに向かっているその更に後方から、何か黒っぽい大きなモノが走ってきた。


「魔獣だー!!はぐれ魔獣だーー!!」


と人の声がそこここでした。

街中は一時騒然となり、悲鳴と怒号が飛び交いパニックに陥っている。

人々がカイル達のいる方へ押し寄せる。

カイルは身を乗り出すようにフレディの後ろから前を見た。


「魔獣!?」

「…ええ。俺も騎士訓練生時代に、国外演習で見たきりでしたが…間違いないようですね…。」


あれが魔獣…。

周りが薄暗いのでまだ全体は解らないが、かなり大きい獣のようだ。

たしか昔この世界の文献で読んだ時は今や希少の生き物で、天然記念物扱いと書いていたと思うが…?

コテンと首と傾げるカイル。


「この国では普通にいるのか?」

「イエ!!違いますから!!そこ等辺の動物と一緒にしないでください!!」


頓珍漢なカイルの答えに、思わず振り返って突っ込むフレディ。


(失礼しました…。)


ちんまり小さくなるカイル。

しかし脅威が去った訳ではないので、フレディは向き直ると帯剣に手をかける。


「あなたは俺が守りますから、絶っっ対に離れないで下さいよ…?」


(おお?)


驚いたように目をパチパチさせるカイル。


「…なんだかフレディがカッコイイ事言ってる…。」

「…アンジェさんとリンゼ様とキョーコからキツく、それはもうキツーーく言われたもので!!」

「あ、やっぱり?」


顔は正面向いて見えないが、恐らく渋面だろうフレディ。

カイルは離宮を旅立つ時の事を思い出して、遠い目をした。


(だよねー。あの3人、メチャメチャ今回の旅ゴネてたもんな…。)


と言っている内に魔獣が目前まで迫っていた。

フレデリクが腰に佩いている剣を抜刀する。

魔獣は言うなれば、バッファローと狼を掛け合わせたような四足歩行の動物で、前世で言う…アレだ!ケルベロス?みたいに頭が3つもあった。


そして全長も3m近くとデカい。

だが、目のギラつきが尋常じゃなく、口も涎がそれぞれダラダラ零し鼻息も荒い。

かなり興奮しているようだ。

危険なのは解っているが、思わず身を乗り出して魔獣を観察するカイル。


(アレって某有名RPGでいうメダ○二(混乱)もしくはバー〇ク(狂戦士)になってる!?)


魔獣はそれぞれの頭が雄たけびを上げながら、いったん立ち止まった。

そして周りを威嚇しながら前足をガッガッと蹴っている。


「ウガァァァー!!ガルルルルゥー!!グォォォーっ!!」

「カイル様!下がってください!俺が奴を引きつけます!!」

「わ、わかった!!」


邪魔をしないようカイルが側を離れ、フレディが間合いを取りまさに先制を仕掛けようとした時だった。


「待ってくれ!!!」


魔獣の背後から突如現れたその女性は、手に持った銃?のようなものを魔獣にバンっバン、っと打ち込んだ。


「グォアァァァーーー!!」


打たれた魔獣は突然の攻撃に振り返ると、怒りの雄たけびを上げ、その女性に襲いかかろうとする。

が、魔獣(達?)の眼がだんだん朦朧とし始め 瞬く間に動きが鈍くなると、終にはドスン、と大きな音を立てて倒れてしまった。

その間、時間にして10秒ほどか。

フレデリクはやることがなく固まったままだ。


「……。」

「…見せ場無くなったな、フレディ。」

「…うるさいですよ、カイル様。」


フレディに近づきながら、おちょくるカイル。

ジロっと彼女を見た彼は仕方なく剣をしまう。

先程の魔獣を攻撃した女性は休む間もなく後から来た仲間らしき者と一緒に何かを話している。

そして倒れた魔獣を車に積んでいた檻に入れると、


「…では、アジトまで頼む。」


と言いながら彼女は指示を出して、仲間はそのまま魔獣を積み持っていってしまった。

女性はその場に残り、カイルとフレディを見て、「あっ!」と言うと走りながら近づいて声をかけてきた。


「やあ、さっきは済まなかった!君たちがあの子を引き付けてくれたおかげで、迅速に確保できた。」


ありがとう、とさわやかに笑う。

先程の魔獣を倒したその女性はアンバーの瞳に長い赤髪を1つにひっつめ、前世でいう迷彩服のような服を着ていた。

北欧系の白い肌の持ち主だが、姉御肌のようなりりしい美女だった。


男のような言葉遣いも自然と似合う。

彼女は2人を認めると少し首を傾げてアレ?という顔をする。


「…君達は、えっともしかしてカイル…とフレデリクだったかな?」


やー久しぶりだなー!その節は世話になった。

と彼女はにこやかに笑い、カイルの肩を叩きながら言う。

そのあまりに親密そうな態度に2人はえ?と顔を見合わせる。


フレディ知り合い?いえ、カイル様は?知らない。

というやり取りを目でした2人。それを見た女性は苦笑する。


「忘れるなんて酷いな…。まぁいいや。あ、そうそう!君達の仲間をウチのアジトで預かっているんだが、別行動でもしてたのか?いや、偶然にしてもココで会えて良かったな!」


やー、運がいい!!

…と彼女は言うが、(忘れて酷いのは、もういいんかい!!)と言う突っ込みはさて置き、カイル達は彼女が何を言っているのかサッパリ解らない。

カイルはおずおずと質問してみることにした。


「あのー、私たちの仲間って?そもそも我々はあなたと初対面…なはずですが?」


と言ったカイルに彼女はジーッと2人を交互に見つめると、少し考え込んだ。


「でも、2人の名前は合ってたよな?」


カイルとフレディは頷く。

そしてまたムーっと眉間に皺を寄せて考えていたようだが、ものの数秒しない内に


「ダぁーー!!もういい!メンドクサイ!私はセイラ。とりあえずは君達が魔獣確保の協力をしてくれたので、礼を兼ねて我々のアジトに招待したい。」


これではダメか?と首を傾げるセイラ。


(てか、考えるの苦手なんですねセイラさん…)


ちょっと生温かい目になるカイル。

一番ソコが重要だと思うんですが…。

だが色々と不審な部分はあるが、自分等の預かっている仲間というのも気になる。


フレディに「、行ってもいい?」と聞いたら「あなたのお好きなように。」と言われた。

それに彼女はカイル達を騙すような人物には見受けられなかったので、結局はセイラのアジトへ行くことにしたのだった。





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