テンプレ通りの展開 〜異世界転移した宮本くんの場合〜
再びテンプレの限界に挑戦してみました。
それは、テンプレだった。
「申し訳ありません、手違いで死なせてしまいました。元の世界で生き返らせることはできなくて…」
「えっ」
道を歩いていた。気がついたら、死んでいた。
どうやら、神様があれこれと実験していたところに運悪く立ち会い、次元の裂け目がかまいたちのように体を切り裂いてしまったらしい。目撃者多数。生き返ったりしたらパニックである。
これを、テンプレと言わずしてなんとする。
「お望みの能力を差し上げます。これでお詫びとさせていただけないでしょうか」
「悔いがないといえば嘘だけど、元の世界にはどうやっても戻れないんですよね」
「申し訳ありません…」
…
「まあ、テンプレ通りにいこうか。異世界で好きなように生きたいのですが」
「わかりました。早速、用意いたしましょう」
そういうわけで、異世界転移することにした。神様にチート能力をもらって。
今日まで高校2年だった、宮本一郎、男。
ちなみに、異世界の常識を教えてもらうため、リーという妖精の少女も同行することになった。
もちろん、これもテンプレである。
◇
転移先の森の中。
「だ、誰か助けてー!」
「あらよっと、いつの間にかアイテムボックスにたくさん入っていたナイフの乱れ打ち!」
「すごい! 冒険者ランクC以上じゃないと倒せないシルバーウルフをあっさり倒すなんて!」
「説明ありがとう、町娘っぽいお嬢さん。でも、ナイフ半分以上なくなっちゃった。まあいいか」
「いいかじゃないよ、ミヤモト! せっかく神様が用意してくれた武器をあっさり使い捨てにして!」
「いいんだよ、リー。僕は好きなように生きたいんだ。助けたかったから助けたんだ」
「むう」
◇
町の入口。
「身分証がないのか? どんな僻地から来たんだ…魔力検査をする。こっちに来い」
「はーい」
「な、なんだと、検査用水晶が割れた!?」
「あらら」
「ちょっと、ミヤモト! 魔力放出を手加減しないと、面倒なことになるわよ!」
「いいんだよ、リー。僕は好きなように生きたいんだ。面倒なことになったら逃げればいいさ」
「もうー」
◇
町の冒険者ギルド。
「お金がないとどうにもならないからなあ。シルバーウルフを売ろう」
「おい、そこのガキ! 初心者が調子に乗ってんじゃねえぞ! その魔物を置いて出ていけ!」
「なぜに。あ、無理矢理奪おうとするの? それはイヤだなあ。ほいっ」
「うがあああ!? ナイフで手が、手がああああ!!」
「ミヤモト、いきなりなにしてんのよ! 騒ぎになったら、乱暴者とかに目をつけられるじゃない!」
「いいんだよ、リー。目をつけられたら、かたっぱしから倒せば。僕は好きなように生きたいんだ」
「えええ…」
◇
冒険者ギルドの受付。
「申し訳ありません、騒ぎを起こしたあなたから魔物の素材を買い取ることはできないとギルマスが」
「あっそ。じゃあ、ギルマスと話をしてくるね」
「え、ちょ、ちょっとお待ち下さい!? え、ギルマスの部屋に勝手に!?」
「なんだ貴様は!? あの初心者か! どうやら、痛い目に合わないとわからないようだな!」
「この程度の剣さばき、スキルで楽々かわせるね。ふんっ! はっ! ほっ!」
「や、やめてくれえ! 買う! 買い取るから、もうナイフで突き刺さないでくれえ!」
「ミヤモト、容赦ない…」
「リー、僕は好きなように生きたいんだ。容赦なんてしないよ」
◇
ギルマスの部屋の続き。
「ところで、なんで買い取らなかったの? 正直に白状しないと、回復魔法かけないよ」
「しょ、初心者なら、後で安く買い叩けるから…」
「おかしな理由だね。回復するのやめるよ。正直に話したら回復するなんて約束してないし」
「ミヤモト、酷い…」
「酷い? なんでなの、リー? ギルマスなのに初心者から素材ぼったくろうとしたんだよ?」
「で、でも、ギルマスを苦しめて、ますます目をつけられて…」
「手を出したのは向こうからだよ。僕は好きなように生きたいんだ。理不尽な対応はお断りだよ」
「ああ、なんか、お付きでいるのがだんだん不安に…」
◇
町の宿。
「いらっしゃいませ! あっ、森で助けてくれた人! あの時はありがとうございました!」
「やあ、ここの娘だったのか。こちらこそ、シルバーウルフが高く売れてね」
「そうですか! 助けてくれたお礼に好きなだけ泊まっていって下さい! 命の恩人ですから!」
「いやいや、そういうわけにはいかないよ。むしろ多めに払うよ」
「ねえ、ミヤモト、可愛い娘だからって、調子に乗ってない?」
「ヤキモチは見苦しいよ、リー。もともと、この娘のおかげで素材が手に入ったんじゃないか」
「や、ヤキモチってわけじゃあ…。ただ、いざと言う時のお金も必要だと…」
「僕は好きなように生きたいんだ。また魔物を倒して売ればいいだけ。あのギルマスはもういないし」
「そ、そうだけど…」
◇
数日後。
「ギルマスを無理矢理引退させたのはお前か! 我々衛兵隊が逮捕する!」
「なんで逮捕されるの? 手を出してきたのは向こうだよ」
「黙れ! 領主様の命令だ、大人しく縛につけ!」
「イヤだよ。ほいほいっと」
「ぐああああああ! ば、バカな、空からナイフの群れが押し寄せてきた!?」
「そういえば、ナイフ生成のチートをもらってたんだよね」
「え、お付きの私が知らなかったよ、ミヤモト!?」
「リー、僕は好きなように生きたいんだ。リーにいちいち言わないよ」
「神様も教えてくれなかったのが、地味にショック…」
◇
町の郊外。
「貴様か! この町の衛兵隊を妙な力で殲滅したのは! 領主の依頼で、王国騎士団が処刑に来た!」
「なにそれ。でも、ならこちらも容赦しなくていいよね。『アーススピア』!」
「がああああ!? あ、足が、地面から湧き出た無数のナイフが足を貫いてええええ!?」
「あー、ナイフ魔法って便利だなあ。あ、そーだ。ひょいっと」
「な!? 余は、なぜいきなりここに!?」
「え、瞬間移動!? ちょっとミヤモト、私それも知らなかったよ!?」
「ねえ、王様。騎士団の団長が僕を処刑するって言ってたけど、本当なの?」
「し、知らん。団長が勝手にやったことだ! ここの領主とは懇意にしているからな」
「ならこの人、嘘をついて騎士団を動かしたんだ。処刑されるのは誰かな?」
「こ、この団長を捕らえよ!」
「そ、そんな、陛下!? 私がいなくなったら、誰が外敵からこの国を守ると!?」
「僕は好きなように生きたいんだ。そのためなら、国の防衛とか関係ないよ」
◇
王国の国境付近。
「ふははは、騎士団がいなくなったこの国など、恐るるに足らず! 全軍、侵攻せよ!」
「『スカイハイ・シャワー』!!」
「かはっ…!? ごほあああああああ!?」
「四天王を筆頭とした魔族達に、神聖魔法付加のナイフが雨あられのように次々と限りなく…」
「リー、僕は好きなように生きたいんだ。国が攻められてたりしたら、おちおち生活できないからね」
「王様をさらったり騎士団長を追放したりした人が何を言ってるかな…」
◇
そして再び、町の近くの森の中。
「非常識、規格外、自重知らず、チート全開、…私に何ができるというのですか、神様」
「リー、さぼってないで、薬草のあるところを探して。今日中にポーション10本分を採取しないと」
「なのに、勇者にも英雄にもなろうとせず、毎日毎日薬草の採取ってどういうこと!?」
「僕は好きなように生きたいって、いつもいつも言ってるじゃないか。魔物は怯えて人を襲わなくなり、僕の魔力に口を出す人もいなくなった。ギルマスは品行方正の人に代わったし、領主も追放された。国王は力だけの権威主義者を王宮から一掃したし、魔族の王とも同盟を結んで仲良くやっている。なんで勇者や英雄になる必要があるの?」
「せめてハーレムでも作れば、テンプレっぽくなるのに。宿屋の娘、ギルド受付嬢、元領主令嬢、第一王女、幼女魔王。これだけ揃ってて、なんで…」
「僕は、リーだけで十分だから」
「えっ」