1.目覚め
初投稿です。
かなり思い付きで書き始めました。ストーリーは多少キーワードとずれてくる可能性があります。
突然、まるで何かが爆発したかのようなけたたましい音に起こされた。
ぼんやりとした視界に、赤い光が映る。
・・炎だ。目の前にある巨大な鉄の塊、エンジンが燃え上がっている。
まるで、鈍い光を放つ銀色の怪物がうなりをあげて火を噴いているようだ。
私は座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、部屋の隅に設置された消火器を取り出し、高さ2メートルはある巨大なエンジンの炎に向かって吹き付ける。
だが、炎の勢いは止まらない。 - だめだ、私一人ではどうしようもない。
隣の部屋には、私のほかにもう一人整備士が待機しているはずだ。
「おい! 誰か、手を貸してくれ! エンジンに火が付いた!」
だが、なんの返答もないので、左手で思いっきりドアを何度も叩く。
「おい!聞こえないのか?!、このままだとエンジンがいかれちまう。そうなったら、俺もお前もまた今の職を失って、下の階へ降格だぞ?」
ようやく、隣の部屋からガタンッと音がして、人が動く気配がした。
ドアが開く。中から、やせ型で中背の、ぼさぼさのブロンドヘアの男が出てきた。
男は一瞬私の顔を観た後、すぐにエンジンの炎に気付いて、「くそったれ」と吐き捨てるようにつぶやいた。
ブロンドヘアの男は一旦隣の部屋へ戻り、洗面台へと向かう。
近くに置いてあった布を観ずに浸し、覆いかぶせるように炎へ布を叩きつける。
私も、消火器で応戦する。だが、火の勢いはなかなか弱まらない。ブロンドヘアの男が来ている作業服の左袖へと着火した。
「くそが!」と、ブロンドヘアの男は叫び慌てて、右腕で左袖をはたき、火を消した。
ブロンドヘアの男は、泣きそうな顔をして私に視線を向けた。
私は一瞬、このエンジンに見切りを付けようかと考えた。しかし、ここで都合よく、エンジンが動く音が弱まってきた。
それにつれて、炎の勢いも弱まってきた。
「おい!いまだ!」私が声を張り上げて言うと、ブロンドヘアの男は元の表情に戻り、また布きれを手にして、炎へ叩きつけ始めた。
数分間、炎と格闘し、ようやく消化に成功すると、私は深くため息をついて、さきほどまで居眠りをしていた椅子に再び腰を下ろした。
ブロンドヘアの男は両手を腰に当て、上を見上げながら、ゆっくりとその場を何度か回った。そして、視線を天井から私のほうへ向けたかと思うと、
両手をあげてかすかに失笑した。
「冗談きついぜ。初日からなんでこんな目に会わなきゃならねえんだ。俺が何したっていうんだよ」
男は、こみあげてくる憎しみをこらえることができず、エンジンに向かって叫び始めた。
「こんなクソみたいなエンジンなんの意味もねえよ!俺たちはどうせこの船に生まれて、この船で死ぬ運命なんだ!」
男は右手で拳を作りエンジンを思いっきり殴ったが、その結果は誰もが想像つくことだ。
「・・ッ、いてえよ、くそが!」
私は、右手を抱えて蹲るブロンドヘアの男の姿を観て、鼻で笑った。男はそのことに気付かなかったようだが。
目が覚めたとき、私は現在の時刻がわからなかった。だが、今はわかる。このエンジンが止まったということは、AM 3:00だ。
船のエンジンが毎日、決まってこの時間に止まる。そして、AM6:00になるとまた再稼働する。
炎を噴いたのがおそらく今から20分前か、30分くらい前だろう。
もし火を噴くのが1時間前だったとしたら、お手上げ状態だった。
もし一時間前だったとしたら、私は「選ばれし乗員」にこの事故を報告して、エンジンの強制停止を依頼しなければならなかった。
エンジンを強制停止する権限をもつのは、「選ばれし乗員」だけだ。
そして、私とこのブロンドヘアの男は彼らの説教を喰らい、「整備士」から、「配管工」に降格されて、
この船の一層下へと配置転換されていたかもしれない。だが、実際はそうならなかった。不幸中の幸いだと思った。
まだ真夜中だが、私の目はすっかり冴えてしまった。私はエンジンルームから出て、エリアD-13内を散歩することにした。
エンジンルームから出てすぐに、大きな球状の窓がある。漆黒の闇の中に、輪っかのかかった惑星が見える。丁度、私の顔と同じくらいの大きさだ。
一体ここから何光年、いや、何万光年はなれているのだろうか。それとも、実はもっと近いのだろうか。私は手を伸ばして、その星をつかむしぐさをしてみせた。
もう、この船の乗組員は誰一人として、かつて人間が住んでいた地球という惑星のことを知らない。
その地球という惑星には陸地があり、海があったことを知らない。
浜辺に立って、太陽と海を眺めるという感覚を知らない。
この船が宇宙に飛び立って、今日で10021年と124日が過ぎたと記録されている。
地球は10015年前に、汚染された大気と、放射能と、太陽からの紫外線を浴びる死の惑星となった。
我々の祖先は、この船に乗ってかろうじてその死の惑星から逃げ延びた人たちだ。
だが、逃げるにしても、どこへ行けばいいかは誰にもわからなかった。ひとまず逃げただけだ。
その中には、ひょっとすると、人類は宇宙を当てもなく放流してるうちに、新たな理想郷へたどり着けると考えていた楽観論者もいたかもしれない。
だが、今現在はそんなことを考える人はいない。何故なら、10021年と124日が過ぎても、我々はどこにもたどり着けていない。
この宇宙にとっては、一万年はほんのブレイクタイムだろうが、我々にとっては気が遠くなる時間だ。
そして、一人の人間の寿命など、この宇宙の空間からすればまばたきする時間にもならないのだろう。
こうして、窓から宇宙の空間を見るたびにひどい孤独感に苛まれる。
- きっと、もう私たちしかいないのだ。そんなことを考える。
お読みいただき、ありがとうございました。