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第36話:出来る事、するべき事

 母さんの店に到着した俺達は中へ入った。何だかここに来るのは久しぶりだ。

「あっ、オーア! どうしたんだその手!」

 俺を見た父さんは大慌てでこちらに駆け寄ってくる。

「ただいま。今から説明するからちょっと待って」

「いや、お前……」

「……思ってたよりもややこしい事になってるみたいなんだ」

 俺は父さんを椅子に座らせ、自らも椅子に座り説明を始める。

「まずこの街で起こってた事だけど、暴動だった」

「暴動!?」

「オーア、その怪我はそこでしたの?」

 母さんが心配そうに見つめる。

「まあそうっちゃそうなんだけど……それは後で話すよ」

「それで、オーア兄、何で暴動なんてあったの? 今まではそんな事無かったのに……」

「うん。前にさ、マカフシさんとミノリを助けた事あったけど、覚えてる?」

「覚えてるよ。確か政府がミノリちゃんの力を狙ってマカフシさんを人質にしたんだよね?」

 ヘルメスお姉ちゃんが割って入る。

「あ、あのえっと……その、マカフシさんとミノリちゃんっていうのは……?」

「あーえっと、マジシャンのおじさんと魔法使いの女の子です」

「魔法使いの……」

 ヘルメスお姉ちゃんはその名前を聞いて何やら考え事を始めた。

「あの、ヘルメスお姉ちゃん?」

「あっ、ごめんね。続きを話して?」

「うん。その時に誰かがその情報を新聞に書いて配ってたんだ」

「あったなぁ。……まさか」

「……そのまさかだよ。誰かが扇動して暴動を起こしたらしいんだ」

 誰か……恐らくあの女性だろう。オーレリアと一緒に居たあの人……。

「だが謎じゃないか? それならあの時に暴動が起きなかったのはおかしいだろ?」

「そこなんだ。で、俺が思うにあの新聞は部数が少なかったんじゃないかと思うんだ」

 そうでなければ、あの時暴動が起きなかったのはおかしい。

「えっと、オーア兄は誰が扇動したと思うの?」

「……多分なんだけど、役所で会った人だと思う」

「誰なんだ、そいつは?」

「名前は分からない。でも、女の人だった。実力は分からないけど、多分相当なものだと思う」

 何となくだが、そんな気がした。直接拳を交えた訳では無いが、きっとあの人は強い。

「それと、もう一つ気になる事があるんだ」

「どうしたの、オーア?」

「母さんも見た事あったよね? 前にヘルメスお姉ちゃんに会いたいって店に来た人」

「ええ。ただ、ちょっと見た程度だからどんな人かは知らないけれど……」

 ヘルメスお姉ちゃんが驚いた様な顔をする。

「えっ……まさか……」

「うん……オーレリアさん。彼が居た」

「それって確かオートマタって言ってた人だよね?」

「ピールの言う通り、オートマタの彼が居たんだ」

「ど、どうして……」

 本当にどうしてなのだろうか……彼がトリスメギストスの罪に気付いたとして、どうやってその情報を手に入れたのだろうか? どこからなら仕入れられるんだ?

「俺にもどうしてかは分からない。ただ、彼はこう言ってた。トリスメギストスにはもう命令する権限は残っていない、と」

「し、師匠に権限が残っていない? それは、おかしい様な……」

「どういう事?」

「オーレリアさんはオートマタだよね? お、オートマタは普通、製作者の命令に逆らえない様にされてる筈なの……。だからオーレリアさんが師匠の命令を無視して動いてるのはおかしい気がして……」

 グーロイネ先生が言っていた事と似ている気がする。オートマタは命令を実行するのが使命。そのためには感情は邪魔になるもの。もしかしたらオーレリアには感情が芽生えつつあるのか……?

 マティ姉が口を開く。

「先生も言ってたね。オートマタにとって感情は異質、命令を遂行できないものは失敗作なんじゃないかって」

「マティ、先生ってのはグーロイネ先生の事か?」

「そっ。親父何か知ってるの?」

「いや……昔、何年前だったか忘れたが、あの人の病院で働いてる人が居てな。ある日突然居なくなって、先生もしばらく話しかけ辛い雰囲気になってた事があったんだが……」

 どうやら父さんも先生が話していたオートマタに会った事があるみたいだ。だが、そこまで詳しい事は知らなさそうだな。

「名前は分かる?」

「いや、パッと見ただけだったからなぁ、そこまでは分からん」

「そっか……」

 やっぱり分からないみたいだ。

 少しの間店の中が静寂に包まれたが、その中で最初に口を開いたのは母さんだった。

「……オーア、これからどうするの?」

「母さん、やっぱり俺はトリスメギストスを許せない。あいつを倒すって目標は変わらないよ。でも、今のままじゃどうしようもない……手掛かりを掴まないと……」

「そうね。今のままじゃ何も出来ない」

「だからさ……俺、ちょっと捜してくるよ」

「誰を……?」

「さっき話しに出た女の人、あの人が怪しいと思うんだ」

 父さんが立ち上がる。

「待てオーア! お前自分の状況分かってるのか!? 怪我してるんだぞ!」

「そうだね。でも、ここで逃したら、多分もうチャンスは無い気がする」

 幸いな事にあの人と出会ったのは少し前だ。まだそこまで時間は経っていない。捜そうと思えば捜せる筈だ。

 俺は席を立つ。

「俺は行くよ」

「駄目だ! 暴動を起こす様な奴だぞ! 危険だ!」

「今更じゃないか。俺は今までも、何回も殺されかけたんだ。それでも生きてる。それにあの人は本来悪い人じゃない気がする」

 確信は持てなかった。しかし、心のどこかでそう信じたいという気持ちがあった。

「気がするって……」

「大丈夫だよ父さん。俺は死なないから」

 俺は笑顔を作って見せる。

 すると父さんは諦めた様に溜息をついた。

「……分かったよ。どうせお前の事だ、止めても行くんだろ?」

「そうだね。正解」

「ただし、俺も行く。一人で捜すのは骨が折れるだろ?」

「……ありがとう」

 母さんが静かに席を立つ。

「私も行きますよ」

「母さんはこっちよりも先生の病院に向かって欲しいんだ。怪我してる人が多くて、人手が足りてないみたいだし」

「……そうね、分かった。そっちを手伝ってくるわね。……それと、オーア」

 母さんが俺を抱き締める。

「無理は駄目だからね? 必ず帰ってくる事」

「……うん。分かってるよ」

 ピール達も席を立つ。

「あー! 待って待って私も行くよ!」

「あ、あの……私も!」

 マティ姉はヘルメスお姉ちゃんの手を掴み、止める。

「待ちなってヘルちゃん。ヘルちゃんの役目はそっちじゃないよ?」

「え……?」

 そうだ。彼女の役目は他にある。今は街のそのものがほとんど機能してない状態なんだ。こんな時だからこそ、出来る事をやらなきゃいけない。

 俺は母さんの腕を解いた。

「ヘルメスお姉ちゃん、母さんと一緒に病院に行ってくれないかな?」

「びょ、病院に?」

「怪我してる人が大勢居るんだ。薬の知識があるヘルメスお姉ちゃんは適役だよ?」

「私が……適役」

 ヘルメスお姉ちゃんは少しの間考えていたが、やがて自分で答えを出した。

「分かった。それが皆のためになるなら、私、やるよ……!」

「ありがとう。頼むよ」

 ピールが声を上げる。

「あれー!? わ、私はー!?」

「ピールはオーアと一緒に行ってあげな」

「マティ姉は?」

「あたしはほら、母さんの手伝いがあるし」

「私も手伝えるよ?」

「……いやほら、母さんは一応最低限の知識があるし、ヘルちゃんは薬の知識があるし、あたしも採掘場で働く身として医学の知識はちょろっとあるけど、ピールはねぇ……」

「…………あ、うん分かった。そういう事ね」

 ……どうやら自分自身で納得出来たらしい。確かにかなりの人数が居たし、知識が無い人が居ても何も出来ないかもしれない。

 ピールがこちらに近付く。

「……という事で、私もオーア兄と一緒に捜す事になったよ」

「う、うん。ごめんね?」

「謝らなくてもいいよ! これも家族のため、オーア兄のためだもん!」

 そう、家族のため……早くこんな事は終わらせよう。さっさとトリスメギストスを倒して、皆で笑って過ごせる様にしよう。皆のために……。

「よし、それじゃあ皆! 各自始めよう!」

 父さんのその言葉と同時に、俺達は各々がするべき事を開始した。

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