第27話:懐古の街
俺は目を開ける。
まだ、外は暗いみたいだ。
やっぱり眠れない。中途半端に起きてしまったせいかな……。
仕方が無い。この部屋にある本でも読もう。
俺はベッドから体を起こし、本棚へと近寄る。
確かここの本棚は最初に来た時からあった。中の本を読むのは初めてだけど。
俺は適当な本を手に取る。
これは……何だろう? 『ニキタマ国 歴史資料』? どこかの国の資料か……?
本を開くと、中には『ニキタマ国』なる国の風習や歴史などが書かれていた。
何故だろうか……初めて知る国の筈なのに、どこか懐かしい感じがする。
もしかして俺は……ここの出身なのか……?
もしそうなら、この本にあの球体の事が載っている筈だ。少し探してみよう。
しばらくの間探していたが、あの球体に関する記述はどこにも見られなかった。
しかし、懐かしさはあった。
言葉にするのは難しいが、何と言うか……本来あるべき場所というか……戻らなくてはいけない場所というか……。
この場所……行って見た方がいいかもしれないな。
何か、俺のルーツに関わる大事な何かが見つかるかもしれない。
その時だった。
本に触れていた俺の指が、まるで本に飲み込まれるかの様にページの中に沈んだ。
「なっ……!?」
あまりにも突然の出来事で頭が混乱し、何の対処もする事が出来なかった。
俺は助けを呼ぶ事も出来ぬまま、本の中へと飲み込まれていった。
ふと気が付くと、俺は地面の上に倒れていた。
周りを見渡すと、見た事が無い筈なのに、どこか懐かしい風景が広がっていた。
立ち並ぶ家々は見た事が無い形だ。いや……別におかしな形ではない。家としてはおかしくない。だが、俺が居たあの世界では見なかった家だ。
もしかして、ここがニキタマ国なのだろうか? あの本は転送魔法の道具みたいなもの……?
何にしてもいつまでもここに居ても仕方が無い。調べられそうな事は調べておこう。
俺は立ち上がり、行く当ても無く歩き始めた。
しばらく歩いているものの、一向にこの場所から出られない。
周りの家からは談笑するような声が聞こえてきている。どうやら人はいるらしい。
しかし、何度ドアを叩いて声を掛けても誰も出てこなかった。明らかにそこにいる筈なのに、まるで俺が存在しないかの様に無視された。
俺は目を閉じて、意識を周囲に集中させる。もし本当に誰か居るなら、気配がする筈だ。
しかし、その考えは空しくも外れた。誰の気配もしなかったのだ。
どういう事なんだろうか? さっきから人の声は聞こえているのに、何故気配がしない? 間違いなくそこに居る筈なのに……。
「あら、こんにちは」
そう考えていた俺の耳に、突如一つの声が入ってきた。
あまりにも突然声を掛けられたので、少し驚いてしまう。
声がした方に振り返ると、そこには一人のお婆さんがいた。
「あっ、えっと、どうも」
「見ない顔ねぇ。どこから来たの?」
その人の声はとても優しくて、自然と警戒を解いてしまうほど穏やかだった。
「えっと……気付いたらここに居て……」
「あらあら……そうだったの。それは大変でしょう」
何だ? 何でこの人は俺の話を信じたんだ? 何かおかしくないか?
もし俺がこの人の立場だったら、『気付いたらここに居た』なんて絶対に怪しむぞ?
この人……何か知ってるのか?
「あの、ここはどこなんですか?」
「……少し、歩きましょうか」
そう言うと、お婆さんはゆったりとした速度で歩き始めた。
その後姿は気品に溢れており、この人の育ちが良い事が分かった。
何故だろうな……この人の雰囲気も、どこか懐かしい……。
俺は彼女に合わせ、一緒に歩く事にした。