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第26話:見知らぬ物

 俺は自分の部屋で目を覚ました。どうやら、あのまま眠り続けてしまったらしい。

 誰かが部屋まで運んでくれたみたいだ。

 俺は体を起こす。

 まだ、夜らしい。

 もう皆は寝てしまってるんだろうか?

 俺の頭にはムラードが言っていた事が浮かんでいた。

 俺が埋められた理由。俺が失敗作ではないという言葉の意味。そして、俺自身の過去。

 どれもこれも分からない。いったいあいつは何が言いたかったんだ……。

 ……少し、調べてみようか。

 俺は静かに部屋を出て、階段を下っていく。

 誰も起きていない事を祈ろう。これだけは、俺だけで調べたい。

 どうやら誰も起きていない様で、一階の食卓や居間には誰も居なかった。

 俺は内鍵を開け、外に出る。

 行こう。あの採掘場には鍵は無かった筈だ。


 外は暗くはあったが、煌く星空のおかげで全く見えないという程ではなかった。

 俺は星空を見上げる。

 そういえば、今までこうやって星空をまじまじと見た事は無かったかもしれない。

 こんなに……綺麗だったんだな。ずっと近くにあったのに気付いていなかった。

 星空を見ていると、不思議と心が洗われる様な不思議な感覚がした。

 よし……行こう。ちゃんと、確認しよう。

 俺は採掘場へと歩き出した。



 案の定採掘場には鍵は無く、簡単に中に入る事が出来た。

 ムラードとの戦いのせいで、まだ内部は濡れており、中に置かれていた道具はそこかしこに散らかっていた。

 俺は濡れた地面を踏みしめながら、奥へ奥へと進んでいく。

 この先に俺が埋まっていた筈の場所がある。前に一度だけ、マティ姉から見せてもらった事がある。

 その時に見た限りだと、特に変わった感じは無かった。他の場所と大して変わらない場所だった。

 だが、そこに俺が埋められたという事はそこに何かある筈だ。何かあるから埋められたんだ。

 そこじゃないといけない理由が……ある筈だ。


 先に進み続けた俺は、ついにムラードと戦った場所へと辿り着いた。

 確か、俺はここに埋まっていた筈だ。マティ姉はそう言っていた。

 俺は近くの岩壁を触る。

 やはり、特に変わった所は無い。他の所と同じ、普通の岩だ。

 俺は、ここに埋まっていた。この岩に。

 俺は疑問に感じた。

 ここは普通の岩だ。それなのに、どうやって俺を埋めたんだろうか? 人を一人埋めるとなると、それなりの労力がかかるし、それに痕跡だって残る筈だ。それなのに、掘っている最中に俺が出てくるまで何の違和感も無かったとマティ姉は言っていた。

 そんな事が、可能なのか……?

「何か……」

 俺は周囲を見回す、使えそうな物を探す。

 ここの壁を少し掘ってみれば、何か分かるかもしれない。

 見回していると、近くにつるはしが落ちている事に気が付いた。

 力仕事には慣れていないが、やるしかない。これは俺が自分でやらなければならない。

 俺はつるはしを手に取り、振り上げる。

 今までに持った物の中でもかなり重たい部類で、そのまま後ろにひっくり返ってしまいそうになる程重たかった。

 しかし、何とか耐え、そのまま目の前の壁に振り下ろす。

 金属と岩石がぶつかり合う独特な音と共に、岩が少し削れる。

 大変な作業だが、手応えはある。このまま続ければ、更に削っていく事が出来そうだ。

 俺は再びつるはしを振り上げる。このまま、続けよう。




 どれ位の間、掘り続けていただろうか?

 気が付けば、岩はかなり削れてきていた。

 そんな中、俺は岩の中に何かを見つけた。

「これは……?」

 手を伸ばし、見えている物を軽く引っ張ると、それは簡単に岩から剥がれた。

 それは球体の形をしており、その球体の中には不思議な模様が浮かんでいた。

 いったいどういう技術を使って模様を中に入れているのかは分からないが、これは……俺の記憶には無い物だ。

 その球体は岩の中に閉じ込められていたにも関わらず、傷などが付いている様子はなかった。驚くほど綺麗な形をしていた。

「いったい……何なんだ……」

 初めて見る物体にどうしたら良いのか分からなかったが、何か重要な物の様な気がしていた。

 もしかしたら、こういう物についてはヘルメスお姉ちゃんが詳しいかもしれない。

 そう感じた俺はその球を抱える様にして持ち、採掘場を後にした。




 家へと戻った俺は、なるべく音を立てない様に注意しつつ、自分の部屋へと戻った。

 マッチで蝋燭に火を灯し、明かりを確保する。

 持って帰った球は机の上に置き、転がらない様に初めから部屋にあった本で挟んだ。

 そうだ。日記を書こう。そういえば最近は日記を書けていなかったな。

 ノートを開いた俺はペンを使い、この不思議な球の事について記録した。

 形はほぼ完全な球と言ってもいい。表面には傷一つ見られず、綺麗な輝きを持っていた。その輝きは綺麗ではあるが、どこか心の奥底に入り込んでくる様な不気味さがあった。

 あまり長く見ていると、吸い込まれてしまいそうだ……。

 真ん中に浮かんでいる模様は今までに見た事が無く、該当する記憶も無かった。

 この模様が表しているところはいったい何なのだろうか? 何か魔術的な意味合いがあったりするのだろうか?

 どんなに考えても、まるで分からない。俺の知識では、この物体の秘密を解き明かす事は出来そうに無い。

 仕方が無い。一人で考えるのはここまでにしよう。明日、ヘルメスお姉ちゃんに聞いてみよう。

 俺はペンを置き、火を吹き消し、ベッドに横になる。

「ふぅ……」

 悩みを吐き出す様に息を吐き、天井を見つめる。

 どうも、眠たくないな……下手に起きたせいかな……。

 俺は無理にでも眠るために目を瞑った。

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