第25話:問題解決
病院へ辿り着いた俺達は飛び込むようにして駆け込んだ。
本来なら受付を済ませなければいけないところだが、そんな事を考えている余裕も無かった。
一刻も早く、父さん達の無事を確認したかった。
受付を無視し、俺達は病室へ駆け込んだ。
「父さん!」
そう叫ぶと同時に病室内に居たグーロイネ先生から睨まれる。
「静かにしな」
「あっ……すみません」
病室には父さん以外の人も居た。顔は覚えていないが、恐らく採掘場の人達だろう。
「今は薬で眠ってる。あのちびっ子、実力は確かなようだね」
この口ぶりから察するにヘルメスお姉ちゃんの薬は間に合った様だ。
今はどこにいるんだろうか?
「あの、今はどこに?」
「あの子かい? 今は念のためにここで追加の薬作ってるよ。あの子、錬金術だけじゃなくて医術薬学の知識もあるんだねぇ」
錬金釜無しで作っているという事だろうか? 俺は錬金術に詳しくはないが、あの釜が無くても出来るのか?
マティ姉が肩を叩く。
「あたしはヘルちゃんのとこに行って来るよ。オーアはここにいな、ね?」
「……分かった。そっちはお願いね」
マティ姉はグーロイネ先生に何か耳打ちすると部屋から出て行った。
……ありがとう、二人共。
俺は眠っている父さんに近付く。
体に不調がある様には見えず、先生達が頑張ってくれた事が分かる。他の人達も同じ様だ。
俺は膝をつき、父さんの手を握る。
父さんの手は俺のよりも遥かに大きくて、力強かった。
しかし、それでいてどこか優しさを感じる手でもあった。
俺は、家族というものを詳しく知らない。
だけど、俺はこの人達と家族になれて本当に良かったと感じている。
こんな……俺みたいな何も覚えていない人間を拾ってくれた。家族として受け入れてくれた。それが、堪らなく嬉しかった。
もしかしたら俺にも本当の家族がいるのかもしれない。
あの時、夢で見たあの女性。もしかしたら俺の本当の母親なのかもしれない。
でも、少なくとも今の俺には、この人が親だ。この人達が家族だ。
俺は手を離し、窓から外を見る。
大通りではいつもの様に多くの人達が歩いている。
今の俺には全て敵に見えてしまう。そんな訳は無いというのに……。
俺は俺の命を狙う奴らの事を考える。
あいつらは何故俺の命を狙うのだろうか?
ムラードは俺の事を殺してあの採掘場に埋めたと言っていた。あの場所に何かあるのか? それにあいつは『失敗してなかった』って言っていた。
俺は、何の成功作だ? 何を目的にそうされた? 俺の能力か?
俺の能力……『意識や感覚をリンク、移譲させる能力』。ただのそれだけだ。それ以上の事は出来ない。
あいつらのボスは……いったい俺に何を望んでる? それに俺の力が必要なら、何故俺を殺そうとする? 俺が必要なら殺すとマズイんじゃないのか?
……分からない。あいつらの目的が……。
俺は……誰なんだ……。
俺が考え事をしていると、父さんが小さく声を上げる。
急いで父さんを見ると、どうやら意識が戻った様だった。
「父さん!」
「ん……あ、あれ? オーアか……?」
「良かった……」
「ああ、いやすまんすまん……迷惑掛けたな……」
そんな事ない……俺の方が、迷惑掛けてる……でも、それを言うのはもう止めよう。
「あいつはどうした……?」
「あの敵の事?」
「ああ」
……ここは隠さず、本当の事を言おう。きっとその方がいい。
「あいつは、死んだよ」
「まさか、お前がやったんじゃ……!」
父さんがベッドから飛び起きそうになる。
俺は父さんを止める。
「俺じゃないよ。当然、マティ姉でもない。他の誰かに殺された」
「他の誰か?」
「うん。多分、あいつらの仲間」
「そうか……」
そう。多分、あいつらの仲間。口封じで人を殺す、あいつらの仲間。
俺は父さんに尋ねる。
「起きれる?」
「ああ。大分調子が戻ってきてるしな」
「じゃあ、ヘルメスお姉ちゃんのとこ行こうよ。マティ姉もそこにいる」
「よし! 行こうか」
父さんは体を起こし、ベッドから立ち上がった。
どうやら、後遺症とかは無い様だ。本当に良かった……。
俺は父さんと共にグーロイネ先生の所に行く事にした。きっと、マティ姉達もそこにいる。
診察室に入ると、グーロイネ先生の姿があった。しかし、想定とは違い、マティ姉達の姿は見なかった。
「目、覚めたかい」
「ええ、おかげさまで」
俺は先生に尋ねる。
「あの、あの二人は……」
「マティとちびっ子錬金術師の事かい? あの二人なら、生意気坊やと出掛けたよ」
「生意気坊や?」
「忘れたのかい? あのちびっ子錬金術師がここに運び込んできた奴だよ。あの時は珍しくあんたが怪我してなかったけどね」
あっ……あいつの事か。確かヘルメスお姉ちゃんが昔一緒にいた事がある奴。あの生意気で、ムカつくあいつ……。
「おいオーア? 何の話をしてるんだ?」
しまった……そう言えば、父さん達にはこの話してなかったよな。確か、街を案内してて遅くなったって言い訳したっけ……。
「あの……ごめん。その事は家に帰ったらしっかり話すから、ね?」
「……ハァ……分かった。そうしよう」
良かった……一先ずは納得してくれたみたいだ。
しかし、あいつがヘルメスお姉ちゃんを呼び出したという事は、あの探し物が見つかったという事か? もしそうだとしたら嬉しい事ではあるが、いったいどこに行けばいいんだろう?
「先生。場所とか分かります?」
「さあ? あたしもそこまで知らないよ」
だよなぁ……ここは一旦家で待った方がいいかな?
「分かりました。ありがとうございます先生。俺、ちょっと家の方を探してきます」
「そう。気を付けて帰りな」
「先生。本日は本当にお世話になりました」
「別にいいさ。死んでなけりゃ治す。それがあたしの信条だからねぇ」
俺と父さんは先生に礼を言い、家へと向かった。
家に帰ると二人共先に帰っていた。
どうやら、もう要件は済んだみたいだ。
「おかえり~。意外と早かったね」
「おかえりなさい」
「おお、ただいま。悪かったな心配掛けて」
父さんはいつもの笑顔を見せる。本当に……タフな人だ。
俺はあいつの事を尋ねる。
「ねぇヘルメスお姉ちゃん、あいつに会ったんだね」
「う、うん。買い戻せるからって……」
「どうだった?」
「うん。綺麗な状態だったよ……! 何故か宿屋の小父様が持ってたけど……」
その人が売りに出されていたものを買ったって事か?
「それは、その人が買ってたって事?」
「うーん……その人は宿に泊まってた人から預かったって言ってた……持ち主が見つかったら返してあげて欲しいって言ってたらしいけど……」
どういう事だろう? 誰かがそれを、その宿屋の主人に渡して、それをヘルメスお姉ちゃんが受け取った?
よく分からないが、何にせよ返ってきたのは本当に良かった。
「ま、まあ良かったね。戻ってきたんなら」
「うん……! 本当に、良かった……」
あいつの事は気に入らないが、それでも一生懸命探してくれていたんだろう。そこだけは感謝しないとな……。
俺はホッとして椅子に座る。
しかし、疲れたな……母さん達が帰ってくるまで少し寝ようかな……。あの時の事については、それからでいいよな……。
俺はヘルメスお姉ちゃんの問題が解決した安心感からか、すっかり緊張感が抜け、机に突っ伏す様にして眠りに入った。