ベータ版の特典で幼なじみを誘うってありですか
小説で見かけるたび、そんな便利な特典有るものだろうかという気持ちが止められませんでした。
「なあ、よーじ、今やってるゲーム無いよな?」
教室を出ようとしていたところで、背後から抱きつかれて、首が締まる。
ぐえっ。
背中に当たる平らな感触。
当たり前だ。
肩越しに至近距離へ顔を寄せるのは、幼なじみの野郎、高橋だから。
・・・なんで女の子じゃないんだろう。実に残念だ。
「ないけど・・・やんねーぞ。時間がない」
「なんでっ。やろうよ、面白いぞ。NEW WORLD ORDER ONLINE」
「知ってる。とうとう本物のVRMMOができた、てやつだろ。興味はある。でも時間がない」
「時間作ろうよー。なんとか作ろうよー。明後日から始まるんだ」
うるさい。
耳元で喚く高橋の顔を押しのけた。
いくらなじみの顔でも他人の顔は圧迫感がある。
なかなか整った顔をしている癖に、その能力のすべてをゲームに注いでいるせいで、高橋は阿呆にしか見えない。
勉強はそれなりにできるのに。ていうか運動もできる。あれ?こいつ実はリア充?
なのに彼女作るよりゲームが大事って、お前はラノベの主人公かっ。
「金もない。VRMMO対応機器もない。第一あれすごい人気だろう。登録の予約もいっぱいで、転売がひどいってネットニュースでやってたぞ」
「つれない~、よーじくんつれない~。でも大丈夫!」
じゃじゃーん、と得意げに高橋はスマホを突き出した。
「俺ベータ版やってたから、特典で登録枠もういっこプレゼント!」
・・・すまん、訂正だ。
お前はラノベの主人公の友人か。
うん?そうすると俺がラノベの主人公。・・・うん、ないわ。
「・・・それ、おかしくないか? 予約がとれないほどの人気ゲームの登録枠を、ベータやってただけでもらえるなんて。ベータって何人やってたんだよ」
「え? 5000人くらいかな?」
「開始第一弾の登録がサーバの関係で確か3万人だろ。ベータからやってる5000人あわせて35000人。そこに招待5000人。登録予約すらできないゲームの特典とはおもえないな」
「え? え?」
高橋は目を白黒させる。
「あの人気だとベータ版やってた人は本番もできるていうだけで、 十分な特典だろ。・・・お前その画面開く前にゲームのIDとパスワードいれたろ」
「あ、うん」
「あー・・・。それ、詐欺だろ」
「・・・え?」
ぽかーん、という効果音が聞こえそうな顔で、高橋は繰り返した。
「・・・え?」
「ID乗っ取りじゃねえの? 普通そんなプレゼント、ゲーム内に直接送付だろ。外部のホムペに誘導っておかしいじゃねえか。そういう特典が有るって事前に案内有ったか?」
「い、いや、ない」
やっぱただの阿呆なのか、高橋。
「悪いこと言わない。すぐ運営に問い合わせろ。そういうメールがきてIDとパスワード入れちゃったけど、大丈夫ですかって。幸いまだゲームの本番始まってねえんだろ。もしかしたら何とかしてくれるかも」
まあ、運営も一番混乱している時期だから、迅速な対応を期待するのは酷だけどなあ・・・。
わ、わかった、と頷いて、高橋はスマホの画面に向き合った。
素直な奴だ。うん、悪い奴ではないのだ。
「・・・せっかく誘ってくれたのに悪いな。申し訳ないけど俺これからバイトだから、先に帰るな。ゴメンな」
「あ、うん。大丈夫。こっちこそごめん」
「うん、ちゃんとゲームできること祈ってる。頑張れ」
じゃあな、と俺は手を振った。
大人気ゲームNEW WORLD ORDER ONLINEのID詐取が、ネットニュースを賑わしたのは2日後のことだ。
運営も必死に対応したようで、高橋もオープニングには間に合わなかったものの、一週間後には無事ログインできたらしい。
その一週間で、トッププレイヤーに大分水をあけられたとか何とか嘆いているが、垢消されて、世界中の奴らがねらっている第二陣まで待つことになっていたかもしれないことを考えたら、だいぶましだろう。
「よーじくん、本当にありがとう~」
「うん、くっつくな、うっとおしい」
今日も高橋は暑苦しい。
初投稿です。作文のような作品お目汚しです。一度投稿してみたかっただけなのです。ご容赦ください。




