ヒーローとライバルキャラの恋愛を全力で後押ししたいと思います!
相合い傘が生で見たくて動いた結果。
大分前に上げた『ヒーローとライバルキャラの恋愛を全力で後押ししたいと思います!』のお話です。
相変わらず繋ぎの悪い駄文です
6月から書き始めてようやく書き上がりました←
季節はずれ感がすごいです……。
私は転生して大好きだった漫画のヒロインになった。私はスペックはそれなりに高いし、容姿だってヒロインそのものだ。ヒーローとの会話もばっちり覚えている。
けどね、この場合一番大切なのって性格じゃない?
ヒロインのような天真爛漫さも鈍感さも持ち合わせていない時点でヒーローとの恋愛諦めるよねー。
ああ、あのヒーローとヒロインのすれ違い会話大好きだったのに! と嘆いているとある日気がついた。ヒロインにぴったりな人材が居ることに。
そう、ライバルキャラさんである。
私は原作で当て馬だった幼なじみを巻き込んでヒーローとライバルキャラさんの恋愛を全力後押しする事にした。
あ、原作でヒロインのことが好きな当て馬だったけど幼なじみとの恋愛フラグは心配ない。だっていじめを助けたヒロインに恋するっていうエピソードだったもん。率先していじめていましたが、何か。
とりあえず、同じ生徒会に入って才女キャラでヒーローにちょっかいをかけてライバルキャラさんを焦らせる作戦にでた。
……うん。でもなんかライバルキャラさんのドジのサポートばかりしてる気がするけど。
※
「え、雨!?」
この声はライバルキャラさんだ。
私は職員室へいこうとしていた足を止め、こっそりと伺う。隣には原作のヒーローである会長もいた。
「止みそうにないな」
「ええ、どうしましょう……」
もしかしなくてもこれは相合い傘イベント発生ですか!?
わぁ、テンションあがるわー。これぞ学生の恋愛の醍醐味じゃないか!
周りに人がいないのを確認してからそっと聞き耳を立てる。
ライバルキャラさんの恋を邪魔するふりをして、応援すると決めてから盗聴スキルは格段に上がった。ちょっと距離があっても会話はばっちり聞こえる。
そのうち読唇術も身につけられるかもしれないね、と幼なじみに言ったらデフォルトの呆れ顔をさらに進化させた呆れ顔で見られた。冗談だっての。
「これではお爺さまのお誕生会に遅れてしまいますわ」
「確か、生徒会室に貸し出し用の置き傘があったはずだ。借りていこう」
あっさりと相合い傘フラグは折られた。
ちっ。頭の良すぎるヒーローも考え物だ。そこは素直に相合い傘していきなよ!
これは早急に対策を練らないと。せっかく少女漫画定番の相合い傘を生で見られるチャンス。無駄にしてなるものか。
私はさっと踵を返して、生徒会室への道を急いだ。勿論、小走りだ。
だって才女キャラがね。
扉を開け、バンと乱暴に資料を置く。生徒会室には幼なじみしかいないから才女キャラを保つ必要はない。
「どうした?」
「傘隠すから手伝って!」
「……は?」
理解できないという顔をしているが、事態は急を要する。説明している暇はない。
生徒会室と繋がるほぼ使われていない備品室の扉に手をかけた。
「よ、っ」
……く、開かない。最近は使ってなかったし、梅雨で湿気が多いしちょっと錆びてるのかも。
「んぐぐ!」
ねぇ、幼なじみさん? 手伝ってくれてもいいんですよ?
気のきかない幼なじみを睨みつけるとようやく立ち上がった。
「早く、早く。ライバルキャラさん達来ちゃう!」
「……なんとなくお前のしたい事がわかった気がする」
分かったなら急げ!
「……開かないな」
幼なじみは言うなり、壁に足をかけるとグッと扉を引く。結構頑固な錆らしい。ギギィと油不足な音を立ててようやく開いた。
「さっすが男子!」
これで相合い傘がみれる!
幼なじみサマサマだ。
一つ残らず取った傘を投げ入れて、そのまま背中でバンッと素早く扉を閉める。……ふう。
急いだせいで乱れた髪を撫でつけ、席についた時二人の話し声が聞こえた。
後少し遅かったら危なかった。
足を組んで、とっくに出来上がっている資料を流し読みする。この体勢って才女キャラっぽくて好きだ。まぁ、一番はメガネをくいってやる動作だけどね。
「あら? 副会長さん達。どうかなさいましたの?」
扉を開けて入ってきたライバルキャラさんが驚いた顔をした。今日生徒会休みだし居ると思ってなかったんだろう。
「総会の司会進行について話し合いをしていました」
資料をみるのは演技だけどこれは本当。
再来週に生徒総会がある。会長が15日間の短期留学で来週からいないため、進行は副会長である私と幼なじみでするのだ。
「手伝おう」
「お気遣いありがとうございます。ですがもうすぐ終わりますし、会長の手を煩わせる程ではありません」
「わたくしも気が利かなくてごめんなさい。少しでもお手伝いいたしますわ」
「結構です。貴方の仕事はもう終わったんでしょう?」
ちなみにこのヒーローとライバルキャラさんの対応の差は、二人の応援の一環だ。けどライバルキャラさん気がついてなさそうだしそろそろやめようかなと思っている。
なんか、こう……罪悪感がね……。
「それで、二人はどうしてここへ?」
「そうでしたわ。傘を借りに来たのですけれど……どこにありますの?」
ライバルキャラさんは顔の前で手を合わせてコテンと首を傾げた。あざといポーズだが本人は無自覚である。
これを無意識にするのがヒロイン力か!
仮にも原作ヒロインであるはずの私にその純粋さが全く備わってないとはどういうことだろう。
傘をさがして視線をさまよわせるライバルキャラさんの前でわざとらしく足を組み替えた。
「残念ですが少し前に最後の傘を貸し出してしまったんです。今日は急な雨でしたし」
「ええ……っ。ど、どうしましょう」
「困ったな。この雨だとだいぶ濡れてしまう」
ふっ。無事だませた。って、ん?
「……もしかして会長も?」
「ああ」
「……そ。それは困りましたね」
うふふーっと笑う。顔がひきつってる自覚はあります。
ええぇ……。完璧ヒーローだから持ってると信じてたのに。今、梅雨じゃない、傘の一つくらい入れておきなよ。ライバルキャラさんならともかく!
このままじゃ私のせいで二人ともずぶ濡れになってしまう。
どうしようか考えつつもポーズは抜かりなく才女キャラ。顎に指をかけて首をかしげる。と、我関せずといった様子でパソコンを触っている幼なじみが目に入った。
「副会長。傘持ってます?」
「……ああ」
ま、持ってきてるの知ってるけどね。
なにせ、今日は急な雨が降るかもしれないだから傘持って行けと言ってきたのは幼なじみである。ほんと、原作の当て馬キャラに忠実な世話焼きっぷりだ。多分、結婚したら尻に引かれるタイプだろうな。南無。
心の中で幼なじみを応援しながら立ち上がり、会長に一歩近づく。
「では、解決ですね。少し待って頂けますか。確か会長とは同じ方面でしたし一緒に傘に、」
タタン! とやけに大きなキーボード音が響いた。幼なじみよ、ちょっとムードを考えろ。
気を取り直してもう一度言う。
「会長、一緒に入っていきましょう。彼女は……彼が送っていくでしょうし」
ここで、会長に見えないようライバルキャラさんに勝ち誇った笑みを見せた。
……きょとんとした顔をした後にへらっと笑いかけられた。く、なにこの天然。嫌み通じない可愛い。
「有り難いが……二人は逆方向だろう」
「可愛い女の子なら方向が逆でも送っていきたいものでは?」
「おい。勝手に決めるな」
「……ふふ」
……ねぇ、あんた私に協力してくれるって約束したよねぇ?
本当に行かせるわけないでしょ! あんたもライバルキャラさんととか気まずいかもしれないけど、私だって会長と相合い傘なんて嫌だよ!
というのを目に込めた笑顔をむけてやった。伝われ!
「……あー。やはり君にも悪い。方向は同じだが近いわけでもないしな」
「そうですか? 私は……会長のお役に立てるのなら、気になりませんが」
すぐさま幼なじみに送っていた念を消して、会長に媚びを売る。
「それに傘は二本しかありません。お貸ししますよ」
「それは助かるが、君たち二人の方が距離は近いだろう」
そうです近いです。なにせ道路挟んでお向かいさんですから! さあさあヒーローあと一押し!
「あ、あの……! それにわたくしたち今日は用事があって同じ方向ですの! ですから、その……」
頑張って発言したがその先が言いにくそうなライバルキャラさんの背を会長が撫でた。
「俺とコイツで一本借りてもいいか? 借りる手前図々しいがその方が無駄がない」
はいもちろんですとも! その言葉待ってましたぁぁ!
「あら、残念」
内心でガッツポーズしながらも私は才女系の邪魔キャラである。拗ねたように一瞬だけ会長に身を寄せた、いや正確には寄せようとした。
が、いつのまにいたのか幼なじみの腕によって遮られる。
「これ貸す」
なぜ今のタイミングで傘を差し出すかなあ?
「すまない、ありがとう」
「ありがとうございます」
……まぁ、いいけどね。
再度御礼をいって二人がでて数秒。
「さぁ、行くよ!」
何って覗き見である。
「なんで俺が行くこと決定してんだよ。一人で行け。ついでに書類出してこい」
つれない奴だ。
校門からでるまで二人の初々しい様子をたっぷり堪能させていただいた。
偶然触れた手に驚いたり、距離の近さに緊張したり……! もう見てるこっちがドキドキした。私の青春メーターは満杯です。
しかも、傘を傾けてライバルキャラさんが濡れないようにするヒーローの配慮に気がついて恥ずかしがりつつもこっそり距離を詰めるライバルキャラさんとか! そしてそれにさらに気がついて少し頬を染めるヒーローとか! なんというかもう、御馳走様です!
書類を提出し終わって戻ると幼なじみが渋い顔をしていた。
「どうしたの?」
「おまえどんだけ強く閉めたんだよ。扉開かないんだけど」
……まじか。
数分頑張ったが、どうあがいても扉は開かなかった。二人で玄関で空を見上げる。
「いや、だからごめんって」
「ごめんで済めば警察はいらない。どうすんだ」
「一本あるんだし二人ではいっていこう。私ほどの美少女と相合い傘なんてこの果報者め」
ふざけてウインクを飛ばしたけど幼なじみは真顔だった。やめてくれ。虚しくなるじゃない。デフォルトになってる呆れ顔の方がマシだ。
「……走って帰る」
「はあ? この雨の中行ったら教科書とかびしょ濡れよ? 良いでしょ別に、今更意識することもないし」
大きな大きなため息をつかれた。
いいじゃないか、校内に残ってる生徒ほとんどいないし、冷やかされることもないだろうし。
それでも気になるのか。思春期男子というのは面倒なものだ。
「……傘、ピンクとかじゃねぇだろうな」
「安心しろ緑だ。デザインはめっちゃ女子向けだけど」
「……はぁ」
あーだこーだと文句を言いつつも幼なじみは結局私の傘に入った。
「……」
……うん。私はちょっと相合い傘を見くびっていたかもしれない。思ったより狭い。しかも歩きづらい。これ苦行だわ。
「会長たちはどうしてるんだろ」
「さあ」
「さっきみた限りではドキドキしすぎて歩きにくさとか気にならなそうだったけど」
私たちはドキドキとかしないのでただただ歩きづらい。
「てか、あんたもっとくっつきなさいよ。肩濡れてんじゃん」
「っな」
幼なじみの腕をぐっとひっぱって近づける。紳士的に傘を傾けて濡れるより、傘に収まるように距離を詰めたほうが合理的だ。
幼なじみは顔を手で覆って天を仰ぐ。
「……お前、ほんと……。はぁ、もう知らねぇからな」
「大丈夫だって、次はもう相合い傘イベントとか企まないから!」
安心しろよと親指を突き立ててやる。デコピンが返ってきた。
「いたっ、いくら幼なじみで気安い仲とはいえ、女子にデコピンはないわ!」
憤慨すると「その台詞そのままお前にかえすわ」と不機嫌そうに言われた。
いや、私デコピンはしたことないから。
「あ、あそこのコンビニよって傘買ってこよっか?」
ちょっと遠くて方向は違うけど。コンビニが見えたので一応提案する。
「今日お前に傘持ってくようにわざわざ言ったのは、お前の親からお前が傘を買いすぎて困ってるって言われたからなんだが」
「私、天気予報より自分の感を信じたいんだ」
キリッとして言ってみたけど相変わらずの呆れ顔が返ってきた。いつからこの幼なじみはこんなに表情筋を動かせなくなったのか。嘆かわしい。
「あんたが持って帰れば解決」
「残念だが家にもお前の傘がきてる」
「……すみません」
一応自覚はある。毎日のように買って行ってた時期もあるもんね。そして、我が家の人たちの物持ちがいいから安い傘でも長持ちして……結果、私の家の傘は氾濫状態だ。
ちょっと無くなったなと思ってたらまさか幼なじみの家にお邪魔していたとは……。ご迷惑をおかけします。
「お前も俺も濡れてないし、別にいいだろ」
「歩きにくい」
「我慢しろ」
いいんだけどね。
実を言えば―――この距離はちょっと戸惑う。
幼なじみ相手、なんだけどなぁ。
お読みくださりありがとうございました