はじまりのつまさき
気づけば僕は逃げ出していた。
そのことで後々どんな事態を招くかなんて考えていなかった。
とにかくこの場所からなるだけ遠く、できれば国境まで超えて走りたかったけれど、残念ながら日本という島国に生まれた高校生には、そういう選択肢は用意されていなかった。
だからとにかく、自分の力が尽きるまで走った。
いつもの街が勢いよく通り過ぎていって、まるでいつもの街じゃないみたいだった。
ごっそりとディティールの抜け落ちた、薄っぺらい絵みたいな街が僕の横をながれていく。
——どこだ?どこへ行けばいいんだろう?このまま行くべき場所なんてあるのか?
そうやっているうちにとうとう僕の身体は悲鳴をあげた。
映画で主人公がやっているみたいに肩で息をして、そして気づけば、僕は自分の家の前にいた。
結局高校生が逃げる場所なんて、自分ん家が関の山なのだ。なんて無様な駆け込み寺。
買い物にでも出ているのか、幸い母は居なかった。
僕は部屋に入ってドアを閉めて、それでも気持ちが落ち着かないことに気づいた。
どうすればいい?これ以上、どこに逃げ場所なんてあるんだろう。
学校では今頃、午後の授業がはじまっているはずだ。社会科のミヤウチが気づいて、そしてあの二人のどちらかが何か言うのだ。
たとえば「なんか、屋上で沢野さんにふられて学校を飛び出していきましたよー」とか、または「沢野さんと遊んでたら、突然正也くんがキスしてくれって言って、私たち怖くて逃げたんですよー」とか言って、僕はクラス、いや、学校中の話のネタにされる。
昼休みにクラスを抜けて、一人屋上に行くようなやつは、何を言われたって仕方がない。ましてや、今その場所に、僕はいない。嘘や適当なことを好き勝手に言われて、それがまかり通る世界。
そうして僕が守り続けた高校生活は終わりを告げた。
なんて無様でださい終わり方。
誰一人守ることもできず、正義すら貫くことができず、結局は自分の責任だけを放棄した。
でも、もう取り返すことはできない。ゲームのようにセーブポイントでやり直すことなんてできない。
——さよなら、平凡な学生ライフ。
絶望の奥に、不思議と冷静なところもあった。
だからその冷静な思考で、僕は、僕の世界を築こうとおもった。
僕が創造主だ。
僕のいるべき楽園だ。
ハロー、ワールド。