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まほうつかいの生存メソッド  作者: 獅子屋 誠
1/1

記憶

どうして、こんなことになったのだろう。


「ミナトさん…私たち…助かると思います…?」


絶望と困惑が入り混じった表情を浮かべ、織姫がつぶやいた。

あいつらが残してくれた水もそろそろ底をつきそうだ。

だがもう、問題は水なんかじゃなかった。


「…なあ織姫、アレ…何なのかな」


しぼりだした声は、思ったよりも力なかった。

織姫からの返事はなかった。答えようがないのだろう。


この島に流れ着いたとき、10人だった。

それが、もう、2人だけ。


白鳥は死んだ。

羽衣(はごろも)も、月船(つきふね)も死んだ。

多田羅(たたら)さん親子も死んだ。

雨宮と天之川も死んだ。

(かささぎ)も死んだ。


「なんなんだ…どうしてなんだよ…」


わけがわからなかった。

わけがわからないまま、全員死んだ。


「…腕、怪我してます」

「え、ああ、いいよ。これくらい。それに今、記憶が飛んだら、やばいだろ」

「……はい」


織姫が最後に笑ったのはいつだったか。

良く笑う子だと思った記憶がある。記憶しかなかった。


これからどうすべきかわからなかった。

途方に暮れると言うのはこのことだ。


―――あいつは最後に、『がんばれ』と言ったんだと思う。

その言葉通りに、頑張ろうとしたけれど、もう、積んだのかもしれない。

あれから5日経った。救助は来る気配がない。

今は逃れているが、今度見つかったら生き残れない。そんな気がする。

戦える「まほうつかい」はもういない。自分と織姫の「まほう」は戦闘に適さない。


「…くそっ」

「ミナトさん…」


温かさが右手を包む。織姫の手だった。

心配そうにこちらをのぞき込み、両手でこちらの右手を包んでいた。

その手が、かすかにふるえている。


なにを、弱気になっている。

織姫はこんな状態でも、俺のことを心配してくれている。

もう皆死んでしまったけれど、まだ織姫が残っている。


「織姫…俺、絶対お前のことだけは…」


それ以上は言葉にならなかった。

織姫がいなくなった。

厳密に言うと違う。

俺の右手を包んでいた両手は残っている。


それ以外が、

腕、首、足、胴体が、バラリとばらけた。


「…え」


おそらく自分のものであろう悲鳴を、どこか人ごとのように聞いた。




どうして、こんなことになったのだろう。

どうして、俺たちがこんな目に遭ったのだろう。







***



ある暑い夏の日だった。


一隻の旅客船が、沈没した。

数人は救命ボートで漂っているところを救出された。

数人は水死体として回収された。


ひとつの救命ボートが発見されたのはその6日後。

小さな島に、ひっそりと。乗客の姿はなかった。


彼らは、島のあちこちに散らばっていた。

あまりに凄惨な光景に、報道規制がひかれたほどだった。

その島で、10人の男女が、死んだ。




もしも

もしも

もしももしも

もしももしももしももしももしも



     叶うなら



         もう一度





   あと、一度





――――――――――はじまりは、5日前まで遡る。



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