旅立つ決意
第一章が書き終わったので更新。
気がつけば泣いていた。自分でも自然に、ただただ泣き喚いていた。
消えた人の名を呼びながら、どうしてなのと叫びながら。
近くにいるお師匠様やメイド服の少女は、そんな僕を止めずにそのままたたずみ、ナオルニシアさんは知らない。
ともかく僕は、涙と声がかれ、疲れ果てるまで泣いていた。
疲れ果てたら寝たらしく、僕はなぜかメイド服の少女に膝枕されていた。
その驚きに慌てて跳び起きて離れると、元のフードを深くかぶったお師匠様がどこからか持ってきたらしい干し肉をかじりながら笑っていた。
気がつけばあたりが真っ暗。僕達はたき火を囲むように点在していた。
ナオルニシアさんが自然といて何やら装備を研いだり磨いたりしているので、僕はこの状況を作り出した彼女に声をかけることにした。
「あのさ」
「!! す、すいません! すいません!! 許してくださいお願いします!」
「……」
声をかけた僕が何も言えなくなるほどの謝りっぷり。僕の声に反応して瞬時にこちらを向き、何度も何度も地面に座って両手をついて頭を上げ下げしていた。
その怒気を霧散させる謝られ方をされた僕は言いたかった文句も言えず、逆に「どうしてこんなことを?」と尋ねる。
こんなことを、と訊いているけど、実際僕にだって何がどうしてこうなったのか全然わかっていない。それでも、彼女がこうなる原因をした理由を、一応知りたかった。
そんな質問に彼女は恐る恐る顔を上げ、しばらくの沈黙の後「この村が、ここまで来るのにあまり知られていなかったんです」と説明を始めた。
「最初は予言されたのだから辺鄙な村でも説明はつくと思っていました。でも、国境付近でとても人通りが多いはずのこの村に、騎士団以外の外来の人たちが全くといっていいほど来ませんでした。それで不思議に思ったんです。どうしてなのかと。それを村の人たちや騎士団の方々に聞きましたが誰も知りませんでした。代わりに、騎士団の方が『あの村はとても理想的な村だ』と言っていたので、そこで思い付いたんです。この村――シュラーデは何か人工的に作られた村なんじゃないかって。だって――」
少なくともこの村以上に問題がなくて、仲良く暮らしている村を見ていませんから。
彼女はそういって朗らかにほほ笑む。その笑みにあっけにとられながらも、僕はあの村の意味を知る。
あの村――僕が魔法で作ったと言っていたシュラーデ――は、せめてもの理想を体現していたのだと。理想なんて要らないと思っている僕が、願ったらしいいつかの理想を。
ちぐはぐだらけの矛盾だらけ。湧き出る事実と現状の整理に頭を働かせながら、僕はなんとなく、本当になんとなくだけど、調べてみたいと思った。
おそらく契機はあの時の記憶。それ以前と以後の僕に、どれほどまでの違いがあるのか。
旅をしなければならないと考えるのは多分、必然。もうここに僕が願ったらしい村はないし、そうなると今の僕に行く当てなんてない。
何もできないのに旅をするのは自殺行為に等しいよねなんて整理を終えて今後を決めた僕は内心でそう考えていると、お師匠様が「今後どうする気だ?」と僕の方を見て聞いてきた。
この人本当に力を縛られたの? さらっと読心術使ってきたんだけど。
今更なお師匠様に対する警戒をしながらも、僕はため息をついて宣言した。
「僕は僕を調べるために旅をします。ですが、世界を救うなんて毛頭ありません」
「ここまで色々あったのにお前まだ覚えていたのか」
「僕まだ若いので」
「そこに座れ。げんこつで勘弁してやる」
「お師匠様の年に一切触れ……イダッ!」
「ふん」
僕の反論も空しく問答無用で拳骨を頭に叩き込んだお師匠様は鼻で笑い、そっぽを向く。
ひどいやまったく。僕は自分の事しか言ってないのに。頭をさすりながらそう思っていると、「では私はあなたについていきます」とメイド服を着た少女が立ち上がって宣言した。
僕は思わずそちらを見て「なんで?」と訊いてしまう。
それに対し、その少女は「グラシウス夫婦が最期に『ジークを頼む』とおっしゃられたので」と答える。
見た目通りの人だな…と思いながらも断る理由のなかった僕は「よろしくお願いします」と立ち上がって頭を下げる。
それを見ていたお師匠様は何を思ったのか咳払いをし、「なら私も行くとしよう。どうせ暇だしな」と参加を表明してきた。
僕は真顔で聞いた。
「え、なんでですか?」
「ほほぅ……私は要らない、と。そういうことかぁ!?」
「イダッ、ギ、ギギギブギブッ!! イダイイダイイダイッ!」
首に腕を回され、締め上げられる僕。腕をたたいているのに、ちっとも放してくれない。
本当、ヤバいって……と思っていたら、不意に首を絞めつける力が消え、僕は地面に着地して急き込んでいた。
い、一体何が…と何とか見上げると、メイド服を着た少女がナイフを構え、お師匠様と対峙していた。
「ジーク様を殺す気ですか?」
「どこかで見たことあるなと思っていたら……ランクレスの一人、『鮮血のメイド』か。道理で何の動作も見せずにナイフを投げてきたのか。しかも若い」
「そういうあなたは?」
「ふむ。こいつの師匠で元冒険者、とだけ言っておこう」
バチリ。見間違いじゃなければ二人の間に電気が奔った気がする。
ていうか一寸ぉ!?
「何やろうとしているんですかふたゴホゴホッ」
「だ、大丈夫ですか!?」
先程のダメージが残っていたのか止めようと叫んだらせき込み、それを聞いたナオルニシアさんが僕のもとへ駆け寄る。
それを聞いた二人はこちらを向くのがわかる。どうやら止まったらしい。結果オーライだ。
何とか呼吸を整えた僕は立ち上がり、お師匠様の方を向いて「お師匠様は勝手にしてください」と言う。というか、そうとしか言えなかった。なんせ自由人だし。
さてナオルニシアさんはどうしようかと思い後ろを向くと……何か期待したまなざしで僕を見ていた。
え? ひょっとしてついてきたいの?
そう解釈できる視線に知らず知らずのうちに引いていると、お師匠様が「ここにいるのも何かの縁だ。それに、お前は世界を救うためにここに来たんだろ?」と彼女に言ってしまったので確定。
あれ? 良く考えたら僕以外みんな女って色々な意味でヤバくないか?
そんな今更な事実に気付いた僕は、二重の意味でこれからどうなっていくのだろうかと星空を見上げて思った。
次は来月中に第一章第一話を投稿する予定です。