第六話
みじか…いです。
家に帰って怒られた次の日、の夜。
もはやみんな予言の話など忘れたかのようにいつも通りの生活をし、ナオルニシアさんが何やら旅支度をしながら悩んでいるのをスルーしてお師匠様の布教に耳を傾けずに畑仕事をして眠った時のこと。
頭の中に直接「きこえますか」と聞こえた。
思わず聞こえてますと思ったところ、ではそのままお聞きになってくださいジーク。と、相手が誰なのか知らないのに名前を呼ばれた。
驚きで声を上げたかったのに上げられなかったという事実にさらに混乱していると、その声は進めた。
あなたには酷なことを言っているのは百も承知です。ですが、この世界を他の災厄から守るには、あなたが必要なのです。
懇願するように声は言う。だけど、僕の心に響いてはいなかった。
無理だよ。僕にはそんなこと。
――守れなかったから、ですか?
!!
聞きたくない、言われたくない言葉を、知らない人に言われた。それと同時に、強引に溢れ出す――あの時の記憶。
僕は叫べない。動けない。何もできない。
もがこうにももがけない状態でいると、その声は――お願いします。と消え入りそうな声で言った。
「アアアァァァァアアァァ!!」
叫びながらベッドから起きる。呼吸は荒く、寝汗をかいたせいか、シーツや服がぬれている。
ドダドダドダ! と僕が呼吸を整えている時に音がして、勢いよく開いた。
「どうした!」
「何かあったの!?」
両親が叫び声を聞いて心配になり、こちらに来たらしい。
僕は呼吸を整え終えてから「ちょっと嫌な夢を見てね」と内容を伏せて答える。
それを聞いた両親は顔を見合わせてから頷き合い、何も言わずに二人とも部屋の前からいなくなった。
扉を閉めないまま行った二人の事について今は考えられない僕は、未だ微かに指先と足が震えているのに気付きながらも無視し、この恐怖心を抑えつけようともう一度寝ることにした。
だけど当然のように眠れない。もう一度眠ったらあの夢を見てしまうんじゃないかという不安が、僕の眠りを妨げる。
不安。それは人の必然的心理。胸の内に潜む、自分の負の部分。
不安は焦りを産み、不安は行動を自制させ、不安は弱気を誘発させる。その結果、何もできなくなる。
その最たる例である自分を思い出しそうになった僕は……頭を振って天井を見つめる。
そしたら人の気配がしたのでそちらに視線を向けると、そこには両親がポットとカップを持って部屋の前に来ていた。
「どうかしたの?」
「いや、うなされるのならこれ飲んで落ち着いてもらおうかと思って」
「ハーブティよ」
そう言って僕を手招きするので、ベッドから起き上がりフラフラと向かう。
眠りたいという欲求と、あのことを忘れたいという願望を抱いた結果……なのだろう。
そんな自己分析をして僕は、あと数歩のところで立ち止まる。
「どうしたんだ?」
「……いや。いいよ」
「いいの? 飲まなくて」
「うん。ちゃんと寝るよ」
「ならいいが」
「また見そうになったら今度こそ飲みなさいよ?」
「うん」
僕の言葉に両親はそういって床にそれらを置き、そのまま自分たちの部屋へ戻った。
「…………」
床に置かれたそれらを見た僕は、それらを黙って机の上に置いてから、ベッドに寄り掛かるように座り込んで天井を見つめる。
飲まない理由は、忘れられないという現実を知っているから。いくら記憶の片隅に置いとこうが、年を取ろうが、そんなのお構いなしにそれは現れる。
無力な僕には完全な拒絶も受け入れも選択できず、ただただそれに怯え、それから逃避し、自らが決めた限界以上の行動をすることなく毎日を過ごすだけ。
正しいかどうかなんて議論の話ではない。そもそも精神における「正しさ」なんて存在するか怪しいのだから。
本当
「世界はつくづく不条理で、強力だよ」
そんな世界を救うなんて……一体誰がやるのだろうか。
不意に思い浮かんだその疑問を考えようとせず、僕の瞼は自然に落ちた。
では今月中にまた