第四話
この日までに何人消えてるんでしょうかね…逆お気に入りは
彼女(ナなんとかさん)が来て二週間が経過した。
最近では僕に付きまとうことがめっきりなくなったので、ようやくといったところだろう。
お師匠様はあの時から会っていない。きっとどこかでまた何かしらやっているのだろう。それか、今頃僕を連れて行かざるを得ない状況にさせているか。
後者だったら絶対に拒否権ないよな……などと思い当ったお師匠様がやってそうな行動にげんなりしながら畦道を歩いていると、村の子供が「おーいジーク!!」と呼ぶので、僕は手伝ってほしいことがあるのかなと思いつつ返事をして向かった。
そこにいたのは……
「あなたがジーク様ですか?」
なんか精一杯宣教師の格好をしました的なお師匠様だった。
「……なにやってるんですか、お師ジョウット!!」
「いきなりどうしたんだよジーク~。変な声あげてよ」
「どうかしましたか?」
あたかも自分じゃないというすまし顔で、彼女は笑顔のまま足を踏んだ僕に質問する。
僕は踏まれた足の痛みを涙目になりつつこらえながら、正体ばらすなよ的な雰囲気に中てられて「な、なんでもありません……」と尻すぼみ気味に答える。
物凄い足が痛い。一歩踏み出すたびに痛みが走るんだけど。どうやって歩けばいいんだよ。
そんな思いに駆られていると、いつの間にか子供――ナルカの姿はなく、僕とお師匠様しかいなくなっていた。
我慢できずに僕は足を抑え、息を吐くように我慢していた痛みを吐き出す。
「イタイイタイイタイイタイイタイイタイ!! なんで思いっきり踏んづけるんですか!?」
「私そのようなことをやっておりませんが?」
「白々しい! 別に正体ばらそうとしたわけじゃないんだから別にいいでブベラッ!!」
「……やっぱり駄目だなこの作戦」
手が出るのはやいですよお師匠様……。
そんなことを思いながら、僕の意識は落ちて行った。
――様に思われていたけど。
「なんで殴るんですか痛いじゃないですか!!」
「私殴ってませんけど!?」
……。うん。ちょっと待とうか。僕は今どこにいる?
痛みが引いていた腹部と足に一応気を遣いながら体を起こすと、どうやら自分の部屋。そして目の前にはわざわざ王都からご足労いただいた”戦乙女”……。
「なんでまだいるんですか? 見かけなくなったから帰ったのかと思ったんですけど」
「目を覚ましてそうそう毒吐かれました私!? 普通にお仕事手伝っていただけですよ!!」
「どうでもいいですけどテンション高いですね」
「あなたが低いだけだと思いますけど!」
いやまぁ。僕は基本的に自分の家の畑しかやらないし、暇な時やたまになら手伝うけどさ。だって村に戻ってこない息子たちの代わりのようにこき使われているから。楽しいからいいけど。
それはともかくとして。
「どうしてここに居座っているんですか?」
「見つけたときシスター様が気絶したあなたを重たそうに運んでいたので手伝いまして」
「……」
元凶はどうやら芝居をして欺いたようだ。
あの人意外と芸達者だなぁと思いながら「ありがとね」と運んでくれたお礼を一応言っておく。
それを聞いた彼女は「でしたら是非!」と言ったので、「それとこれとは話は別ですよ」と一蹴する。
落ち込む彼女。その姿を見た僕は、何の感慨もなくつぶやいた。
「別に予言された子供じゃなくても世界を救えると思いますけどね…」
「え?」
「別にこの世界を倒して新しく作れば一切合財きれいに片付くんだけどなぁと」
「どういうことですか!?」
何やら聞き捨てならない言葉だったのか、彼女は憤慨しながら――僕に怒った顔で近づいてきながら怒鳴ってきたので、僕は特に驚きもせずただただ思ったことを口にした。
「いえ、現段階での世界――つまり、このむやみやたらに問題が蔓延している世界を滅ぼすなりして真っ白にして、一から新しく矛盾のないように作り替えれば終わるんだけどなぁって」
「なんてこと考えるんですか!?」
「ただの思い付きですよ。ただ、そんな現実的に不可能な案まであるんです。なのになぜ予言の子が必要なんですか? あ、占い師の言葉に従ったからは、なしでお願いします」
直球でそんな質問をする。どうし僕じゃないとだめなのか。さっきから浮かんでは消えるその質問に対し、ここまで来た彼女の答えを聞いてみたいと不意に思い浮かんだから。別に聞いたところで変わるわけじゃないから、答えてもらわなくても別にいいけど。
というか彼女の扱いどうすればいいんだろう…と今更思い至っていると、黙っていた彼女が口を開いた。
「……確かにその通りかもしれません。今までジーク様を観察して、予言の子じゃないのかと今でも考えますし、本当だとしてもどうにかできなさそうだとはっきり言います」
「その通りだけどさ」
「ですが……あれ?」
かと思ったらすぐに自分で言いかけて首をかしげる。
大方自己矛盾でも現れたんだろうなと推測しながら「ほら予言の子なんていらないじゃないですか。だとしたらその予言も外れてるんですよ。まぁ問題は世界のいたるところにありますけどね」と言葉を奪って発言しにくくする。
言葉に詰まった彼女。それでも何か言おうと口を開いたら
「目が覚めましたか、ジーク様」
――突如としてお師匠様が扉を開けて入ってきた。
この状況を作り出した張本人がのんきに出てくるのは一体どうしてだろうとジト目で応戦していると、「どうかしたのですかシスター様」と彼女が話題を変えるためなのか、現れた見た目宣教師のお師匠様に尋ねる。
お師匠様は僕を一瞥してから(一瞬目が鋭かった)彼女に視線を移し、「改めまして自己紹介いたします。私、ミラード教の宣教師の一人、カトリシアと申します。今回、教会のほうでも緊急であると判断したため、武芸に長けた私が派遣されました」と事実無根(ただし武芸に長けたという点を除く)の自己紹介をする。
確かにミラード教っていう教団はあるけれども、ここで布教してる人なんて見たことない。だって教会ないし、ここに作るメリット一切ないだろうし。
だけど彼女はそう思っていないようで、「ご丁寧にどうもありがとうございます。私の名前はナオルニシア=アーケン=シュバルです」と立ち上がって深々とお辞儀をして自己紹介をした。
それだけで彼女がどういう子なのか予想がついた僕は、ベッドから起きて彼女たちから離れて机のほうへ行き、成り行きを見守るふりをして窓を開ける。
あー風が気持ちいいな。あ、畑仕事やらなきゃ。気絶させられたけどそんなに時間経ってないだろし、父さんもやってるから。
そう考えた僕は長年履き続けている靴を履いていることを確認し、おもむろに窓枠に手をかけて何も置いてない机を踏み台にして飛び降りた。
「あ!」「チッ」
お師匠様の心の声が漏れたのが無事に着地してから聞こえた。まさか僕が飛び降りるとは考えてなかったのだろう。
このぐらいなら子供のころに何度もやっているから問題ない。だって叱られて閉じ込められた時の脱走手段がこれだったし。……帰ったら更に怒られたけど。
戻ったら机きれいにしないとなぁと思いながら、僕は父さんに声をかけて畑仕事を手伝った。
あの二人は、なんか家に居座ることになった……え? ちょっと一体どういうことなのさ?
次話は来月の頭です