第二話
別に何もないけど予約投稿です
次の日。
特出したものなんて僕にはないのだから、普通に残りの雑草狩りをやって普通に夕飯を食べて普通にお風呂を沸かしてお風呂に入って寝たよ。
で、話を戻して次の日だけど……朝起きたら何やら外が騒がしい。お天道様が山の上から出てきたのが見えないので、まだ完全に夜が明けたわけでもないようだ。
とりあえず水汲み行ってこないとなぁと欠伸をしながら起きた格好のまま部屋を出て家を出たところ、目の前には目をつむって眠ったように倒れている少女が。
頭の働かない僕は「誰?」と呟きながらも、無視して水を汲みに向かうことにした。が、「おいジーク」と呼び止められたので声の主へ振り返る。
「……何? エリックおじさん。おじさんが見つけたのならおじさんが保護すればいいじゃん。僕は水汲みに行ってこないといけないんだから」
「俺が最初に見つけたわけじゃねぇぞ。最初に見つけたのはクルナだ」
「いやいやカナリアでしょ?」
「わたしゃレグの大声でこっちに来たんじゃよ」
「俺はただ散歩してたら偶然ふらふらと歩いてたこの子を見かけたからよ……」
『だったらお前じゃないか』
結論が出たみたいなので僕は木と金具でできたバケツを片手ずつ持ちながら、反論も聞かずに欠伸をしながら立ち去った。
慣れてはいるけど眠いのは変わらないので、若干足取りにふらつきはあるけれど、道自体は毎日通っている道なので、それぐらいは眠くても普通に歩いて行ける状態。
水汲みの往復をしていれば自然と体も起きるよねなんて思いながら、村の中に流れている川〈でも家からは少し遠い〉についた僕は二つのバケツを川の中に入れて満杯にし、バランスを取りながら家の外にある水瓶に運ぶために来た道を戻った。
――数日後。
「ジークさん!」
「あなたもしつこいですね。何度も言ってるじゃないですか」
「予言の子なんですから王都に来てくれませんか!」
その倒れていた少女は見事に回復し、僕の後をついてきながらそんなことをのたまっていた。
僕は歩みを止めてため息をつき、後ろにいる少女に振り向かずにここ最近口にしている言葉を言う。
「予言なんて嘘っぱちですよ。予め決まっていた道筋を感じ取って言葉にするなんて、それじゃ不確定が確定していると言っているようですよ。その上これも何度も言っていますが、私には旅をするのに必要な武力がありません。知恵も足りません。礼儀も何もあまり知りません。ですので素直にお引き取り下さい。わざわざ遠いところまでご足労いただきありがとうございました」
「勝手に締めないでください! それに、あなた以外じゃこの国にジークと名のついた男の人はもういないんです!!」
これまた同じような文句で僕の反論を無視する。
だから僕は歩き出しながら反論した。
「女の人の可能性だってあるでしょ? 探したの?」
「それはあり得ません! ジークは明らかに男の子がつけられる名前です!! ここに来る前に本で調べました!」
「本が出た時にはそれが常識でしょうけど、時代は刻一刻と変化しているんですよ。その本に書かれていたことが今日も同じだという保証はありませんから、女の人にジークと名付ける人もいるんじゃないですか?」
「うっ……」
言葉に詰まり立ち止まったらしい少女。
僕はそれを見向きもしないで「僕じゃない可能性があるし、そもそも僕なんて何もやってないからあなたが言っていた『世界を救える子』なんてものじゃありません。ここまで来てもらったのに、すいません」と言って仕事をするために森の中へ消えた。
ふぅ。これで四回目。いい加減諦めてほしいな……なんて思いながら。
行き倒れていた少女はレグさんの家で意識を取り戻し、ナオルニシア=アーケン=シュバルと名乗った。レグさんが意識を取り戻した少女を見せもののように言いふらすから、全員がその場に立ち会うことになったので。
長い名前を久しぶりに聞いたなと全員が思っているだろう感想を抱いていたところ、この村で一番物知りなチャオズお爺さんが「シュバル……ということは”戦巫女”の家系ではないか。こんな辺鄙な場所へ派遣させるとは思えぬのじゃが」と呟いたので、うちの父さんが「戦巫女って……良く騎士団の奴らが言っている英雄的な立場にいる家系だろ? 確か、一昔の戦争を終戦させた女性騎士に与えられたっていう」と歴史的な質問をしたところ、チャオズお爺さんが答える前に彼女が答えた。
「えっと……私まだ家督を譲ってもらえていないので正式な戦乙女じゃないのですが……あの、ここに来た理由と言うのはですね、人探しなんです。それも、大変重要な人物を」
最後の言葉にみんなざわつく。僕はと言うと、あまり関係がなさそうな話だったので畑の様子を見に行くことにした。
だから聞き逃したんだけど……帰ってきた父さん達の顔が何やら驚きに包まれていて、その話を聞いたときの僕の反応は……
「きっと赤の他人だよ。僕にそんな強さないし」
「だよな……うちの息子が世界を救うために予言された子だなんておかしな話だよな」
「そうよね…本当に平凡を体現してるものね」
「ひどくない母さん?」
まぁどういった内容かと言うと、この国の有名な占い師が『この世界に危機が迫っている。その災厄に立ち向かえるのはジークと言う少年のみ』とかいう適当なことをぬかしたそうで。
それを真に受けた王様たちがこうして国内総当たりでかき集め…残ったのが僕だということらしい。
何とも馬鹿馬鹿しい言葉だ。国外にいる可能性だってあるし、そもそもその災厄がいつ、どんな風に起こるのか分かっていない。魔物の襲撃回数は変わってないし。
だから僕達は誰も信じず、また村の人たちも僕の事を知っているからかそんなことはないかと笑って帰って行ったらしい。レグさんの家は一応彼女の活動拠点になったらしい。
それで彼女はというと、なんか復活した次の日に僕の家の前に来ていた。何気なく開けたら彼女が視界に入り、彼女も僕を見つけて近づいてきたので慌てて閉めて裏口から見つからないように出ていくことになった。
その次の日からは普通に見つかり……さっきのように僕の事を勧誘するかのようなしつこさで、理想に満ちた目で「行きましょう!」と言ってくる。
正直鬱陶しくて困ってるんだよなと思いながら、森の中に入ってすぐのところで枝を拾う。何かあった時にすぐに逃げられるからね。
細いものばかりしかないけどそれを拾い集める。籠を背負っているから地面に置き、拾った薪を入れていく。
正直言ってこれだけじゃ足りないし、奥の方へ行けば薪になりそうな丸太っぽい奴あるんだけど、そこまで行くと魔物の範囲内だし。
そういえば魔物の説明をしていなかったね。魔物と言うのは僕達の世界にいる、知性がなく凶暴な動物。魔力を無意識に使い魔法なんてものをまき散らし、何でも食べるという特徴もある。全部チャオズお爺さんに僕達は教えてもらった。
そんなわけで僕は極力――他の人たちは村を出て連絡をあまりよこさないけど――村から遠くへは行かない。死にたくないし、僕自身が何かできるわけじゃないし。
「正直理想何て無駄なもんだよね」
ひとりごちにそうつぶやく。そこに嘲笑を交えるのを忘れない。
誰もいない中のんびりと薪を拾う。とても静かな中で。
これなら誰かが来ても音でわかるよねなんて思いながら籠いっぱいになった薪を眺めて満足していると、背後の茂みからガサガサと音がしたために勢いよく振り返り、警戒する。
「そう警戒するな、ジークよ」
「……お師匠様。見限ったはずじゃないんですか?」
「ところでお前のところに来たあの”戦乙女”はどこにいる?」
僕の呆れを含めた物言いをスルーし、その人――お師匠様は現在どこかにいるだろう彼女の存在を僕に尋ね、その言葉で僕は、この状況の意味を理解した。
「……王国の占い師ってお師匠様だったんですか」
「ふむ。その聡明さは健在のようだな弟子よ。だがその様子だと逃げ回っているようだな」
「逃げ回っているんじゃなく、現実を突き付けてるのに戻ってくれないんですよ」
ため息交じりに僕は断言するけど、お師匠様はその答えに眉をひそめた。
「たかが一度失敗しただけでもうあきらめているのかお前は」
「僕の失敗は、僕の限界を現していました。それが理由だと言ったはずです」
知らず知らずのうちに口が滑る。未練や後悔など捨て置き、理想や夢想などを放棄したはずなのに、なぜか苛立ちを隠せないまま。
それを黙って聞いているお師匠様は、僕が睨んでいることに気付いていながら「では薪を持って帰ったらいつもの場所でお茶にしよう。なに、彼女を撒くことなどたやすいだろわが弟子よ」と言って姿を消した。
しばらく消えた先を見ていたけどそんなことを続けても意味がないことを冷静になった頭で理解し、籠を背負って、きた道を戻ることにした。
「……まだ弟子と呼ぶんですか、お師匠様は。あの時からぱったり行かなくなったというのに」
普通の人だったら嬉しい気がするんだろうけど、今の僕には……素直に喜ぶ理由が見当たらなかった。
第一章はまだ書いていません。次は明日の二十二時にします