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理想なんてクソくらえ  作者: 末吉
第一章
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第一章 第五話

 『死』を恐れるのは生物学上普遍的であり、絶対。人間は特に顕著で、地球上(・・・)最も弱い生物である。

 だから人間は知恵を使い、武器を作り、それを用いて敵と認めた存在を追い払う。

 時に人間以外の生物だったり、時に人間同士だったり。

 そんなことを思い出す(・・・・)


 ……思い出す?


 思考している意味に思い至った僕は、その内容に関しては違和感を持たず体に力を入れることが微力ながらできたことを知る。

 …となると、僕はあの状態から生き延びたということか。

 誰かが助けてくれたのかなと思いながら瞼を開けたところ……ナオルニシアさんが顔を覗き込んでいた。


 とりあえず数回瞬きをする。

 それを見たナオルニシアさんが顔を引っ込めてどこかへ行ってしまった。

 匂いを嗅いだところ、どうやらここは森の中。たき火が燃える音と匂いがするので、時間帯は夜。それ以外は分からない。


 起き上がろうとしたけれど力が入らない。まるで重石か何かを載せている感じ。

 そういえば以前お師匠様に「鍛えろ」とか言われて僕の腹筋に石を載せたまま半日放置されたっけなぁ。嫌な思い出だ。


「大丈夫ですか?」


 スッとリニアさんが僕の顔を覗き込んできたので、僕は内心で驚く。表情もきっと驚いているのかもしれないけれど。

 自分の表情なんて鏡を見なければわからないからなぁと口を動かさずにぼんやりしていると、リニアさんの表情が、いつも見ているよりちょっとだけ――ほんの些細だけど――軟化したのが分かった。

 だから僕は声をかけようとしたけれど、うまく言葉が発せない。


 ……うーん。僕全身麻酔(・・・・)でもされたのかな? ありえないはず(・・・・・・・)なんだけれど。

 そんな考えをしていると、不意に気怠さが取れた。


 体に力を入れる……問題ない。

 よっこいしょとは言わないけど体を起こした僕は、お師匠様と目が合った。


「あ……」

「ようやく起きたか」


 そう言いながらも呑気に自前のカップに口をつける。

 ……後ろに人の山が築かれているのは、きっと死人じゃないはずだ。

 そんなことを思いながら僕は素直に「ありがとうございます」と礼を言った。


「私だけじゃないぞ。リニアに……ナオルニシアはあまり役に立たなかったな」

「そりゃそうですよ! ランクレスに現役引退したといっても衰えていない冒険者ですよ!! まだひよっこ同然の私が戦闘で役に立つわけないじゃないですか!!」

「自分で言ってて悲しくないのか?」

「悲しいです!」


 そういってお師匠様の近くにいた彼女はうずくまる。

 それを見て僕は、「今どのくらいたったんですか?」と質問する。


「ざっと四日だな。回復魔法をかけても傷の治りが遅くて時間がかかった」

「私たちが見つけた時には止めの一撃でもやりそうだったので、間一髪でした」


 結局あの爺さんだけには逃げられたんだけどな。そう言ってお師匠様は悔しさを声に滲ませる。

 僕はあのお爺さんを探すだけ無駄だと思った。理由なんてただの勘だ。ただ同じ姿で現さないだろうと思っただけ。ただの推測だから、あてにはならないだろうけど。

 そんな少し脇道に逸れた思考の中、僕は死にかける間際に聞いた、「久しぶりだな」という単語を思い出した。

 久し振り。それはつまり、僕とお爺さんの姿をしたやつ――かどうかはわからないけど――は最低一度、どこかで会っているということを示す。

 どこかで会っているということは、僕の記憶の中でいなければおかしいはずなんだけれど……生憎僕にはそんな記憶がない。

 夢の中で声に何か言われてた気がするんだけど、もうぼんやりとしか覚えていない。

 まぁ簡単に言うと、あの人誰だっけ? なんだけど。


「しかしあの爺さん何者だ? 私の攻撃をすべて杖で受け切るとは」

「こちらの方々もなかなか手ごわかったですが、それでも単純でしたので余裕でしたね」

「私はそんなお二人を見ながら回復魔法をかけてましたが……あんな一方的になるんですか、冒険者の人たちって」

「それはごく一部の人たちだけだと思うけど」


 思い出せないので会話に参加する。もうそのことを考えるのは面倒になったから。

 とはいったものの、僕からしたら特に何を話すということはない。この四日間死の淵を彷徨っていたのだ。話題になりそうなものなど、ない。

 だから僕は、「どうやって僕の所まで来たの?」と訊ねることにした。

 それに答えたのは、案の定お師匠様だった。


「朝起きたらお前がいなくて窓が開いていたからな。きっと連れ去られたのだろうとあたりをつけて二人を起こし、集団の気配がする場所まで向かった。それだけだ」


 簡潔だけどわかりやすい。分かりやすいけど…お師匠様のハイスペックさには常々驚かされる。

 どうやったら集団の気配がわかるんだろうか。今度それだけを習いたい。そしたらきっと、今以上に人の目を気にしないで旅ができるだろう。なんて快適なんだ。

 でもこれで力が縛られているんだよなぁと呆れていると、リニアさんが僕に質問してきた。


「ジーク様はどうしてあのような状況に?」

「目を覚ましたら」

「……」


 そこで首を傾げるのはやめてほしい。僕だって状況の理解が追い付いてないのだから。ただ目が覚めたら縛られていたってだけなんだから。

 というか、無表情だけどリニアさんの首を傾げる姿ってどこか愛らしいよね。そんな感想抱く場合じゃないのは重々承知だけどさ。


「で、これからどうする弟子よ」

「これから、ですか……」


 アホなことを考えていたらお師匠様が今後について訊ねてきたので、少し考える。


 今後とるべき行動は二つ。首都へ行くか、このまま回れ右で別な国へ行くか。

 首都へ行くとなるとあのお爺さんがもう一度現れそうだから行きたくない。かといって別な国へ行く際、国境を渡るには証がなければ向こうに行ってもつかまって終わり。

 どちらを選んでも僕の死亡する危険があるなぁとわがことながら呑気に考えていると、「私はこのまま王都へ行ったほうがいいと思います!」とナオルニシアさんが元気いっぱいに宣言した。

 お師匠様が「どうなってるか知りたいからか?」と聞くと、彼女は素直に頷いてから言った。


「あのお爺さんが去り際に言った『王都で待っている』という言葉の意味が気になります」

「それって単純に迎え撃つって宣言してるだけですよね?」

「だろうな。向こうは完全に私達を待ってる」


 それって行く意味あるのかな…行かないほうが危険は少ない気がするんだけど。

 そう僕が考えて口を挟まなかったところ、お師匠様が「よし行くぞ。どの道行く予定だったんだ。今国で何が起こっているのか調べるには絶好のチャンスだ」と決定した。


「お師匠様。敵が迎え撃つ準備ができてるって言いませんでした?」

「早く追いつけば向こうも準備などできないだろ。それに、言ったのはお前だ」

「僕の言葉に賛同したのですからお師匠様も言ったことになるじゃないですか」

「……」


 二の句が継げなかったらしいお師匠様。それに対しもうちょっと何か言ってやろうと思ったけど、思いのほか何も言うことがなかったので沈黙する。

 一体なんだろうね? 言おう言おうと思っていた言葉が突如消える状態。今がまさにそんな状況で、必死に頭をひねって考えている。大したことじゃないと思うけど。

 とかやっていたらお師匠様が声を張り上げて「ともかく王都へ行くぞ!」と断言してしまった。

 もはや拒否権がない状況なので、僕は盛大にため息をついてから寝ることにした。


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