第三話
書いてませんけど更新します。
森を抜けてから五日後。
お師匠様が言っていたに近いペースで最初の大きな村についた。
村の名前はタカナ。リゲル王国内では一番北側にある村で、若干厳しい環境の中生き抜いているらしい。領館はないけど。
村の入り口についた僕たちを待っていたのは、やはり好奇な視線だった。主に僕に対する。
「見られてますね」
「僕ですよきっと」
「私もだな。こんな格好だし」
「あの、そんなことで立っているよりも村に入ったほうがいいのでは…?」
ナオルニシアさんが至極まっとうなことを言ってきたけど、僕は首を横に振った。
「なんか空気がピリピリしてる気がするんだけど…」
「何かあったのは確実でしょうね」
「……ああ」
お師匠様は何かに気付いたらしいけど、その反応を見て僕も気づいてしまった。気付きたくないことだったけど。
僕はため息をついて「この事態をどうやって収集つけるつもりですか?」と原因を隠してお師匠様に尋ねる。
お師匠様は「そんなこと言われてもな。あれは弟子が素直にこうそ――来てくれなかったからだろ」と自分に非がないと反論した。
「いや、あれはどう考えてもお師匠様が悪いです」
「事実なんだからしょうがないだろ弟子よ」
「何の話をしているんですかジーク様、ソミリナ様」
僕たちの話の内容が気になったのか質問してくるリニアさん。その間に解ったらしいナオルニシアさんが、「ちょ、ちょっと話をしてきます!」と一人で村のほうへ行ってしまった。
少しして。
僕達は普通に入ることができたけど、なんていうか……まだ視線を感じる。いたたまれなくなってくる。
ナオルニシアさんが言い訳と嘘を織り交ぜて(どうやら国中が知ってることらしい)誤魔化したおかげで僕がジークだということはばれずに済んだ。
済んだけれど……それでも僕に対する視線は変わらない。
とりあえず宿があったのでそこに泊まることにしたけれど……なんていうか、この村少しおかしい気がする。
というわけで。
「お師匠様。どうにもおかしいと思いません?」
「視線以外に、と言う意味か弟子よ?」
「はい」
僕と相部屋になったお師匠様に、部屋に入ってそうそう質問した。リニアさんとナオルニシアさんは隣の部屋。
僕の質問にお師匠様は少し考えてから、「まぁ変な気配がするのは確かだな」と頷いてくれた。
そう。なにやらこの村全体がおかしいのだ。空気と言うか、気配と言うか。ともかく寒気を覚えるほどに。
気配だけは敏感になったんだよなぁとこれまでの事を思い返しながら遠い目をしていると、「戻ってこい」とお師匠様に言われ、現実に戻ってくる。
「これからどうしますか?」
「この村を放置するかどうか、か?」
「それもありますけど。というか、それは僕の中で結論が出ているので相談しません」
「どうせ放置する方向なんだろ?」
「そりゃもう」
僕が正直に頷くと、お師匠様ははぁっとため息をついた。が、そんなのは些細なことなので僕はそのことについて言及しない。
だから僕は、本来のほうへ戻した。
「みんな、あまりしゃべりません。その上、どことなく雰囲気が同じなんですよね……」
「確かにそうだな。気配の特徴は個々人として違うもの。それなのにここの村人は皆同じ気配をさせている……だが、それがどうかしたのか?」
「何の目的があるんですかね?」
「放置すると宣言しておいて目的探しか。お前は一体この出来事に関心があるのかないのか、どちらなんだ?」
「どちらかというとありません。僕以外の誰かが解決してくれるならば。僕にどうこうできる問題ではなさそうですので……それで、どうお考えになります?」
この村の異常についてお師匠様に指示を仰ぐ。とはいっても、僕にできることなんてそんなにない。
ないのになぜ仰ぐか。それはやはりお師匠様が規格外の存在で、この状況になった原因を知ってるかもしれないと考えたから。ただ、それは会話の流れでわからないみたいと認識を変えた。変えたけども、結局聞いてみるだけ聞いてみた。
お師匠様は考えるそぶりも見せず、「知らん」と堂々と言い切った。
……ですよねー。
清々しさが残る否定を聞いた僕はそんな感想を抱いた。
「大体、なんでそんな無駄な質問をした弟子よ」
「確認ですよ。僕にはどうにもできないので」
「知ってたらどうした?」
「別に何も。どうせ僕には何もできませんからね」
お師匠様の質問に僕は肩をすくめて答える。そんな僕を見てため息をついたお師匠様は、「先に風呂入ってくる」と言って部屋を出た。
見送った僕は、バックの中身が気になったけど漁ろうとせず、ベッドの上に寝転がり、まぶたを閉じた。
――久しいですね。
……誰?
――そうですね。記憶を分割したので憶えてはいないでしょう。
…………分割?
――はい。分割です。
女の人の優しい声が聞こえた。それはあの時――僕が風邪を引いた次の日の夜――に聞いた声と同じだった。
慣れたわけではないけども、さすがに二度目となると余裕が出てくる。
――旅に出ているようですね。
……そんな世間話をしに来たの?
――いえ。安心したのです。あなたの行く末に幸あらんことを、我々 が願っています。数多の困難を退けられることも祈ります。
言うだけ言うと、声は消えた。
特に何が起こるわけでもなく、ただただ普通に消えた。
あまりにも一方的だったけど、僕は特に気にならなかった。
「おい弟子。起きろ」
「ぐふっ!」
腹を殴られて僕は飛び起きた。多少の加減はあるだろうけど、それでも僕の腹部に痛みを残すには十分すぎた。
ヨロヨロと立ち上ると、そこにはフードを深くかぶったお師匠様と、お風呂上りなのか湯気が体から上っているナオルニシアさんとリニアさん。
……お師匠様。フード脱がないのかな?
ここまで頑なに正体を隠そうとする理由がわからないので内心で首を傾げていると、「お前も風呂に入れ。金は先に払ってある」とお師匠様が言ってきた。
「いいんですか?」
「金ならある。それに、この先風呂に入るとしたら次の村だからな。清潔感は大事だろ」
「……それじゃ、お言葉に甘えて」
そういって僕は痛みが引いた腹部を抑えながら、リニアさんからタオルを受け取って部屋を出た。
風呂というのは、昔から存在していたものらしい。けれど、薪をくべて水を温める方法しか採れないため、現在ではこうした宿や衆人浴場、貴族のお偉方の家にしかない。薪代もばかにならないだろうし、水を沸騰させるほどの量を平民は集められないからね。
……って、お師匠様から修行中に聞いたのを思い出した。
そういえば。僕達が泊まった宿は二階が客室になっていて、一階は受け付け、食堂、風呂場。
二階の客室は全四部屋なんだけど、珍しいことに誰も泊まってなかったらしく、二部屋を普通に借りれた。
一部屋は無理すれば六人ぐらい寝られるんじゃないかという広さ。ベッドは一人用のものが両方の壁際に存在している。
これ何人宿泊を想定して作られたんだろう…って思わず考えたよ。
何とか「男湯」と書かれた風呂場についた。
途中場所を聞こうと思ったのに、受付にも食堂にも誰もいなかった。
職務放棄だったらそれはそれでやばいような気がするんだけど…と思いながら服を脱ぐ。
ずっと着ている、両親から貰った何か頑丈な糸で編まれたグレーのシャツ。
同じく、もらってからずっと着ているインディゴのズボン。
汚いといわれようがなんだろうが、これ以外に服がないのだから仕方がない。
下着まで脱ぎながらそんなことを考えた僕は、不意に自分の腹部を見る。
そこには、あの時につけられた傷が残っていた。
無意識に僕はその傷をなぞる。そこに痛みなんてないけど、あの時の記憶が蘇りそうになった為に慌ててなぞるのをやめてお風呂に入ることにした。
……その前に体を洗わないとね。