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理想なんてクソくらえ  作者: 末吉
第一章
10/17

第二話

お久し振りです。続きは書いてません。

 次の日。

 見張りに僕まで駆り出されて警戒して夜を過ごす羽目になったため、若干眠い。

 お師匠様とリニアさんは変わらぬ態度を示しており、ナオルニシアさんも欠伸を堪えきれないでいた。


「じゃ、行くか。といっても、もうすぐ森の出口だから後は南下するだけだがな」

「あー」

「なんだ弟子。何か言いたそうだな」


 森を抜けるといわれた僕がこのグループの傍から見たときの感想を思い至ってつい言葉を漏らしたところお師匠様が文句を聞くような感じで聞いてきたので、どうしようか悩んでからお師匠様に耳打ちして正直に答えた。


「今更ですけど、僕以外みんな女の人じゃないですか。とても気まずかったんですけど」


 僕のちょっとした抗議を聞いたお師匠様は瞬きを数回してほかの二人を見渡して少し考え、ポン、と手を打った。

 そしてすぐさま耳打ちしてきた。


「私が女であるとはほとんどの人間が知らないから問題ないだろ」


 そういう問題じゃないんですけどね…と思いながらもお師匠様が解決した体で話を進めてしまったので、僕はため息をついて背負ったリュックの重さが昨日と変わってないことに驚いた。


 出発した僕達はお師匠様の言う通りすぐさま視界が開けて道を発見した。

 とはいっても整備された道なわけで人通りもあるんだけど。何人か僕たちのほうを見てから通り過ぎて行ったし。


「王都に行くにはあいつらが来た方向へ歩いていく。途中村を二回通り過ぎるから、そこまでは野宿だな」


 お師匠様が丁寧に教えてくれる。なんていうか、昔が昔だったからとんでもなく不思議な感じがする。ここまで丁寧に教えてもらった記憶がない。もう理不尽ばかりのものだった気がする。

 そんな昔を思い返していると「行きますよジーク様!」と声をかけられたので、僕はあわてて後を追うことにした。


「さて、昨日教えたこと覚えているか弟子」

「リゲル王国の周辺諸国に関しては一応」

「では西へ行くとどんな国がある?」

「エルフの国、ナチュルですね」

「そうだ」


 僕が追いついたのを見計らってお師匠様が昨日の内容の質問をしてきたので正解すると、「それでは次は、リゲル王国の歴史について話すか」と言って話し始めた。


「リゲル王国はこの大陸の中では一番新しい国だが、それでも人間からすると一番古い国になる」

「大陸歴は我々の祖――種族の王がこの地に生まれたとされる日からの年月で、今は大陸歴2946年になります。リゲル王国が建国したのがその五百年前ですね」

「大陸歴とか種族の王とか、僕知らないんだけど」

「種族の王はもはや伝承の存在だからな。我々人間、獣人、ウンディーネ、エルフ、魔人。これらのそれぞれの祖のことを指す。雪妖精や精霊などは大陸歴の間に生まれた存在だが、一応種族として認められている」

「種族の王に関してはどの国でも研究が進められています。一応、大陸歴はその伝承に記されていた言葉にあったそうです。古代文字、と呼ばれています」


 ちょくちょくナオルニシアさんが口を挟んでいることにお師匠様は何とも思わず続ける。

 いきなりたくさんの情報を提示されても困るんだけどなぁと思っていると、「ちなみに」とリニアさんも口を挟んできた。


「その大陸歴が記されていた壁画はディスパニア連合の博物館に存在します。日付などもそこに書かれていました」

「……」


 うん。勉強しなかったツケなのかな。一気にわからない単語が増えたぞ? ディスパニア連合はおそらく国だとして……博物館って何? 日付って何? 朝日が昇ってきたら一日が始まって、完全に沈んで暗くなったら一日が終わるんじゃないの?

 そんな僕の表情がわかりやすかったのか、お師匠様が「旅する前に一回学校へ入学させたほうがいい気がしてきた」とため息交じりにつぶやいたのを、僕は聞かないふりをした。


 そんな僕に何か言いたげなお師匠様だったけど、すぐさま説明してくれた。


「詳しいことは壁画を読み解いてないからわからないが、どうやら種族の王たちはこの世界で年月日を用いていたようだ。大陸歴一年は十二ヶ月、十二ヶ月は365日となる。また、1年の間に気候などが変わっていく。大体三カ月ごとにそれは変わっていく。今は…まだ春だな」

「季節は春、夏、秋、冬があるんです。もっとも、これは東洋で使われている言葉なんですけど」

「こちらの大陸ではスプリート、サマーヌ、フォルター、ウィンソーと呼ばれています」

「……」


 またも聞いたことのない言葉。必死に先ほどの言葉を理解しようとしているのに、次から次へと新しい知識が増えていく。

 頭痛くなるんだけど絶対…なんて思っていると、「わき道にそれたな」とお師匠様が何を話そうとしたのか思い出したらしい。……単に話の区切りがよかったからなんだろうけど。


「で、五百年前に建国するまで、我々人間は土地を転々とするか、細々と暮らしていた。元々バラバラに点在していたし、人間同士で交流する機会なんてめったになかったから、近くに住む種族たちと交流していたようだ」

「建国の理由は、そこが住みやすかったのと、誰もその土地を耕さなかったからだと歴史書には書かれていました」

「……あの、」


 限界寸前だったので僕は手を挙げる。するとお師匠様が怪訝そうに聞いてきたので、「しばらく時間を空けてもらえません? 今知らない単語と意味を関連付けて覚えているところなので」と進言した。

 それを聞いたお師匠様は「そうか」と短く答えるだけ。

 あ、これこのまま続けられる。そう直感した僕は急いで情報を記憶していると、お師匠様は僕が背負っているリュックからいつの間にか金属で出来た筒を人数分持っていた。


「ほれ」

「ありがとうございます」

「いただきます」


 僕もそれを受け取ってから、「なんですかこれ?」と記憶し終わってないのに質問する。

 お師匠様は、「水が入っているから蓋を回して飲め」と慣れた手つきで上のほうを回して外し、豪快に飲んでいく。ただし、フードに顔は隠れたまま。

 ナオルニシアさんやリニアさんはチビチビと飲んでいる。二人ともこれがなんなのかわかっているようだ。

 知りたいけれど今まで出てきた言葉を関連付けないと……そんな思いにかられながらもお師匠様のまねをして僕は蓋を回して開け、それに口をつけて中身をあおる。


 ゴクゴクゴク……


「水ですねお師匠様」

「だからそう言っただろ。旅をするにはこういうのは必要不可欠なんだ」

「確かにそうですね」


 以前日差しが強い中長時間外にいたらいつの間にか倒れてたんだよね。チャオズお爺さん曰く『熱中症』と『脱水症状』になったんだろ、だってさ。

 こまめにとらないと倒れるぞと言われたのを思い出したので、僕は結局一口だけ飲んでふたを閉めた。補給できる場所があるかわからないから、計画的に飲んでいかないと。

 お師匠様やみんなもそう考えたのかよく見たらもうすでに蓋を閉めていた。


「これは今後自分たちで持つこと。なくしたら私は知らないからな」

「ありがとうございます、えーっと」

「そういえば私の自己紹介がまだだったな。私の名前はソミリナ=ミラージュ。弟子以外はソミリナとでも呼んでくれ」


 お師匠様の名前を初めて知ったけど、僕は結局呼び方変わらないんだなと切なくなった。

 それと同時に、性別ばれそうだなぁと危惧した。

 だけど、


「そうなんですか。改めてナオルニシア=アーケン=シュバルといいます。これからよろしくお願いします」

「私の名前はリニアです」


 頭を思いっきり下げるナオルニシアさんと軽い会釈程度で挨拶をしたリニアさんをお師匠様は見てから、「まぁそんなことやってる間に現れたんだけどな、魔物が」とつぶやいて前方を指差した。

 そこにいたのは犬。ただし口元が閉まりきってないせいか、唾液がだらだらと垂れている。

 毛並みは灰色でウルフみたいだと言われればそうなのかもしれないと思うけど、どちらかといえばうちの村にもいた飼い犬みたいな姿。それほど鋭くはない犬歯。人を見たら威嚇ではなく近寄る人懐っこさ。目の前にいるそいつも、そんな感じがした。

 でも魔物なんだろうなぁと思っていると、その犬の首が一瞬で消えていた。


「……あれ?」

「今、何があったんです?」


 あまりの早業に、僕はもちろんナオルニシアさんも首をかしげる。

 たぶんリニアさんがあの犬の首をナイフで切ったんだろうなと思っていると、「ソミリナ様もランクレスだったのですか?」とリニアさんが聞いてきた。


「どうしてそう思う?」

「元冒険者で先ほどの無駄のない一閃。剣を魔法で出現させてから切り、その剣を消すまでの速度が尋常じゃありませんでしたから」


 少なくとも、私が知るランク上位の方々でここまでの剣の使い手はいらっしゃいませんでしたし。そう付け足して隣にいたリニアさんは僕の前にいるお師匠様を見ている。

 そのお師匠様はというと、フードを深くかぶっているせいで表情がわからない。けれど、感心しているのだというのは何となく分かった。

 ちなみに今の話を聞いたナオルニシアさんは驚きの声を上げていた。うるさかったから耳塞いだけど。


「さすが現役ランクレス。今のが見えていたのか」

「まぁ。さすがに魔力には敏感なので。魔力がないから特に違和感を持たないジーク様や、微細すぎて感じ取れなかったナオルニシア様に非はありません。むしろ気づかないのが普通でしょう」


 そう言ってリニアさんは『何か』をした。

 僕には見えなかったけど、何かが起こったのは気づけた。

 ただそれだけ。『何』をしたのかは、事象となって理解した。


 シュパという音とともに、先程の仲間なのか、別な犬が僕たちの後ろで血が吹き出ないで横に切断されていた。

 普通の人ならこういうのを見たら発狂するのかもしれないけれど、なんか慣れてしまった僕。たかだか三日目、しかもまだまだ始まったばかりだというのに。

 慣れてしまった、というのは語弊があった。こうなることは解りきっていたんだよ。現実がこんなものばかりだという。

 冷静になった僕はその死体をじっと見ていると、「急ぐか。また襲われたら先がかなわないから」とお師匠様が提案したので、僕は我に返ってあとを追いかけた。

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