第一話
活動報告にて書いたものですね。プロローグ全八話になります。
僕達は知っているはずなんだ。憧れや理想だなんてものは、所詮幻想、夢物語だということを。
それなのに現実の自分に嫌気がさして、ついついそんなものを掲げてしまう。夢見てしまう。
自分にないものはないのだからそれを欲張ってほしがるっていうのは、さすがに諦めた方がいいというのにね。
才能なんて特にそうさ。嫉妬する人間はそれが自分にないとわかっているから嫉妬する。
まぁ才能なんて言葉はあるけれど、「それ」が本当にあるかなんてわからないよ。知らないものは知らないんだから。
ま、結論を言うなら――人を叩き落とすには理想や憧れを全部へし折れば簡単だねってこと……だね。
まぁ僕自身魔力がないから魔法が使えないし、村の外に出たら魔物に食べられてお陀仏になる人間で、隠された力なんてものがあるわけでもないし誰かに勉学を教えるほど博識ではないけども……自分の現実で現実を生きていると認識しているから理想を掲げてはないね。その方が楽でいいさ。あれこれ考えることなんて必要ないからね。
「ジーク! さっさと畑仕事手伝いに行きな!!」
「わかったよ!」
母さんの怒鳴り声が二階まで聞こえてきたので僕はそっと本を閉じ、そのまま机の上に置いて部屋を出ることにした。
平和でのどかな田舎――シュラーデ。若い人より年寄りの人が多いこの村は、家と畑と牧場しかない。領主様は別な場所――それこそ首都に限りなく近い自分の領地で書類に追われながら色々とあくどい事をやっているのだろう。こちらに被害はないので気になることはないけど。
ギルドと呼ばれる冒険者たちの仕事紹介場所もここにはなく、旅館もないという、旅人達からはスルーされるこの村は、それでも国境線の一つとなる場所なので、騎士団の人たちが巡回をしているし、時折来る魔物達を討伐してくれる。そんな彼らに僕たちは時折差し入れなどを持っていく。結構気さくな人たちなので、受け取った時にきちんと礼を言ってくれる。
え? さっきからぺらぺらと紹介しているおまえは誰だって? さっき母さんに名前を呼ばれたからわかってると思ったけど……仕方ない。
僕の名前はジーク。爵位とか何もないからただのジークだよ。平民に家名がつくというのはないからね。年は確か十五を超えたかどうか。
背の高さはそれほど高くないけど、特別低いってわけじゃない。体型も太っているわけではなく、細いわけでもない感じ。言ってしまえば体格に特徴がない人間だね。
ま、顔立ちにも特徴はないよ。父さんがカッコ良くもなければ悪くもないって位置にいるから。
特技や趣味なんて特出したものないよ。
「こらジーク! お前、約束忘れてたのか!!」
「ちょっと本を読んでただけだよ」
「それは結構だが、ちゃんと約束は守れよ」
「わかった」
「ならよし。草むしりするぞ」
「うん」
父さんが待っている家の裏にある畑についた僕は父さんに怒られてから鎌を渡されたので、我が家の畑で栽培しているものとは明らかに違う草を刈り取り始めた。
うちの村に商店はない。完全自給自足で、他の家へ行って交換するか、村を出て働いてもらった金で買って帰ってくるか、ごくまれに来る買取商社の人たちに換金してもらってごくまれに来る販売商社(とはいっても二つとも馬車の行列)で買うぐらい。お酒なんて自分の趣味で作っているトーテムさん(七十超えてる)の家へ行って食べ物と交換しないとだめだから、たまに来る販売商社で酒が売っているのがわかると、大人はみんなこぞって買いに行く。子供なんて珍しい視線しかむけられないよ。お金ないし。
「なぁジーク」
「なに父さん?」
「お前はこれからどうするんだ?」
「普通にこの村で暮らすよ。僕には旅で生き残れるほどの特技なんてないし、そもそも僕は外に出ることに夢を持ってない」
「……お前って淡泊だよな」
「別にいいじゃない。老後の世話もするって言ってるんだから」
「だったら嫁もらえよ」
「僕と同い年、みんな外に行っちゃったじゃん。未亡人や未婚の人に知り合いいないし。そもそも僕のことを好きになってくれる人間なんていないよ」
「……またお前のいつものやつが出たな」
「そんなことより手を動かそうよ。まだ半分もいってないよ父さん」
僕は一旦作業の手を止めて父さんに注意する。ちなみに僕もまだ半分を終わらせていないけど、父さんと違い残りあとわずか。話しながらもちゃんとやっていたからね。
父さんが急いでやり始めたのを見た僕は、普通に作業を再開した。
僕の家が所有している畑は三つ。そのうちの二つを終わらせたとき、ちょうど母さんが外に出てきて「ごはんよー!!」と呼びに来たので僕達は積み上げられた雑草をそのままにして家へ戻った。
りそう
次は明日の二十時になります。