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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 5-ミヤビナカオリ-
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第12話『雅の過去』

 2時限目は俺の受ける講義があるけれど、雅先輩が空き時間なので例によって彼女と一緒に講義を受けた。この時も昨日ほどではないけれど、同じ講義を受けた生徒から結構な視線を浴びる結果になった。

 昼休みは昨日と同じく水澤、岩坂と3人だけで昼食を取った。しかし、雅先輩が隠れて俺達のことを見張っている可能性もあるので、昨日の調査結果については聞かなかった。

 そして、3時限目の講義を受ける教室に入り、席に座ったときだった。


「昨日、お前が神崎先輩と付き合っていることを話題にしてから、サークルの先輩を中心に聞き込みをしてきた」


 隣に座った水澤が俺の耳元でそう呟いた。


「雅先輩も3時限目は講義だから、もう少し大きな声でも大丈夫だぞ」

「……そうか。どうやら、高校時代に1回、同級生の女子に告白したみたいだ」

「告白だって?」


 なかなかの情報だな。ということは、過去に女性を好きになった経験があるのか。今のこの状況を考えて、告白の結果は目に見えている。


「ああ。だけど、告白は失敗。まあ、教えてくれた先輩も神崎先輩と同じ高校出身……ってだけで、今の話も人から聞いただけで実際には見ていないらしい」

「告白された人の名前も分からないから、僕達は別の人達に訊いて回ってみたんだけど、それ以上のことは分からなかったよね」

「そうだな。むしろ、坂井と一緒にいるから、逆に俺達の方が訊かれたぐらいだよな」

「でも、神崎先輩が超有名だから話は訊きやすかったかな」

「そうか。2人とも、ありがとう」


 やっぱり、告白は失敗か。

 同性に恋をしたけれど、それは儚く散ってしまった。そのことが、同性で付き合うことに対する嫌悪感に繋がっている可能性が高そうだな。

 仮にそれが根底にあるなら、どうして遥香と絢さんの写真を使ってまで俺を脅迫する必要があったのか。俺と付き合うことで何か企んでいるのか? まさか、本当に俺のことが好きなのか?


「告白された相手、本当に分からないんだよな?」

「そこを中心に訊いたんだけど、全然分からなかった」

「彼女の出身高校も聞いたから、ネットを駆使して色々と調べたけど何にも出てこなかったよ。色恋沙汰なら誰かが書き込みとかしていると思ったんだけどなぁ」

「そんなことする奴がいるのかよ」

「意外といるもんだよ。ここ数年でSNSも充実してきたし」


 自分から気軽に発信できるようになったからなぁ。ネット上に告白についての書き込みの記録が残っているかもしれない、という岩坂の考えは鋭い。


「会員制や友達登録をしないと見られないところにはあるかもしれないけど、僕でも見られる部分はくまなく探した。でも、そういう書き込みはなかったよ」

「まあ、実際に訊いても告白のことを知っている人は少なかったから、ネット上に書き込んでいたり呟いていたりはしてないんじゃないか?」

「そうかもしれないね」


 水澤の意見には俺も同感だ。ネット上に告白の情報が流れたなら、雅先輩と同じ高校出身以外の多くの人も知っているはずだ。雅先輩は有名人だし、ネット上にあれば今回俺と付き合っている噂が流れるように、誰かが過去に女性へ告白したことがあることも流れるはず。だけど、そんな話は一度も耳にしたことはない。


「俺と岩坂で今日も聞き込みしてみるよ。まだまだ訊いていない人の方が数は多いわけだしさ。何か思い出して教えてくれる人が出てくるかもしれない」

「僕もネットの方で調べてみるよ。今は実名とかイニシャルで探した結果なかっただけで、告白自体のことが書かれているかもしれないし」

「……ありがとう。引き続き頼む」


 分からない部分は多いが、2人が得た情報はかなり大きい。雅先輩が同性同士の恋愛を嫌ったかもしれない過去が分かったわけだからな。

 ただ、個人的見解として肝心なのは告白した相手が誰なのかだ。その相手によっては、どうして今回のようなことが起こったのかが分かるから。

 俺の推測ではその相手、西垣先輩である可能性が高いと思っている。明確な理由はないけれど、昨日の放課後、西垣先輩と会ってから……それまであった俺に対する雅先輩の余裕さがなくなってきている気がするから。


「……そういえば、坂井」

「どうした? 何かあるか?」

「いや、香川さんのことはどうなったかなって……」

「ああ、雅先輩が講義を受けている1限のときに会って、本当のことを話しておいた。あいつにも言ったけど、表面上では変化を見せちゃいけない。つまり、俺から本当のことを知ったことを表に出しちゃいけない。彼女は頭がいいからね」

「昨日も言ってたな。俺達が変なことをしていると彼女に感付かれないようにって」

「そういうことだ」


 まあ、雅先輩は人気者だし、もしかしたら、そろそろ俺達が何か動いていることを知られる恐れが出てきそうだ。


「ネットで調べるのはいいとして、人に聞き込みをするときは気をつけてくれ」

「……ああ、分かった。だけど、良かったな。香川さんに本当のことを言えてさ」

「まあな。でも、雅先輩の前では奈央とは距離を置いていることにして欲しい」

「何だか坂井君の話を聞いていると言葉が悪いけど、どれだけお互いに上手く誤魔化させるかが鍵みたいだね」

「まあ、そうだな」


 岩坂の言うとおり、表面上ではいかに本当の部分を出さずにいられるかが重要だ。おそらく、雅先輩は俺に本音を言っていないだろう。

 小耳に挟んだという形で、今のことを雅先輩に訊いてみようか迷うところだ。下手にこちらから話を切り出すと、雅先輩のことだからどう転がるか分からない。2人からの新たな情報が来るまでは様子を見た方がいいのかな。

 3時限目の授業が始まってからも、俺はそのことをずっと悩んでいたのであった。

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