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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 5-ミヤビナカオリ-
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第10話『眠り酒』

 家に帰ると、すぐに雅先輩は夕飯にハンバーグを作ってくれた。今朝の朝食といい、結構家庭的な料理を好むんだな。もちろん、とても美味しかった。

 そして、夕飯後には昨日と同じくスイーツタイムに。俺は大福で雅先輩はカステラ。それに合わせ、俺は緑茶で雅先輩は缶のレモンティー風のカクテル。


「雅先輩、20歳を迎えていたんですね」

「5月にね。隼人君は?」

「4月に誕生日を迎えましたけど19です」

「……そっかぁ」


 そんな風に相槌する雅先輩の横で、俺は熱い緑茶をすする。夏でも、涼しいところにいるときは温かい飲み物の方がいいな。


「呑んじゃいなよ。2人きりなんだし」

「ダメですよ。法律に触れてしまうようなことはできません」

「……隼人君は真面目だね」


 違法行為したくないですから。

 雅先輩は少し不満そうながらも、缶を開けてカクテルをぐいぐいと飲む。開ける際にプシュー、と音がしたってことは炭酸が入っているのか。


「あたしのお酒が呑めないの?」


 さっそく酔っ払ってるよ。頬が赤くなっている。


「ほらほら、呑みなさいよ~」


 雅先輩はカクテルの缶を俺の口に近づけようとする。この人、酒癖がよろしくないみたいだ。呑み会の時に大変そうだけど、男子からは可愛いからって許されるんだろうな。

 缶を見てみると、アルコールは3%と書かれている。ビールよりも度数が低いのでそこまで強くないはずだ。ということは、雅先輩はお酒に弱いのかな。

 とにかく、このまま雅先輩のペースに乗せられてはいけない。酒を呑んでこちらまで酔っ払って閉まったら何が起こるか分からなくなる。


「もし呑ませるのであれば、今日のスイーツは自分のだけ食べてくださいね。俺のスイーツはあげませんから」

「えっ……」

「コンビニで買うときに大福も好きだって言ってましたよね。俺の言うことを聞いてくれれば昨日みたいにちゃんと食べさせてあげますよ」


 このくらいのことを言わないと雅先輩は言うことを聞かないだろう。

 取引が上手くいったのか、雅先輩は急に大人しくなった。


「……分かった。隼人君の言うこと聞く」

「いい子ですね」


 よしよし、と雅先輩の頭を撫でると、彼女の顔が更に赤くなる。この様子ならお酒を飲まされる心配はないだろう。

 俺は自分の選んだ大福を一口食べる。


「たまには和菓子もいいな」


 甘さ控え目で、洋風だった夕ご飯の後のデザートにはちょうどいい。緑茶の苦みと合っている。


「カステラも美味しいよぉ」


 レモンティー風のカクテルにはカステラが合うんだろうな。


「じゃあ、隼人君。あ~ん」


 雅先輩はカステラをフォークで一口サイズに切って俺に食べさせようとする。

 仕方ない、間接キスくらいなら我慢するか。カステラを食べさせてもらう。


「……美味しいです」

「じゃあ、大福食べさせて」


 なぜか、雅先輩は目を閉じて口を開けた。昨日も食べさせてもらうときはこんな感じだったような。

 俺は大福を雅先輩に食べさせる。


「……美味しい」


 そう言って、雅先輩はカクテルを口の中に含めると、


「んっ!」


 突然、俺にキスしてきた。

 口の中に何か甘酸っぱい炭酸水が入ってくる。ここで吐き出すわけにもいかず、俺はゴクゴクと飲んでしまう。そうしたら、頭がちょっとぼおっとしてきた。

 まさか、口移しという最終奥義を使ってくるとは思わなかった。雅先輩にとっては大福さえ食べられればこっちのものだったんだ。これは絶対に大福を食べたら口移しさせる気でいたな。


「えへへっ、口移ししちゃったね。これが本当のカクテルだね。甘くて美味しい」


 雅先輩は満面の笑みを浮かべ、俺に抱きついてくる。

 今のキスのせいで吐き気を催してきた。キスは俺が今まで経験した中で最悪のトリガーだ。

 せっかくのスイーツが目の前にあるのに、もう食べる気になれない。


「雅先輩、大福食べますか? 俺、お腹いっぱいになっちゃって……」

「うん! 喜んで!」


 そう言うと、雅先輩は残りの大福を一口で食べてしまった。まあ、嬉しそうに食べてくれているからいいか。


「今日は最高の1日だな。みんなに堂々と恋人として振る舞うことができて、隼人君とキスできたんだもん。あと、隼人君が大福を譲ってくれた」

「……そうですか」

「私、隼人君のこと大好き!」


 あまりにも笑顔が眩しいせいか、それとも酔っ払っているせいなのか……キスまでされても雅先輩が俺のことが本当に好きだとは思えなかった。


「こうして隼人君の隣にいられて……夢のような……気分なの……」


 ほんわかとした表情をしてそう言うと、徐々に俺の方に体重がかかってくる。まさか、お酒のせいで眠ってしまったのか?

 とりあえず、雅先輩を膝枕する。


「……まったく、眠るまで自分勝手なんだから」


 今日も雅先輩に振り回されっぱなしだったな。こちらが仕掛けても最後は自分が都合のいいように事を運ばせていく。この人に隙はあるのだろうか。


「隙、か……」


 あるとすれば、西垣先輩だ。西垣先輩と話してからの雅先輩はそれまでと比べてどこか余裕さがなくなってきている。それでも尚、カクテルで酔っ払っても自分の欲望通りにしてしまうけれど。ここに西垣先輩がいてくれるとどんなに安心できるか。


「……ねえ、隼人君……」

「何ですか?」


 雅先輩の顔を見るけど、先輩の目は閉じている。寝言、かな。


「……隼人君は、離れて……いかないよね? すっと……側に……いてくれるよね?」


 そう言う雅先輩の目からは涙が流れていた。何か寂しい夢でも見ているのだろうか。さっきの大好き、って言葉とニュアンスは同じだけど、今の寝言の方がよっぽど本音で喋っているように思えた。


「……あなたの本心が分かるまでは、ね」


 こんなことになった背景を知るまでは雅先輩の側から離れるつもりはない。というか、雅先輩は無理矢理にでも側にいさせるつもりだろうけど。

 明日、水澤や岩坂から何か情報が得られることに期待しよう。それに、今日……俺と雅先輩が付き合っていると知れ渡ったことで何かが動くかもしれない。


「さてと、先輩をベッドまで運ぶか」


 寝息が聞こえ始めたから、本格的な眠りに入っているだろう。

 俺は雅先輩を抱き上げて、ベッドまで運ぶ。思いの外、雅先輩は軽かった。


「俺も寝るか……」


 口移しで飲んでしまったカクテルのせいでちょっと眠いし。

 その後、リビングを片付け、軽くシャワーを浴びて汗を流す。

 時刻は午後9時前だったけど、俺は雅先輩の隣ですぐに眠りに落ちるのであった。

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