プロローグ『メール』
Fragrance 5-ミヤビナカオリ-
『必ず帰ってくるから。それを奈央に伝えておいてくれ』
昨日の夜、お兄ちゃんからそんなメールが届いた。
こんなこと今まで一度も無かった。どんなに遅くなっても、お兄ちゃんはちゃんと家に帰ってきた。
メールが届いてすぐに、奈央ちゃんにこのことを伝えに行ったけど、奈央ちゃんはいつになく不安そうな表情をしていた。学部が違うから一緒に帰らないことはあるけれど、それでも奈央ちゃんは胸騒ぎがしてしまうという。
――何か隠しているんじゃないかって。
そんな風に疑っているけれど、真実が怖くて奈央ちゃんはお兄ちゃんに何があったのか訊けないらしい。だから、代わりに私が何度かメールで訊いてみたけど、心配しなくていいという返信ばかりが来る。
昨日の朝も会ったけど、お兄ちゃんはいつも通りだった。昨日、大学で何かあったに違いない。だからこそ、奈央ちゃんも不安そうにしていたんだ。
「何があったんだろう、お兄ちゃん……」
家を出るまでに必ずお兄ちゃんと会うのに、今日はそれがない。お兄ちゃんは今、どこで何をしているんだろう?
そんな気持ちを抱えながら、今日も高校に行くのであった。