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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 3-メザメノカオリ-
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エピローグ『二人三脚』

 あれから体力も大分回復して、今は杏ちゃんにマンツーマンで教えてもらいながら中学3年の勉強している。杏ちゃんの教え方は分かりやすくて、お姉さんって感じがする。昔は私の方が勉強を教えてたのに。


「じゃあ、この問題を解いてみて……って、どうして笑ってるの?」

「いや、何だか杏ちゃんが頼もしくなったなって。この1年の間に成長したんだね」

「ま、まあ……頭の方では実質お姉さんだからね。前とは違うよ」


 と、少し恥ずかしそうに言う杏ちゃんがとても可愛い。


「そう言う牡丹だって成長してるじゃん、主に体の方。特に胸とか」

「……寝る子は育つって言うからね」

「あたしも1年間寝たら牡丹みたいに大きくなるのかなぁ」

「杏ちゃんはそのままでいいんじゃないかな。私、一年経っても杏ちゃんがあまり変わってなくて安心したし」

「うううっ、ここは嬉しがるところなんだろうけど、ちょっと複雑……」


 中学生の頃は私の方がちょっと背も大きければ、ちょっと胸が大きかったくらいだったかな。杏ちゃんの言うとおり、眠っていたこの1年間で私の体は相当成長したと思う。初めて全身鏡で自分の姿を見たとき、一瞬、自分なのか疑ったから。


「ほら! さっさとこの問題を解きなさい」

「は~い」


 胸で差が付いたのが悔しいのか、杏ちゃんは頬を膨らませていた。何だかそういう子供っぽいところが変わっていなくて安心する。


「全然手が動いてないよ」


 杏ちゃんは私のすぐ横でそう言う。凄くドキッとする。

 だ、だめ……杏ちゃんの顔がすぐ側にあると思うと集中できない。おまけに、杏ちゃんの呼吸する音が聞こえるし、温かな吐息が僅かに顔にかかってるし。

 もう、我慢できないよ。


「ねえ、杏ちゃん。ここ分からないんだけど……」

「えっ、どれどれ――」

「んっ」


 杏ちゃんの顔が更に近づいたのを見計らって、私は杏ちゃんの方を向いてキスをする。


「牡丹……」

「……ファーストキス、だよ。どうだった?」


 私がそう訊くと、杏ちゃんは突然のキスに驚いてしまったのか「あうあう」と声を上げるだけで何も答えてくれない。


「驚いちゃった?」

「あ、当たり前だって! こんなときにキスをするなんて思わないもん……」

「私は杏ちゃんの唇、柔らかくて良かったよ。杏ちゃんは?」

「……牡丹の唇も柔らかかった。でも、さ……」


 杏ちゃんは私の手を引っ張り、杏ちゃんと向かい合うようにして私を立たせる。


「ファ、ファーストキスなんだからさ……そういう不意にやるんじゃなくて、ちゃんとしたいんだけど。だから、さっきのはカウントしなくてもいい?」

「……うん」

「じゃあ、さ……しようよ」

「……うん」


 そう言うと、杏ちゃんは背伸びをして顔を私の方に近づけてくる。

 そんな杏ちゃんを支えるようにして、私は杏ちゃんのことを抱きしめる。


「……好きだよ、牡丹」

「うん。私も好きだよ、杏ちゃん」


 そして、ゆっくりと目を閉じて……杏ちゃんとファーストキスを交わした。杏ちゃんの唇はとても温かくて、柔らかくて。何だか癖になっちゃいそう。

 でも、唇を重ねるだけじゃちょっと物足りない。だから、舌を杏ちゃんの口の中に入れてみる。すると、


「うわあっ! な、何やってるの!」

「えっと、ちょっとアダルティーなキスを……」

「い、いずれはしたいと思ってるよ! で、でも今はそこまでの勇気がないというか。普通にキスをするだけでも心臓がバックバクっていうか。ていうか、ちょっとどころじゃなくて結構アダルティーだよ! 牡丹ってこんなにえっちな女の子だったっけ?」

「1年間も寝てると、杏ちゃんへの欲求が溜まりに溜まっちゃってるの」


 キスをしたら、杏ちゃんへの欲求が膨れ上がっちゃったんだよね。杏ちゃんの匂いも凄く感じられたし、もっと杏ちゃんの中に入り込んじゃいたいっていうか。


「こんなことで顔を真っ赤にするなんて、やっぱり杏ちゃんは変わってないね」

「ひ、人のことを馬鹿にして……!」

「でも、そんなところも大好きだよ」

「まったく、好きだって言われたら……許さないわけにいかないよ」


 杏ちゃんはそう言うと、軽くキスをしてくる。


「……ほら、さっさと勉強再開するよ」

「もうちょっとキスしたいな……」

「……じゃあ、次の練習問題を全部自力で解くことができたら、例のアダルティーなキスをしてもいいよ」

「ほんと?」

「うん、ほんと」

「……じゃあ、頑張ってみる」

「どっちの方が子供なんだか……」


 杏ちゃんはそう言って笑っていた。

 こんな感じで私は杏ちゃんと一緒に勉強をしている。今の目標は私立天羽女子高等学校に入学すること。杏ちゃんや原田さん達と同じ制服を着られるようになること。

 1年間の穴は空いてしまったけど、その分……この先の目標がたくさんある。色々とやりたいことがある。

 そんな希望に満ちあふれた時間を、杏ちゃんと一緒に歩んでいく。




Fragrance 3-メザメノカオリ- おわり



Fragrance 4-アメノカオリ-に続く。

 この次に投稿されているのはShort Fragrance 1-カゼノカオリ-の前編『遥香の場合』になっています。短編ですので、この話を読まなくても本編を読む上で支障はありません。ただ、時系列は繋がっています。

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