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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 8-タビノカオリ-
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第69話『HANABI』

 ホテル側からのお礼ということで、急遽、旅行が1日延びることに。

 体が入れ替わっていた間も海やプールでは遊んだということで、絢ちゃんや奈央ちゃんと相談し、ホテル周辺にある観光地巡りとご当地スイーツを堪能することに。

 彩花さん達も同じようなことを考えていたようで、6人全員で観光とスイーツ巡りをすることになった。

 色々なところに行ったこともあり、時間はあっという間に過ぎていった。それぞれの場所でスマートフォンや持参したデジカメで写真をたくさん撮ったり、お土産を買ったりして、この旅行の思い出を1つでも多く形に残すことに。

 絢ちゃんはもちろんいつもの楽しい表情をたくさん見られるようになった。

 直人さんと彩花さんはこれが普段の2人なのかな、と思えるような自然なやりとりと笑顔を見せていた。

 夕方まで観光をして、ホテルに戻ってからは日が暮れるまで海やプールで遊んだ。まさに盛りだくさんの1日となったと思う。



 午後8時。

 夕ご飯を食べ終えた私達6人は、相良さんに浜辺に呼び出された。浜辺には晴実さんや紬さんもいる。何があるのかな。


「皆さま、一昨日、昨日と本当にありがとうございました。ホテル側からお礼ということで、今夜は特別に花火大会をしようと思います! それではお願いしまーす!」


 相良さんがそう言うと、次々と打ち上げ花火が上がっていく。やっぱり、浜辺で間近に見る打ち上げ花火はとても綺麗だなぁ。

 幾多の色の光が夜空をバックに花開き、私達のことを照らす。横目で浴衣姿の絢ちゃんのことを見ると、花火の光に照らされた彼女はとても綺麗で艶やかだった。

 絢ちゃんのことをちらちらと見ていると、こっちを見てきた絢ちゃんと目が合った。


「ははっ、遥香と目が合っちゃった。花火じゃなくて私のことを見てたの?」

「……花火も、絢ちゃんも綺麗だなと思って」

「……私も同じだよ。花火も綺麗だし、遥香も綺麗だよ。あと、遥香は可愛いね」

「絢ちゃんだって可愛いよ」

「……こんなにも可愛いって言ってくれるのは遥香だけだよ。また、遥香とこうして隣り合ってもう1回花火を見ることができて良かった」

「絢ちゃん……」


 そういえば、1日目の夜に絢ちゃんと2人きりで、今みたいに浜辺で打ち上げ花火を見たんだよね。あれから色々とあり過ぎて、あの時のことが相当昔のことにように思える。


「私ももう1回、今回の旅行で絢ちゃんと一緒に花火を見ることができて良かったよ」


 次の旅行で花火を見た時じゃ、きっと思い出を振り返ることしかできないと思う。この旅行中に花火を見ることができたことに意味があるんだと思っている。元の体に戻って、絢ちゃんの隣に変わらずにいることができる、ということの価値を一段と深く知ることができるんじゃないかって。


「そっか。私も……今回の旅行でまた見ることができて良かった。きっと、色々な意味で忘れることのできない旅行になったって確信した。遥香が好きで、ずっと隣にいて欲しい気持ちを再確認できたし」

「……うん、私も」


 絢ちゃんのその言葉に、嬉しい気持ちと愛おしい気持ちがどんどんと膨らんでいって、手を繋いでいるだけでは我慢できず、絢ちゃんと腕を絡ませる。絢ちゃんもそんな私の気持ちに応えるかのように、私の方にちょっと両脚をずらした。


「何か、直人さんと彩花ちゃん……スマートフォンで写真を撮っているみたいだね」

「へえ。じゃあ、私達も撮ろうよ」

「そうだね」


 そういえば、1日目に見たときは花火と絢ちゃんに見とれていて、写真を全然撮らなかったような気がする。

 私はスマートフォンで花火と、打ち上げ花火のスタッフとして働いている相良さんと晴実さんと紬さんのスリーショット写真を撮る。ただ、3人は後ろ姿なんだけどね。


「……ねえ、遥香。打ち上げ花火のところにいるの、相良さんと、晴実さんに紬さんの3人だよね」

「うん、そうだよ」

「私、3人の写真を撮ったんだけど……4人写っているんだよ」

「えっ? ちょっと見せてくれない?」


 絢ちゃんにスマートフォンを見せてもらうと、画面には写真が表示されている。ワイシャツにパンツルックの相良さんに、浴衣姿の女性が1、2……あ、絢ちゃんの言うとおり3人写っている。


「この人だよね」

「うん、そうだよ」

「見た感じ、髪型がロングヘアに見えるから……もしかしたら、水代さんが遊びに来たのかもしれないね」

「あぁ、なるほど。それに彼女、私達の前で姿を現したときも浴衣姿だったもんね」

「そうだったね。じゃあ、水代さんで確定かな」


 私のスマートフォンの方を確認すると、やっぱり4人写っていた。

 そして、花火の方の写真も一応見てみると、そこには水代さんとは違う人と思われる写真が写っている。目を凝らして見てみても誰かなのかは分からない。今は、天国で知り合った彼女の友達だと思っていればいいかな。

 これらの幽霊は直人さん達が撮影した写真にも写っているのかな。


「おっ、花火だ!」

「うわあ、凄く綺麗ね!」

「平日はやらないって聞いていたけど、何かのサプライズなのかな?」

「旅行に来てこんなに花火を見られるなんて超ラッキーじゃん!」


 これだけ打ち上げ花火を上げていると、ホテルに泊まっている人や地元の人がどんどん観に来るよね。


「何だか、1日目と同じような雰囲気になったね」

「そうだね。でも、大勢で見るのも花火大会らしくていいんじゃない? 私は結構そういうのも好きだけどな」

「大勢で見ると楽しくていいよね。でも、私は……遥香と2人きりで見ると凄くドキドキするよ」

「そ、そんなことを言われたら、他の人がいてもドキドキしちゃうよ」


 絢ちゃんと2人きりで花火を見たらどんな感じになるんだろう。いつかは体験してみたいかも。


「今度、ここへ旅行に来たときに花火大会をやっていたら、2人きりで見ることにしようか」

「そうだね、絢ちゃん」

「……約束だよ」


 そう言うと、絢ちゃんは私の額にキスをしてきた。


「もう、他の人がいる前で恥ずかしいじゃない。それに、突然キスされるとビックリしちゃうよ」

「ははっ、ごめんね。でも、今みたいな恥ずかしそうにしている遥香も可愛いよ」

「……もう」


 それでも、絢ちゃんを怒る気は全くない。むしろ、いつもの絢ちゃんだなぁ、と嬉しく思った。

「絶対に来ようね」

「うん、絶対にね」


 そう言う絢ちゃんの笑顔は花火よりも煌めいていた。

 それからは涼しい風が穏やかに吹く中、全ての花火が打ち上げられるまで、私は絢ちゃんの隣で静かに見続けるのであった。

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