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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 8-タビノカオリ-
198/226

第46話『3日目の朝-後編-』

 8月26日、月曜日。


「うんっ……」


 ゆっくりと目を覚ますと、彩花ちゃんは既に目を覚ましていて優しい笑顔で私のことをじっと見ていた。

 スマートフォンで今の時刻を確認すると午前6時半過ぎか。そして、遥香からのメールやメッセージはない、か。


「彩花、ちゃん……おはよう」

「おはようございます、絢さん。起こしてしまいましたか?」


 やっぱり、目が覚めても私の隣にいるのは彩花ちゃんだったか。


「ううん、自然と目が覚めたんだよ」


 彩花ちゃんにそっとキスをする。本当はいけないことだと分かっているのに、彼女とキスをすると心が落ち着くことを知っている。だから、してしまう。


「……うん。気持ちのいい目覚めだ」

「……私も。ただ、寂しい夢を見てしまって……」

「寂しい夢?」


 彩花ちゃんは自分が見た夢のことを事細かに話してくれる。


「なるほどね。夢の中でも、彩花ちゃんは遥香と入れ替わった状態だったんだね。そして、私とキスをしていたと」

「ええ……」

「てっきり、夢の中だけでも元の体に戻っているかと思ったんだけれど、そういうことはなかったんだね。夢って、思っていることを見るって言うし……昨日の夜、彩花ちゃんと色々としたから、夢の中でも私とキスをしていたんだろうね」

「きっと、そうだと思います。それだけなら良かったのですが、直人先輩と私と入れ替わった状態の遥香さんが仲睦まじいまま姿を消してしまうのが、とても寂しくて」


 直人さんが遥香と一緒にいる姿が寂しい、か。彩花ちゃん……私のことが好きだと言いながら、ちゃんと直人さんのことを見ているじゃないか。


「大丈夫だよ」


 私は彩花ちゃんのことをぎゅっと抱きしめる。


「彩花ちゃんは絶対に元の体に戻れるよ。直人さんともまた仲良くなれるって。それまでは私が側にいるから、安心して」


 そうだ、遥香と彩花ちゃんの体を元に戻して……彩花ちゃんと直人さんがよりを戻せるように頑張らないと。


「……はい」


 そう言って、彩花ちゃんも私のことを抱きしめる。浴衣を着ていても、とても温かく感じる。

「今日は相良さんのことを解決して、水代さんの想いに応えなくちゃいけないね」

「そうですね。ただ、相良さんから連絡は入っていませんでした」

「……私の方も入っていないね」


 まだ、いい方法が思いついていないのか、それとも何か思いついたけれど、時間帯も考慮してまだ伝えていないのか。後者であってほしいけれど。

 ――コンコン。

 お兄さんと奈央さんが泊まっている部屋に繋がる扉からノック音が聞こえる。


「はーい」


 そう返事をすると、扉が静かに開いて、桃色の寝間着姿の奈央さんが入ってくる。


「おはよう、絢ちゃん、彩花ちゃん」

「おはようございます」

「おはようございます、奈央さん」

「……2人とも抱きしめ合っちゃって。まあ、仲が悪いよりはいいよね」


 奈央さんは顔を赤くしながらそう言って、ゆっくりと扉を閉めた。あと、奈央さんの今の反応からして、昨晩……彩花ちゃんとイチャイチャしているときに出てしまった声が隣の部屋には聞こえなかったみたいだ。


「さっき、普通に挨拶しちゃったけど、今も彩花ちゃんなんだよね」

「そうですよ」

「水代さんが体を入れ替えさせたからか、やっぱり一晩眠ったら体が元に戻っていたってことはなかったか」


 私もその可能性はちょっと考えたけれど、昨晩の水代さんの話から、氷高さんとの決着を付けることができない限り、2人の体が元に戻る可能性はないだろう。


「香川さんやお兄さんの方には相良さんから連絡はありましたか?」


 彩花ちゃんがそう訊くと、


「昨日は日付が変わる直前くらいまで起きていたけど、特になかったな。私の方はさっきも確認したけれど、大学の友達からのLINEくらいで。隼人の方も来てないんじゃないかな。多分、相良さんも時間を気にして言わなかった……と思いたいね」


 奈央さんはそう言った。やっぱり、お兄さんや隼人さんのところにも何にも連絡はないか。となると、遥香や直人さんの所にも連絡はなさそうかな。


「そういえば、奈央さんはお兄さんと昨晩……色々としなかったんですか?」


 私が彩花ちゃんとあんなことをしていると、自然とそんなことを考えてしまう。


「えっ? べ、別に……小さい頃みたいに一緒にお風呂に入ったり、キスしたりしたくらい……だよ。って、そんなこと言わせないでよ、絢ちゃん……」

「いいじゃないですか」


 赤面している奈央さん、可愛いな。


「あれ、奈央、こっちにいるのか……って、ごめんね」


 隣の部屋から入ろうとしてきたお兄さんは、私達の姿を見て慌てて姿を消した。


「まったく、隼人ったら……ノックくらいしなさいよね。一緒に旅行に来ていても、女の子が泊まっているんだから」

「本当にごめん。ただ、起きたら奈央がいないからどうしたのかな……って」

「もう」


 そう言うと、奈央さんは隣の部屋に戻っていった。奈央さんとお兄さんのような関係、羨ましいなぁ。遥香とまたああいう関係に戻ることができるかな。


「直人さんのことを考えてたでしょ」

「そ、そうです」

「ははっ、それでいいんだよ、彩花ちゃん。君は直人さんの彼女なんだから」

「……はい」


 そう、彩花ちゃんは直人さんの彼女で、私は……遥香の彼女でありたい。だから、遥香のことをたくさん考えよう。それが、せめてもの罪滅ぼしだと思うから。

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