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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 8-タビノカオリ-
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第43話『願望バス』

「さあ、直人さん。髪を洗いましょうね」

「お、お願いします……」


 私は今、直人さんの髪を洗っている。

 意識を取り戻したとき、私はバスタオル姿だった。直人さんから、寝間着に着替えたらどうかと言われたけれど、お風呂から出てから暫く経っていて、体が冷えてしまったのでも直人さんと一緒に入りたいと我が儘を言った。それを受け入れてくださり、彼と一緒にお風呂に入っている。


「気持ちいいですか?」

「はい、気持ちいいですよ」


 男の人の髪を洗う時なんて、幼いときにお兄ちゃんの髪を洗ったとき以来かな。


「遥香さん、男の人と一緒にお風呂に入って抵抗感がないんですか? 俺だけ特別なのかもしれませんが……」

「もちろん、直人さんが特別っていうのはありますよ。でも、幼い頃は兄と2人で入っていたときもあったので、直人さんとも一緒に入りたいなってすぐに思えたのかもしれませんね。直人さんは一個年上ですし」

「ああ、なるほど」


 それに、直人さんはお兄ちゃんと重なる部分が幾つかあるし。だから、抵抗感が全然なかったのかなぁ。


「そういう直人さんだって、すんなりと一緒に入っていいって言ってくれたじゃないですか。やはり、見た目が彩花さんだからですか?」

「それもありますけど、俺には3つ年下の妹がいるので……俺が小学校を卒業するくらいまでは一緒に入ってましたね。さすがに、中学になっても妹と一緒に入っているのはまずいと思って、俺から一緒に入るのはやめようって言ったんですよ」


 なるほど、直人さんは3つ年下の妹さんと一緒にお風呂に入っていたんだ。


「お兄ちゃんと同じですね。私もお兄ちゃんと3つ違いなんですけど、お兄ちゃんが中学生になるくらいのときに向こうから止めようって言われたんです」

「そうなんですか。坂井さんとは気が合いそうだ」


 3つ年下の妹がいる兄か。そう考えると、お兄ちゃんと直人さんが似ている部分が幾つもあるのは必然的なのかも。


「それにしても、直人さんには妹さんがいたんですね。じゃあ……お兄ちゃん、って呼んだ方がいいですか?」

「それも魅力的ですけど、今、言ってくれただけで十分ですよ。遥香さんにはやっぱり、さん付けが一番しっくりきます」


 直人先輩でもなく、お兄ちゃんでもなく、直人さん、か。一般的な言い方だけれど、直人さんがそれがいいと言うなら私はそれに従うだけ。


「直人さん。泡を落としますので目を瞑ってくださいね」

「分かりました」


 直人さんの髪に付いているシャンプーの泡を落としていく。意外と直人さんの髪ってさらさらしているんだ。


「はーい、泡を落としましたよ。タオルで髪を拭きましょうね」

「そのくらいは自分で……」

「拭きまーす」


 今は直人さんのために何でもしたくなっちゃう。


「これで大丈夫ですね。直人さんの髪ってさらさらですよね。いいなぁ」

「特別なことは何もしていないんですけどね」

「……この藍色は染めているんですか?」

「いえ、父親譲りの色です」

「へえ、そうなんですか! 綺麗ですね」


 藍色の髪の人に出会ったのは初めて。でも、落ち着いている雰囲気があって直人さんに合っているかも。


「次は体ですね!」

「……体も洗ってくれるんですね」

「はい。午後に海で遊んでいるときから思っていたんですが、直人さんって意外と筋肉質な体つきをしていますよね。服を着ているときは細いのに」


 お兄ちゃんよりもがっちりしているというか。運動部にでも入っているのかな。


「そう……ですかね。中学時代は剣道をしていて、高校生になってからは……部活には入っていないんですけど、女バスのマネージャーのようなことをしていて。女バスに入っているクラスメイトに練習相手してくれって言われたのが始まりだったんですけど」

「へえ……そうなんですか」


 指で直人さんの背中を上から下へとなぞっていく。くすぐったいのか直人さんは体を縮こませる。


「ふふっ、直人さんって背中が弱いんですね」

「急にされたからビックリしたんですよ」


 こんなことをしても直人さんなら動じないと思ったのに。こんなところもお兄ちゃんに似ているな。


「じゃあ、体を洗いますね」

「……お願いします」



 私は直人さんの背中を流し始める。

「気持ちいいですか?」

「ええ」

「……直人さんの背中って大きいんですね。綺麗ですし」

「綺麗だと言われたことはないですね、たぶん」


 背中の綺麗な男の人もいるんだなぁ。思わずキスしたくなっちゃう。


「んっ……」


 思わずそんな声が出ちゃった。恥ずかしい。


「前の方はどうしますか?」

「さすがにそれは自分で洗いますよ」


 私は直人さんにボディータオルを渡し、鏡越しで体を洗う直人さんの姿を見る。本当に……かっこいいなぁ。


「泡を落としますね」

「はい」


 一通り体を洗い終えたところで、渡しはシャワーで直人さんの体に付いているボディーソープの泡を落とす。その間、鏡越しで直人さんと何度か目が合った。

 泡を全て落として、直人さんと一緒に湯船に浸かる。お互いに向き合っているけれども、さすがに恥ずかしいのでタオルを巻いたまま。


「部屋のお風呂も結構広いんですね。昨晩は絢ちゃんと一緒に大浴場に行っていたので」

「そうだったんですか。俺はまだ行っていないですね」

「一度、入ってみるといいですよ。結構広いですし、夜だったので露天風呂もちょっと涼しいときに入ることができて気持ち良かったです」

「そうですか。一度、行ってみることにします」

「……もしかして、昨日は彩花さんと一緒に入っていたんですか」

「そうですね。遥香さんのように俺の髪と体を洗ってくれて。こうして一緒に湯船に浸かっていました」

「……そうですか。直人さんの彼女さんだと分かっていても、彩花さんが羨ましいと思ってしまいます。それだけ直人さんのことが好きになっているんですね」


 そして、こんなに素敵な人と付き合うことのできていることも羨ましい。


「直人さん……」


 直人さんの名前を囁くと、私はぎゅっと彼のことを抱きしめる。


「絢ちゃんよりも体が大きいのが分かります」

「……そうですか」


 絢ちゃん以上に、私のことを包み込んでくれるような気がして。


「絢ちゃんも今頃、こんな感じで彩花さんと一緒にお風呂に入っているのかな……」


 それでもやっぱり、絢ちゃんのことは気になっちゃうな。今頃、絢ちゃんは彩花さんとどんなことをしているのかな。


「……気になってしまいますよね、やっぱり」

「ごめんなさい。さっき、直人さんには私のことしか考えないでって言ったのに」

「気にしないでください。彩花と入れ替わってしまったんですから、仕方ないです」


 わがままな私にいつも優しく接してくれるなんて。嬉しいし、安心する。


「それでも、直人さんとこうしていると落ち着きますし、直人さんのことを愛おしく思います。直人さん……好きです。大好きです」


 そう言って、私は直人さんにキスをする。色々と考えてしまうけれど、今は直人さんが好きだという気持ちに浸りたくて、何度も何度も唇を重ねるのであった。

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