第20話『20年前のこと』
引き続き、4人で20年前の事件とこのホテルのことについて調べていく。
私と彩花ちゃんで20年前の事件、そしてお兄さんと奈央さんがこのホテルという形で手分けして調べていくことに。
「20年前の事件の概要はブログで知ることができましたから、できれば誰かに聞いてみたいですね」
「それなら、やっぱりホテルの人に訊くのが一番いいんじゃない?」
「そうですね。それは後ほどやっていくことにしましょう。ただ、ネット上でも当時の事件について話を訊くことができるかもしれません」
そう言うと、彩花ちゃんはスマートフォンを私に見せてきた。これは、
「Tubutterアプリだね」
「ええ。毎年夏には心霊現象が起こるスポットとして有名ですし、20年前のことも書かれるくらいですから、Tubutterで呟いている人もいるかもしれません」
「なるほど。関係ありそうな呟きを検索して、20年前の事件を知っていそうな人を探していくわけだね」
「その通りです。では、事件に関係ありそうな呟きを探してみましょう」
彩花ちゃん、しっかりしているなぁ。私、未だに心霊現象っていう言葉を聞いて体に震えが来るもん。
「それでは、まず『白海リゾートホテル』で調べてみましょう」
「今とは名前が違うから、ヒットすれば事件のことを呟いているかもしれないもんね」
そして、彩花ちゃんは『白海リゾートホテル』という言葉でツイートの検索をする。
「結構出てきますね」
「今は夏だし、心霊現象の類なんじゃないかな」
彩花ちゃんのスマートフォンを覗き込むと、検索した「白海リゾートホテル」という言葉が含まれたツイートがたくさん表示されている。読んでみると、今年も心霊現象が起きたとか、20年前の事件が関係しているのか、とか。
「いくつかのニュース記事や、ブログ記事で見た程度の内容ですね」
「そうだね。あと、心霊写真付きのツイートもあるんだね」
ううっ、あまり見たくないなぁ、心霊写真は。
「絢ちゃん、彩花ちゃん。私も20年前の事件について調べ始めたけれど、自殺した女の子の通っている高校は私立斑目高等学校ってことが分かったよ」
「それは重要な手がかりですね。彩花ちゃん、斑目高校で検索してみようか」
「そうですね。では『斑目高校 自殺』と」
彩花ちゃんが口にした言葉で検索をすると、数は少ないけれども幾つかのツイートがヒットした。
「この『みやび』というアカウント名の方、毎日ツイートをしていますね」
「じゃあ、まずはこの人に訊いてみる?」
「そうですね。まずはフォローをしましょう。ただ、内容も内容ですから、メッセージ機能を使ってみましょう」
私、Tubutterは全然使っていないから、ここは使い慣れていると思われる彩花ちゃんに任せるとしよう。
『初めまして。あやかといいます。心霊好きで、今、アクアサンシャインリゾートホテルへ旅行に来ているのですが、さっそく心霊現象に遭いました。
みやびさんのツイートを見て、あなたはここで起きた20年前の事件を知っているみたいなので、そのことについて教えていただけますか?』
というメッセージをみやびさんに送る。
「とりあえず、これで返信を待ってみましょう。今は正午過ぎですし、お仕事をしている方でも昼休みである確率は高そうです」
「彩花ちゃんのメッセージを見て、すぐに返信が来るといいよね」
そして、20年前の事件について教えてくれれば最高だ。ただ、そんなに上手くいくかどうかは分からないけど。
「絢さん、彩花さん、何かいい情報が掴めたのかな?」
「掴めるかどうかは分かりませんが、Tubutterで20年前の事件について呟いている方を見つけました。なので、メッセージを送って20年前の話が聞けるかどうか試みているところです」
「なるほどね。じゃあ、もし話すことができそうだったら、その内容を俺が詳しく調べてみることにしよう。一応、奈央はメモを取っておいてくれるかな」
「分かったわ」
これで、みやびさんから事件のことを聞くことができれば、何歩も前進できるぞ。事件のことが分かったら、遥香と藍沢さんにも伝えないと。
「あっ、みやびさんからメッセージが来ましたよ」
彩花ちゃんがそう言うので、彼女のスマートフォンを見てみると、
『初めまして、みやびです。あやかさんは心霊好きなんですね。20年前のことは今でも覚えていますので、私で良ければ』
みやびさん、20年前の事件について話してくれるみたい。
「やったね、彩花ちゃん」
「はい!」
「じゃあ、彩花さん。みやびさんに20年前の話を訊いてみようか」
「分かりました」
「奈央、メモをよろしく」
「うん」
そして、みやびさんに20年前の事件について訊き始める。どうやら、みやびさんは自殺した女の子と一緒に旅行へ行っていた女の子と同級生らしい。
自殺した女の子の名前は水代円加さん。そして、水代さんと一緒に来ていたクラスメイトの女の子は相良悠子さんであることが分かった。2人は仲が良く、付き合っているのではないかと噂にもなったそうだ。
事前に調べたとおり、水代さんはいじめを受けていて、原因は同性愛。中学時代に同学年の女子に告白し、フラれたことがきっかけとのこと。その直後からいじめが始まったようで、自殺直前まで続いたと。ここまで詳しく話してくれると、何だかみやびさんが、水代さんをいじめた人達の中の一人にも思えてしまう。
そして、相良さんは何年か前にアクアサンシャインリゾートホテルを紹介する番組に出演しているところを見たことがあるとのこと。
「……このくらいでしょうか」
「ありがとう、彩花さん。ネットで調べてもあまり詳しくは出てこないから、ここのホテルで働いている相良悠子さんという女性に話を聞くのがいいだろうね」
「そうですね」
「じゃあ、お昼でも食べようか。彩花さん、どう? お腹の調子は」
「はい、すっかりと良くなりました」
「それなら良かった。とりあえずはこのホテルの中にある店から見てみようか。和風、中華、焼肉とか色々な店が入っているみたいだから」
今日も晴れていて暑いし、ホテルの中にお店があるならそっちの方がいいか。お腹ペコペコだから早くお昼ご飯を食べたいな。
「絢ちゃん、彩花ちゃん。遥香ちゃんと藍沢さんを呼ぶ? それとも4人で食べる?」
「私は構いませんが、絢さんは?」
「……遥香とあんなことがあったので。遥香も私がいたら気まずいかもしれませんし、私も今はちょっと……」
遥香と向き合うことができるのかどうかが不安だ。それに、遥香は藍沢さんと2人きりがいいと言っていたし、上手くやっているみたいだから、今は藍沢さんに任せておいた方がいいんじゃないかなって。
「分かった。じゃあ、4人でお昼ご飯を食べることにしよう」
「すみません、何か……」
「気にしないでいいよ、絢さん。それに、藍沢さんは信頼できる人だ。遥香のことは彼に任せておこう」
「……はい」
そして、私達は2階にある中華料理さんでお昼ご飯を食べた。
心は彩花ちゃんだけれど、ラーメンを食べているときの「遥香」の笑みを見ることができたのがとても嬉しく思えたのであった。