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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 8-タビノカオリ-
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第6話『ひびき』

 海やプールでたっぷりと遊んだ後はバイキング形式の夕食を。

 体をたくさん動かした後だったので、普段よりも多く食べた。近くの海で取れる魚介類も、この地域で作った野菜もとても美味しくて。こうした美味しい食材を使った料理を明日からも食べられることにささやかな幸せを抱いた。そのためには、食べ過ぎには気を付けないといけないけれど。

 夕食後は、夏休み限定で行なわれるホテル主催の花火大会があるということで、私と絢ちゃんは会場である浜辺まで行くことに。

 奈央ちゃんはどうしても見たいバラエティ番組があるということなので、お兄ちゃんと一緒に部屋に戻ってしまった。ただ、小耳に挟んだ話だと打ち上げ花火もたくさんあるそうなので、部屋からも花火は見ることができるか。


「それでは、これから夏休みの限定企画、花火大会を始めます! 最後まで楽しんでくださいね!」


 女性のスタッフさんがそう言うと、花火師と思われるおじさん達が続々と花火に点火し始める。

 ――ドーン!

 そして、夜空に咲く光の花。数多の色が存在するその花は、どれも綺麗だった。


「綺麗だね、遥香」

「……うん」


 でも、一番綺麗なのは……打ち上げられた花火で照らされている絢ちゃん。ただ、そんなことはたくさんの人がいるここでは言える勇気は全然持てなくて。ううん、部屋で2人きりで見ていても恥ずかしくて言えないかな。あぁ、そんなことを考えていたら、体が急に暑くなってきた。


「遥香と一緒に観ることができて良かったよ、本当に」

「絢ちゃん……」

「……本当にありがとう、遥香。きっと、遥香と付き合っていなかったら、高校生最初の夏休みがこんなにも楽しいものになってなかったと思うから」


 そう言うと、私の手を握る絢ちゃんの手の力が僅かに強くなった。こんなことをいつもの爽やかな笑みを浮かべながら言えるなんて。さすがは絢ちゃんだなぁ。


「遥香は……どうだった? この夏……」

「……私も絢ちゃんと一緒だったから凄く楽しい高校生最初の夏になったと思っているよ。だから、来年はもっと……楽しい夏休みを過ごしたい」

「……私もだよ、遥香」

「でも、来年だけじゃなくて、再来年も、3年後も……ずっとずっと絢ちゃんと一緒に楽しい夏を過ごしたい。もっと言うなら、季節問わずいつでも、いつまでも。だから、これからもずっと私の側にいてくれるかな……」


 絢ちゃん、格好良くて優しいから……たくさんの女の子にモテちゃうからね。宮原さんのような赤髪の女の子が目の前に現れたら、私……絢ちゃんの恋人のままでいられるのかな、って。


「……当たり前さ。私はこれからもずっと遥香の側にいるよ」


 絢ちゃんはそう言うと、私の頭をそっと撫でてくれた。その時に感じた絢ちゃんの温もりが全身に伝わっていって、安らぎをもたらしてくれる。


「遥香こそ、私の側から離れないでね」

「もちろんだよ! 絢ちゃん」

「……ははっ、遥香ならそう言ってくれると思った。そう思っていても、実際に言ってくれると凄く嬉しいよ。ありがとう」


 そう、私も絢ちゃんと同じなんだ。側にいてくれると分かっていても、それを言葉にして言って欲しくなる。言ってくれると嬉しくなるんだ。

 その後も、私は絢ちゃんの隣で次々と打ち上げられる花火を見る。絢ちゃんと手をしっかりと繋ぎ、彼女の温もりを感じながら。



 花火大会が終わって、私と絢ちゃんは1501号室に向かって歩き始める。


「いやぁ、花火良かったね、絢ちゃん」

「週末に来ることができて良かったよね。夏休みでも週末限定らしいから」


 今回の旅行の思い出の1つになった。今日は絢ちゃんと2人きりで見たけど、明日はお兄ちゃんと奈央ちゃんとも一緒に見たいな。


「じゃあ、部屋に戻ったら仕度をして、温泉に行こうか」

「そうだね。露天風呂楽しみなんだ」

「絢ちゃんって、温泉好きなんだね」

「うん。私の家の近くに銭湯があって温泉も湧いているんだ。中学生くらいから、部活の練習で疲れが溜まっちゃったときは、そこに行って体をリラックスするようにしているんだよ。それから、温泉が大好きになって」

「なるほどね」


 確かに、疲れたりしているときほど、温泉って身に沁みるよね。身体的にも精神的にもリラックスできるというか。

 部屋に戻って、電気を点けると……あれ、お兄ちゃんと奈央ちゃんが泊まっている部屋に行ける扉がちょっと開いている。

 そうだ、2人にも一緒に温泉に行こうか訊いてみようかな。


「……んっ!」


 隣の部屋へ行こうとしたとき、奈央ちゃんのそんな声が聞こえた。


「ごめん、奈央。痛かったか?」

「思ったよりもね。こういう感じでするのは初めてだし仕方ないよ。大きな声が出ちゃった。恥ずかしいな」

「ごめんな。力の入れ具合があまりよく分かってなかったから」

「ううん、隼人のせいじゃないから気にしないで。それに、私からお願いしたことなんだから……ね?」

「……ああ。今度はもう少し優しくしてみるよ。痛かったら遠慮なく言ってくれ」

「……うん。お願い……いたっ」


 お、お兄ちゃんと奈央ちゃん……い、いったい何をやっているの? まだ、午後9時くらいなのに。

 もしかして、2人きりの夜を過ごしていくうちに気持ちが盛り上がってし、しちゃっているのかな。それなら、この部屋と繋がるあの扉が閉まっているかどうかきちんと確認してからしてほしいよ。


「まだ痛いか?」

「……でも、このくらい痛いのは仕方ないよね。始めたばっかりなんだし。でも、段々と気持ち良くなってきた、かも……」

「とりあえず、このくらいの強さで続けてみるか?」

「……うん」


 その後も、奈央ちゃんの可愛らしい喘ぎ声が、んっ、んっ……って継続的に聞こえてくる。わ、私と絢ちゃん……どうすればいいのかな。立ち尽くしているけれど。

 気付けば、絢ちゃんは私と指を絡ませる形で手を繋ぎ、その手が汗ばんでいた。ちらっ、と絢ちゃんの顔を見ると、彼女は顔を真っ赤にしていた。


「隼人、上手だよ。凄く気持ちいい」

「それは良かった」

「隼人、優しくしてくれるから……これからも、たまにはしてほしいな」

「ああ、分かった」

「……ねえ、今度は隼人を気持ち良くさせてあげるね。家からここまでずっと運転してくれたお礼と、ウォータースライダーのお詫びで」

「ははっ、ウォータースライダーのことはもう気にしなくていいのに」

「このままだと私の気持ちも落ち着かなくて。だから、ほら……体勢変えるよ。隼人をリラックスさせてあげるから」

「……分かった、頼むよ」


 もう、これ以上ここにいたら恥ずかしくて死にそう。早く部屋から出てしまいたい。

 私は2人に気付かれないように、隣の部屋へ繋がる扉をそっと閉める。


「絢ちゃん、温泉に行こうか」

「……そうだね。変な汗掻いちゃったから」

「あははっ……」


 私も気付けば変な汗を掻いていた。お兄ちゃんと奈央ちゃんの仲睦まじい会話を聞いちゃったからかな。

 そして、私と絢ちゃんは手早く仕度をして、大浴場へと向かうのであった。

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