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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 8-タビノカオリ-
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第5話『カップル』

 お兄ちゃんの側にいるのは奈央ちゃんだけじゃない。更衣室で出会った赤髪の女の子と、彼女の恋人らしき男性がいる。偶然、2人が近くにいたのかな。


「とりあえず行ってみようよ、遥香」

「そうだね」


 あの女の子とこうして再会できるのは何かの運命かと思ってしまう。だからなのか分からないけれど、


「あれ、お兄ちゃんのお友達ですか?」


 そんなことを口走ってしまった。高校や大学の友達だとしても、こういうところで再会することってあるのかなぁ。


「ううん、違うよ。隼人、私と一緒にウォータースライダーを滑ったんだけど、気分が悪くなっちゃって。そんな隼人のことを藍沢さんと宮原さんが助けてくれたの」


 奈央ちゃんが笑顔でそう言った。どっちが藍沢さんでどっちが宮原さんなのかは分からないけれど、この2人がお兄ちゃんの命の恩人であることは事実。やはり、天使のような女の子は実際に天使だったんだ。


「そうだったんですか。お兄ちゃんのこと助けていただいてありがとうございます」

「いえいえ。たまたま近くにいたので……」


 男性の方が爽やかな笑みを浮かべながらそう言うけれど、私は自然とペコペコと頭を下げてしまう。


「奈央ちゃんがお兄ちゃんのことを無理矢理連れて行ったの? 昔からそうだから……」


 お兄ちゃんの具合が悪くなったってことは、もしかしたら滑る前から緊張によって体調を崩していたかもしれない。思わず、奈央ちゃんに強い口調でそう言ってしまう。


「いや、今日は大丈夫そうかなと思って実際に滑ってみたらダメだったってだけだ」

「……そっか」


 お兄ちゃんは微笑みながらそう言った。

 そうだよね。海でも、今日なら大丈夫かもしれないって言っていたから、お兄ちゃんは奈央ちゃんと一緒に滑ったんだよね。


「お兄さん、絶叫系が苦手なんだね」

「うん。結構な確率で気絶するか、気絶しなくても気分が悪くなるんだよね」


 でも、今回のことでお兄ちゃんも暫くは絶叫系アトラクションに行かなくなると思うし、奈央ちゃんも連れて行かなくなるよね。


「じゃあ、俺達はこれで。坂井さん、ゆっくり休んでください。お大事に」

「……はい。ありがとうございます」


 そして、藍沢さんと宮原さんは軽く頭を下げて、ウォータースライダーの方へと向かっていった。腕を絡ませて、凄く仲が良さそうなカップルだ。


「いやぁ、運が良かった。藍沢さんと宮原さんが直前に滑ってくれていたから」

「どっちが藍沢さんで、どっちが宮原さんなの?」

「男性の方が藍沢直人(あいざわなおと)さんで、女性の方が宮原彩花(みやはらあやか)さんだよ。藍沢さんとは更衣室で水着に着替えるときに出会って、ちょっと話したんだ。ウォータースライダーの件もね。もし、何かあったらよろしくって」

「そっか……」


 藍沢さんへ事前に話していたから、お兄ちゃんはウォータースライダーで滑ってみるって言ったんだね。藍沢さんに迷惑だったんじゃないかな。あと、男性の方が藍沢さんで、女性の方が宮原さんね。


「それよりも、藍沢さんっていう人……凄くイケメンだったね」

「そうね。隼人を助けたとき、周りの女性達が黄色い声を挙げていたもの」

「そうだったんだ……」


 騒がしかった原因の1つがそれなのかも。


「ただ、あの2人……とてもお似合いなカップルな気がするね。一目見ただけで、私はそう感じたな」

「あぁ、確かにね」


 たまに、2人がお互いのことを見ていたときがあったけれど、優しい笑みを浮かべていて信頼し合っているように思えた。宮原さんと付き合っているだけあって、藍沢さんもいい人そうに思える。


「藍沢君と宮原さんの連携、確かに凄かった。事前に隼人から何かあったときによろしくって言われていたけれど」

「……俺の人選は間違ってなかったな」


 ははっ、とお兄ちゃんは笑った。さっきよりも顔色がよくなっている。


「もう、お兄ちゃんったら。藍沢さんが親切でいい人だから良かったけど、何かあったら頼むって言われたら藍沢さんがお兄ちゃんのことを気に掛けちゃうでしょう? 藍沢さんだって宮原さんとの旅行を楽しみにしていたそうだし」


 妹としてしっかりと注意しておかないと。


「……そうだったな。でも、俺達、藍沢さんから注意されたよ。これからは体調を考慮した上で滑るようにって」

「……藍沢さんの言うとおりだよ。2人とも、今後は気を付けなさい。以上」


 少なくともこの旅行中には、藍沢さんと宮原さんには足を向けて眠れないな。

 そして、ウォータースライダーの方を見てみると、ちょうど藍沢さんと宮原さんが滑り終えたところで。こうしてみてみると、藍沢さんは群を抜くイケメンで、宮原さんは一際美人というか、可愛いというか。


「気持ちいいですね! 直人先輩」

「ああ、そうだな」

「今度はまた先輩が後ろに乗ってください。そして、抱きしめてください」

「はいはい……」


 そう言って、2人は楽しい表情を浮かべながら、再びウォータースライダーの入り口の方へ向かっていった。本当に仲が良いんだ。宮原さんが手を引いているってことは、ウォータースライダーに乗りたいって言い始めたのは彼女の方かな。


「ねえ、絢ちゃん。私達もウォータースライダーに行ってみようか」

「そうだね。私は絶叫系は好きだよ」


 絶叫系が好きでも、お化け屋敷はダメだよね、絢ちゃんって。


「……俺が気絶するくらいに迫力あったぞ」


 お兄ちゃんはそう言うけど、お兄ちゃんが気絶するハードルは低いのでどのくらいの迫力があるのかは未知数だ。


「結構迫力あったわよ。2人乗りなら、前後に座るスタイルのチューブ渡されるから、絶叫系が得意な方が前に座った方がいいかもしれないよ」

「なるほどね」


 奈央ちゃんの言うことなら信用できる。私も絶叫系は苦手ではないけれど、好きとはっきり言えるほどじゃないから、前の方には絢ちゃんに座ってもらおうかな。


「絢ちゃん、前の方に座ってくれる……かな」

「うん、いいよ。私、こういう方の絶叫系は大好きだから」

「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」

「うん、私は隼人と一緒にここでゆっくりしてるから」


 そして、私は絢ちゃんと一緒にウォータースライダーの方へと向かう。

 途中、係員から2人乗りのチューブを受け取り、自分達の滑る番を待つ。


「きゃああっ!」

「すごーい!」


 ウォータースライダーを滑っている人の声なのか、女性の黄色い声が響き渡る。それを聞く限り、相当流れが速そうな気がする。


「段々と緊張してきたよ」

「大丈夫、私がついているから。何かあったら私のことを後ろから抱きしめてきて」

「……うん」


 危険じゃなさそうなら、絢ちゃんに抱きついちゃおうかな。

 そして、ついに私と絢ちゃんの番。事前に話していたように、絢ちゃんが前の方に座って、私が後ろに。


「それでは、行きますね!」


 男性の係員はそう言うと、私と絢ちゃんが乗ったチューブを押す。すると、勢いよく滑り始めた。


「きゃああっ!」

「気持ちいい! あははっ!」


 絢ちゃんの顔は見えないけれど、きっと凄く楽しい笑みを浮かべているんだろうな。

 私は絢ちゃんのように楽しむ余裕を持つことはできず、


「絢ちゃああんっ!」


 思わず、絢ちゃんのことを後ろからぎゅっと抱きしめる。すると、絢ちゃんが私の腕をそっと掴んでくれた。

 そのことに安心しようとしたとき、私達が乗ったチューブはウォータースライダーを滑り終えた。

 勢いよく滑り終えたからなのか、私が絢ちゃんのことを抱きしめていたからか、私と絢ちゃんはチューブから飛び出てプールに落ちてしまう。一瞬、何が何だか分からなくなってしまうけれど、絢ちゃんが私のことを抱きしめてくれたおかげで、気持ちが落ち着いて水面から顔を出すことができた。


「……ふぅ、凄かったね、遥香」

「うん。迫力があって。絢ちゃんが一緒にいてくれて良かったよ」


 これだけ勢いのあるウォータースライダーなら、お兄ちゃんが一発で気分が悪くなったのも納得できる。


「どうだった? 遥香ちゃん、絢ちゃん」

「……今回の旅行ではお兄ちゃんとは滑らない方がいいと思うよ」

「それはもう胸に刻んであるから……」


 奈央ちゃん、がっかりしているな。さすがに言い過ぎたかも。


「でも、私は楽しかったよ。遥香さえ良ければもう一度行かない?」

「うん、いいよ。今度は私が前に乗ってもいい?」

「ああ」

「……それで、今度は絢ちゃんが私のことを後ろから抱きしめてよ」

「そういうことね。さっき、後ろから遥香に抱きしめられたときにドキドキしたから」


 絢ちゃんはきっと楽しめる余裕があったから、ドキドキしたんだろうと思う。私も絢ちゃんに抱きしめられてドキドキできるかなぁ。


「それじゃ、絢ちゃんともう一回行ってくるね」

「うん、いってらっしゃい」


 今度は私が前、絢ちゃんが後ろに座ってウォータースライダーを滑る。

 すると、滑っている途中に絢ちゃんが後ろから抱きしめてくれた。でも、勢いよく滑っていく怖さで、ドキドキするような余裕はなく、絢ちゃんの腕をしっかりと握ることくらいしかできなかったのであった。

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