第23話『真紀の本音-前編-』
絢ちゃんと一緒に沙良ちゃんと真紀ちゃんの家へと向かう。
家に出る前に沙良ちゃんから言われたように、彼女に私達が家の前に到着したことをLINEのメッセージに伝える。
すると、すぐに玄関の扉が開いて、中から沙良ちゃんが出てくる。
「遥香ちゃん。隣にいるのが原田さん?」
「うん、そうだよ」
「初めまして、恩田沙良です」
「初めまして、原田絢です。真紀さんの双子のお姉さんとは遥香から聞いていたけれど……あまり似てないね。色々な部分で」
やっぱり、絢ちゃんもそういう風に思うんだね。体格とか全然違うから、同じ学年でも沙良ちゃんは4月、真紀ちゃんは次の年の3月生まれだと思っていた。ただ、実際は二卵性双生児で同じ日に生まれたとのこと。
「似てないってよく言われるの。それで、双子だって言うと驚かれるのがお決まりのパターンね。遥香ちゃんもそうだったよ」
今でも、沙良ちゃんと真紀ちゃんが双子だったことを知ったときの驚きは鮮明に覚えている。最後に会ってから3年以上経ったけれど、真紀ちゃんはどんな女の子になっているんだろう。
「さあ、真紀ちゃんに会いに行こう。このことは真紀ちゃんに伝えてないよね?」
「うん、大丈夫」
「……じゃあ、真紀ちゃんの部屋の前までお願い」
「分かったよ」
沙良ちゃんの案内で真紀ちゃんの部屋の前まで辿り着く。
――コンコン。
真紀ちゃんの部屋の扉をノックする。すると、
「しつこいわね、沙良! 1人にさせてよ!」
部屋の中から真紀ちゃんの声が聞こえる。懐かしいなぁ。やっぱり、真紀ちゃんは今も誰とも会いたくないようだ。
「真紀ちゃん。覚えてる? 坂井遥香だよ」
「……えっ!? ど、どうして遥香がここに?」
私がここにいることが予想外だったのか、真紀ちゃんの声が翻っている。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
私一人で真紀ちゃんの部屋の中に入る。
お昼過ぎだけれど、カーテンが閉められていることで部屋の中はけっこう暗い。
部屋の照明を付けるとベッドで横になり、布団から顔半分だけを出して私の方を見ている真紀ちゃんがいた。
「ひさしぶりだね、真紀ちゃん。3年ぶりかな」
「……ひ、ひさしぶり。って、どうしてここにいるのよ。さては、沙良が……」
「合宿の時に私のことを絢ちゃんから奪おうとした真紀ちゃんに、いつまでも黙っているわけにはいかないよ」
「あうっ」
「ここにいるのは私だけ。真紀ちゃんのペースでいいから、私と……久しぶりに色々なことを話そうよ」
そう言って、私はベッドの側に座って、真紀ちゃんのことを見る。
真紀ちゃんは依然として、布団から顔半分だけ出した状態だ。そして、私のことをチラチラと見ている。
「ねえ、遥香」
「……うん?」
「あたしのこと……怒ってる、よね」
「……別に怒ってないよ。ただ、どういう理由なのかは知らないけれど、随分と自分勝手なことをしているなって思ったよ」
「ううっ……」
罪悪感からなのか、真紀ちゃんは布団を被ってしまう。
「真紀ちゃん。合宿中に絢ちゃんから何度か連絡を取っていたから、何があったのかは知っているけれど。真意は分からないけれど、私を絢ちゃんから奪い取ろうとした。そこまで行き着くにはきっと、とても悩んだと思う。真紀ちゃんさえ良ければ、私にその悩みの種を教えてくれないかな」
真紀ちゃんに今回の一件の真意が何なのかをストレートに訊き出してみる。私の知っている真紀ちゃんなら、きっと答えてくれるはず。
「……あたしにはしちゃいけないことだから」
「しちゃいけないこと?」
「うん。その想いをどうしても諦めたくて……3年前までだったけど、一緒によく遊んでいた遥香と付き合うことができれば、自然となくなっていくのかな、って……」
真紀ちゃんの声が段々と震えてきている。真紀ちゃんの言う「しちゃいけないこと」が今回の件の核心なんだろう。
「でも、遥香には原田さんっていう恋人がいて。それでも、遥香じゃないとダメだと思ったから、原田さんに……インターハイで遥香を賭けるなんてことを言っちゃったんだ」
「なるほどね……」
そこまでして私を恋人にしたいほど、真紀ちゃんの本心が強いということか。
「ねえ、真紀ちゃん。真紀ちゃんがしちゃいけないと思っていることって何なのかな。そこが知りたい」
それが何なのかは私にも分かりきっている。もし、その通りだとしても真紀ちゃんの口からちゃんと聞きたいんだ。
真紀ちゃんが何か言葉を発してくれるのをただただ待つ。そして、
「……あたし、沙良のことが好きなんだ……」
私にしか聞こえないような小さな声で、真紀ちゃんはそう言った。
私はゆっくりと真紀ちゃんが被っている布団をめくり、
「とても素敵なことだよ」
そこには涙を浮かべている寝間着姿の真紀ちゃんがいた。
「ひさしぶり、真紀ちゃん」
「……はる、か……」
私の名前を呟くと、真紀ちゃんは私のことを強く抱きしめて、大きな声で泣くのであった。