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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 7-ナツノカオリ-
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第8話『私は妹に恋をする』

 沙良ちゃんの好きな人。

 それは、沙良ちゃんの双子の妹である恩田真紀ちゃん。私の知っている真紀ちゃんは明るくて活発的な女の子だ。それは小学校時代の話だから、今はどうなのかは分からないけれども。


「真紀ちゃんのことが好き……なんだね」

「うん……」

「あの、元気で活発な男勝りの真紀ちゃんのことが?」

「……うん」


 どうやら、真紀ちゃんも小学生時代からあまり変わっていないらしい。小学生の時、男子からからかわれていた沙良ちゃんのことを真紀ちゃんが助けたことがあったなぁ。そんな真紀ちゃんのことを好きになるのも納得。


「どういうところが好きなの?」

「……ふえっ」


 大事なことだと思うんだけれど、沙良ちゃんはそう喘ぐと顔を真っ赤にしてなかなか答えてくれない。恥ずかしいのかな。


「真っ直ぐで、活発で、男勝りなところもあるのに私以上に可愛いものや甘いものが好きで。行動力があって私を引っ張ってくれるけど、私がいないとどうにもならないときがあるところとか――」

「要するに、真紀ちゃんの全部が好きってことなんだね」

「うん!」


 満開の花が咲いたように、沙良ちゃんはとても素敵な笑顔を見せてくれる。本当に真紀ちゃんのことが好きなんだ。

 双子の姉妹ってことは、産まれてからずっと一緒だから、ちょっとしたことで好きになることもあるんだろう。


「真紀ちゃんに好きだっていう想いは伝えたの?」

「ううん、伝えてないよ。それに、私が真紀ちゃんに好きだって伝えたら、気持ち悪がられて姉妹の関係さえ失いそうな気がして怖いんだ。だから、好きだって気付かれないようにしてる」

「そっか……」


 やっぱり、伝えていないか。伝えたことで今の関係を失うかもしれないと恐れているから、どうすればいいのか……と私に相談しに来ているんだよね。

 でも、あの真紀ちゃんだからなぁ。沙良ちゃんに好意を抱かれていることが嫌だと思ったら、


『お姉ちゃんと付き合うわけがないでしょ。っていうか、妹に恋をするなんて物凄くキモいんだけど』


 という感じで、思ったことをはっきりと言いそうだ。しかもきつい口調で。


「妹に恋をすることっていけないのかな……」


 不安そうな表情を浮かべ、弱々しい声で沙良ちゃんは呟く。

 私はそんな沙良ちゃんの手をぎゅっと握り、


「……いけないことじゃないよ。恋をすることは相手が誰であっても自由にしていいことだと思ってる」

「遥香ちゃん……」

「……私も、今付き合っている女の子に恋心を抱いたときは、女の子に恋をしていいのかな、って悩んだよ」


 そもそもこの人に恋をしていいのかな、と悩むことは同性の人を好きになる多くの人が通る道なんだと思う。これまで関わってきた人達の多くが悩んでいた。


「遥香ちゃんはどうやってその悩みを克服して、恋人同士になれたの?」

「……私の場合は一目惚れだったから、話したり、デートをしたりすることで互いのことを知って……その後色々とあったんだけれどね。心の距離を縮めていった感じかな。相手の子も私を一目惚れしていたのもあったから、最終的にはその子から告白されたんだけど」

「凄く素敵だね。聞いているだけで凄くドキドキしてくる……」


 そう言って、沙良ちゃんはえへへっ、と笑っている。今の私の話に自分と真紀ちゃんを重ね合わせているのかも。とても幸せそうに見える。


「それで、付き合い始めてから今まで喧嘩とかはしたことないの?」

「あまりないかな」

「じゃあ、別れそうになったこともないんだね」

「まあ……ね」


 本当は何回かあったんだけれど、それは私と絢ちゃんが原因ではなくて、周りからの影響でそうなったというか。でも、それらのことがあったからこそ、絢ちゃんとは強く結ばれていると思っている。


「羨ましいな、遥香ちゃん。そんな人と付き合うことができて」

「……沙良ちゃんと真紀ちゃんなら素敵なカップルになると思うけれどなぁ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけれど、真紀ちゃんと付き合うことができるかがとても不安で仕方ないんだ……」

「……双子の妹、だもんね」


 女の子同士でも一つのハードルなのに、沙良ちゃんの場合は双子の妹に恋をしている。この2つの壁をどうやって乗り越えるかで、真紀ちゃんと付き合うことができるかどうかが決まってくる。


「ちなみに、真紀ちゃんが自分のことが好きだっていう素振りを見せたことはあるのかな」

「……ないかなぁ。むしろ、高校に入学してから陸上の方で忙しくなって、来週のインターハイにも出場するからあまり話せていないの」

「そっか……」


 それに、今は天羽女子高校の陸上部と一緒に合宿をしている。とても忙しい中で告白してしまったら、真紀ちゃんの気持ちを乱してしまうだけになるかもしれない。


「真紀ちゃんはすぐ側にいるんだからさ、急ぐことはないと思うよ。仮に告白するとしても、真紀ちゃんのインターハイが終わってからでもいいと思うし」

「……でも、私、学校で何回か相談されたことがあるんだ。真紀ちゃんのことが気になっているから色々と教えてって」

「そう、なんだね」


 まあ、さっぱりとした性格で周りの人を引っ張っていくタイプだから、そういうところに惚れる女の子は結構いるのかも。だから、沙良ちゃんは焦っているんだ。


「けれど、真紀ちゃんは誰とも付き合っていないんだよね」

「もちろんだよ。誰かと付き合っていたら、きっぱり諦めてる」

「うん。それで、沙良ちゃんは真紀ちゃんを好きな気持ちはずっと変わっていないんだよね?」

「うん」

「……それなら、大丈夫だと思うよ。焦る必要はないよ。沙良ちゃんが真紀ちゃんを想っていることを真紀ちゃんは分かっていると思うから」


 私は知っている。沙良ちゃんと真紀ちゃんがとても仲がいいことを。だから、部活で忙しくなったくらいで、2人が離れてしまうようなことはないと。


「本当に大丈夫かな?」

「きっとね。不安だったら今日みたいに私に相談してきて。たいしたことはできないかもしれないけれど……」


 それでも、沙良ちゃんと真紀ちゃんの力になれればいいなと思っている。


「……ありがとう、遥香ちゃん」


 すると、沙良ちゃんはいつもの優しい笑顔を見せてくれた。きっと、その笑顔で真紀ちゃんへ告白すれば、真紀ちゃんはその想いに応えてくれると思うよ。

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