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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 7-ナツノカオリ-
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第7話『恩田沙良』

 7月23日、火曜日。

 今日も快晴で、予報では昨日と同じように猛暑日になりそうだとのこと。屋外で練習している絢ちゃんは偉いなぁ。でも、無理はしないでほしい。熱中症にならないように水分をこまめに取るようにLINEで送っておこう。

 沙良ちゃんは午前中に部活動があるとのことなので、部活の帰りに私の家に遊びに来ることになっている。

 そして、午後2時。

 沙良ちゃんから電話が掛かってきて、もう少しで家に着くとのこと。久しぶりの再会だと楽しみはもちろんあるけれど、同じくらいに緊張する気持ちも抱いている。

 それから程なくして、

 ――ピンポーン。

 インターホンが鳴り、玄関の扉を開けると、


「遥香ちゃん、久しぶり」


 そこには八神高校の制服姿の沙良ちゃんが立っていた。暑いからか、白いノースリーブのセーターを着ている。


「久しぶりだね、沙良ちゃん」


 沙良ちゃん、小学生のときとあまり雰囲気が変わらないなぁ。優しい笑顔は小学生の頃の沙良ちゃんを思い起こさせる。髪は黒く、髪型も当時と一緒でおさげ。変わったといえば……背丈と胸が私よりも大きくなっていることかな。


「さあ、上がって」

「うん、おじゃまします」


 そして、沙良ちゃんを私の部屋に招き入れる。


「うわあ、部屋の雰囲気、変わってないね。懐かしい……」

「まあ、3年ちょっとだから変わっていないんじゃないかな」

「3年って長いと思っていたけど、こうしてみるとあまり長くないのかもね」

「思い返せば結構長く感じるけれどね」


 絢ちゃんと付き合ってからの3ヶ月でさえ長く思えるんだから、3年なんて遙か昔。中学生の時に一度も会っていないから尚更長く感じてしまう。


「そういえば、午前中に部活があったみたいだけど、何部に入っているの?」

「茶道部に入っているの。遥香ちゃんは?」

「私も同じだよ。高校生になってから始めたんだけれどね。甘いお菓子が食べられるから勢いで」

「入った理由も一緒だなんて、ふふっ」


 上品に笑うところも昔と変わらない。

 小学生の時、沙良ちゃんと真紀ちゃんが遊びに来たときは好きな音楽を聴いたり、ゲームをしたりした。あとは一緒に宿題をしたり。


「でも、最後に遊びに来てから3年も経っていたんだね。遥香ちゃんの家まで歩いていける距離だったのに。別々の中学に進学したからか、全然会わなくなったよね」

「そうだね」


 まるで、どちらかが遠くへ引っ越してしまったかのように、中学を進学したことを機に全く会わなくなっていた。


「いつも遥香ちゃんの家に行くときは真紀ちゃんと一緒だったから。真紀ちゃん、中学には行ったら陸上部に入って、忙しくなっちゃって。3年で部活を引退しても、そこからは受験勉強だったから。今日みたいに私1人で来ても良かったんだろうけど」

「2人で来るのが当たり前みたいな感じだったもんね」


 それだけ、沙良ちゃんと真紀ちゃんは2人一緒だった。多分、どちらか1人で来たのは一度もなかったと思う。


「遥香ちゃん。女子校ってどんな感じなの? 教室って女の子ばかりでしょう?」

「うん。女子校だからね。色々な女の子がいるよ。王子様のようにモテる女の子もいるし」

「へえ、そうなんだ」

「八神高校は共学だから、中学の延長線上って感じなのかな?」

「そうだね。もちろん、知らない人は多いけれど、雰囲気は変わらないよ」

「そうなんだ」


 クラスの雰囲気は変わらず、勉強する内容が高校生のレベルになったって感じなのかな。


「真紀ちゃんとは同じクラスなの?」

「ううん、別々。中学のときもそうだったんだけれど……」

「小学校の時から別々だったよね」


 ただ、双子の姉妹とは縁があったのか、沙良ちゃんか真紀ちゃんのどちらかと必ず同じクラスになっていた。


「……ねえ、遥香ちゃん。昨日、遥香ちゃん、さ……電話で話していたとき女の子と付き合っているって言っていたよね」

「うん、そうだけど。それがどうかした?」


 沙良ちゃん、急にもじもじし始めたけれど。私のことをちらちらと見て。


「私、その……好きな人がいるの。女の子で」

「えええっ!」


 沙良ちゃん、好きな女の子がいるんだ。女子校に通っているなら、私のように女の子のことが好きになるイメージが付くけれど、共学の八神高校に通っていても女の子のことが好きになることってあるんだなぁ。

 そういえば、沙良ちゃんは昨日、色々とお話しがしたいって言っていたけれど、それって恋愛相談だったのかな。


「八神高校に通っている女の子が好きになったのかな」

「……た、確かに八神高校に通っているね、その子は」


 正しいことを言っているはずなのに、どうして歯切れの悪い答え方をするんだろう、沙良ちゃんは。


「何か特別な事情があるのかな」

「えっ?」

「いや、何だかその女の子を好きになるのがいけないような雰囲気がして」

「……まあ、相手が相手だから、恋をするのはいけないかもね」

「どういうこと?」


 沙良ちゃんが恋をしてはいけない女の子って誰なんだろう。しかも、八神高校に通っている女の子で。


「いや、もしかして……」


 灯台もと暗し。1人だけいるじゃない。恋人として付き合ってはいけないと沙良ちゃんが思ってしまう八神高校に通う女の子が。


「私、真紀ちゃんのことが好きなんだ……」


 沙良ちゃんが口にした好きな女の子の名前は、彼女の双子の妹である恩田真紀ちゃんなのであった。

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