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ハナノカオリ  作者: 桜庭かなめ
Fragrance 1-コイノカオリ-
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第10話『悪魔の手紙』

 放課後。

 今日は金曜日なので茶道部の活動はない。だから、杏ちゃんと美咲ちゃんと一緒に帰ろうと思ったんだけど、2人とも用事があると言ってすぐに帰ってしまった。

 仕方ない、いつもは鏡原駅の方に行くんだけど今日は真っ直ぐ家に帰ろう。

 鏡原駅を経由すると15分くらいかかるけど、直接なので7、8分くらいで家に帰ることができた。


「ただいま」


 家の中に入ると、既にお兄ちゃんの靴があった。今日は大学早かったのかな。

 キッチンで麦茶を飲もうと思い、リビングを経由しようとすると、そこにはコーヒーを作っているお兄ちゃんがいた。


「おかえり、遥香」

「ただいま、お兄ちゃん」

「誰からなのかは分からないけど、遥香に手紙が来てたぞ。テーブルの上に置いてある」

「うん、分かった」


 ソファー近くのテーブルの上には白い封筒が1つ置いてあった。

 私はソファーに座って、さっそく白い封筒を手に取る。

 白い封筒には『坂井遥香様』とパソコンの明朝体の文字で書かれているだけで、消印などは押されていなかった。誰かが直接ポストに入れたのかな。差出人の名前は裏側を含めてどこにも書いていなかった。


「とりあえず、開けてみようかな……」


 封筒を開けると、中には折りたたまれている1枚の白い紙と写真が入っていた。

 白い紙を開いてみると、何か文章が書いてあるな。

 だけど、その文章はとんでもない内容だった。


『悪魔は1人の女子を「殺した」のだ。餌食となってしまった女子は、同封した写真に写っている』


 この文章を読んだ瞬間、昨日の放課後のことを思い出す。

 陸上グラウンドの横のベンチで陸上部の活動が終わるのを待っているときのことだ。ベンチの横で3人の女子が絢ちゃんのことを見て、彼女を悪魔だと言っていた。

 私はすぐに同封されている写真を見る。

 その写真に写っていたのは、中学校の制服らしきものを着ていると絢ちゃんと、彼女と同じ服を着ている赤紫色のショートヘアの可愛い女の子だった。

 2人はお互いに見合っている。ショートヘアの子の頬は赤く、今にも絢ちゃんに告白しようかという感じに見える。

 絢ちゃんはもちろん生きている。ということは、悪魔は絢ちゃんで悪魔が「殺した」女の子ってこのショートヘアの女の子のことなの?

 そういえば、あのときの女子達はこんなことを言っていた。


『高校でも懲りないわね……あの女』

『悪魔は幾ら喰っても足りないんじゃない?』

『餌食になっちゃう子、可哀想……』


 これらの話とこの手紙をまとめると、絢ちゃんは……前から女子を食べ殺しているということになる。そして、それは繰り返し行われている。

「あの女子達が言っていたことってこのことだったんだ……」

 彼女達の話が本当なら、まさか……私が高校に進学してからの初めての餌食なの?


「随分とひどい悪戯だなぁ……」


 私の横でお兄ちゃんは白い紙に書かれている文章を見ながら言う。

 なぜか、私は咄嗟に写真を封筒の下に隠した。


「差出人不明で怪しいとは思っていたけど、案の定……変な内容だな。そんな手紙、気にせずにさっさと捨てておけよ」


 と言って、お兄ちゃんはリビングから出て行った。


「気にせずにはいられないよ……」


 封筒の下に隠した写真をもう一度見て、そう呟く。

 私は信じている。入学式の日に私を助けてくれたときの絢ちゃんの微笑みを。それは昨日と今日話したときも、純粋な笑顔に見えた。絢ちゃんのさりげない優しさは偽りのない優しさであることも信じている。

 でも、この手紙も……全くの嘘とは思えない。

 写真に写っているショートヘアの女の子と何かあったことは間違いない気がする。それも、絢ちゃんが殺しただなんて絶対に信じたくない。

 だけど、昨日の3人のように絢ちゃんを悪魔と揶揄している人は実際にいる。


「何があったの? 絢ちゃん……」


 メールで訊くこともできたはずだけど、私には怖くてできなかった。絢ちゃんから待ち合わせのメールとかも来たけれど、分かったとしか返信できなかった。

 絢ちゃんを信じる気持ちと、悪魔なのかと疑う気持ちが拮抗している。しかし、時間が経つにつれて私の心は手紙に込められた呪いのようなものに蝕まれていく。

 その結果、私は一睡もすることができなかった。

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