紅葉橋桔梗との談笑2
「つまり、桔梗の家はお金持ちなのか」
「まあ平たく言ってしまえばそうですね。知りません? 紅葉橋って。結構有名なんですよ」
「あんまりテレビを見ないからなーぼくは。そういえば聞いたことあるような……」
気がしたけど、やっぱないわ。ごめん桔梗。
「うちの一族は代々日本経済に大きく貢献してるんです。自分で言うのも変ですが」
「いや、誇るべき事だと思うよ。桔梗もやっぱりそういう方向に進むの?」
「いえ私は、あまり頭は良くないんです……」
「ふぅん。もし良ければぼくがいつでも勉強を教えるけど、それでどうにかなるんなら最初からやってるよな」
「すいません……」
「他に夢でもあるの?」 「あるにはあるんですけど……。まだ誰にも言ってないんです……」
「そっかー。叶うといいな」
桔梗は柔らかくはにかんで小さな声で「ありがとうございます」と言った。
「志乃森さんには何か夢はありますか?」
「ぼくの夢……?」
考えたこともないな。
「夢、ねぇ…………。……中学校の教師かな」
「教師ですか。そのこころは?」
「だって中学生が一番かわいいだろ?」
「ふふ、志乃森さんらしいです♪ 叶うといいですね♪」
「ありがと♪ とりあえず携帯電話を閉じてポケットに仕舞おうか♪」
間一髪。
ぼくは人生を棒に振らずに済んだ。
数話前に参照した通り、桔梗の髪は金色だ。名前からはあまり外国人的なイメージは湧かないが、顔立ちは確かに、少しだけ日本人離れしているように見える。
「桔梗の髪は地毛なのか?」
「ああ、これですか? はい。私の母方の祖母がヨーロッパの生まれなので、これはその遺伝です」
「じゃあ桔梗はクォーターってことか」
「そうなります」
「にしては髪の毛に遺伝しすぎだろ……」
「はい! 姉妹の中では一番色濃く受け継いでるんです」
文字通り、色濃く。
「姉妹がいたのか」
「はい、正しくは兄姉妹ですね、兄が一人、姉が一人、妹が一人。兄はすでに父の会社で働いています。姉は舞台役者です」
「妹は?」
「…………」 「なんだよその目は」
「いえ……」
「まさかぼくをロリコンだと思ってるのか……?」
「!? いやそんなこと全然! 全然思ってないです! 妹は今4歳です!」
「4歳でもOKな人だと思われてたんだ……」
「思ってないですって!」
みんな随分歳が離れてるんだな。余計な詮索はしないでおこう。
「まあいいけど……。それより、もう寒くなってきたな。そろそろ部屋に戻った方がいい」
「は、はい。そうですね」
「楽しかったよ。ぼくの病室は505号室だ。ぼくが恋しくなったらいつでも遊びにおいでよ!」
「ぜったいいきません」
「……。んじゃまた」
やるせない気持ちでその日は別れた。