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物陰より

 まあ屋上っつったって毎日毎日来るような場所でもないし、ぼくたちが来たところで(くだん)の彼女に遭遇する確率なんて微々たるものだ。ましてや偶然同じ日に屋上に来たと仮定したって、“同じ時間”に屋上に居合わせるなんてことはまずありえない。奇跡も奇跡。

 今回遭えないのは仕方がない事だ。またの機会にご期待くださ

 「いた! 芳兄、あの子だよ!」

 「まじで!?」

 いたー! 奇跡だ!

 ぼくはケンに袖を引っ張られ物陰に身を潜めた。

 「この距離だと顔までは見えねーな……」

 「もう少し近くに寄った方がいいかな?」

 「いや、それは危険だ。近付くなら堂々と姿を見せた方がいい」

 「それはちょっと……」

 「もう少し待ってみよう。今ぼくの視力を強化している」

 「芳兄って本当に人間なの?」

 「東京タワーに見えるかよ」

 「見えない」

 「だったら人間なんじゃねーの」

 「ふぅん……」

 ケンは「哲学だなぁ……」とぼやいていた。違う。これはただの暴論だ。

 位置を変えずに彼女の姿を追い、およそ5分が経過した。

 「すまない、ケン。ぼくは少し飲み物を買ってくる。お前も何かいるか?」

 「芳兄と同じので」

 「了解」

 ぼくはその場を立ち去り、屋上の自販機で熱いおしるこを2本、冷たいコーラを1本買った。

 「ただいま。これ、ケンの分」

 「ありが……あっつゥ!? 何これおしるこじゃん!」

 「ぼくもおしるこを買ったからな」

 「芳兄コーラ飲んでるじゃん!?」

 「おしるこは部屋で冷やして飲むんだよ」

 「ちくしょー芳兄オレにおしるこを渡すために妙なトリック使いやがってー!」

 「騙される奴が悪いんだ」

 ケンがおしるこでぼくを殴ろうとした、まさにその瞬間、近くにぼくたち以外の人間の気配がした。いや、缶で殴るなよケン。

 「志乃森さん? こんな所で何やってるんですか?」

 「……桔梗」

 それは黒髪ではなく、金色の髪。つまるところ桔梗だった。

 「うわァ! 神!? …………なんだ人か……」

 どんな見間違いだよ。

 「あまりにも神々しかったので、つい……」

 わかる。

 「いやさ桔梗。実はぼく達、女子中学生を監視しているんだ。桔梗も少し手伝ってくれ」

 「分かりました。お二人はそのままここにいてください。私は警察を呼んできます」

 「待ってください冗談ですって」

 大騒動になりかねないので、ぼくはケンの許可を得て桔梗に一連の事情を説明した。

 「なるほど。でもそれって、直接声をかければいいんじゃ……」

 「ぼくもそう思うんだがケンはシャイボーイなんだ。察してやってくれ」

 「ちょっ芳兄! 余計な事言うなって!」

 「事実だろ」

 「じゃあ志乃森さんだけでも声をかければ」

 「ぼくもシャイだからな、こう見えて」

 「だったら髪の毛触ればいいんじゃないですか?」

 「その話はやめろ……!」

 「『ぼくが日傘になりましょうか?』って(笑)」

 「やめろ!!」

 (笑)って何だよ!!

 気が付くと次第に声が大きくなっていた。この距離でもここまで声を上げればさすがの“あの子”にも聞こえる。

 彼女が振り向くとほぼ同時に、桔梗を物陰に引き寄せた。

 「いったたたた……。何するん……」

 「静かに……!」

 数秒息を殺して隠れに徹し、再び覗く。桔梗も「まったくもう……」とか言いつつも、ぼくたちにならって顔だけを物陰から出した。

 「しかし、たしかに可愛いですね……後ろ姿だけでも、こう、オーラが違います……」

 「ああ、これはとんでもない大物、とてつもない逸材だぜ」

 しかし、さっきたまたま振り向いたのに桔梗を隠すのに必死で顔を見ていなかった。残念だ。

 「あれ? 芳兄……」

 「なんだケン?」

 「芳兄がジュース買ってきた自販機って……あの子のすぐ横だよな……?」

 「あ」

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