それは青春の
「……おいしいよな、鯉」
「違うよ魚の方じゃなくって……。……って芳兄、鯉食うの!?」
そう、これはお決まり定番の漢字違いネタと思わせてからの更にもう一段階ボケを挟む高度なジョーク。名付けて芳乃ンジョーク。名付けたはいいが多分二度と使わないな。
「食わねーよ。……恋……ねぇ。どこの誰にさ。剛田さん?」
「オレは男には興味ねーよ!」
「剛田さんは女だ……」
「マジで!?」
服で気付け。
「いやまあ、剛田さんではないよ。ここの患者、だと思う……」
「『だと思う』? それすら分からないのか?」
「オレも屋上で見ただけだし……。でもTシャツと短パンだったから多分患者だと思う。うん」
「てことは病室も分からないのか」
「うん。でもエレベーターの動きからこのフロアであることは突き止めたよ!」
「それでもまったく分かんねーな。ちなみに外見的特徴は?」
接点もないのに好きになるぐらいだから、よほど端麗なのだろう。
「とにかくすげぇ美人だった! 年はたぶん……オレと同じぐらい」
「ふむ」
「身長はオレより10cmは下かな」
ケンの身長は165cmと中学生にしてはやや高め。それより10cm下となると155cmくらいか。しかし中学生の目測なんて大してアテにならないので、参考にはしないでおこう。
「後ろ姿は孤高なイメージ、あえて言い表すとするなら“高嶺の花”。空を見上げるその姿は、さながら神の使いのよう。―――いや、オレにとってはすでに、彼女の存在こそが女神になりつつあるんだけどな」
知らねーよ。
しかし、それらの特徴をあわせ持った人物に、一人だけ思い当たる人がいた。
それってもしかして、ききょ――――――
「ああ、彼女の綺麗な黒髪に指を這わせたい……!」
――――う、では無さそうだ。桔梗は金髪だからな。
というかこいつ大丈夫か? だんだんぼく化が始まっているように思える。手遅れになる前に何とかしないと……。
ぼくはいいんだよ。ぼくは。
「ふーん。で、胸のサイズは?」
「胸? うーん……。他の同年代と比べると…………大きかったかな。……………………どうしたんだ芳兄? 急に立ち上がったりして」
「ぼくは屋上に行く。お前も来るか、ケン」
「お、おう……」
そういうわけで。
ぼくはケンを連れて、ダメ元で屋上に向かった。
屋上。すなわち、ケンとその少女が出会った場所に。