9だわ
「なんだこれはッ!」
タリエ城城内にある警備騎士団詰所。そこで今夜の担当となっていた団長が声を荒げている。原因はもちろん決まっている。先程起きた謎の地鳴りに地震だ。感触から天然の地震で無い事に団長は気付いていた。しかしその原因が分からずにいた。
「報告!」
「どうしたァッ!」
「はい!城内庭園におきまして、侵入者であります!侵入経路はおそらく地下からであります!」
「根拠は!?」
「はい!地面より召喚士様と侵入者が現れました!地下からの侵入に気付いた召喚士様が対応に当たられた結果そ推察します!」
なるほど。確かにそれならば筋は通っているかと団長は納得する。しかし、
「筋は通っているが、実際のところはそうではない可能性もある。ともかく召喚士殿の応援をする!総員完全装備にて、すぐに城内庭園に駆けつけよ!警鐘を鳴らせ!」
『ハイ!』
団長の一言によって、混乱していた騎士団が動き出した。カーン!カーン!と侵入者を知らせる警鐘も城内を駆け巡る。そして侵入者がいる城内庭園へと城兵は集まりだした。
「ッチ…。めんどくせぇな、オイ」
地表に出てきたリュウが城内の異常に気付いて愚痴た。
「オメーも何か言ったらどうなんだよ?」
「そうですね。どうやらここは使い物にならなさのうなのでこのまま立ち去ろうと思います」
「おいおいそれをやらせるとでも?」
「そんな事は関係ありません」
地表に立っていた召喚士は一つ足踏みした。
「何の冗談だ?」
「冗談?そんな訳無いでしょう?それともあなたは私が大掛かりな装置が無いと召喚術が使えないと思っていたのですか?」
ちゃんとした準備をした訳でもないのに、踏み込んだだけで召喚士の足元に召喚陣が現れたのだ!
「過小評価していただいては困ります。確かに異世界のモノ召喚するとなれば、それ相応の準備は必要となります。しかし、この世界にいるものであればこの程度で――」
ズズズ…と足元の召喚陣から何かが呼びこまれる。
「やらせるかよ!」
さほど開いてなかった距離を潰す為、リュウは召喚士の懐に飛び込む――事が出来なかった。
「ッそー!」
それを阻んだのは、
「無事ですか!召喚士殿!」
漆黒のフルプレート纏った騎士――城内警備騎士団長だ。
「ありがとうございます。それでは私はこれで」
召喚士の足元から現れたのは一頭の翼竜種だ。大きさはそれほどのものではないが、召喚士一人乗せて飛ぶには十分の大きさをしていた。
「待ちやがれ!」
リュウはそれを追いかけようと跳びあがろうとする、が。
「行かせん!」
「邪魔すんなッ!」
猛然と斬りかかって来た団長の斬撃により進路を塞がれてしまった。
「待ちやがれクソ召喚士!」
団長の猛攻を捌きながらリュウは召喚士に向かって叫ぶ。
「待ちません。私はここを去ります」
徐々に高度を上げて行く翼竜何とかしたい。しかし目の前にいる騎士をどうにかしない限り召喚士を追う事は出来ない。しかし城内の兵士を傷付けたくない。リュウの今の
昂ったままの攻撃では傷ですまず、この団長を拳一振りで殺してしまいそうだ。それだからリュウは逡巡してしまった。
「ハァァッ!!」
団長の渾身の斬撃がリュウの肩を捉えた!
「ぐゥッ!」
団長の一撃はリュウの肩に深く刺さりはしたものの、腕を斬り落とすまでとは行かなかった。だが、瀕死となるほどの重症を負わせたのには違いが無かった。
「…これでは私の出番は必要ありませんね。それでは私はこれで辞退させて――ッ!」
バチィバチィ!と召喚士を襲う衝撃!
「まぁもうちょっと遊んで行きましょうよ。まだまだ時間はあるんですから!」
『疾風!』とリョウは召喚士に向けて腕を振るう。瞬間、召喚士に向かって風の斬撃が襲った。しかし今度は受ける事はせず翼竜を操作しヒラリとかわせて見せた。
「……コレは見た事がありませんね」
「そうかい。興味が出たならあそぼーぜ!」
「――あ~もう無理。面倒」
「何を言ってる?」
「悪いけど。加減とかしてる場合じゃないってさ、今気付いたんだよ」
リュウが自身の肩にめり込んでいる剣に手をかける。未だ抜かれずにいた剣の中腹を握る!
「んなっ!!」
団長が持っていた剣はバキィッッ!と聞いたこともないような悲鳴と共に折れてしまった。するとリョウは乱暴に残った刃を抜き取り上を見た。
「俺はさあんたとこんなとこで遊んでる場合じゃなかったんだよ」
「何を言って…」
団長の言葉を無視し、リュウは持っていた刃を召喚士に向けてブン投げた!アブネーだろがボケェ!という声が聞こえた気がいたが関係ない。
「とりあえず俺も上の祭りに参加しないとなんでね。さっさと終わらせてもらうよ」
そう言ってグルングルンと回す肩。それは間違いなくさっきまで団長の一撃で剣が刺さっていた『肩』だ。
「さぁ…祭りを始めようや!」
「あのボケいきなり投げつけやがってアブネーだろが」
「それには同意します。お陰で召喚した翼竜の首が無くなりました」
下に落ちて行く翼竜を見つめる召喚士。そこに特別な感情は見られない。ただ乗り物が無くなった程度のに見える。その証拠に、
「自分で飛ぶのは面倒だと言うのに」
「アンタ意外と人間臭いんだな」
「どういう事でしょう?」
「言葉通りだよ。始め見た時は自分の研究以外は興味ないって感じ…は変わらないか。まぁアレだよ。俺が想像していたよりお喋りだなと思っただけだ」
「そうですか。ならば私の興味があなたの使う魔法が気になるからでしょうね」
「はぁ…そうですか。とことん自分の興味でしか動かないて事ですか」
「そうです」
そこからリョウと召喚士は言葉を無くした。お互い相手への視線は外さない。その分地上の方ではリュウが暴れまわってるのが分かる。なにせ警備兵の怒号とリュウの気勢が伝わる。
「見逃してもらえませんか?」
「はぁ?そんなこと出来る訳ないだろう」
「そうですかそれは残念です!」
召喚士が言い終えたと同時、八望星が現れる!
リョウがそれを視認した時には既に八望星の中から首が二つに分かれた大鷲が飛び出した!
「んな!キメラかこいつは!」
「それでは時間稼ぎをお願いします」
大鷲のキメラ召喚士の言葉を解したのか、召喚士が指さした先にいたリョウに一直線に向かってきた。
「――チィッ!『障壁』!」
リョウは恐ろしい程の速さで突進してくるキメラの攻撃を避けるのは不可能と判断、ともかく攻撃が受けない為に『障壁』の防御魔法を使う。『障壁』はリョウのオリジナル。もちろんこの世界の魔法にも似たようなものがある。しかしリョウのオリジナル魔法であれば、リョウが具体的なイメージを抱いた魔法の方がこの世界の魔法に比べ、より強力な効果を発揮する。
「やはりあなたの使う魔法は独創的で興味を持ちます…しかし今は撤退を優先します」
大鷲のキメラを壁に反対側にも陣を出現させ新たに移動用の召喚獣――大きな蝙蝠を呼びだしていた召喚士は最後に、
「私はあなたに興味があります。私はローゼス。覚えておいて下さい」
そう告げ、最後に生きていればですがと付け加えた。しかしそれは大鷲のキメラの猛攻にあうリョウの元には届かなかった。
一方地上では、リュウが警備兵相手に無双している。それなりに練度があるはずの警備兵達は、まるで飽きた人形を放り投げられるようにリョウによってちぎり投げられる。
始めは騎士のメンツが邪魔してか一人ずつ向かっていたのだが、それも五人程簡単に投げ飛ばされるのを目の当たりにしてからは形振り構わない攻撃に変化して言った。団長が復活しない今!このタリエ城を侵入者から守るのは自分達しかいないと鼓舞し、リョウに襲いかかっていた!襲いかかられている当の本人と言えば、愉悦を顔に張り付け向かってくる警備兵を放り投げ続けている。それも死なない程度に加減しながらという無駄に凝った神経を使っている辺り、この男が繊細なのかそれともただのバカなのかの判断は付けられないかもしれない。
「これで終わりか!喰い足りねぇ…喰い足りねーぞーーッ!!」
リュウの狂乱した叫びに警備兵は皆腰が引けた。こんな化け物を相手にして自分達は生きてられるのかという考えがそれぞれによぎる。国を守るために戦いたい、しかしこんな訳のわからない相手に、弄ばれ死ぬのはゴメンだ…そう感じ始めていた頃。
――ズドン!!
空から落ちてきた巨体の衝撃が兵らを襲った。