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8や

「全く驚く事ばかりです」

 地下儀式場の中央。普通なら見えないはずの魔力障壁がギチギチと音を立て、そこに『何か』があり、リュウの攻撃を遮っている事は明白だ。それでもなおリュウは拳に込めた力を放すことはせず、さらに力を籠めて自分と召喚士を隔てる壁を打ち破らんとし、

「ふざけてんじゃねーぞ!ゴラぁ!」

 先程のような振りかぶった一撃ではなく、腰の回転を綺麗に使った下から抉るような一撃を召喚士の腹部を狙って撃ち抜いた。

 ――バァァッッッッン!

 一撃目より激しい音!衝撃!それが周囲に撒き散り周囲にいた者たちは容易に吹き飛ばされてしまった。その衝撃は人だけで収まらず、地下室の壁にも罅が入るほどの衝撃だった!

「やはり…先程の一撃。あなたの全力のものではなかったのですね…」

 淡々とリュウの考察を始める召喚士。

「全くあなたはアレからどれほどの成長……いえ、この場合は進化と呼ぶべきなのでしょう。私があなたを召喚したころに比べると、ヒトを超越した力を手にしているようですね。今更ながら、あのときあなたに興味を失った自分を叱責したい気分ですよ」

 全く表情を変えないあたり、これが本音なのかただの戯言なのか判断が難しい。しかしそんな事はどうでもいい!これがリョウの偽らざる思いである。

「だからなんだってんだよォ。んなこたぁ関係ねぇんだよ。俺はテメェを殺す!だがよぉ…俺はあんたから知りたい事が一つある。俺が…俺達が元の世界に戻れるか否かだよォ…。仮にもあんたは召喚が出来るほどの実力者だろ?じゃあ送還することもできるんじゃねーか?どうなんだ!?」

 召喚士は動じない。目の前にある拳が人を殺傷するほどの威力があり、なおかつそれが自分に向けられていても、さらに悲痛な訴えを自分に向け嘆く青年がいても、まるでそれが普通である、当然であると言った表情で全く動じない!というよりも、

「それがどうしたの?」

 興味が無いのである。

「そんな事、私に何の得があると言うの?私は私の為の事しかしない。あなたの言うそれにはなんの意味があると言うの?」

 自分の欲求に対しては愚直なほど真っすぐ。しかしそれ以外の興味が全くない。それがこの召喚士の性格だった。

「満足かしら?」

 召喚士が言う言葉を聞き逃すまいとしっかりと聞いていた。…聞いていたがその答えにリョウは怒りしかこみあげて来なかった。自分とこの召喚士を隔てる障壁。その距離に苛立つ。自分とこの召喚士を隔てる障壁がギチギチと悲鳴を上げる音が耳に障る。そして何よりリョウ自身の事を興味無いと言わんばかりの胡乱だ視線が気に食わない!

「――ぞくか?」

「はい?」

「言い残すことはそれで満足かって言ってんだよ!!」

「――!!」

 怒声と共に吐きだされたリョウの想い。それはリョウの足へと集約された。思い切り振り上げられたリョウの蹴りの威力は凄まじく、それほど深くないとはいえ地下に建設された儀式場の天井を突き破って、召喚士は外へと弾きだされた!

「…どうせ今のでも死んでねーだろ。キッチリ殺してやる…」

 リョウは外へと繋がった穴に向かって跳ぶ。召喚士との決着を付けるために追いかけた。





「くぅッ!」

「あの馬鹿!調子乗りすぎ!」

 対峙し互いの様子を窺っていたタリエ王とリョウ。さらに周囲にはタリエ王に付き従う近衛ら。それらが相対したのは僅かな時間であった。リュウと召喚士の二度目の衝突の余波は激しく、二人を囲んでいた兵士はすべて吹き飛ばされてしまい、その場に立っていられたのはタリエ王とリョウのみ。

 リョウは自前で用意していた魔力障壁で。タリエ王は近衛不在の時に万一の可能性無くす為に用意されていた回避アイテムによって難を逃れる事が出来たのだ。

「さて…王さまでいいのか?」

「あぁそうだ。そういう貴様は何者だ?」

「俺か?俺の事は気にしてくれなくていいよ。ま、そう言っても納得してくれないと思うから、あんたがやろうとしている事を邪魔しに来た敵と思ってくれたらいいんじゃないかな?」

 そう言ってタリエ王にむかって不敵に笑って見せた。

「つまり私が何をしようとしていたのか知っていたという事か?」

「そうだね。街中でも少しばかり噂になるようなくらいだったからね。確かめついでにやって来た訳だ。ちなみに王さま、一つ聞いていいかな?」

「なんだ?」

「あんたがやろうとしてる『召喚』相手の事考えた事あるか?」

「知れた事。そのような事考えたところで無意味だ。召喚されるものはこの世界の身柱になる。それはとても誉れな事だ。召喚に応じて喜びこそすれ悲しむと言う事はあり得ない話だ」

 当然のようにタリエ王は答えた。それがこの世界にとっての通例、常識、決まりごとだ。

「――ククッ…」

 声が漏れた。そこから何かが決壊したようにリョウは笑いが止まらなかった!

「何がおかしい!」

 それでもリョウの笑いは止まらない。狂ったように笑い続けるさまは異様の一言に尽きる。

「笑うな!下郎がッ!」

 ――ピタッ。

 その音が目に見えるように、リョウの動きが停止した。

「貴様は一体何者なのだ!何がしたいのだ!」

「……それ、さっき言ったじゃんか」

 ゆっくりとリョウはタリエ王に向き直って言う。

「それよりさ、さっきの本気?冗談とかじゃないよね?」

「何の事だ?」

「…自覚さえないの」

「何の事だ!」

 一体なにを聞かれているのか分からない。心当たりさえ思いつかない。その苛立ちがタリエ王を激怒させる。

「お前は何が知りたいと言うのだ!」

「そうだね…それじゃあさ、あんた自身でその身に刻めばいいよ…」

 ――『抽出』とぼそりと呟いた。

「貴様!何をしたーーッ!」

 リョウが魔法を発動させる。発動している証拠に魔力光がリョウの手の中で煌々としている。その明らかな攻撃にタリエ王は数メートルあった間合いを一息で踏み込んだ!そして抜剣していたロングソードを横薙ぎに斬り払った!

 ――しかしそれは叶わない。

 タリエ王の踏み込んだ間合い。その一帯の空気。正確には『酸素』はごっそりと無くなっていた。王は運が悪かった。呼吸を止めた一撃ならば問題はなかった。しかし先程の攻撃は大きく口を開き、なおかつ叫びながら斬りかかった…それがいけなかった。

 酸素が無いところ…いや正確には酸素が奪われる空間に自ら奪って下さいとばかりに飛び込んでしまった。結果タリエ王は急性酸素欠乏症となってしまったのだ!

「どう?息が出来ないでしょう?喋りたくても出来ないでしょう。この空間ね少しずつ広げてるの」

 その言葉が示すように近くにいた意識ある近衛たちが苦しみ出していた。

「ねぇ…次はどうし――!」

 リョウの言葉は最後まで続かなかった。原因はリュウだ。召喚士を地下室から天井をぶち抜いて外に言ってしまったからだ。

「はぁ…興が削がれました」

 そう言って指をパチンと鳴らす。するとリョウの魔力光が消え、タリエ王を含む地下室で息が出来ず苦しんでいた全員、ようやく呼吸をする事を許された。

「さて…と。どうしたものでしょう?二人の後を追いかけた方がいいのは明白なんですけど…」

 ゲホゲホといまだ呼吸が整わないタリエ王の様子にリョウは溜息を漏らす。

「これで少し考えてくれるなら助かるよ。『召喚』されたしまった感情を…」

 タリエ王の髪を掴み持ち上げたリョウは、わざわざ王の耳元で呟いた。それだけ言い終えると、掴んでいた髪をパッと手放した。王の頭は受け身を取る事も出来ず、ベチャっという水音に近い音がした。

「――、て。まて!」

「浮遊」

「待てと言っているッ!」

「何だよおっさん。そんな鼻のあたりから真っ赤にして凄まれてもよ、間抜け面にしかなってなーよ」

 リョウがそう指摘するように、タリエ王の顔は真っ赤に染まっていた。先程の水音に近い衝撃音はどうやら鼻、それも当たりどころが悪かったようだ。

「そんな事はどうでもいい!」

 鼻の片方に指を当てると中に溜まっていた血を抜いた。同様の事を反対にもやった上、少し曲がっていたように見えた鼻をつまんで元の位置に戻してしまった。

「…おっさん意外とワイルドな事やるんだな。ビックリだわ」

「そんな事もどうでもいい!」

「じゃあ何なんだよ?俺はアイツを追わにゃならんの。これ以上はやる気無いんだけど」

「貴様の言った事は本心なのか?」

「どうしたよ突然?」

「答えろ!」

 先程とは打って変ったようにこちらを見据えるタリエ王。その様子に気付いたリョウもふざけた態度を改め真面目に答える。

「アンタの言ってるのは、俺が『やった』事が、俺の本音…かということか?」

「そうだ」

「そうか。それならちゃんと答えよう。アレは間違いなく俺の偽らざる本心だ。この世界に召喚した奴らを殺したいほど憎んでる。出来れば生まれてきた事を後悔するような、そんな死に方をして欲しい。もちろんそれに関わった奴らも同様に、自らの身体が綺麗な形でなんて残さない。その姿を見ただけで嫌悪する……それほど惨たらしい姿を晒して死んでいけばいい。良かったな。お前らはまだ未遂だ。更生の機会ってだ。これからキッチリ考える事だ」

 タリエ王は黙りこむ。もちろんこれを聞いていた近衛兵も押し黙る。目の前にいる人間が言っている事は冗談などではなく、本気でそうしてやると言う決意を持った言葉だったからだ。後半に行くにつれ言葉に乗せられる想いが真実であるのは明白。

「それでもなお、『コレ』の続きをやろうてんなら覚えておけ、俺がもし地の果てにいたとしても、すぐさまここに駆けつけて――」


――殺してやる!


 この言葉。叩きつけられる憎悪。濃密な死の予感をを感じたタリエ王を含むこの場にいた全員が、自分達との覚悟の違いを見せつけられてしまった。



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