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7ななななな~

「準備が整いました」

「そうか。では始めろ」

「御意にございます、タリエ王」

 未だに深く被った姿の召喚士。本来なら王の前でも顔をさらさない事を不敬罪ととられても申し開きなど出来ない。しかしそれが許される立場にある召喚士は、床一面に準備させた召喚陣から人払いを済ませ、

「それでは、この国の礎となる強力無比な存在を召喚して見せましょう」

 声高らかに宣言し、両手を組みブツブツと何やら呪文らしき呪を読み上げ始める。その発音は独特なものではっきり言って一般人というか知識のない人間にすれば、何を発音しているのかもよく分からない。

 当然ながらタリエ王もその言葉について理解できる事は出来ない。周囲できびする護衛についても同様で、耳を突くような音が召喚士から吐き出され、その音に思わず顔をしかめてしまう者が多数見受けられる。

 次第に召喚士の声に応じて、床に描かれていた召喚陣が呼応するように発光し始めた。

「おぉ……ここまでは以前同様」

 タリエ王はそう漏らした。このまま何もなければ、このまま何も問題が起きなければ、これでこの国の他国からの侵略に対する対抗策に安心度は跳ね上がるに違いない。タリエ王はここまで来れば引き下がれるはずが無いと考えていた。この事については、王に付き従っていた護衛兵も周知している事だった。

 だからこそ今目の前で起きた事が信じられず、呆けてしまった。

 発光している召喚陣に護衛兵が倒れこむ。それも一人ではなく複数。

 コレの意味する事をタリエ王は召喚士から聞いていた。もちろん護衛兵も。

 ――――召喚の儀式の最中、魔法陣に触れてしまえば……発動はしない。

 ――と。

「なにをした――ッ!!」

 怒りをあらわにして叫ぶタリエ王!その王に向かってあまりにも場にそぐわない声。

「あっれ~?もしかしてサイコーのタイミングじゃね?」




 ――時間は少し巻き戻る。

「それではご立会をお願いします」

「いよっ!やっちまいな!」

 探索を終え、本丸城内の一階床部分の粗方のを知りえたリョウは鞄のガマ口を開く。そこから取り出したのは宿にいるときに作っていた薬品。

「今回のはかなり良い配分で作れたと思います」

「じゃあ間違いないな~」

 警備兵に悟られないよう秘密地下通路の前まで来ていた二人。秘匿されているのか警備兵も疎らにしかいない場所。あからさまに何かありますよという感じはしないものの、この先に何かがあると言う嫌な感じだけは漂っているのが分かる隠し扉の前。

「それでは…」

 そう言って鞄から取り出した粉薬品を瓶から床へとぶちまけた。

「熱」

 リョウが液体に向け呟く。同時に軽く足元が発光し次第に零れた粉が蒸気へと変化した。

「送風」

 今度はそう呟く。立ちこめていた蒸気は隠し扉の隙間を抜け、通路の奥へと流れ込んで行った。

「相変わらずお前の『魔法』は妙ちくりんだ」

「別にいいだろう。だからこそ、俺が思うように働いてくれるんだ何の問題がある?」

「確かにそうだけど。それはお前以外誰にも使えない『魔法』だな」

「…終わったぞ。早速乗り込むか?」

 リュウの言葉を無視し、リョウは話を変える。

「大丈夫なのか?この薬品そんなに速攻性があるのかよ?」

 リュウの方も調子に乗りすぎたと思って、それ以上話題を蒸し返そうとせず、リョウの提案に乗った。しかし効き目が早くないか?と疑問を持った。

「問題ないさ。効きが悪い奴はお前がぶっ飛ばせばいい」

「あぁ…。確かにそれもそうだな」

「納得したなら行くぞ。魔法は解除済みだ。ここはお前の馬鹿力で解決してくれ」

「はいはい」

 リュウの口角は自然とつり上がる。この先で行われている事。それをぶち壊すと思うと楽しくなって仕方ない様子だ。

「よっしゃー!」

 気合い一閃。抜き手で隠し扉の隙間に無理矢理指をねじ込む!そこからは壁を引き裂くように扉を開いていく。あっという間に人一人が通れる隙間が出来上がってしまった。

「よっしゃ行くか!」

「あぁ…」

 そう言って二人は近所を散歩するように奥に進んで行った。リョウの『送風』によって通路に薬品は残っておらず。全て通路の突き当たりまで流れ込んでいた。それでも不安が残るとリョウは『清浄』を使い、二人の周囲は全く問題が無い状態になっている。

 二人が何の気兼ねもする事なく奥へと進む。途中何人かの警備兵が倒れていたが何の問題もない。二人を遮るものは存在していなかった。そして辿り着いた。この召喚の儀式の部屋に。

――――なにをした――ッ!!

 怒りを隠さず全面に押し出す男の声。間違いなく奥では何かの異常事態が起きている事は間違いない。そして周囲への注意も散漫となっていると思ったリュウは、そのまま儀式の会場へと足を踏み込み、

「あっれ~?もしかしてサイコーのタイミングじゃね?」

 のんきな声が儀式場を響いた。

「そうみたいですね。ほんと召喚が始まる直前だった訳ですけど」

 リョウと言えばハッハッハと暢気に笑いながら、リュウ後に続いてやってくる。

「き、貴様ら!!貴様らが何をしでかしたのか!わかっているのか!?」

 今まで長い時間をかけ城の人間に悟られぬよう秘密裏に準備と検証を繰り返し、ようやく訪れた本番の日。可能性は僅かなものと考えていたが、それが現実となって襲って来てしまった。しかもその犯人はのんびりとした様子でこちらにやって来る。これに怒らない為政者などいないはずが無い!己の正義を信じ貫く。それが悪だろうと罪を被るのは自身であると決意してのタリエ王行動。

 その思いを乗せた憤怒の叫び!

「そんなん知るかよ。俺はお前らがやっている事が気に食わないから潰しに来た。ただそれだけだ」

「俺もこの筋肉バカと同じ。あんた等のやってる事がムカついて仕方ないんだよ!」

 ――王の叫び。

そんなもの気になど留めず、二人は自らの都合のみで斬って捨てた。

「貴様らそれで通ると思っているのか!?」

 怒りのままに叫び抜剣するタリエ王、

「おう…マジかよ。あのおっさんお前特製の薬品が全く効いてない様子だぞ」

「確かに。それと始めの感嘆は『王とおう』をかけたのか?俺としてはそちらの方を詳しく説明してもらいたんだが?」

 それに全く気にもしない会話が繰り広げられる。

「き、さま、らーーーッ!!!」

 タリエ王は召喚の儀式を邪魔された事に上乗せするように自身を完全に無視されている事に怒る!

 抜剣した剣をこの二人に叩きこもうと一歩踏み込んだところで、思わぬ邪魔が入った。

「王よ。ここは冷静に」

「しかしッ!」

「まだあなたの出る幕ではありませんよ。ここは私にお任せ下さい」

 そう言ってタリエ王の前に身体を割り込ませた。リュウとリョウの二人と対峙する形となった召喚士は、今までタリエ城で取る事の無かったフードに手をかけた。

「あなた方の目的が何かはよく分かりません。しかし、ここで異世界『勇者』の召喚の儀式を邪魔される訳にはいかないのですよ」

 今まで深くまで被っていたフードから現れた――女性の顔。その顔はどう見ても妙齢の女性のもので、決して魔導を極めている人物には到底思えないほどの容姿だ。

「おとなしくここを立ち去っては頂けないものですか?」

「それは出来ないお願いですね」

 召喚士の要請はリョウが即断で投げ捨てる。

「そうですか…それは残念です」

「それで残念ならどうすると?」

「そうですね。……じゃあ邪魔にならないように死んでもらいっ!?」

 召喚士が最後の言葉を告げようとした瞬間だ。リョウの隣にいてはずのリュウが召喚士を殴りつけていた!

「チィ…やっぱ駄目かぁ」

「いきなりの御挨拶ですね。先程まで固まって表情をしていたというのに」

「こんな挨拶は気にいらねーってか!?このクソ召喚士がぁッ!」

 続けざまに殴りかかるリュウの攻撃はやはり召喚士に届く事は無かった。それは召喚士も分かっていたようで、涼しい顔でリュウ攻撃をいなしながら思案する召喚士。そして何か思いだしたかの様に言った。

「あなた…見覚えがありますね。もしかしてあなたは過去に私が召喚した『モノ』ですか?」

「あぁッ!テメッ――!」

「いい加減にしろッ!」 

タリエ王の乱入により、今度はリュウの言葉が打ち切られる事となった。

「召喚士よ!どういう事なんだ!貴殿とこの闖入者共は顔見知りということか!?」

 タリエ王は召喚士に剣を差し向けながら問う。

「事と次第によっては!召喚士殿といえど斬り捨てるぞ!」

「確かに、俺の相方とアンタ。なんらかの因縁があるみたいだな。ちょっとその辺ハッキリしてくれない?」

 少し離れていたところにいたリョウも二人の因縁について興味があるらしく、ここは静観する気満々といった様子が丸分かりである。

「そうですね。しかしあなた方が思うようなものではありませんよ。アレは私が過去に召喚したただのモノなだけです」

 召喚士はハッキリとそう言った。それを聞いていたリュウの相貌には明らかな怒りで満ち満ちていた。

「あぁ…そうだな。確かにアンタはそういう奴だったよな。結果しか求めない。成功したか否か。それにしか興味がない。そうだ…そうなんだよ。お陰で俺は今までの生活を奪い取られたんだよ!テメーの実験に巻き込まれて!テメーの自己満を満たす為だけに人生弄ばれた一人だよ!」

 後半に行くにつれてリョウの言葉は絶叫に近いものだった。そして最後の言葉を言いきったと同時に召喚士の懐目がけて飛び込んだ!

 ――バチィッッ!!

 およそ人がぶつかって無事に済む様な音では無かった。同時にその音を中心に衝撃波が儀式場にまき散らされる。

 リョウお手製の薬品から難を逃れ、何とか正気を保っていた兵士たちだったが、突如として襲いかかって来た衝撃には耐えられず、一気に壁まで飛ばされ強かに身体を打ちつけ、当たり所の悪かった者は気を失う者もいた。

「召喚士殿!」

「『火柱』」

 うおぉぉっ!という声を上げ、召喚士を助けようと動いたタリエ王だったが、リョウがそれを封じるように放った魔法をタリエ王はなんとか避け切った。リョウとしては今の一撃に関しては全く当てる気などなかったのだが…。

「何だ今のはッ!!見た事が無い魔法だぞ!」

「そりゃそうでしょう。コレは俺のオリジナルって言ってもおかしくないような魔法なんだから。ともかくアンタの相手は俺。あっちの二人は~どうやら恋い焦がれる仲のようだしね。色気とあと男色じゃないけど。特に男色の方は重要ね。あの恋仲を邪魔されるのは困るんだよね。だからアンタの相手は俺。あの二人の邪魔はさせないから、そのつもりで」

 挑発するようにタリエ王にリョウは言う。

 この言葉に乗ってしまってはと思い、何とか冷静さを取り戻そうとするタリエ王。

(あの餓鬼は我の事などなんとも思って無いのだろうな)

 そう考えると大きく息を吸い、一息に吐き切った。そして剣を握り直しリョウを見据えた。

(あれ?俺、もしかしていらないスイッチ入れちゃった?)

 しかし後悔したところで何も変わらねーと開き直って、目の前にいるおっさん王――タリエ王の相手をする事にした。


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