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4だー

 ――ガシャン…ガシャン……。

 金属同士が擦れる音が響く。一定のリズムでなるのではなく、時より忘れた時そんな時、突然ガシャーン!と、金属音が鳴り響いた。

「くそ…俺が何をしたって言うんだよ……」

 両腕を繋がれた鎖は天井に近い壁に繋がれ、足にも同様の鎖が壁に近い床に繋がれている。かろうじて座る事が許されず、その代りに壁にもたれかかる事だけは許された。

 ――ガシャーン!

 また鎖が鳴いた。

「くそ…」

 窓もなく光も入らない石造りの部屋。男の目の前には鉄格子で造られた扉が見える。男から見て五メートルもない距離が永遠に届かない距離にも感じた。

 ――カシャン…。

 さえずりにもに声で鳴いた。そこからしばらく鉄の鳥が鳴く事は無かった。




「――ッチ」

 リュウが目が覚め、まずやった事は舌打ちだった。

(久しぶりだな…胸糞悪い)

 せっかくいい気分で眠れたのにとぶつくさと文句を言いながら鞄から着替えを取り出した。リョウ特製の魔法鞄に収められた着替えはこの間洗ったばかりで清潔さが保たれていた。もちろん手触りも最高だ。

「さて」

 リュウは着替えを持って自室を後にする。そのままロビーに繋がる階段を下りていくと、いそいそと小走りで朝の支度をしている主人であるエルフのカレラと、厨房担当の妖精族のターレがいた。

「あ~、おはようざいます、カレラさん」

「おはようございますリュウさん。早いんですね」

 営業スマイルなのか、それとも素でやっているのか、惚れてるのかと勘違いしてしまうほどの笑顔が返って来た。もちろんそんな勘違いはしないが、リュウの胸が撃ち抜かれてしまうのは仕方のない事だった。

「あ、いいや、あの!ちょっと目が覚めてしまったっていうか、昨日の酒の影響って言うか」

 しどろもどろのリュウをにクスッと笑う。

「そんな慌てないでください。ともかく目が覚めてしまったと。それでどうしたんでしょう。のどが渇いたという訳ではないですよね?水は各部屋に置いてありますし」

「あの、寝汗がひどかったんでちょっと水浴びがしたくなったんです」

「そういうことでしたか。確かにこの時間だと浴場やお湯なんかは準備してませんから……――」

 リュウとリョウ。二人が泊まっている『止まり木の宿』は二階立ての建物だ。屋内は1階に食事のできるフロアとカウンターがあり、昼や夜になると食事や酒を楽しむために人が集まる。カウンター側にある階段を上がって行く二階。ここが宿泊するための客が過ごすスペースとなる。用意されている部屋は八室。二人が客室数が少なくて驚いたのもここにある。しかしカレラとターレ、それにまだ見ぬ従業員の事を考えればこのくらいが丁度いのかもしれない。食事だけしにやってくる客の事も考えれば、これで十分採算が取れているのだろう。

 さて、そのほかの設備だが、珍しい事にこの宿には各部屋にトイレが備え付けられている。その機能については謎の技術が使われているのは間違いない。それほど使われている技術は一般的なものではない。しかし浴室までは各部屋に据え付けられなかったらしく、男女別の浴場という形で一階に存在していた。しかしそれは深夜に入る頃には終了となっていた。だからこそリュウは汗の流せる場所を探していたのだ。

「浴場の方は水も止めていますので、中庭の方に井戸があります。そこの井戸の水で良ければご自由にお使い下さい。あ、タオルとかあります?」

「それは大丈夫です。手持ちのがあるんで」

 そう言って手に持っていたタオルを見せた。

「そしたら中庭には浴場の向かう途中の扉から出られますので、今は鍵もしてませんので」

 カレラは一礼すると再び仕事に戻って行った。

「さて、あっちか」

 リュウの方も教えられた場所へ足を運びだした。


 

 

 水浴びを終え部屋に戻り着替えをしたリュウは、リョウを伴って朝食摂った。それほど多くの会話は無く互いにターレが作ってくれた朝食への賛美だけしかなかった。


「準備できたか?」

「もちろん。そっちは?」

「問題ない。しっかり水浴びもした、これで酒とか他の匂いも大体は落ちたはず」

「じゃあ任せるぞ。かちこむ前に見つかるとかヘマすんじゃねーぞ」

「そっちこそ万事抜かりなく、物は用意しとけよ」

「誰に言ってんだよ。問題ない。用意できるものはここらへんで用意できるものしかないよ。後は俺が加工して終いだ」

「そっかじゃあ期待しとく」

「期待なんかいらねえから、お前の結果だけ持ってこい」

「それこそ愚問だ」

 その言葉を最後に二人はニィと口角を上げた。その後はお互い言葉は出ない。拳を突き合わせてそれぞれの目的地に向かった。




 止まり木の宿を出たリョウは早速今回のかちこみに使うアイテムを準備に走る。走るといっても実際は欠伸を噛み殺しながらフラフラ歩いているだけである。

今回用意するのはそれほど特殊なものではなかった。どちらかと言えば一般的なもの。しかし普通に購入しようとすれば間違いなく怪しまれるのは決定事項。間違いなく変人決定の烙印が押されること間違いなしの商品だ。それが何かと言えば、睡眠薬と麻痺薬。それも人間に対して有効な薬物である。魔物用だと一歩間違えると死んでしまう可能性がある。その為それを代用として使う訳にはいかない。

――リュウとリョウ。二人のやりたい事は『殺戮』ではないからだ。

 

 リョウはフラフラとした足取りで街を出た。途中門兵に止められたりしたが、街を出る際の簡単な諸注意だけだった。重い足取りのままリョウは森の中に入ると一つの魔法を使った。

「『探索(サーチ)』」

 探索と呼ばれる魔法は、人や物を探す時に使われる魔法である。名前の通りモノを探すのだが、これには一定のルールが存在する。そのルールとは自分の分かるもしくは指定する任意の物しか対象とされないという事だ。つまり漠然と探索をかけたとしても、何も見つからずなにも感じず終わってしまうオチになる。

 ともかくリョウがこの森に入って探索対象としたのは、神経毒を含む植物と睡眠作用のある植物。動物にも効果のあるものがいるが捕まえるが面倒というのと処理するのが気持ち悪いからという何とも言えない理由だった。

「……遠い」

 探索をかけた結果は思ったよりも森の奥。リョウは面倒と思いながらも足を運ぶ。

 この探索という魔法には一つ問題がある。熟練者であれある程度解決されるのだが、この魔法の問題点として、魔力量と使用者の技術に関わってくる。つまり魔力量があれば広い範囲を探す事が出来るのだが、おおざっぱな場所しか分からない。そして技術が無ければ正確な場所を把握できないのだ。つまり魔力頼りの力技しかできない魔法使いになると、大きな森一つ分探索できたとしても、「この森に間違いなくあるよ」としか言えない場合があるのだ。逆に魔力量の少ない者の中には、戦闘になってから常に自分の周りに探索をかけ続け、不意打ち防止に使う剛の者まで存在する。




「さて……ここが屋敷か…」

 リュウは一つ大きな屋敷の前にいた。城のな事も考えたが、まだ日が昇ったばかりのこの時間。忍び込むにはリスクが高いと判断した結果だった。

 その代わりにと、昨日の話に出てきたキャストの中で怪しいと思った人物の屋敷へと足を運んだ。

「この時間なら登城して少しは警備も緩んでるはずだ」

 念のために自分の顔が分からないように、用意していた被り頭巾で目元だけ残し口元を覆い隠す。

「…ふぅ」

 …集中集中集中――――。リュウが意識を深めていく。深く潜る…。

「…行くか」

 目を開いたリョウはその場から跳躍する。リョウの跳躍は常人には目視出来ず、一瞬で大空を舞う鳥と友人になった。

 リョウは空中で視力も強化し着地予定となる中庭に誰もいない事を確認する。

「助かるわ…こればっかりはどうにもならないからな」

 考えなしに大空へと旅立ったリュウ。人がいた場合空中で誰もいないところに行き先を変えなければならなかった。魔法を使えない人間が空中で方向を変えるなど人としてどうかと思うがそこはファンタジー。そう割り切るリュウだった。リョウから言わせれば「人としての枠を飛び越えた化け物」らしい。リュウはその言葉に怒ったりするが、それを否定する事は無理というものだ。


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