3かな
「んで。これからどうする?」
「とりあえず宿の確保。出来れば食事の質が当たりのところで」
「その見極めをどうするかって話だろうが」
「そこはソレ。リュウの超人的な嗅覚を使って、いい匂いのする宿屋を見つけて下さいな」
「おまえ…それを『無茶振り』っていうんだ。知っていたか?」
「え?なんですって?よく聞こえませんでした」
「テメー…分かっててやってんだろうが」
¬ リュウの言葉を無視し、リョウはニコニコと笑みを崩さず歩みを止めず進んで行く。
ギルドで始めたどこぞの深夜通販ばりの騒ぎは、その後やって来たギルドの上役によって終息となった。二人は上役が姿を見て、即その場から離脱した。
「それで、どこに向かってんだよ?」
「そうですね~……とりあえずあの宿なんてどう?」
リョウが指差した先にある宿。それほど大きい宿ではないが外観は白く綺麗な佇まい。そろそろ夕食の支度も始まってる頃会いになる時間の為、宿の方から漂ってくる匂いもする。もちろん悪くない。
「そこなら文句ないな」
「では早速行きましょう」
こうして二人は今夜の宿を決めた。
「いらっしゃいませ。二人でいいかしら?」
リュウとリョウを迎えてくれたのは、ヒト種よりも長く先にの尖った耳が特徴のエルフと呼ばれる種族だった。
「お二人ともどうしました?」
自分達の接客の対応がエルフと気付いた二人は、しばらく固まってしまった。理由は単純。二人がエルフに対していい思い出が無かったからだ。その様子を怪訝に思いながら、
「どうかなさいました?」
と尋ねた。
「あぁ…と、スミマセン。えっとエルフの方ですよね?」
「はいそうです」
「俺達エルフに縁が無くてな、いい思い出がないんだよ」
「そうなんです。なのでちょっと身構えてしまったんです」
この世界のエルフという種族は、基本的に排他的な種族として知られている。大体は人里から離れた場所に少数で集落を作り自給自足の生活する。しかし排他的とはいえ、必要物資を得るために最低限の交易を行っていた。その為、珍しくはあるが決して会う事の出来ない種族ではないのである。
「そうですか…。あ、私はこの宿の主をやってますカレラです。ようこそ『とまり木の宿』へ!」
とまり木の宿の主人、エルフのカレラの祝福に二人は今夜の宿をここに決めた。ついでに言えば今夜だけでな今日を含めた三日。この宿にねぐらにする事に決めた。その理由が美人のエルフという訳ではない。その後紹介された厨房担当のコレまた女性。妖精種のターレが挨拶と共に出された、宿泊者歓迎のおやつ『たっぷり蜂蜜のパンケーキ』にノックアウトされてしまった。これは期待できる……と。
「にしても、久しぶりに良いものが食べられたね」
「そうだな。甘党じゃねーけど、アレは別格だわ」
「思わず三日分の予約しちゃったけど…問題ないよね?」
「問題ないさ。二人別部屋で二回の飯付き三日、これで銀六十。そっから連泊割で銀五十だろ、破格じゃねーか」
「確かに。あっちの世界で諭吉五人。これだけの設備と食事それが三泊で一人頭二万五千やっぱり破格だね」
「そしたら物資の確保か。今なに足りてないのか確認しといてくれね?」
「確認しといてくれねもなにも、俺の鞄に二人分の荷物ぶち込んでるだろうが!せめて自分の分くらい作ってやった鞄にいれろよ阿呆」
「阿呆言うな。一応最低限のもんは入れてある。だから問題ない」
「問題ない訳ないだろう……」
はぁ…とリョウは溜息ついた。
「とりあえずそろそろ夕飯時だろ。下のホールに行かないか?」
「そうだな。『目的』になるような話が聞ければいいな」
「そうだな~。そこについてはなかなか当たり引かないな」
「そうそう都合よく聞けたらどんなに楽か」
リョウは自分の部屋のドアに手をかけるとリュウを伴って階下へと向かう。向かう先にあるホールには、とまり木の宿泊客以外にも食事を楽しみに来ている一般客も入り混じっており喧々囂々と雑多な世界を作りだしている。
「おうおう思ったよりも活気があるじゃねーか」
「これは聞いていた以上だね。ターレさんの食事目当てだけの人がこれだけ…と。宿泊客が少ないからどうかと一瞬疑ったけどさ、こっちの方をメインでやってるんだな」
空いてる席を見つけた二人は早速確保。配膳に右往左往しているカレラを捕まえると、
「今日のおすすめの料理適当に二人分お願いします」
「適当って…それはターレの事を信頼されてるって事でいいのかしら?」
「「肉!中心な!」
「いやいやいや野菜もちゃんとつけて下さい」
「リョウてめー」
「はいはい。そういう訳でお願いします。宿泊する時に貰ったあれで腕の方は信頼してますから」
「わかりましたよ~。ターレに言ってうんと美味しいものを用意して貰いますから期待して下さいね」
「あ~い」
「はいはい」
注文を受けたカレラが厨房に消えていくのを見送った後、二人は特に喋る事しない。その代り周囲の客達が話す会話に耳を澄ます。それはカレラが食事を持ってくるまで続けられた。
リュウの部屋に戻った二人。片方は腹を抑え美しい笑顔、もう片方は赤ら顔で苦い表情だ。
「やっぱり当たりだったな~」
パンパンと腹を叩くリョウ。
「確かに。久しぶりの当たりだ…。リョウお前の勘スゲーわ」
一方リュウは真っ赤な顔でしかめっ面を作る。
「だろ~。『アレ』の話が聞けるなんてな」
「あぁ……胸糞悪い話だった。俺達みたいなのを呼ぶ為の召喚陣を持った国主だってなぁ」
二人の間に僅かな沈黙が降りる。そしてリョウが口を開いた。
「やるだろ?」
「もちろんだ!」
リョウの問いにリュウが吠えた。
「決行はどうする?」
「もちろん今か――ッ!!」
リュウの叫びを遮るようにリョウのゲンコツが落ちた。
「いてーな!リョウ!なにすんだ!」
「いてーなじゃねーよボケが!痛いのはむしろコッチだ!なんで魔力強化してダメージ軽減までしてんのに、俺の方が痛いんだよ!あとついでみたいになったけどな!今から言っても意味ないわ!せめて明日の夜だ!きっちり準備してから攻め込むぞ」
「……お、おう」
「よし。リュウお前の駄目なところは、酔った時になんでも勢いだけで解決しようとするところだ!普段でもそうなんだから酔った時くらい自重しろ馬鹿野郎が」
「そりゃむりだろうがよ」と思ったものの口には出さなかった自分を褒めたいなとリュウは思った。しかし褒めて貰おうにも相手はリョウしかいない。もしそんな事を言えば、数倍になって普段のダメだしをされるのは目に見えている。リュウはそれを全部飲みこんでベットにぶっ倒れ、そのまま眠ってしまった。
「はぁ…寝ちまったか」
リュウがベットに倒れそのまま寝てしまったのを見て、リョウは自室に戻った。
部屋に戻ったリョウは身につけている服を、申し訳程度に置いてあるテーブルと椅子に脱ぎ捨てた。「俺もとっとと寝ちまおう」と呟くと、ガマ口の魔法鞄を開いて、大きめの貫頭衣を取り出した。絹で出来た触り心地のよい生地が身体を包む安心感が、リョウを眠りの世界へと誘う。
ウトウトと意識が混濁し、この世界から切り離される感覚がやってくる。リョウはそのまま意識を落とすと夢の世界へと旅立った。