覚悟と心
星視点
私は今、とある村で昨日から黄巾党と戦う準備を進めている最中だ。
こちらの軍勢は80と少し、対する黄巾党は約150と云うところか…。
80対150、今聞くだけでも笑えてくるな。
もう少し正確に言えば、初めは1対150か、もう笑うしか無かろうな。
初めに私が敵を引きつけその隙に後ろから弓で奇襲を仕掛ける。
村人は素人だが弓を引くくらいは出来るだろう。たとえ当たらずとも敵は確実に混乱するはずだ。
そこを各個撃破。
言うは易くも行うは難し。
絶対成功する確証もない。一歩間違えば私は死ぬだろう。
しかし、引くわけにはいかぬ、此処で引けば私の志を殺すのと同義だ。
みすみす死ぬ気も無いのだがな。
必ずや生き抜き、またあの人と語り合うために。
(……不思議だな、あのお人は)
初対面の者に真名を預けるなど、普通ならあり得ぬ事だというのに。
何故か心の底からそうしたいと思えた。
…ポヤポヤしていて、風に負けず劣らずのんびりとしていて、不思議な雰囲気を纏った天の御遣い。
私の友。
(……ふっ、会ったばかりの者にこうまで固執するとはな)
あのお人は、奏殿は迷っているのだろう。奏殿がいた世界は人の死がそう身近に無いと聞いた。
この世界で生きるには、殺す覚悟と殺される覚悟を決めねばならぬ。
一朝一夕で決まるものでは無い、この戦いで何か見つかると佳いのだが。
「星!、こんな所にいたんですか」
「どうしたのだ、稟」
「どうしたもこうしたも、貴女が居なかったら話が進まないでしょう」
「それもそうだな。どれ、行くとするか」
奏殿、あなたは自分が選ぶ道をいきなされ。
「そのためにも、私は戦おう」
星視点終
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今日も私は川のほとりで膝をかかえていた。
昨日から、星ちゃんが言っていた事が頭の中で反芻している。
−それでも、後悔はしません。確かに殺していますが、同時に護れた人が居ました。だからこそ私は立ち止まらない、歩み続けます−
(やっぱり星ちゃんは強いですね)
心も、身体も。
確かにこの村の人を助けたい。
それに嘘偽りはない。
だけど、そのためにも私は人を殺せるだろうか。
(その覚悟があるのでしょうか……)
私には分からない。
私は……
「こんな所で何をしているんですか〜?」
「………風ちゃん」
私が悩んでいると何時の間にか目の前に風ちゃんが立っていた。
「はい、風は風ですよ〜、奏お姉さんはこんな所で何をしているんですか〜?」
「………」
何も答えられない。
風ちゃんは特に追求することなく、私の膝の間に挟まり、体を預けるように座ってきた。
「ふ、風ちゃん?」
戸惑う私に風ちゃんは何時ものトーンで
「奏お姉さんは、昨日のような光景を見るのは初めてでしたか?」
と、聞いてきた。
「……うん。風ちゃんは初めてじゃないんですか?」
「風は是でも軍師ですから」
「そっか……、私は、私の世界では、人の死って云うのはもっと遠くの事みたいで、勿論人が死なない訳じゃないですけど、殆どの人は寿命で死んで行きます。戦争も有るんですけど、其れこそ私達には縁のないその言葉の意味だけ知っているだけみたいな感じなんですよ」
無意識のうちに風ちゃんのお腹に手を回し抱きしめていた。
風ちゃんは特に気にする様子もなく昨日、星ちゃんに話したことをそのまま聞いていた。
「其れはとても恵まれていることだと思うのですよ。此処では明日を生きられる、生きていける保証はないのです。
今を生きるために一生懸命なのです」
「うん、……だから私が此処に居ることは間違いだと思うんです。私がここにいる意味が分からないんですよ……」
私は自分が考えていたこと、悩んでいたことを風ちゃんに吐き出した。
聞き終えた風ちゃんはやはり何時ものトーンで答えた。
「分からなくても云いと思いますよ」
「えっ?」
風ちゃんは体ごと回転させて私に向き合う。
「そんなの誰も分かってないのですよ。意味がなければ生きて居たらだめですか?
そんな事は絶対に無いのです。生きていることこそが意味なのですよ〜。
大切なのは生きているうちになにをするか、成し遂げるかです。風や稟ちゃんは星ちゃんみたいに武で戦う事はできないですが、ここを使い戦うことが出来るのです」
そう言って人差し指でちょんちょんと自分の頭を指さしている
「………」
「風はそろそろ行くですよ〜。……奏お姉さんは急いで見つけること無いのですよ」
そう言って風ちゃんは立ち上がりお尻をパン、パンと払って、それから振り返らずに歩いていった。
−生きていることこそが意味−
風ちゃんの言葉が私の心にカチッと音を立て、綺麗にハマった。
(私情けないですね〜。みんなに心配かけて、励まされて)
私がしたいこと、私が出来ること、出来ること。
「それは……」
―みんなを、護りたい!―