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もう一つの現実








こっちに来て3日。


漸く野宿に慣れてきました。

最初はなかなか寝付けず、寝不足で三人に迷惑かけてましたね。

未だに星ちゃんたちに御世話に成っている状態でけど。




「どうしたのですかな、奏殿?」


そんなことを考えていると星ちゃんが私の顔をのぞき込んでくる。


「何でもありませんよ。ただ、今のところ役に立ってないなぁ〜と」


「その様なこと気にせずともよいと思うが」


普通、気にしますって……。


「いやはや、プー太郎になってるみたいでどうにも心苦しいと言いますか……」


「ぷー…たろう?天の国の言葉ですかな?」


「何もしない、タダ飯食らいのことですよ」


その言葉を聞いた星ちゃんと稟ちゃんが徐に風ちゃんを無言で見つめている。

確かに風ちゃん、料理の時や野宿するとき殆どやってませんからね〜。

飴を舐めてるか私の膝枕で寝ちゃってますから。

私も手伝えることはなるべくしていますが、勝手が分からないことが多いので風ちゃんの枕になって見てる事が多いです。


『ジーーー……』


5秒くらい見つめられて漸く風ちゃんも気付いた。


「?、………ぐぅ」


「寝るなっ!」


「おぉっ、余りにも分が悪いので寝てしまいました〜」


「少しは奏殿を見習いなさい、風」


「うーん、個人的には風はお姉さんの膝で寝ていたいのですよ」


何故か私の膝枕は風ちゃんに大人気。

フワフワの髪を梳いていると直ぐに可愛らしい寝息が聞こえてくる。


『……羨ましいことを』


「はい?」


ボソッと2人から羨ましいと言う単語が……


『っ!?』


「2人とも本音がでましたね〜」


おぉ、2人の顔が見る見る赤くなっていきます。


「してほしいなら言ってくれればいいのに」


『よいのですか!?』


2人とも食いつきが凄いですね、少しびっくり。


「まぁ、二人にはお世話になりっぱなしですから。私の膝なんかでいいのなら」


『是非、御願いします!』


さっきから二人とも息ピッタリですね〜。綺麗に90度にお辞儀まで。


「了解ですよ〜」


「やはり、お姉さんはのんびりしてますね〜」


『お前が言うな』


「むっ、風の何処がのんびりしているというのですか」


『全部?』


「シクシク……」


「ほんとにピッタリ揃いますね〜。言葉に息継ぎまで。

後風ちゃんも嘘泣きしないの、涙でてませんよ?」


「ばれましたか」


なんて、ここ3日でお馴染みになった遣り取りをしながら、この近くにある村へと向かっていきます。




―――――――


――――


――







「どうしたのですかな、奏殿?」


暫く歩いて、間もなく村に着くと言うときに、その臭いに気がついた。

顔をしかめ、口数が減った私に星ちゃんが気付き訪ねてくる。






「血の……臭い」







「!?」


「くっ!」


ダッ!


「奏殿っ!?」








星視点




「血の臭い」と呟いていきなり走り出した奏殿に呆気にとられていた私達は直ぐに奏殿を追い駆けだした。


「くっ、速すぎる!」



何時ものんびり、ぽやぽやしている奏殿からは想像出来ない速さで疾走っている。

稟と風も懸命に走っているが私も奏殿に全く追いつけない。



「!?」



奏殿の言った通り、暫く走っていると血の臭いがしてきた。

それも濃く、咽せかえるほどに酷い。


近づけば近づくほど、人の肉と血の焦げる独特の臭いが鼻を突く。


立ち止まっていた奏殿に追いついた。


「奏殿っ」


「………」


「奏殿?、……っ!?」


話し掛けても反応がなく茫然としていた。

私も自然と奏殿の向いている方を向く。



目の前には、地獄と呼ぶに相応しい光景が広がっていた。





星視点終






星ちゃん達と話している途中、嫌な臭い気がついた。


余り嗅ぎたくない臭いが風に乗ってきた。


「血の……臭い」


そう呟いた後、星ちゃんたちを置いて全力疾走していた。


アリアちゃんが言っていた身体能力強化のお陰か、自分でも信じられないスピードが出せた。

そして全く疲れない。



―今はそんな事どうでも云い―


―速くっ、もっと速くっ―


ようやく臭いのもとにたどり着いた。

目の前では日本ではまず出会すことはない光景が広がっていた。




――――――


――――


――





首の無い死体、腕や足がバラバラに転がっている。

あたり一面、血の海になっていた。




「………」


「惨い……」


いつの間にか追い付いた星ちゃん達が隣に佇んでいた。


「黄巾党でしょうか〜」

「恐らくは…」


「何で…こんな…」


「生きるためですよ、明日を生きるために奪い、殺し、犯す」


稟ちゃんが淡々と呟く。


「そんな…、そんな事って…」


人が生きるために他の人を殺すなんて……。




理解している積もりだった。

此処が三国志の世界だと。そのために、この世界で生きる為にアリアちゃんは私に色々な力をくれたのだから。

この様な場面に出会すことも。



「此がこの世界の理なのですよ…」


全然分かってなかった。


「兎に角、生きている人を見つけて治療しましょう」



――――――


――――


――






生存者を見つけ、手当てを終えた頃にはすでに日が落ち、辺りは闇に包まれていた


結果、助かったのは村の人口の約三分の一だけだった






手当てを終え私達は村の長の家に集まっていた



「それで、何があった?」


「…昼頃にいきなり黄色の布を身に付けた賊が襲ってきたのじゃ」


「黄巾党でまず間違いないですね〜」


「やはりか…、してお主達は此からどうするのだ?恐らくはまた明日も来るだろうよ。今度は確実に皆殺しにする気だろう」


「どうするもなにも、逃げるしかないではありませんか!」


「生まれ、育ったこの地を捨ててか?」


「どうしようもないだろう!

相手は150人もいてこっちは80にも満たないんだぞ!?」


「数の差など大した問題ではない、この趙子龍が打ち倒せば良いだけだ」

「あんた何言ってるのか解ってんのか!?


「悔しくはないのか!自分の故郷を荒らされ、友を殺され、このまま泣き寝入りするつもりか!!」


「ならどうすればいいんだよ!?俺達に闘って死ねとでも言えってのか!」


「いや、前線に出るのは私だけだ、お前達には裏であることをしてもらいたい」


「…あるこというのは?」


「それは私達が説明します」


「別に死ぬような事ではないのですよ〜」


「今一度だけ問おう。闘うか、逃げるか」


『…………』





――――――


――――


――







「こんな所に居ましたか」


手当ての手伝いをした後、星ちゃん達は長さんの家で話し合いをしていたが、私はどうしても気持ちの整理ができず、村の外れにある川辺に来ていた。


「探したのですぞ、奏殿」


「………」


「奏殿はああいった光景を眼にするのは初めてですか?」


「私の居た世界では……」


それから、私の居た世界のこと、私がどう生きてきたか、なにを想っているか、途切れ途切れ話していった。

その間星ちゃんは何も言わず黙って聞いてくれた。




「奏殿の居た世界は恵まれていますね、この地では考えられない事が普通になっている」


確かに今考えればとても恵まれていた。少なくとも、命の危険や死をこんなに身近に感じたことはない。


「しかし、前の世界のことに捕らわれていてはこの世界では生きていくのは辛い」


「………」


「時に奏殿、奏殿は武の嗜みがありますな?

立ち振る舞いをみればわかります。私などでは到底たどり着けない頂にいる」


「奏殿は、その力をどのように思いますか?

恐らく奏殿はこれからの世を変えるために天から遣わされたのだと思います。

故に、天の御遣い故に闘わねばならない時がくるでしょう。

その時に奏殿はその力を奮いますか?

私も武には些か自信があります。

しかしどんな大義名分があろうとも人を殺している事に変わり有りません」


「それでも、後悔はしません、確かに殺していますが、同時に護れた人が居ました、だからこそ私は立ち止まらない、歩き続けます」






その言葉を最後に星ちゃんは立ち去って行った。

私は迷っていた。


多分アリアちゃんにもらった力を使えば簡単に勝てるだろう。

呂布を凌駕する力が今の私にはあるのだから。




でも、私は人を殺せるの?




その覚悟があるの?




この迷いを見抜いて星ちゃんは話をしてくれたんだろう。




―私は…―




「…どうしたいの?」




自然と口をついてそんな言葉がでた。


この呟きに応えてくれる人は誰もいなかった。








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