表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界闘神伝  作者: 和和和和
妖界編
95/305

女の愛・母の愛






 矛津(むつ)の案内で地下の神器を見た大貴達が部屋へ戻ると、そこには既に桜達が机一杯の料理を並べて、一行を待っていた。

 いつの間にか戻っていた(うてな)もそこに加わっており、いつでも宴席が始められるまでに準備が整っている

「おかえりなさいませ」

 大貴達の帰還を確認した桜がわずかに頭を下げて、一同――主に神魔を出迎える


 ゆりかごの世界――地球が九世界の中に生じた派生的な世界である事を思えば必然だが、九世界の食事は地球とさほど変わらず。むしろ味や種類など全体的に地球よりも優れている。

 その証拠に机の上に並んだ料理は、単純に肉を焼いたステーキのようなものから、白米や味噌汁といったものまで多種多様で、地球で言えば和洋折衷といった様相を呈している

 思えば、桜が地球に来て料理をした際。レシピ本を見るだけで簡単に料理をしてのけた事も、こういった世界の背景を思えば不自然な事ではないだろう


「凄い御馳走だね」

「皆さんが手伝って下さったので。大した事ではありません」

 感嘆の言葉と共に矛津(むつ)が視線を向けると、それを受けた棕櫚(しゅろ)が得意気な表情と共に胸を張る


 矛津(むつ)が真っ先に棕櫚(しゅろ)に視線を向けたのは、単純に客――大貴達一行の世話を任せたからだ。もてなしを頼んだ以上、ここにある料理の数々は棕櫚(しゅろ)が頼んだものだと、矛津(むつ)の中では必然的に帰結している


「そうでしたか。お客様に手伝っていただいてしまって、申し訳ありません」

「いえ、わたくし達がお願いしたのですから、お気づかいは無用です。妖界の食材や調理法を学ばせていただいて、むしろ感謝するのはこちらの方です」

 本来はもてなすべき客人達に料理を手伝ってもらった事を棕櫚(しゅろ)の言葉で知った矛津(むつ)が軽く頭を下げると、桜が淑やかに微笑んで優しい声音で応じる

「そう言っていただけるのであれば幸いです」

「お兄様、折角の料理が冷めてしまいます。お話はそれくらいにしてお食事にいたしましょう」

「そうですね」

 棕櫚(しゅろ)の言葉に矛津(むつ)が小さく応じ、机を囲むようにそれぞれが席につく

 神魔は当然のように桜の隣に。それを詩織が恨めしそうに見つめ、クロスとマリアもやや戸惑いながらも席を隣にする。詩織の隣には無難なところで大貴が座り、矛津(むつ)はせがまれて棕櫚(しゅろ)の隣に腰を下ろした

「あら、素敵ね」

 その時、まるでタイミングを見計らっていたかのように、襖が開き妖艶な色香を纏った女性が、一人の男を伴って顔を出す

「母上」

「母様」

 矛津(むつ)棕櫚(しゅろ)が妖艶な色香を纏った女性――「玉章(たまずさ)」の姿を見止めて目を瞠る

「なぜここに?」

「ただの散歩のつもりだったのだけれど、こちらからいい香りがしたから、つい好奇心に負けてしまってね」

 抑制の利いた感情の見えない声で訊ねてきた(うてな)に、玉章(たまずさ)は隣にいる男性を一瞥してから、その表情を妖艶に優しく綻ばせる

 その視線の動きに、「散歩」を「デート」とほとんどの人物が頭の中で置き換えていた


(……でも、よく見れば確かにどこか似てるかも)

 互いに視線を交わす(うてな)玉章(たまずさ)を見比べて、詩織は内心で小さく呟く


 (うてな)玉章(たまずさ)の関係――祖母と孫娘という間柄として見ると、確かにどことなく二人の雰囲気が似ているようにも感じられる。

 ただし、その身に纏う女の色香という意味では、(うてな)玉章(たまずさ)の間には良くも悪くも大きな開きがあるのだが。


「えっと……あの隣の人は?」

 (うてな)玉章(たまずさ)を交互に見ていた詩織は、しかしそれ以上に興味を惹かれる人物――玉章(たまずさ)の隣に立つ男性に視線を向けてたまたま隣の席になった矛津(むつ)に小声で問いかける


 玉章(たまずさ)の隣に立つ男性は、全霊命(ファースト)の例にもれず、造形されたように顔立ちの整った美男子。細身だががっしりとした体躯は、洗練された刃のような美しさを誇っている。

 濃淡の違う腰まで届く茶髪は鷲の翼を思わせ、爛々と光る金色の瞳は見る者を引き込んでしまうような不思議な魅力を兼ね備えている

 その両目の横には真紅の炎のような妖紋――妖怪の証が刻まれ、白を基調とした霊衣の羽織りをなびかせるその姿は、天から舞い降りた大鷲が翼を休めているような勇壮な美しさを思わせる


「あの人の名は『殺鳥(キルバード)』。我々の実父ではありませんが、母の伴侶の一人です」

「……なるほど」

(格好いい人……さすがは、あの玉章(たまずさ)さんの旦那さんなだけはあるわね)

 矛津(むつ)の話を聞いた詩織は、野性的な魅力と理知的な面差しを併せ持つ「殺鳥(キルバード)」へと視線を送って内心で感嘆の声を漏らす


 隣に立つ玉章(たまずさ)よりも頭一つ分は高い身長。がっしりした体躯ではあるが、洗練された体つきは名刀を思わせる鋭利な美しさがある。

 整った顔立ちに、猛禽の翼を思わせる濃淡のある茶色の髪から、爛々と光る金色の瞳をのぞかせながら白を基調とした霊衣の羽織りを翻すその姿は天から舞い降りた鷲が翼を休めているような勇壮な印象を伴っている


「私達もご相伴にあずからせてもらってもいいかしら?」

 室内にいる大貴達を見合した玉章(たまずさ)は、そう言って隣にいる男――殺鳥(キルバード)に腕を絡め、妖艶な色香を纏う微笑を向ける

「ええ、もちろん」

 どうします? と視線を向けてきた矛津(むつ)の視線を受けた(うてな)は、抑制の利いた静かな声音で小さく首肯する

「よかった。さあ、行きましょう?」

「俺もいいのか?」

 軽く絡めた腕を引いて中へ行こうとする玉章(たまずさ)を見て、殺鳥(キルバード)がやや躊躇いがちに問いかける


 室内にいる矛津(むつ)棕櫚(しゅろ)殺鳥(キルバード)とは違う男と玉章(たまずさ)の間に生まれた子供。

 それに遠慮しているということも多少はあるだろうが、それ以上に家族水入らずに水を差すのを躊躇っている様子の殺鳥(キルバード)へ視線を向けた玉章(たまずさ)は、その腕に絡める腕に一層力を込めて、離さないという意志を態度で示す


「遠慮する事はないわ。だって今日はあなたと過ごしたいんですもの」

 甘えるように身を寄せられ、上目づかいで視線を送られると、殺鳥(キルバード)はもはや抵抗を諦めたのか、玉章(たまずさ)に乞われるまま室内に足を踏み入れる

(これが、ものすごい数の男の人を誑かした女の力……)

 絶世の美貌と、異性同性問わず、その心まで酩酊させてしまうような妖艶な色香を持つ玉章(たまずさ)に当てられ、頬を赤らめた詩織は内心で戦慄と嫉妬を覚える

(まぁ、どうせ私には真似できないですけどね)

 玉章(たまずさ)の所作や言葉は、ただ男に媚びるだけではなく、ただ男を虜にするだけではなく女として、妻として、母としての絶妙の立ち位置を保った上でのもの。

 今にも消えてしまいそうなほど儚い存在感と、確かに感じさせる体温と身体の感触。縋る様に求めながらも、決して媚びる事のない声音と一挙手一投足は、否応なく庇護欲をかきたてる


 総じて人形のように整った顔立ちの全霊命(ファースト)の中でも、さらに絶世の美女と評される美貌。霊衣を着ていてもはっきりと分かるメリハリのある細身の体型でありながら、たわわに実った果実を思わせる絶妙のプロポーションを誇る瑞々しい身体を見て、詩織が嫉妬の念を燃やして内心で毒づく。

 何よりも玉章(たまずさ)の恐ろしい所は、それらをほぼ無意識で行っている所にある。意図せずに他人の心を魅了する蟲惑的なその存在は、まさに「傾城傾国」。何百人の男に言い寄られた事を納得させるに十分なものを見せつけている


(私もあんな風だったらなぁ……)

 嫉妬と羨望の入り混じった視線を玉章(たまずさ)に向けていた詩織は、自分の想い人である神魔にさりげなく視線を向ける

「どうぞ」

「ありがと」

 しかし、桜が差し出したお茶入りの湯呑を受け取り、仲睦まじい姿を見せつける神魔がそんな詩織の視線に気づくはずなど無く、届かぬ自分の想いに詩織は再度心身を打ちのめされてがっくりと肩を落とす

「さて、じゃあ頂きましょうか」

 そんな詩織を尻目に、席に着いた玉章(たまずさ)の言葉を合図に、予想以上に大所帯となった食事会が始められた。




「いただきます」

 玉章(たまずさ)の合図と共に食事が始まると、詩織は軽く手を合わせて机の上に並んだ数々の料理に手をつける

「んんっ、おいしい」

「当然よ。美味しくなるようにしめて、私達が料理したんだから」

 妖界の料理に舌鼓を打つ詩織に、得意気に胸を張った棕櫚(しゅろ)は、隣にいる矛津(むつ)に上目づかいで問いかける

「いかがですか、お兄様?」

「ああ、うまいよ」

 矛津(むつ)の言葉に、棕櫚(しゅろ)はその大きな宝石のような瞳を一層輝かせ、その白い頬にわずかに朱が差す。思わず破顔しそうになるのを懸命に押しとどめた棕櫚(しゅろ)は満足気に微笑み、時折兄の方へ視線を向けながら、その可愛らしい顔をにやけさせる

 おおよそ、並々ならぬ関係を邪推してしまいそうな妖怪の兄妹のやり取りの傍ら。白いご飯がよそわれた茶碗を片手に、詩織が目を細める

「――……」

「なに仏頂面してるんだよ?」

 神妙な……というよりは、何か不機嫌そうな顔をしている姉を一瞥し、大貴が困ったように首を傾げる

「……あんたには分からない」

 つっけんどんに大貴の言葉を退けた詩織の視線の先には、仲睦まじく食事を摂る神魔と桜の姿がある。


 全霊命(ファースト)にとって、栄養価など気にしなくとも構わないものなのだが、偏食をしないように、好き嫌い、食べず嫌いをしないように、時折料理を選別しながらも決して邪魔をし過ぎない適度な介入。

 神魔の意志を尊重して、必要以上に口を挟まず、世話を焼き過ぎず、邪魔にならない絶妙な距離を維持する桜の立ち回りは、まさに夫唱婦随、比翼の連理と称されるほど仲睦まじい夫婦のそれであり、長い間共に添い遂げてきた事を容易に見て取ることができる


「もしかして、最後の肉とったこと怒っているのか?」

「……はぁ」

 嫉妬と羨望の入り混じった視線を神魔と桜に向けていた詩織は、横から挟まれた大貴の言葉に、脱力して呆れたようにため息をつく

「何だよ?」

「なんでもないわ……勝ち組はいいわよね、勝ち組は」

 詩織は訝しげに目を細めた大貴に視線を向けて、妬ましげな視線を向ける


 どれほど想っても想いが届かない自分とは違い、大貴には人間界にほとんど伴侶として内定しているような人物――人間界女王「ヒナ・アルテア・ハーヴィン」がいる。

 互いに少なからず好意を寄せ合い、詩織から見てもお似合いだと思える関係を築いている弟の無自覚な幸福自慢に、詩織の中で少々意地の悪い感情が芽吹いたのは御愛嬌だろう


「?」

「そういえば、ヒナさんに連絡した?いくら相手が待っていてくれるからって、あんまりほったらかしにするのはよくないわよ」

 突然ヒナの名が出た事に、一瞬みを強張らせた大貴だが、照れくさいのかすぐに視線を詩織から外してやや付き離すような口調で言う

「……別に、まだ何日も経ってないだろ?」

 特に気にした様子もなく言う大貴を見て、詩織は手に箸を持ったままで意味ありげな視線を向ける


 知覚と知覚で会話をする「思念通話」は、世界を跨いでしまうと届かなくなってしまうが、神――光魔神と直接繋がる祭壇としての力を持つ至宝、「至宝冠・アルテア」の力を用いれば、大貴とヒナはいつでも会話をする事が出来る

 それを指して、人間界を出立する際に「都合がいい時に連絡を下さい」と言われているのだが、旅立ってまだ二日しか経っていないというのにいきなり連絡を取る事もないだろうと、大貴はまだ何もしていないのだ


「甘いわ。いい? 遠距離恋愛は、離れている分相手への想いも募るけど、募り過ぎて底が抜ければ終わってしまうって、ものの本に書いてあったわ」

「ものの本って……姉貴」

 得意気に語る双子の姉の言葉に、大貴が呆れたように視線を返すと、それを受けた詩織は自らの迂闊な発言に頬を照れながらも、話を元に戻す

「別に、普通の本よ!そんな事よりも、私が言いたいのは、用事なんてあろうが無かろうが、相手の事を気遣って、相手にあんたの心がちゃんと相手の所にあるって事を示し続ける事なのよ?」


 詩織も年頃の恋する乙女。色恋沙汰には人並みに興味があるし、雑誌や恋愛小説なども人並みには嗜んでいる。

 半ば八つ当たりに近い感情から少々意地の悪い話を切り出した詩織だが、双子の姉として大貴の幸せを願っていない訳ではない。ヒナと大貴が互いに望んで、互いに好意を寄せ合っているならば、恋のキューピッドになるのもやぶさかではないのだ――無論、半分は好奇心だが。


「けどよ、特に話す事なんてないぞ? ヒナなら天界城とか妖界の風景とか知ってるだろうし」

 半分照れているのだろうが、「話す用件がない」と言ってヒナとの会話を後回しにしようとしている大貴の言葉を一刀の下に切り捨て、詩織は堂々と言い放つ

「関係ないの。言ったでしょ? 話の内容なんてどうでもいいの。元気か? っていうだけでもいいし、今日は何をしたのかとか、他愛もない、本当にどうでもいい話でいいの。どうでもいい事が一番大切な時だってあるんだから」

「そういうものか?」

 自信満々といった様子で言い放つ詩織に、大貴が怪訝そうに首を傾げる


 決して異性や色恋に興味がない訳ではない大貴だが、決してそう言った事に長けているという訳でもない。十五歳という年齢を踏まえれば当然のことだが、まだまだそういう事には未熟な面が大きいのだ


「そういうものよ。ヒナさんの性格から考えて、向こうから連絡してくる事はないんだから、あんたが気を使ってあげなくてどうするの。あんたがヒナさんの事を気にかけているって事を、目に見える行為として伝えるのが大切なの。分かった?」

 一連の言葉を決して声を荒げるでもなく、静かに囁くように呟いた二人の会話は、騒がしくはなくとも各々の会話で決して静かではない食卓の中ではこれといって目立っていない。――意図的に無視してもらっているという可能性もあるが。

 大貴自身、ヒナに対してはそれなりに好感を持っている。一応は女である詩織から指導を受けたのならば、それを無下にしない程度の度量は併せ持っている。


「……ま、忠告は聞いておいてやるよ」

「そうしなさい。あんたには乙女心なんて分からないだろうから、いつでも相談に乗ってあげるわよ」

 得意気に発展途上中の胸を張る詩織を見て、苦笑を浮かべた大貴は湯呑の中のお茶を軽く飲み干して、微笑を浮かべる

「姉貴じゃ期待できなさそうだけどな」

「失礼ね」

 大貴の言葉に、詩織は自分が望んでも届かない人と、その人が愛する女性が仲睦まじく寄り添っているのを見て、愁いを帯びた笑みで答える


 ほとんど確定している大貴とヒナの関係とは違い、自分と神魔の関係はこれからどうなっていくのか分からない。前途は多難だと思いながらも、二人の姿に自分を重ねる詩織はまだ、神魔を諦められずにいる自分に呆れつつも、自分自身の恋の成就を祈らずにはいられなかった



 そんな詩織の斜向かいでは、夫である殺鳥(キルバード)の腕にしなだれかかった玉章(たまずさ)が聞く者の耳から入り込んでくる魅了の声で微笑みかける

「ふふ……はい、あ~んしてくださいな」

「あ~ん」

 見る者の目も憚らず、衣服を着ているとはいえ身体を完全に密着させながら、玉章(たまずさ)殺鳥(キルバード)が視線を交わす


 この街は、玉章(たまずさ)というたった一人の女性を中心に形作られていると言っても過言ではない。しかし、だからと言って玉章(たまずさ)がこの街を支配しているのかと言われれば答えは否だ。

 玉章(たまずさ)は、ただ妻として夫を愛し、母として子供を慈しみ、結果としてその全員から慕われているに過ぎない。決して支配する事はなく、むしろ夫に対しては誠心誠意尽くしつつ、少々困らせる程度に甘えるという、男が喜ぶ絶妙の加減でに奉仕を行っている。

 一般的に警戒心が強く、仲間や伴侶を慎重に選ぶ傾向が強い全霊命(ファースト)の中で比較的誰にでもその心を許し、比較的行為を寄せられ易い性格が今の玉章(たまずさ)の立場と在り方へと繋がっていると言えるだろう


「……お、これはイケるな」

 自身の身体にしなだれかかり、頬をわずかに紅潮させた玉章(たまずさ)に料理を食べさせたもらった殺鳥(キルバード)がその味に舌鼓を打つと、その伴侶である妖艶な色香を持つ妖怪の美女が、口元を隠しながら、淑やかに微笑む

「そうね。嫉妬しちゃいそう」

 事前に食味をしている玉章(たまずさ)が、殺鳥(キルバード)の言葉を肯定しつつ、視線を横へずらすと、この場の全員の視線が自分達に注がれている事に気づく

「あら、もしかしてあなた達もして欲しいのかしら?」

 殺鳥(キルバード)にしなだれかかりながら、玉章(たまずさ)が男女或いは種族や生物無生物の垣根すら飛び越えて魅了してしまいそうな妖艶な笑みを浮かべると、鼻息を荒くして李仙が腰を浮かせる

「ぜ、是非……痛デッ」

 李仙が言い終わるよりも早く、(うてな)がその後頭部を軽く小突いて言葉を止める

「失礼しました。続きをどうぞ」

「ふふ」

 李仙を沈黙させた(うてな)の感情の起伏が見えない涼やかな視線と玉章(たまずさ)の妖艶な優しい視線が交錯するのを横目に、神魔は隣にいる桜に視線を向ける

「……桜、僕達も負けてられないね」

「張り合わないでください」

 神魔の真剣な眼差しを袖にした桜だが、その白磁のような白い頬はわずかに紅潮しており、決して拒否している訳ではない事は一目瞭然だった

「ですが……神魔様が望まれるのでしたら……」

 しばしの間を置いて、やや恥じらいながら桜が応じるのを見ていた詩織は、手にした箸を今にも折れそうなほど握りしめる

「……姉貴?」

 隣から伝わってくるただならぬ気配に視線を向けた大貴は、うすら寒い笑みを浮かべる詩織を見て、喉まで出かかっていた声を呑み込む

「いや、なんでもない」

(触らぬ神に祟りなし……か)

 詩織がその身から漂わせている全霊命(ファースト)すらも圧倒するのではないかと思えるほどの気配に身も心も竦ませた大貴は、今の姉に対して不干渉を貫く事を決める

「…………」

 その傍らで、玉章(たまずさ)殺鳥(キルバード)、神魔と桜の仲睦まじいやり取りを見ていたマリアは、自分が持っている箸へ視線を落とし、次いで隣で黙々と食事を続けているクロスに視線を向ける

「……なんだよ?」

 視線を向けては逸らし、逸らしては向けてを繰り返していれば、否が応でも目につく、

 何か言いたげでありながらも、一向に話を切り出してこない事にしびれを切らしたクロスが問いかけると、マリアは一瞬その白い頬をわずかに紅潮させて首を横に振る

「ううん、なんでもない」

 慌てて否定の言葉を述べるマリアだが、その様子を視界の端に捉えていたクロスにはそう思えるはずもない。マリアの複雑な乙女心などまだまだ介せないクロスは、ここで話を終わらせる事なく、無神経に――というよりも鈍感に、隣に座っている金髪の女天使に問いかける

「いや、そんな事無いだろ?」

「そんな事あるの。何でもないんだから」

「だって、さっきからこっち見てたじゃねぇか」

「気のせい」

 自分が見られていた事に頬を赤らめるマリアだが、それを肯定する事もできない。

 色々と遠慮のないクロスに、恥じらいに頬を朱に染まった膨らませたマリアは、照れ隠しをするように顔を背ける

 そのやり取りを、水晶のように透き通った瞳で見つめていた瑞希は、椀の中に注がれた汁物を一口すすって、目に見える範囲で行われている様々な距離の恋模様を一瞥して、小さなため息と共に心の中で静かに呟く

(……あちらこちらで忙しい事ね)






 そうして様々な想いを孕ませた食事会は盛況の内に終了し、棕櫚(しゅろ)玉章(たまずさ)を筆頭に、女性陣が食べ終わった皿などを片付けていた

「悪いわね、片付けまで手伝ってもらって」

「いえ、大した手間ではありませんから」

 棕櫚(しゅろ)の言葉に、皿を瞬時に新品のように変えて桜が微笑む

「……」

(私、することないんじゃ……)

 あらゆる事象を現象として顕現させる神能(ゴットクロア)の特性を用い、皿の汚れを浄滅させる事で新品同様の状態へ還元していくその光景を前にただ立ちつくす事しかできない詩織は、どこか切ない感傷に浸らざるを得ない。

 手にした瞬間に汚れが消えるのだから、水洗いも洗剤も一切必要がない。確かにこれでは分明など発達の余地はないだろうな、などと埒もない事を感慨深く考えていると、片手間で片付けをしていた玉章(たまずさ)が不意に視線を桜に向ける

「あなた、あの神魔って子の伴侶よね?」

「はい」

 半分確認の意図を込めて問いかけてきた玉章(たまずさ)に、桜はお淑やかな笑みを返して応じる


 戸籍やそれに準ずる概念が存在しない全霊命(ファースト)世界では、多夫多妻制という世界の仕組みの上でも伴侶の定義は地球のように明確なものではなく、肉体関係を持たなければ「恋人」、関係を持てば「伴侶」、その上で子供がいれば「夫婦」――その程度の大雑把な認識でしかない

 それ故に、玉章(たまずさ)の問いかけは、桜に「あなたは神魔と恋人以上の関係でしょう?」と訊ねたようなものだ


「お子さんは?」

 女が集まって真っ先に話題にする事と言えば、夫や子供の事というのは全霊命(ファースト)半霊命(ネクスト)であっても変わらないらしい。

 まして桜も玉章(たまずさ)も互いに充実した幸福な生活を送っている者同士。どこか通じ合うものがあるらしく、当然のようにそういった話題を切り出す

「いえ、それはまだ」

「そう。余計なお世話かもしれないけど、子供っていいものよ。女として愛されるのもいいけど、母親として愛し愛されるのも甲乙つけがたい幸せがあるわ」

 わずかに頬を赤らめた玉章(たまずさ)が、そう言ってはにかむように微笑む。

 傍からその言葉を聞いていれば、いかに自分が幸せなのかという惚気話をしているだけなのだが、それを嫌味に感じさせないところに玉章(たまずさ)の人柄が表れているといえるだろう

「そうですね。わたくしも、いずれはと思っているのですが……」

「もしかして、あんまり欲しがらないの?」

 微笑んで応じた桜が、言葉の最後をわずかに曇らせたのを敏感に感じ取った玉章(たまずさ)が、さりげなく問いかける


 老いる事無く死ぬまで永遠を生き続けられる全霊命(ファースト)とはいえ、子孫繁栄は生物としての本能であり、それに足る父性や母性も十分に持ち合わせている。しかしその特異な存在もあって、中には伴侶との生活を重んじてあまり子供を作りたがらない者も存在する。

 もっとも、そんな少数派の考えなど数多くの夫と愛し愛され、多くの子供に囲まれる幸せな生活を送っている玉章(たまずさ)にとってみれば、理解に苦しむものではあるのだが。


「いえ、そういう訳ではないのですが……」

 玉章(たまずさ)の言葉に苦笑を浮かべて応じた桜の清流のように澄み切った声が、一瞬の間を作り出す。

 その言葉の空白は、桜がこのまま話を終えるか、話を続けるのかを迷った一瞬の思考によって生じたもの。そして、桜は言葉を続けることを選択する。そのまま話を終わらせてもよかったのだろうが、自分が口をつぐんだせいで神魔に対してあらぬ誤解を生じさせる事を是としない事がその最大の理由だろう

「正直な話をさせていただくなら、子供が出来た事はあるんです。産むところまではいっていませんが」

(あれ? でも桜さんって前に……)

 小さく肩を竦めて清楚な微笑を浮かべた桜の言葉に、詩織は内心で首を傾げる


 地球にいた時、桜が自分と神魔の間に子供はいないという旨の話をしていた事を思い出して疑念を抱いた詩織は、その時の記憶を甦らせる


《出産と子育て以外は経験済みですので問題はありませんよ》


(あ。確かに妊娠した事無いとは言ってないか……)

 自分でも不自然なほどありありと思い出せる桜の言葉は、少々屁理屈のようにも感じられるが、確かに妊娠したことがないとは言っていない。だが、あの場で桜がそこに触れれられる事を拒んで意図的に(・・・・)曖昧な言い回しをしたと考えれば不自然は無い

 そう考えている詩織の視線の先で、桜は神の造形のように整った淑やかな顔にわずかに愁いの色を浮かべて言葉を続けていく

「妊娠をして少し経った頃、強い悪魔と戦う事がありまして……その時、不覚にも腹部を貫かれてしまったのです」

「……!」

 そっと自分の腹部を抑えて言う桜の言葉に、その言わんとしている事をその場にいる誰もが理解していた。

「敵は何とか倒す事が出来ましたし、わたくしも命に別条はなかったのですが、その時に……」

 そこまでで言葉をつぐんだ桜は、その時の事を思い出しているのか、後悔や懺悔、自身に対する憤りなど様々な感情を移す瞳を細め、軽く唇を引き結ぶ


 その身を常に万全に保つ力がある全霊命(ファースト)にとって、流産の危険性は極めて低いもの。一度授かれば、何かない限りは問題なく子供を産む事が出来る

 しかし、いかに全霊命(ファースト)の子供であっても、胎児の時に母体ごと貫かれてしまえば、その命は容易に失われてしまう 


「そう……それはお気の毒だったわね」

 自分も母である玉章(たまずさ)には、愛する人との子供を守れずに死なせてしまった桜の無念と自責の念が手に取るように分かる。

 下手な同情など無意味だと分かっていても、ただそう言う事しかできない玉章(たまずさ)の言葉に、桜は寂しそうな笑みを浮かべて言葉を続ける

「その時以来、自信がなくなってしまったのです。……母として、妻として、夫と子供を守って支えていく自信が」

 その子供は桜にとって神魔との間に初めてできた子供だった。愛する人との間に命を授かった喜び、母になる期待と不安――女として、妻として、母としての幸福が一瞬にして崩れ落ちた空虚な絶望を言葉に言い表す事は難しい


 何よりも桜は、幼い頃に目の前で両親を殺されている。全霊命(ファースト)の世界では珍しくはない事とはいえ、目の前で命を落とした両親と自分達を重ね、残された自分に子供を重ねずに考えるのは不可能だった。

 情が深く、想いが深いが故に、子供を守れなかった自身の無力を呪い、自身を許せなかった桜は、「自分には、まだ母親になる資格がない」と、新しく子供を授かる事を先送りにしてきた


「でも、それはあなたを守れなかった彼も同じでしょう?」

 母として子供を守れなかった桜と同様に、父として子供と妻を守れなかった神魔にも責任があり、一人で抱え込む必要はないと優しく声をかける玉章(たまずさ)に、桜色の髪の絶世の美女は慈愛と哀愁を滲ませた笑みを返す

「……はい。神魔様はお優しいですから、そう仰って下さいました」

 そう言って、桜は慈しむように微笑み、愛おしさを噛み締めるように言葉を紡ぐ


 子供を失った事に対して、神魔が桜を責めた事はない。むしろ、その身体に受けた傷と心の傷を常に案じて、片時も離れずに傍に寄り添ってくれていた。

 守れなかったのは自分だから、自分を責める必要はないと、慰め、支え続けてくれた神魔に感謝し、慈しみ、その優しさに見合う女になろうと誓ったからこそ、桜はよりよい妻でありたいと願い続けている


「ですから、神魔様はただ待って下さっているだけなのです。……本当は、神魔様の優しさに甘えたわたくしが、もう少しだけ二人きりで、と思っている間に、機会を逃してしまっているだけなのですけど」

 そう言って、桜は慈しむように自身の胸に手を添えて微笑むと、先程まで真剣に話を聞いていた女性陣が呆けたように目を丸くする

「あれ? なんか話が逸れたような……」

「結局は惚気話だったの?」

 桜の言葉に玉章(たまずさ)が妖艶な苦笑を浮かべると、当の本人は軽く首を横に振って流れるような桜色の髪を軽く揺らす

「もう随分と昔の話ですから。……忘れた訳ではありませんし、心の傷が癒えた訳でもありませんが、それを受け入れ、立ち直るには十分なほど大切にしていただきました」

 子供を亡くした心の傷が癒える事はない。しばらくの間はその事で自分を責め、苛み続けていたのも嘘ではない。しかし、そこから立ち直るには十分すぎるほどの時間と愛情を、桜は神魔から貰っている


 桜がこの話をしたのは、「神魔が子供を欲しがらないの?」という問いかけに対して、子供を作らなかった原因と、今に至る経緯を説明し、「こういう理由で子作りを先延ばしにしてきました」と答えただけだ。

 癒えない心の傷は確かに桜の中に刻みつけられているが、神魔が望むなら……求められれば、すぐにでもまた子供を宿す事を躊躇う事なく了承するであろうことも桜は確信している。


「今のわたくしは、子供の幸せを願える余裕すらない程、神魔様の幸福を願う事だけで心が満たされてしまっております。……要するに、わたくしは母親になるには少々神魔様との時間に満たされ過ぎてしまっているのです。――それほど、大切にしていただいておりますから」

 愛おしさに満ちた穏やかな声音で言葉を紡いだ桜は、時が止まったのではないかと思えるほど美しく淑やかに微笑む


 自身の存在理由に等しい程神魔を尊ぶ桜には、神魔以外を気にかけるほどの心の余裕がない。

 子供へ向けるべき母性すらも、全て神魔への愛情へ転化してしまっていると幸せそうに微笑む桜の言葉に、その場にいる全員が、呆れたように目を丸くし、唯一桜に近い心情を有する玉章(たまずさ)だけが、クスクスと笑みをこぼす


「それは素敵ね。そんなに大切にされたら、確かに一人占めしていたくなってしまうわね」

「はい……ですが、玉章(たまずさ)さんのように、多くの子供に囲まれるというのも憧れます」

「あら、ありがとう」

 果てなき愛を以って、多くの伴侶と子供を有する美女と、悠久にすら等しい愛を、たった一人のために注ぎ続ける桜が微笑みを交わし、互いの幸福を称え合う


 届かぬ想いに身を焦がす者、心が通じ合っているというのに一線を超えられない者、まだそこまで愛する人に出会っていない者。「幸せすぎる」という悩みを抱えている二人のその様子を見ていた詩織達女性陣は、満たされてあまりある愛情に包まれている二人の美女を見て、心を一つにする


(……結局惚けたいだけでしょ!?)


「あ、それとこのお話は神魔様達には内緒にしてください」

 人差し指を唇にあてて、微笑を浮かべた桜の言葉に、その場にいた女性人は小さくため息をついて了承するのだった




 そのまま日が暮れ、世界を照らす神臓(クオソメリス)が太陽から月へと変わり、夜の帳が世界を覆うと、元々谷底にある玉章(たまずさ)の街は、光る苔の胞子に抱かれた幻想的な景色の中に取り込まれる

「わぁ、綺麗……」

 窓から幻光の乱舞を見つめ、詩織はその光景に目を輝かせる

「そうだ、写真写真」

 自身の身体に融合している装霊機(グリモア)を起動させた詩織の眼前に仮想の画面が開き、ワンタッチでその景色を写真として切り取る。まるで世界をそのまま切り取ったのではないかと思えるほど鮮明に世界を写し取る

「今までそんな趣味なかったけど、なんか写真の趣味に目覚めそう」

「……ま、向こうじゃお目にかかれない光景だからな」

 目を輝かせる詩織の言葉に、地球では見る事が出来ないであろう幻想的な光景に少なくない感慨を覚えている大貴が同意の言葉を述べる


 普段の素っ気ない態度から意外に思われる事も多いが、大貴は風流や風景の美しさにはそれなりに関心がある。登山やキャンプなど、積極的な行動をする事はなかったが、テレビやインターネットで公開されている景色や自然の風景を楽しむ程度には興味がある

 まして、今目の前に広がっているのは、地球では作り物の世界でしか見る事の出来ないような幻想的で神秘的な風景、それが現実のものとしてあるのだから尚の事だ


「折角だから、あんたの事撮ってヒナさんに送ってあげようよ」

「別にいいよ」

「照れないの。こういうこまめなのが大事なんだから」

 大貴と詩織がそんなやり取りをしている傍らで、神魔は自分に寄り添うように座り、その表情を花のように綻ばせている桜を見て、優しく声をかける

「どうしたの桜、ご機嫌だね?」

「そうですか? そのような事はございませんよ?」

 昼間の食事会の片付け以来、何やらいつも以上に機嫌がいい桜を見て不思議そうに首を傾げる神魔だったが、別に機嫌がいい事は悪い事ではないためそれについて言及する事はない

「さて……じゃ、僕達はこれで」

「失礼いたします」

 ゆっくりと立ち上がった神魔と、それに倣った桜は一瞬にしてその魔力で世界を切り裂き、並行世界として切り取った世界の向こう側へと姿を消す

「……空間隔離?」

 突如姿を消した神魔と桜に怪訝そうに大貴が首を傾げ、詩織がその質問を受け継ぐ

「あの、二人ってどこに?」

「そんな野暮な事を聞くものじゃないよ。夫婦が空間隔離の中で二人きりになってする事っていったら、決まってるじゃないっすか」

 詩織の言葉に、李仙がにやけた表情で、含みのある言葉を発する

「……なっ!?」

 一瞬その言葉の意味を掴みあぐねた詩織だったが、すぐさま李仙の言わんとしている事を察して顔を真っ赤に火照らせる

「まあ、そういう事をしているかどうかはともかく、空間隔離って本来はこういう用途で使うものよ」

「え?」

 その様子を横目で見ていた瑞希が、李仙の言葉にと肯定でも否定でもない中庸的な反応を返し、それに付け足すように抑揚のない声で言葉を続ける

「確かにゆりかごの世界のように、霊的強度が低い世界では、隔離した空間での戦闘を主体に行使されますけど、高位の霊的世界では全霊命(ファースト)の意志現界も最小まで抑えられます。

 むしろ、そういった高位世界で生きている全霊命(ファースト)達は、睡眠や睦事、出産など、第三者に邪魔をされたくない行為のために、隔離された異空間を行使するんです」

「えっと……?」

 瑞希の言葉に補足するように付け加えたマリアの説明に、その意図を完全に把握できなかった詩織が首を傾げる

「要は、空間隔離っていうのは、戦いの被害を出さないために使われるだけじゃなく、即席で作れるプライベートな空間にもなってるって事だ」

「ああ、なるほど」

 大貴の説明に合点がいったように詩織が頷く



 ほとんど文明を有さない全霊命(ファースト)にとって、家や建造物という概念は人間が思っているよりもはるかに遠い位置にある。

 実は九世界では、王が座す城やそこで暮らす者達のために作られた都市、玉章(たまずさ)邸のような建造物の方が希少で、大半の全霊命(ファースト)は自然の中で放浪しながら暮らしている。


 食事と睡眠は娯楽、着る物は霊衣のために汚れる事も変える必要もなく、世界最強の存在であるために全霊命(同族)以外に敵らしい敵が存在しない。――つまり、全霊命(ファースト)にとって野生動物のような生活は何ら苦ではないという事だ。

 そして全霊命(ファースト)がその生活の中で仮初の居住区として用いるのが、自らの力で作り出した隔離空間だ。他の全霊命(ファースト)の知覚にも捕まりにくいこの空間の中では、無防備な状態を晒したり、他者の目に入れたくないような行為が行われる事が多い。



「まあ、あの二人が何をしているのかはともかく、水入らずにさせてあげなさい」

 一般的に隔離された空間内では、秘め事が行われる事が多い。だが、例えばこういう大所帯でプライベートな時間を持ちたいときなどにも使われるため、一概にそうだとは言えない。

「…………」

 神魔と桜の仲睦まじさを身に染みてよく知っている瑞希が簡潔に話を締めくくると、詩織は小さく首肯する事でそれに答える


 隔離された空間の中で二人きりになっている神魔と桜の事を想うだけで、張り裂けそうなほど逸る自分の心を押し殺しながら、かといってそれを止める権利も、阻む資格も持っていない事を自覚している詩織は、ただただ、割り切れない己の感情に唇を引き結ぶ事しかできなかった






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ