太極の女王と不死身の簒奪者
「神器」――それは、世界創世後に起こった九世界の歴史上唯一「神」による世界を巻き込んだ最初にして最大の戦争「創界神争」の中で、光の絶対神「創造神・コスモス」と闇の絶対神「破壊神・カオス」の戦いによって生み出された神の力の欠片。
命の無い「物」でありながら、神の力によって構築された全霊命でもある神器には主を選ぶという特性が備わっている。
神の力の欠片であるというだけはあってその力は全霊命すら圧倒するほどに絶大なものだが、神器には使い手を選ぶという特性がある。――即ち、誰もが神器を使える訳ではなく、仮に一つ使えたとしてもそれ以外の神器を使える訳ではない。
しかし、逆に言えば神器には必要最低限の意識があると見る事も出来る。この世に意志を持って存在する以上、それが最も恐れるものは「死」。
何よりも自身の存在を害される事を恐れ、生存する事を何よりも求めるのは必然と言えるだろう。
先ほどのやり取りで、「神器・神眼」は、シルヴィアの捨て身の戦法によって、破壊されかねない状態に追い込まれていた。
その攻防によって自身を脅かす驚異に晒された神眼は、その生存本能に従って、己を守るため手近なものに自身を隠す事を選択した。
(彼女の中に逃げ込まれた……っ!)
詩織の身体に、神眼が溶け込んだのを見て、シルヴィアは忌々しげに目を細めて唇を噛み締める
いくら使用者を選ぶとは言っても、神の力の欠片たる神器を使えるのは、一部の例外的神器を除けば、神格を持った全霊命に限られている。
そんな理由でもなければ半霊命――まして、世界最弱の存在であるゆりかごの人間が、その例外的神器ではない神眼に選ばれるはずがない。
己が神器を破壊し損ねるという失策を演じた所為で、招いてしまった事態にシルヴィアが自責の念にかられている傍らで、神眼を手に入れようと画策する「ジュダ」は、その武器である剣に神能の力を纏わせて詩織に向かっていく
「ならば、その器を破壊して力づくで取りだすまでだ!!」
神眼が逃げ込んだゆりかごの人間の少女――詩織は、神器に選ばれたのでは無く、破壊される事を拒む神眼が身を守り、逃げるために用いた依り代。
存在の根幹の奥底にまで浸透した神器を、詩織を生かしたまま取りだすのは、いかに神に列なる存在であるジュダやシルヴィアにも不可能。ならば、神器・神眼を手に入れる手段はたった一つ。――依り代となっている詩織の肉体と魂を破壊して隠れ場所を奪うしかない
「――っ!?」
知覚を与える効果を持つ結界の作用によって、本来なら見る事も叶わない、光や時間を超越した速さで自分に向かってくるジュダの姿と、その身体から立ち昇る明確な殺意を受ける詩織は、何が起きているのか理解する事が出来ずにただ茫然と立ち尽くし、恐怖に身体を強張らせる
「そのような事をさせると思いますか!?」
結果的にこのような形になったとはいえ、神眼が十世界に渡る事を命を賭けてでも阻止したいシルヴィアにとっては好都合。
目的を神器の確保から詩織の守護へと切り替えたシルヴィアは、自身の神能を纏わせたハルバートをジュダに向かって振り下ろす
「どけ」
しかし、シルヴィアの行動を予期していたジュダは、冷酷な言葉と同時にその武器である剣を一閃させて満身創痍の身を奮い立たせている戦乙女を迎撃する
「っ……」
(傷が……)
ジュダの破壊の力を纏った斬撃をハルバートで受け止めたシルヴィアは、そこから伝わってくる破壊力と、それに伴う衝撃で悲鳴を上げる傷口の痛みに耐えられずに吹き飛ばされる。
シルヴィアの傷は、いかに限りなく不死身に近い全霊命であっても、一歩間違えば命を落としかねない程深刻なもの。また、傷口から血炎となって絶え間なく力が流出している今の状態のシルヴィアに、これ以上ジュダと戦うだけの力は残されていなかった
(くっ……せめて、この傷がなければ……っ)
ジュダの力に呑み込まれ、吹き飛ばされたシルヴィアは唇を噛み締めて詩織に向かっていく戦の権化の姿を見て唇を引き結ぶ
いくら神器を十世界の手に渡さないとはいえ、捨て身の戦法で神眼を破壊しようとした己の浅はかさが恨めしく、同時に先ほどの一撃で神器を破壊できなかった己の不甲斐なさを内心で呪うシルヴィアの視線の先では、神速で世界を移動したジュダが茫然とたたずんでいる詩織に肉迫していた
「――っ!!」
「悪く思うなよ」
結界の力で、光や時空すらも超越する全霊命の速さを視認する事ができる詩織だが、だからと言って詩織に全霊命と戦うだけの力がある訳ではない。
眼前で振りあげられた戦を司る異端神の眷属であるジュダが放つ、破壊の神能を前にした詩織は、その力の前に成す術もなくこの世界から消滅する自分を理解していた
(神魔さん……っ)
自分に迫る死の予感を内包した絶対的な最期を告げる戦の力を前にして、死を認識した詩織の脳裏を過去の記憶が次々と駆け抜け、最後にただ一人の想い人の姿がありありと映し出される
結ばれてはならない関係、実った瞬間に愛する人を呪い続ける、決して結ばれてはならない想いを向ける人。ただの脆弱なゆりかごの人間に過ぎない自分には、結界の力によってかろうじてその動きを知覚する事が出来ていても、ジュダの攻撃をかわす事も防ぐ事もできはしない。
明確に目の前に示された終焉の現実を受け入れるように目を伏せた詩織は、しかし次の瞬間に響いた耳をつんざく様な金属音に思わず目を見開く
「なっ……!?」
「……え?」
同時に、瞳の無い白い眼を見開て驚愕の表情を浮かべるジュダの剣を受け止めた人物の背中が詩織の目にはっきりと映し出される。
まるで詩織を守るようにジュダとの間に割って入ったその背中は、ほんの短い間だったが、忘れられない程にはっきりと目に焼き付いている懐かしくも愛おしい背中。
「なんで……?」
この人がこんなところにいるはずがない。――そう分かっているはずなのに、詩織の記憶と心に鮮明に焼き付けられたその背中が、その姿が、間違いないと確信させる――目の前にいるのが、最愛の人だと。
「やれやれ、急いで来てみれば……一体何がどうなってるの?」
ジュダの剣をその武器である存在が武器として具現化したもの――槍のような柄に大剣のような巨大な刀身を併せ持つ身の丈の倍ほどもある巨大な武器、「大槍刀」で受け止めた神魔は、背後にいる詩織と周囲の状況を見回して怪訝そうに眉を寄せつつも、まるで戦いに遭遇した事を歓迎するかのような笑みを浮かべる
「神魔さん……」
極刑に処されると言われ、再会どころかその生存にすら絶望していた自分の眼前に現れた神魔を見た詩織は、涙を流しながら想い焦がれ続けた愛しい人の名を呼ぶ
涙でかすんだ詩織の声に微笑を浮かべた神魔は、漆黒の魔力を自身の武器である大槍刀から噴き上げてジュダを弾き飛ばすと、詩織の記憶にあるままの穏やかで優しい声で応じる
「……帰って来たよ、詩織さん」
その言葉に頷いた詩織の背後に、まるで咲き誇る桜の花のような清楚で淑やかな女性と、艶やかな漆黒の髪を結い上げた凛として高貴な印象を持つ氷麗な女性が揃って立つ
「貴様らは……」
突如乱入してきた三人の悪魔の姿を見たジュダは、抑制された声で威嚇するように言葉を向けて瞳の無い目で神魔達三人を睨みつけた
茉莉によって隔離された空間の中。仮初の王城の上空では、神々しいほどに神聖な黒と白、そしてどす黒い悪意色の花が鮮やかに咲き誇っていた
「はあああっ!!」
「オオオオッ!!」
神格へと昇華された黒白の気――「太極気」を金色の槍に纏わせたヒナの斬撃が光をも斬り裂いて奔り、神格へと堕ちたジェイドの死の力を宿した刃がそれを相殺する
至宝冠を継承し、新たなる王として人間界の命運の全てをその双肩に背負って、今回の一件で十世界の軍勢を裏で操っていた黒幕――ジェイド・グランヴィアと対峙するヒナは神格へと昇華したその力で、人間界の命運をかけた戦いに臨んでいた
ヒナの振るう至宝槍の刀身が巨大化して閃光の如き力で振るわれ、ジェイドは至宝剣を二刀一対の剣へと変えてその攻撃を迎撃する。
閃光を斬り裂くほどの速さで繰出される斬撃と神格の力の応酬。――半霊命最高峰の力を持つ二人による戦闘が世界を震わせ、その力が放つ霊格は隔離された空間内に存在する仮初の王都はもちろん、王都の外にいる者達にまで響いていた
人間界王都の外――そこで簒奪の悪意に毒され、王族と同等以上の力を手に入れた代わりに人間である事を失った十世界の軍勢を相手にしていた王族、七大貴族達は王城内で起きたこの突然の世代交代を知覚能力によっておおよそ把握していた。
「この力は……ヒナ様?」
「王位が継承された――いや、せざるを得なかったか」
悪意に毒された十世界の軍勢を屠りながら、人間界特別戦力にして、至宝を下賜された人間界王に次ぐ実力者――六帝将の一人である屈強な初老の男性「ドルド・ハーヴィン」が目を細める
至宝冠の権能を発現させた人間界王の力は、紛れもなく半霊命最強。そしてこの場で王――ヒナの戦いは戦場の士気に直結するものであり、勝敗そのものと言っても過言ではない。
そして、簒奪の悪意の力を借り、至宝冠の権能を行使した人間界王と同等の力を得たジェイド・グランヴィアには、人間界軍全戦力をもってしても太刀打ちできないだろう。即ちこの戦いでヒナが敗北するという事は、人間界そのものの敗北を意味している
「――いずれにしても、この戦いの勝敗が私達の未来を決める事になるわね」
たった今王位が継承されたばかりのヒナの双肩に、この世界の命運の全てが託されている事を理解している六帝将の長、「ミレイユ・ハーヴィン」は至宝旗をなびかせながら、黒白と悪意色の力の嵐が吹き荒れる人間界王城へと視線を向けるのだった
空間が波紋のように揺らぎ、そこからおびただしい数の巨大な黒白の槍が出現し、光を貫いて世界を蹂躙する。
至宝槍が持つ形状と形態を変化させる能力により、触れるもの全てを滅却せしめる霊的な力によって構築された槍の群れが空間を貫いて顕現し、その標的であるジェイド・グランヴィアを呑み込む
「――っ」
しかし、空間を貫いて荒れ狂う黒白の力が凝縮された巨大な槍の群れは、ジェイドの身体から吹き上がった死の波動によってヒナの眼前で朽ち果て、その形を失っていく
(至宝剣の「死」の力……!)
十二至宝の一つ、「至宝剣・セイオルヴァ」は生と死を司る神の剣。命あるものを殺し尽くすその力が、ジェイドの簒奪の悪意の力によって得た神格によって強化されたその力が猛威を振るい、荒れ狂う槍撃を殺していくのを見てヒナは目を細める
「なるほど、王位を継承したばかりとはいえ、さすがは人間界王様といったところか。……だが、父親には今一歩及ばない」
鎧を纏った天女のような出で立ちで黒白の気を翼のように纏うヒナへと視線を向けたジェイドは、感嘆と嘲笑の入り混じった表情を浮かべて至宝剣を軽く振るう
至宝冠は決して戦闘力だけで王を選んでいる訳ではない。そのため、人間界王に選定された人物が、必ずしも先代の人間界王よりも戦闘能力が高いとは限らない事が人間界の歴史の中で証明されている。
至宝冠の力を発現させた先代王と新王の双方と刃を交えたジェイドは、王位を継承したばかりである事を差し引いても、ヒナの方がわずかにゼルよりも戦闘能力が劣っている事をこれまでの戦いの中で見抜いていた。
しかし、次代の王に選定される人物は、基本的に総合的な能力として現在の王よりも優れた人物が選ばれる。成り立てとはいえ、目の前の少女を侮ってはならない事をジェイドは微笑の下で正しく理解していた
「――っ!」
至宝剣の一撃を至宝槍で受けとめたヒナは、至宝の剣が纏う神格に堕ちた悪意の気の力が放つ衝撃に、その整った顔に苦悶の表情を刻む
至宝剣の一撃を受けきれないと判断し、その剣撃の威力に身を任せて飛びずさったヒナは、黒白の神気を纏わせた斬撃の波動をジェイドに向けて放つ
「ほう、単純な能力では父親に一歩劣るが、技巧や繊細さはあなたの方が優れていますね。女性特有のしなやかさを利用した戦技も、父親のそれとは違い、実に美しい」
神格化された光と闇の力が収束された斬撃の波動を死の剣の一振りでかき消したジェイドは、力強く雄々しいゼルのそれとは違う、女性特有のしなやかさを最大限に活かした舞うように優美なヒナの戦闘スタイルを見て、無機質に言葉を紡ぐ
「……っ」
称賛でも侮蔑でもなく、ただ淡々と自分を分析しているジェイドの視線に唇を引き結んだヒナは、悪意に染まった死の力を纏う眼前の敵を焦燥感を滲ませた表情で見る
この決戦に赴く前、ヒナは父の口からジェイドが至宝剣だけではなく、至宝珠を持っている事を聞いている。
生と死を司り、敵を殺し味方と自分を生かす至宝剣に加え、その身を限りなく不死に近づける至宝珠を持っているという事は、それらの権能によって、ジェイドがただ強いだけではなくほぼ不死身の存在となったということ。
単純な力でいえばヒナとジェイドの実力はほぼ互角。しかし、至宝珠の権能によってジェイドのスタミナはほぼ無限に等しくなっている。
即ち、長期戦にもつれ込めばもつれ込む程無限のスタミナと再生力を持つジェイドが有利になっていく。ヒナにとっては、長期戦は不利な要素しかなく可能な限り避けたいところだった
「――なぜですか?」
「?」
閃光すら振り払う速さで飛翔したヒナの声に、至宝槍の斬撃を至宝剣で防いだジェイドが怪訝そうに眉を寄せる
「あなたはなぜ、こうまでして王位を――力を求めるのですか?」
黒白の神気を放出するヒナは、まるでその感情までも同時に解き放っているようにすら聞こえる慟哭にも似た声でジェイドに問いかける
この世界に生を受けた以上、その生を力の限りに生き、高みを目指し、頂きを欲するジェイドの生き方や考え方にはヒナも少なからず同意する事ができる。
しかし、それはあくまで己の努力と才能の及ぶ範囲での事。例外的な考えと行動を起こす者もいるにはいるが、大半の人間は努力と才能が及ばず、能力が足りない自分の人生を許容して生きている。
だが、ジェイドはそうしなかった。自身の限界を知りながらもそれを許容せず、ただ簒奪の力を得るためだけに十世界に入り、あらゆる禁忌に身を染めてまで最強を求めた。それは、ただ強さ――力や勝利への渇望と呼ぶにはあまりにも強すぎる意志と衝動だ
「理由がいるのか?」
ヒナの言葉に微笑を浮かべたジェイドは、簒奪の悪意によって強者を殺す力を得た弱さを宿した力を解放し、あらゆるものを殺す力をヒナに向けて放出する
「誰よりも高く、誰よりも強く、誰よりも高みへ……それは、全ての人間が生まれた瞬間から持っている本能のようなものだろう!?」
「くっ……!!」
ジェイドが放出した膨大な量と質の籠った悪意と死の力を至宝槍と黒白の神気の結界で阻むヒナは、神格へと堕ちた力の奔流を渾身の力で斬り裂く
「だが、それに理由が必要だというのなら……そうだな。あえて理由を述べるとするなら、私は自分が誰かよりも弱い事を許せないタイプの人間だったという事か。
自分以外の誰かの下につく事や、言いなりになる事がたまらなく苦痛だった。だからこそ、世界とそこに生きる全ての者を自分の思い通りにしたいのだ」
「……傲慢な」
光すらも見失う程の速さで槍と剣をぶつけ合いながら、ヒナはジェイドの言葉に憤りを滲ませた声を上げる
「私に言わせればお前達は殊勝すぎる。――君達も王として執政を行う身ならば知っているはずだろう!? 『平和は平等と矛盾する』と。平和な世界で人は等しくなく、平等な世界で人は死ぬ。――そう、他者とは踏み躙り、殺し、蔑み、見下すためにいるのだ」
「そればかりが真理ではないでしょう!?」
血に飢えた獣すら慄く、美しくも空恐ろしい表情で言い放つジェイドの言葉を、黒白の神気を纏ったヒナの斬撃が力任せに薙ぎ払う。
平和の定義――具体的にどのような世界が平和なのか、という定義には曖昧な部分が存在するが、仮に争いのない世界を平和と呼ぶのなら、争いの無い世界に平等は無い。
人は人としか争わない。獣は討伐し、害ある生物は排除し、全霊命などの人よりもはるかに優れた存在にとっては、人が対等ではあっても敵対する対象ではない。つまり、争える相手こそが平等で対等な相手なのだ。
そして平等とは、誰もが等しく全てに挑む権利を持ち、勝敗を定める事。平等とは差別や格差を作り出す事でもある。――人は平等であるが故に争い、その果てに序列を作り出して社会という生活の場を作り出している。
ヒナも政治に携わる身。能力、成績、技能――あらゆる分野において能力を発揮する者が世界を動かす方が理想的だという事も十分理解しているし、他者を否定する事が自己を肯定する事だという事を否定するつもりもない。
しかし、他者は決して戦うためだけにいるのではない事もまた真理。なぜなら、人々は等しくないが故に人は分かり合い、理解し合えないが故に絆を結び、心を通わせるのだから。
「そうだな。だが私にとっては、私が中心でない世界など不要なのだ」
「……っ!」
ヒナの言葉を笑い飛ばしたジェイドの声に答え、天空の空間が揺らぎ、そこから悪意に毒された神気を纏わせた大小様々な剣が雨のように降り注ぐ
「あなたという人は……っ!」
天空から放たれる死の剣の雨を黒白の神気を纏わせた金色の槍で弾き飛ばしながら、ヒナは険しい表情で不敵な笑みをたたえているジェイドを睨みつける
「そう怖い顔をするものではないな。美人が台無しだぞ?」
ヒナの鋭い視線を鼻で笑って聞き流したジェイドは、至宝剣から解放した神格を宿した悪意に染まった死の力を斬撃の波動へと変えて放出する
「っ」
視界全てを覆い尽くす死の破滅の波動を、ヒナは黒白の神気を宿した金色の槍の一薙ぎで相殺する。
ヒナとジェイドが互いに攻撃を繰り出し、それを相殺し合う――光すら超越した速さの中で戦い続けていた二人取って、この光景は、もはや数えるのも馬鹿馬鹿しい程繰り返されたやり取り――のはずだった
「……かかったな」
もはやいく度目になるかも分からないやり取りを繰り返していたジェイドは、ヒナが死の波動を粉砕したその瞬かに勝ち誇ったような笑みを浮かべる
「っ……!」
(しまっ……)
それにヒナが気づいた瞬間にはもはや手遅れ。
光と闇の神気を纏った至宝槍の一撃によってヒナがジェイドの死の波動を相殺した瞬間、その波動を貫いて短剣の形状へとさせた二本目の至宝剣がヒナに向かって降り注ぐ
「っ!!」
反射的に太極気を解放し、それを阻もうとしたヒナだが同等の力を持つジェイドの攻撃を完全に防ぐ事は叶わず、咄嗟に急所をかばったその細い腕に短剣状に変化した至宝剣が突き刺さる
「あれだけ何度も同じやり取りを繰り返せば、さすがに身体も眼も慣れてしまうだろう?」
攻撃に隠した二本目の至宝剣がヒナの身体を貫いたのを見て得意気に笑みを浮かべたジェイドは、至宝剣を構えて新しい人間界王に向かって空を蹴る
何度も繰り返された、「互いに攻撃を放ち、相殺し合う」という単調な行動の繰り返し。実戦で用いるのは実用的ではないようにも見える戦術だが、ヒナは至宝冠の権能、ジェイドは簒奪の悪意によってそれぞれ神格を帯びた力を行使する事ができる。
神格を帯びた光と闇の神気と神格へと堕ちた悪意の気――半霊命の限界を超え、全霊命の領域に半分足を踏み入れた「最強の界能」を持っている二人にとっては、単純な力を力任せに行使する事が、基本にして最強の戦術なのだ。
しかし、ジェイドはそれが分かっているが故にヒナの行動を逆手に取った。初めて行使する神格へと昇華した黒白の気――「太極気」を行使するヒナが、その力の使い方になじめるように単調な攻撃を繰り返し、攻撃と防御をヒナの身体に刻みつける。
いかに神格を帯びているとはいえ、太極気も簒奪の悪意も界能である事には変わりがない。単調なやり取りを繰り返した事でヒナは戦闘に順応して適応し、このたった一撃に対して一瞬の隙を作る事に成功したのだ
「っ……!」
(腕が……)
自分に向かって光すら貫いて向かってくるジェイドを迎撃しようとしたヒナだが、短剣と化した至宝剣が刺さった左腕がその意志に反し、全く動く気配を見せない
(っ、腕を殺された……!?)
「どうだ? 動かないだろう?」
まるで自分の体ではないように、自身の意志が全く通わなくなった腕に目を細めたヒナに、悪意の力を剣に宿して肉迫してきたジェイドの涼風のような声が吹きつける
「――っ!!」
「至宝剣の死は拡散し、伝播する。仮に直撃を免れようと、わずかでもその力をその身に受けてしまえば、そこから死が侵食し、やがて対象を死へと誘う。
死は命ある者に定められし絶対なる必定。一度死の牙に捕らえられれば、何人もそこから逃げる事は叶わない――例え、人間界王であろうとも!」
死刑宣告をするように冷淡に言葉を紡いだジェイドは、一瞬動きを硬直させたヒナに向けて簒奪の悪意によって神格へと堕ちた気を纏わせた至宝剣の力を解放する
「くっ……!」
ジェイドの振るう至宝剣から放たれた強大な死の波動は、悪意色のどす黒い力の奔流となって片腕の機能を失ったヒナを容赦なく呑み込んで炸裂する
「お姉様!」
「……ヒナ」
天空に吹き荒れる簒奪の悪意の嵐に、それを地上から見守っていたリッヒが声を上げ、ゼルとフェイアは固唾を呑んで新たなる王となった娘を見守る
「……ごほっ」
ジェイドの一撃を防ぎきれず、悪意の奔流に呑み込まれたヒナは、その力の濁流に押し流されるようにして吹き飛ばされ、宙に投げ出される
「いつまで持ちこたえられるかな?」
至宝剣を二刀一対の剣へと変化させ、光を貫く漆黒の流星と化したジェイドは、吹き飛ばしたヒナとの距離を瞬時に詰め、この好機を逃さないように追い打ちをかける。
「はああああっ!!
「……っ」
半霊命の限界を超えた超光速の斬撃の乱舞がヒナに容赦なく襲いかかり、それを片手で巧みに至宝槍を操って防ぐ新たな人間界王だが、ほぼ互角の力で片腕が使えないというのはあまりにも致命的。
「く、ぅ……っ!!」
案の定すぐにジェイドの斬撃の速さに対抗する事が出来ず、捌き切れないその斬撃が悪意の力の奔流と共にヒナの身体に容赦なく叩きつけられ、悪意の黒と砕け散る至宝竜の鎧の白、鮮血の赤が空に舞い踊る
至宝冠の権能によって神格へと昇華した神気と、それを受けて能力を増大させた至宝竜鎧がなければ、ただの一撃で骨一つ残さずに死に絶えてしまう程の力が宿ったジェイドの斬撃。
その攻撃を至宝槍と太極気、そして体術でかろうじて最低限の傷で凌ぎ致命傷を避け続けるヒナだが、斬撃によってつけられた傷から至宝剣によってもたらされる死が徐々に侵食し、その命を蝕んでいく
(死の浸食が遅い……至宝竜と太極気に阻まれるか)
死の力に侵食されつつも、未だにその形をとどめているヒナとその身体を休まず斬撃を放ちながら睥睨し、ジェイドは内心で忌々しげに吐き捨てる
本来至宝剣に宿る死の力は、概念的、事象的な意味での死ではなく、物理的、現象的な意味での死。――即ち、至宝剣の斬撃を受けたその部位が機能を失うのではなく、物理的に死に絶える事になる。
その力が正しく発揮されていれば、ヒナの腕は斬撃を受けた部分から死んで朽ち果て、それが身体をも喰い尽くしてその命を食い殺す事になるはずだ。
しかし、現実はそうはならず、初撃はもちろんその後に与えた全ての傷もその部位の肉体的機能を殺すに留まり、一向にヒナを完全な死へと誘う様子を見せない
「――それなら、一撃の下に完全に葬り去ればいい!!!」
その効能の弱さと侵食の遅さが、至宝冠の権能である「太極気」とヒナに身に鎧衣として纏われている至宝竜にある事を正しく見抜いているジェイドは、二刀による連続の斬撃から、妨害ごと殺す一撃へと攻撃を切り替える
二本の剣による斬撃の雨から一転、瞬時に一振りの剣として回帰した至宝剣の刀身がた宝玉と金色の装飾に彩られた真紅の柄から消失し、ジェイドの背後に全長数十メートルにもなろうかという巨大な紅金の刀身として顕在化する
「ハアアアアアアッ!!!」
ジェイドの背後に出現したあまりにも巨大な紅金の両刃の刀身は、神々しい程の洗練さと美しさを持ち、見る者の心を掴んでしまいそうな光を放っている。そこに絡みつく簒奪の悪意によって堕落した神気は神々しさを穢す事無く、しかし人を魅了して堕落させてしまうような底知れない恐ろしさを感じさせる
目をそらせない程美しく恐ろしい――まさに「死」そのものを形にしたかのような刀身を作り出したジェイドが柄だけとなった至宝剣を振るうと、その動きに合わせて巨大な刀身が光を切り裂きながら、ヒナに向かって奔る
「……っ」
空すらも斬り裂いた至宝剣は、反射的にヒナが出現させた至宝槍の群槍とぶつかり合い、死の波動をまき散らす
触れるもの全てに死を与える力が世界を侵食して焼き尽くし、その神格を得た死の力がヒナの身体に容赦なく襲いかかる
「その身体でいつまで耐えられるかな?」
天を貫くほど巨大な至宝の刀身を使役するジェイドは、それを渾身の力で受け止めているヒナに余裕と勝利の笑みを向ける
ヒナの身体には既に先ほどのやり取りで少なくない至宝剣の斬撃を与えている。――即ち、今もヒナの身体を至宝剣の死の力が蝕んでいるのだ。
「くっ……っ」
(確かにこのままでは……っ!)
ジェイドの嘲るような言葉に、その死の一撃を渾身の力を込めた至宝槍で受け止めているヒナは、唇を噛み締める。
いかに太極気と至宝竜の鎧の権能によってその侵食を抑えているとはいえ、限界はある。それを超えれば至宝剣の死の力は容赦なく自分の命を奪う事をヒナは確信している
さらに侵食そのものは抑えられているとはいえ、死の力が自分の身体を蝕んでいるのは事実。このままでは満足に戦う事ができなくなってしまであろう事と、ジェイドが至宝珠による無尽蔵の体力と気、至宝剣による無限の再生能力を持っている事もヒナの焦燥に拍車をかけていた
(一撃……たった一撃でも打ち込めれば……っ!)
ジェイドの攻撃を渾身の力で受け止めるヒナは、至宝槍を握る手に力を込めながら、逆転の一手を狙いすます
「中々しぶとい」
死の神剣を黒白の神気と光闇の金槍の力でかろうじて防いでいるヒナを見て、どこか嬉しそうにも見える口調で言ったジェイドは柄だけになった至宝剣を持っているのとは反対側の手に自身の気――簒奪の悪意によって神格へと堕ちた気を収束させる。
「だが、その状態ではこの程度の攻撃も避けられないだろう?」
自身の霊的な力を破壊の砲撃として放つ強大な界能を持つ者にとっては当たり前に等しい能力を発動させたジェイドは、至宝剣を受け止め続けるだけで限界状態のヒナに向けて不敵な笑みと共に堕神気の波動を放つ
禁忌の技術によって作られた王族のそれに勝るとも劣らない身体に加え、簒奪の悪意による神格化と二つの至宝器の権能による恩恵を受けるジェイドの気の力は、それそのものが最強の武器でもある。
自身の気の力をただ放出して対象に当てるだけという極めて単純な攻撃。しかし、単純であるが故意に神格へと至ったジェイドの力が持つ威力は名状しがたいものがある。
「――っ!!」
光すら穿つ速さで放出されたジェイドの気の砲撃は、至宝剣の死の斬撃を受け止めているのがやっとのヒナにとっては、回避も防御も叶わない一撃。――故に、ジェイドの砲撃は成す術もなくヒナに直撃し、仮初の王都の天空に悪意色の力の爆発を生みだす
地平の果てまで消滅させて尚あまりある程に、強大な力の爆発と奔流が天空に渦巻き、その力に込められたジェイドの破壊と抹殺の意志、そしてわずかに漏れた力の余波が破壊の衝撃となって仮初の王都を直撃し、ヒナを見守っていた妹、父、母を呑みこんで大地を薙ぎ払う
「……くっ、何という禍々しい力」
「お姉様」
知覚を焼き尽くすジェイドの気の力の衝撃を結界を展開して防いだ三人の王族達は、悪意の力の爆発に呑み込まれた家族にして、新たなる王へ祈るように視線を向ける
(――今っ!!)
ジェイドの気の砲撃が炸裂し、世界を震わせる爆発の衝撃が収まらない中で、ヒナは悪意の力の奔流の身を焼かれながらも、待ち望んでいたこの瞬間に全ての力を込める
あまりに強大であるが故に、力を放った本人ですらその力に知覚が占領される一瞬の隙をついて、直撃した爆発に身を晒しながら渾身の力を至宝槍にヒナが注ぎ込む
「っ!?」
刹那、ジェイドの遥か天空の空間が揺らぎ、そこから地に向かって巨大な――あまりにも巨大な光と闇が混在する槍の形状をした力の塊が世界を貫く
太極気が形を成したような黒白の槍は、触れた万物を光によって排斥し、万象を闇の中に葬り去る力が凝縮されたその刀身でジェイドを捉え、一撃の下にその半身を世界から消滅させる
「これで……」
天から振り下ろされた黒白の神槍が仮初の人間界の大地に突き刺さり、その力が世界を光で覆い尽くし、闇に閉ざす。
至宝槍の力が世界を穿つ様を見つめていたヒナの視線の先。――渾身の力を込めた黒白の神槍でその身体を半分近く失っているはずのジェイドがその視線をヒナに向けてその口元に凶悪な笑みを浮かべた
「なっ!?」
ジェイドの身体を半分削り取った時点で勝利を確信したヒナの判断は過ちではない。
いかに神の直系にして最高位の半霊命である人間であろうと、半分の身体を失えば、生命の維持は困難になる。仮に即死は免れようと戦闘能力、生命力の大幅な低下は免れえず、ヒナの勝利は揺るぎないものになるはずだ
「――っ!!!」
だからこそ、まるで何事もなかったかのように振るわれたジェイドの至宝剣の刃に反応が遅れ、その腹部の中心を穿たれるほど油断してしまった事も無理からぬ事だった
ヒナが放った至宝槍の一撃に身を削り取られながらも、その隙をついて至宝剣を二刀一対の形へと変化させたジェイドが投擲した剣が、勝利を確信して気を緩めてしまっていた新たなる人間界女王の腹部を刺し貫き、灼けるような痛みと共に、傷口から至宝剣の権能たる「死」の力によってその身体を侵食していく
「お姉様っ!!」
「……っ」
神格の鎧に身を包んだヒナの身体の中心に剣が突き刺さり、そのまま力なく宙空から落下していく様子を見て、リッヒは声を上げ、ゼルとフェイアは言葉を失う
(なぜ、あの攻撃で……っ)
まるで舞い散る花弁のようにどこか幻想的な儚さを纏って地に向かって落下しながら、ヒナは確かに渾身の一撃を見舞ったはずのジェイドへ視線を向ける
そんなヒナの視線に気づいたらしいジェイドが不敵な笑みを浮かべたのと同時、その身体を至宝剣の刃が貫き、失われていたはずの身体を瞬時に再生させる
「――っ!!」
至宝剣の人刺しで身体の欠損を回復させたジェイドは、衣と鎧を真紅に染め上げた身体で目を見開くヒナに勝ち誇った笑みを向ける
「お前が私の攻撃に耐えながら、一瞬の隙をうかがっていた事くらい気づいていた。――だが、お前は失念している。生死を司る『至宝剣』と永遠の命を授ける『至宝珠』――この二つを揃えていれば、致命傷の攻撃すら避けるに値しない」
ジェイド・グランヴィアはヒナの狙いに気づいていた。反撃の機会を虎視眈々と狙うヒナの思惑を全て把握した上でそれすらも自身の戦術に利用していたのだ。
今のジェイドは、「至宝珠」の権能によって限りなく不死に近い命と身体を手に入れている。加えて生と死を司る至宝剣の権能を使えば、致命傷の傷すらも一太刀の下にまるでなかったかのように再生させる事ができる。
「惜しかったな。私は最初から、この一瞬の隙を作るために戦いを組み立てていたんだ」
「っ」
得意満面の笑みで勝ち誇るジェイドの言葉にヒナは目を見開く。――そう。最初から、ジェイドにはヒナの攻撃を回避する必要などなかったのだ。
先のゼルとの戦いで、太極気と至宝槍の一撃を受けても、至宝剣の権能によって傷を癒す事が可能だという事を身を以って確認していたジェイドは、それを見せつけるのではなく、必殺の手段として用いた。
あえてヒナの攻撃を防ぎ、回避する事で「敵の攻撃を受けない」という戦いの基本をヒナに認識させ、攻撃を受けない戦いを認識させないようにしていた。
「攻撃は受けるものではない」――そんな当たり前の感覚を、さらに強く刷り込まれた結果、ヒナは至宝剣と至宝珠の権能を失念し、その権能によって可能になるこの戦略を見落としてしまった。
「だが、あの攻撃を紙一重で回避し、致命傷を避けるとは……さすがは人間界王様と言うべきか」
身体の中心に近い位置を貫かれ、力なく落下していくヒナを見下ろしていたジェイドは、微笑を浮かべていたその表情を一瞬にして冷徹で無機質なものへと変える
胸の中心――心臓への直撃を、紙一重で回避して致命傷を回避したとはいえ、至宝剣の持つ権能によってその肉体と魂を死の力に侵食されて力なく落下していくヒナの姿を睥睨し、小さく独白したジェイドは、新たなる人間界王に確実に止めを刺すために至宝剣を携えて空を蹴った
「我々の……私の勝利だ!!!」
世界と世界を隔てる時空の狭間。そこに浮かぶ人工の大地には巨大にして荘厳な神殿を思わせる城のような建造物が建てられている。――この世界の狭間を漂う大地こそ、九世界を一つに統一する思想を掲げる組織、「十世界」の本拠地。
そして十世界の本拠地たる城の一室では、金色の髪をなびかせた一人の女性が、複数人の同胞に見守られながら一面の花畑のようになってる場所に佇んでいた
「随分、説得に時間がかかってしまいましたね」
「姫、やはりお一人で行かれるなど……」
床一面を埋め尽くさんばかりの花畑に花弁が舞い、その中に佇んでいた金色の髪の女性に、ジュダと同じ神に列なる存在――「戦王」が納得いかない様子で言う
今戦王の前にいる金色の髪をなびかせた女性こそ、十世界を束ねる唯一無二の主、「姫」こと「奏姫・愛梨」。その十世界の盟主が、護衛の一人も連れずに外出しようとしているのだから、戦王がその身を案じるのも当然の事だろう
しかし、そんな戦王の心配をよそに、愛梨は「心配ない」とばかりに慈愛と慈悲に満ちた太陽のような笑みを浮かべる
「御心配には及びません。私は光魔神様とお話するために伺うのです。親睦を深めるべき御方の許へ、護衛を連れて行くなどという無礼な真似はできません。それでは、先方が私を害する事を前提に考えていると言っているようなものです」
「ですが……っ」
「普通はそういうものだ」と言いたい気持ちをぐっと堪え、戦王は瞳の無い純白の目で「どうか考え直してください」という意志を込めた視線を愛梨に向ける
「駄目です。これは命令です」
「……ッ!」
自分の心配をよそに、頑なに主張を曲げようとしない愛梨に困り果てた様子を見せる戦王の耳に、横から笑いを噛み殺したような声が向けられる
「無駄だ。姫の頑固さは俺達が一番よく知ってるだろ? ――まあ、向こうには悪意の欠片もいる事だ。心配はいらないだろ」
「何を言っている、死紅魔! だから心配なのだろうが」
瞳の無い目でその笑い声の主――腰まで届く漆黒の髪と二本の角を持つ金色の瞳の悪魔を見た戦王は、死紅魔と呼んだその悪魔の能天気さに苛立ちを滲ませた声で応じる
しかし、その戦王の言葉に、わずかに眉を寄せた愛梨は、小さなため息と、たしなめるような視線を、少々過保護と忠臣が過ぎる異端なる神の眷属へ向ける
「戦王さん。お気持ちは分かりますが、悪意を振り撒くものの方々も、我々の立派な同胞です。そういう仰り方は感心しません」
「……申し訳ございません」
愛梨の言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも、戦王は不満気に謝罪の言葉を口にする
その様子に「やれやれ」とばかりに困った表情で笑みを浮かべた愛梨は気を取り直して、その場にいる十世界の面々を見回して微笑む
「では、行って参ります」